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第1章 竜の卵

「本日はロンスベルグ祭りです。街頭では多くの出店と催し物が見られます。良かったら一緒に出向きませんか」

ハーラルはそれには何ら興味を示さなかった。ただじっと宮殿のバルコニーの安全柵に腕を掛け、自然と人工物との狭間を見下ろしていた。

深く目を瞑ったのち、丸テーブルの上で水滴を垂らすバジル・ドリンクを手に取る。水泡は暫く踊り、口の中を淨めた。

初夏に相応しくない壮大な風に当たり、人生に思いを馳せる。


コプラトルン家はナーウェイ国の伝統ある貴族であり、始祖はルル男爵という名の羊飼いであった。同時に寛容と慈悲を併せ持った先進的な家系でもあり、時代の最先端との邂逅を担う事は多かった。ハーラルの存在もその一つであった。ある日、竜族の卵が宮殿に運ばれてきた。卵は段ボール一箱程度のサイズで重みがあった。商人と家主の会話によると、とある貴族が異国へ騎兵隊を送った際に誤って持ち帰ってしまい、送り返すのも腰が引けるが、処分などしよう物なら災厄を齎すだろうという事で、買い手を求めていたらしい。そんな感じで、この卵はルル3世の手元に渡った。卵が届いて実に3年が経ち、西暦3640年になろうとしていた。その間ヒビは入れど割れることはなかった。この年、ナーウェイ国は大きな転換期を迎える。

それは過去の発見である。地球上にあった謎の人工物の正体が芋づる式に改名され、戦争により一度滅亡した人類と文化がある事が明らかになった。使われていた年号は廃止され西暦が使用されるようになった。また、ナーウェイの研究者は次々に過去の高度な文明社会の礎となった道具を再現した。それは高度文明革命と呼ばれた。

それはとてつもなく高いビルを産み、とてつもなく尊い人権を産んだ。ナーウェイには憲法が制定され、資本主義社会へ変革した。人々はあまりにも大きな環境の変化に驚いたが、同時にとてつもない速さで適応した。

しかし、高度文明革命は大きなディストラクションの原因となった。

3644年。竜族が絶滅した。


もともと竜族はナーウェイには生息していなかったが、周辺国には100'000体程度が森林や火山で生活していた筈であった。ところが、3643年の8月を超えた頃から見られる数が大幅に減少し、3644年の1月。政府から絶滅危惧種として認定された。''危惧種''とは言うものの、あくまで卵を保管している人間が居るという情報に頼った物で、当時生存していた竜の存在は確認されていなかった。

国家規模で竜族を保護する為、ナーウェイ政府は3645年3月から竜族の卵を3'000'000$で強制的に引き取るべく旧貴族周辺調査を開始した。

このニュースを受け取ったルル3世、ルル4世は何とか家宅捜査の前に卵を産み竜を自然に逃がしてあげれないかと毎日卵の前で儀式を行った。しかし、検討虚しく、3645年4月5日がやってきた。


「ロンスベルグ警察です。定期旧貴族周辺調査に来ました。家庭内をプライバシーに触れない最低限の範囲で物色させて頂きます」

拒否権は、無いに等しい。父親、ルル3世は脳の状態が悪化し入院していた。宮殿内には2週間前から召使いとルル4世しかいない。ルル4世の小さな体ではリビングに飾られた卵をどこかに隠す事は不可能だった。

2人の男性警察官は玄関の大きな靴の収納タンスなどを隈無く調べ始めた。ルルはリビングまで掛けた。ドアを急いで開く。いつも通りの光景である。卵はヒビだらけであったが割れていなかった。悔しそうに思いきり卵を殴る。手が痛いだけであった。ルルは諦めてリビングを出た。そのままバルコニーに出た。安全柵に腕を掛けたその姿を尻目に警察官はリビングへと向かった。涙が零れ落ちる。

「お父さん…赤ちゃんドラゴン、見たかったな…」

そう1人で呟いた。


そのまま30分程度、ルルはそうし続けていた。しばらくして、召使いがバルコニーにやって来る。僅かな微笑みを浮かべていた。

「警察、お帰りになりましたよ。…………何も持たずに」

「え?」

ルルは再びリビングへと走った。重く硬い扉をゆっくりと開く。卵は無かった。しかし、視界には1つの混沌が映らざるを得なかった。ルルが目にしたものは。


唐紅色の瞳。ブリーチ後のような白銀の髪。身長180cmほどあろうそれは、二本足で立ちながら口を開いた。


「私はハーラル」


それは人間の姿をしていた。



「お前達人類とは形質的には同じで、本質的には違うものだ」


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