あの頃をたたえて
背が低い主人公中山裕希は中坊に見えるということからちゅうぼんとあだ名され、そんな彼は少し変わっている。愛弓にゆうという名前を付けて愛でているのだ。いつも一緒にいる幸助とテツはそんな裕希の幸せをいつも祈っている。
ゆう
初めて逢ったあの場所は薄暗かったけれど、オレは君から目が離せなかった。
君はオレに自信をくれたね。
ゆうのおかげで人として少し大きくなれた。
最初はすごく痛くて、痛くて。君と向き合うことが怖かったし、正直つらかった。
けれど努力を続けることで報われることを教えてくれたのが、君だった。
夢が夢に終わってどん底に落ちたオレ。
君とも向き合えず泣いて泣いてボロボロになった格好の悪オレに立ち直るチャンスを君はくれた。
これからいろんな人と出会っては別れを繰り返すんだろうけど、
君とはずっとずっと一緒にいるんだと思う。
・・・・なんちゃって。
オレ、だいぶ痛い?それはでも自覚済み。ご安心ください。
中山祐希。高校三年生。
愛弓ゆうとともに今日、高校を卒業します。
「祐希・・・終わった?」
道場の脇でいつのまにか待っていた幸助が声をかけてきた。
「うん。ケジメつけた。いこう。」
そういうと幸助は優しく笑った。
卒業式が終わり、オレ達はぞろぞろと謝恩会へ向かっている。
こんなに同級生っていたっけかなんて思ったけれど、
それは保護者もいるから多く見えるだけかとすぐ気が付いた。
「卒業式の日までやるか?フツー。」
「まあ祐希らしいんじゃないか。」
幸助には迎えにこさせちゃったけど、テツは待ってただけじゃないか。
オレは内心で毒づいていた。
「これからは弓ばっかにかまけてる場合じゃないからな!大学行ったら合コンしまくるからな!」
あーあ。またそんなこと言ってる。
幸助とオレとで口々に言っていると後ろから声が飛んできた。
「ちゅうぼんいたら店に拒否されちゃうでしょ!」
「そー!そー!合コンどころじゃなくなっちゃうって!」
「何言ってんのー!ちゅうぼん、アンタたちの中で一番モテルと思うし。」
「そーよー!こんなかわいい男の子、滅多にいないもの~!」
カケルとタクミが話に割り込んでくると、一緒に話してた女子も加わった。
「カケル・・・大学でもその呼称でオレのこと呼んだら縁切るからな・・・!」
ちゅうぼん。
オレニについたあだ名。
表向きは「中山」の中(なか⇒ちゅう)ってことにしているけど、
実際はそうではない。
「怖いこと言うなよ~うちの校長につけていただいた名誉ある通り名じゃん!」
オレが高校2年生の冬。
高校受験の手伝いに来たオレを、あろうことか校長は受験生と勘違いし、しきりに
「君はどう見ても中坊だよ。」と言ってきかず、それはそれは派手に騒いだ。
前々からあの校長はだいぶやばいと話していたければ直接話して本気でやばいと確認した。
その日は散々だった。
配置場所に遅れていったオレはよりにもよって生徒指導の一番厳しい先生に見つかって怒られたのだ。
「後輩たちにあの日怒られてた先輩だとか言われるし最悪だわ。」
「まあでも校長も間違えちゃうでしょう~結局身長何センチになった?ちゅうぼん。」
俺の身長は161センチ。確かに平均男子・・・いや女子以下かもしれない。
だけどいつもオレは決まってこう言い返す。
「まあ?子の身長のおかげでゆうと巡り合えたわけだしな~。」
「「「だから!まじでそれ痛い!!」」」
その場にいた全員が声をそろえて言う。
「最後までちゅうぼんは変わらないね~」
「ほんとほんとー」
「大学で悪化したらどうしよ~」
きゃっきゃと騒いでいる様子を見て今日で見納めかと思うと感慨深かった。
ふと左手に握りしめるゆうが目に入る。
ゆうという名前・・・・
実はオレの思いが凄くこもっている。
名前も知らないあなた(you)へ続く道しるべ。だから。