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92 天井裏にいるのは、影供というやつですか?


 王都についた初日から、いろいろとイベントが目白押しです。

 こんにちは。キッカです。


 いま、目の前に王様がいますよ。侯爵様の後について歩いていたら、あっという間に到着しちゃいましたよ。


 いくら侯爵様がいるとはいえ、いいんですかね? 仮面を外すよう注意ぐらいされるかと思ったんだけど。

 それだけ侯爵様が信用、信頼されているということなのかな?


 まぁ、僅か二百年で男爵位から侯爵位にまでのし上がった一族だからねぇ。ほぼ各世代なにかしら功績をあげて陞爵したということだろうし。

 そう考えるとイリアルテ家はどれだけやらかしてきたんだ、って感じだけれど。


 あ、このあたりのことはリスリお嬢様から聞きましたよ。誇らしげに話してくださいました。

 うん。きちんと結果を出し続けて、たちまちの内に侯爵にまでなりあがったんだもの、そりゃあ、誇らしいわよね。

 その分、妬み嫉みも凄かっただろうけど。


 さて、私は謁見の間ではなく、王様の執務室へと案内されました。跪こうとしたら、止められたよ。謁見の場ではないのだから、そういうことは不要だって。


 そんなわけで、いまはソファーに座ってお茶を頂いてます。

 で、王様から開口一番、近衛隊の武具の値段に関して相談されたよ。あれでも安すぎたらしい。


 ……えー。


 曰く、あまり安い値段だと市場価格との差より、なにかしら良からぬ約束事が行われたと邪推され、面倒なことになるのだとか。

 一部の御用商人共が共謀して、ロクでもないことを始めるのだそうな。


 真っ当で善良な御用商人もいるが、ほとんどがやり手の連中であるため、下手な隙を見せる訳にはいかないのだそうだ。


 信頼関係はどこへ行った。

 国と商人の関係がこれで大丈夫なの? 舐められすぎてやしませんかね?

 ……あ、いや、国相手にどうこうじゃなくて、新参の商人に対してどうこう始めるってことか。ってことはだ、今回は私が相手ってことね。

 いや、別にいいんだけど。へんなことされたらやり返すし。


 それはさておいて、鎧一式のお値段か。

 うーん、魔法の武具の適正価格なんてわかんないんだよねぇ。

 現状出回ってる魔剣は、それこそ値段が流動的過ぎて、参考にならないしね。なにせみんな言値で、馬鹿げた値段らしいから。要は『買えるものなら買ってみやがれ(誰が売るか、バーカ、バ-カ)』ということだし。


 あ、値が落ち着いてる魔法の武具もあるけど、それらは欠陥品だしね。研究者が研究素材用に買う程度だから、お手軽ではないけれど、馬鹿げた値段ではないそうだ。

 せいぜい、高くても長剣の十倍くらいの値段とのこと。


 あとは腐食魔剣。これは製造過程が危険であるため、剣一振りで金貨四、五十枚になるそうだ。


 うん。参考になるものがなにひとつないぞ。わからん!


「国王陛下。正直に申し上げまして、見当がつきません。参考になるものがありませんし」

「陛下、サンクトゥスに懸けた賞金を基準に、値段を決めてはいかがでしょう?」


 おぉ、侯爵様の救いの手が。


「国王陛下、聖武具にはいかほどの懸賞金を懸けておいでなのですか?」

「各部それぞれに、白金貨五枚だな」

「それじゃ、私の方は各部白金貨一枚にしましょう」

「また簡単に決めたな、キッカ殿」


 あれ、なんだか侯爵様に呆れられた?


「いや、だって、控え目にしましたからね」

「控え目?」

「はい。正確には控え目というか、出来うる限りの全力で魔法を付術できていないのですよ」


 そう答えたところ、国王陛下、アレクス殿下、宰相様、侯爵様みんなに怪訝な顔をされた。


「えーっとですね、付術には魔石を使うのですが、さすがに最大級の魔石を必要分なんて揃えてなんていませんからね」


 錬金薬の方は云わなくていいよね。レシピを公開するつもりもないし。そもそもこっちの素材では、まだ見つかっていないしね。


「最大級の魔石というと、大きさはどのくらいかね?」

「人の頭くらいの大きさですね。今回付術に使った魔石の大きさは、私の握り拳と同じくらいの大きさですよ」


 直径七センチくらい? テニスボールくらいの大きさ。いわゆる普通サイズの魔石だ。


「バレリオ卿。拳サイズだと、いったいどういった魔物が持っているのだ?」

「オーガ、幼体のトロルといったところですか。あとはマンティコア等の大型の魔物あたりかと」

「頭サイズだと?」

「推測になりますが、大型のドラゴン級になるのではないかと」


 侯爵様が云うと、王様が乾いた笑い声を上げた。


「ははは。さすがにそのサイズの魔石を集めるのは無理というものだな。ドラゴンなど、二百年前の大災害の際に、女神様が打ち倒した以外の討伐記録などないからな」


 そういや、二百年前に大型の魔物を多数含む魔物の暴走があったって聞いたね。ディルルルナ様が降臨されたっていう。


 なんのかんのでルナ姉様も過保護だよね。いや、原因がダンジョンだから干渉したのかな?


「マルコス、これらを踏まえて、キッカ殿の付けた白金貨一枚という値段は妥当かな?」

「白金貨一枚では少々安ぅございますな。オーガ級の討伐と同等分の上乗せが入りますからな。白金貨一枚半。金貨百五十枚でよろしいかと」


 え。ひとつにつき金貨百五十枚だと、一万五千枚近くになるよね!? えっと……白金貨百三十六枚と金貨五十枚だ! で、白金貨一枚が、日本円換算だと一千万くらいだから――


 じゅうさんおく!?


 あわわわ。え、高すぎない? 高すぎだよね? 白金貨一枚でも馬鹿げた額になるんだよ!? それの五割増しだよ! というか、王国の財政に打撃とか与えたりしない? いや、国家予算が幾らとか知らないけどさ。


「ではそうしよう。キッカ殿、それでよろしいかな?」

「ああああの、高すぎませんか?」

「問題ありません、キッカ殿。サンクトゥスを基準に考えれば、妥当なところでしょう」


 宰相様がきっぱりと答えた。


「その、なんだか私が押し売ったみたいな気がするんですが」

「あー、というよりも、私たちも相場を碌に調べずに、安く買い叩いたようなことになってしまい、申し訳ありません」

「ちょっ、アレクス殿下、頭を下げちゃ駄目です。王族は間違っても謝っちゃいけませんよ」


 止めてくださいお願いします。心臓が止まっちゃいますから!


 ◆ ◇ ◆


 あれから暫くして、しっかりとした契約を交わしたよ。

 手付という形で、白金貨を二十枚貰ったよ。残りは全てを納品した後に受け取ることになったよ。


 で、鎧の説明と剣の説明をしたよ。

 鎧は魔力が減衰することはないから、魔力の充填は不要。というか、周囲からの吸収分で賄える。剣は一回殴るごとに魔力を消費するため、魔力の充填が必要となること。充填には魔石を利用すること。今回注文いただいた剣に込められた魔法は、七百五十五回使える火の魔剣であり、稀に対象を炎上させると説明した。


 それから献上品として渡した【吸精の長剣】のこともしっかりと説明したよ。そうしたら王様、なんだかいまにも泣き出しそうな顔をしちゃったけれど。

 いくら神様謹製の剣だからって、そこまで畏れ多いものでもないと思うんだけれどなぁ。


 このあたりが信心深さの差なのかな。良くも悪くも、私は日本人だからねぇ。


 そして最後に、私が王都に召喚された件について。


 勲章伝達式については、辞退させてくださいとお願いしたよ。ティアゴさんには悪いけれど、辞退することに決めたよ。


 さすがに理由を聞かれたけれどね。


 でも実際のところ、例の男爵のこと以外に、もうひとつ理由があるんだよ。


「いくらレブロン男爵が非難しようとも、薬の現物も出さなければ、その開発者も名乗り出ない以上、無視して構わん」

「えぇ。ただ云いがかりを付けているだけに過ぎません」


 王様と宰相様が口を揃えて云う。


 うーん、困ったな。かといって、あんまり強く云うわけにもいかないしなぁ。


「キッカ殿。男爵の件以外にも、なにか辞退したい理由があるのかね?」


 侯爵様が私に訊いた。


「えぇ。侯爵様は見ているので分かっていると思いますけど、私、この顔ですからね。面倒なことになるんじゃないかと思うのですよ」


 そう云って、私は仮面を外した。途端、侯爵様以外の皆が息を呑む。


 あぁ……やっぱりそんな反応になるよねぇ。これまでもそんな感じだったもの。


「どうにも厄介ごとを引き寄せそうなので、あまり目立ちたくはないのですよ。まぁ、薬とか、魔法のことでいろいろやらかしているのに、いまさらなにを云っているんだと思われるかもしれませんが」


 そう云うも、まだ王様方は私の顔を見つめたままだ。


「話には聞いていたが……」

「アンララー様……」

「あの、私は女神様ではありませんよ」


 宰相様の呟きに、私は慌てて否定の言葉を口にした。


「さすがに式典で仮面を着けたままというのは問題でしょう? なので、どうしたものかと悩んでいたんですよ。そこへこの横槍でしたので、これ幸いと辞退させていただければと」

「キッカ殿、正直すぎる」

「正直さは美徳ですよ、侯爵様」


 くすくす笑っていたら、説得力もなにもありませんよ、侯爵様。たしなめているようには見えませんもの。


 さてと、仮面を外した直後に変な気配があったんだよね。【察知】が微妙に反応したんだよ。というか、いまもチクチクしてるし。

 ちょっと気になるから【生命探知】を発動。これで範囲内の生命体の姿を、隠れていようとも感知することができる。射程は二十メートル四方と短いけれど、屋内なら十分だろう。


 ……隣の部屋から聞き耳を立てている人がいるね。青い人影が扉に張り付いている。

 盗み聞きは行儀が悪いですよ。そして――


「あのぅ、国王陛下。天井裏にいるのは、影供というやつですか?」


 私がそう云った途端、天井裏の人物の影が青色から赤色に変化した。

 あ、なんか音がした。気配がまるわかりになったね。


「お? 赤くなった。私に対しては敵意を持ってるみたいですね。いきなり存在を知らせたからですかね?」


 ぼんやりとそう云った後の皆の反応は早かった。


 執事さんが動いたかと思うと、表の扉から騎士さんがふたり飛び込んできた。そして王様を護るように周囲を固める。もちろん、侯爵様も。


 私も呑気に座っているわけにはいかないので、同じように立って周囲を警戒する。

 とはいっても、賊(?)の動きは捉えているけれど。

 賊は天井裏を這うように移動中だ。


 あ、範囲から外れる。


――――(我が視覚に捉え)――――(られぬ霊気無し)


 すかさず【生命探知】から【霊気視】へと切り替え。【霊気視】の範囲は、視認できる範囲すべてだ。


 あ、天井裏から降りた。見つかった。追いかけっこ開始。この分だとすぐ捕まるかな。


 やがて【霊気視】の効果も切れた。


「キッカ殿?」

「【生命探知】の範囲から外れたので、もうわかりません。ですが、城の者に見つかったと思われます。追いかけっこが始まりましたから」


 私は侯爵様に答えた。


「陛下?」

「やれやれ、我が王宮も物騒になったものだな」


 そういって、王様はドスンとソファーに腰を落とした。


「ふたりは持ち場に戻れ。皆も座れ」

「陛下……」

「そんな声を出すな、マルコス。キッカ殿が云っているのだ。間違いはなかろう。キッカ殿、魔法を使ったのかね?」


 王様の言葉に、私は背筋が寒くなるのを感じた。


 うん。やらかした。こんな風に無断で魔法を使っちゃダメでしょ。暗殺しようとしたと思われ兼ねないよ。


「も……申し訳ございません。妙な気配を感じましたので、つい」

「いや、咎めているのではない」


 ずい、と、王様が私に向かって身を乗り出し、私をじっと見つめる。


「キッカ殿、その魔法は、私でも使えるようになるのかね?」


 王様はそれはそれは真剣な顔で私に訊ねました。

 かくして、私は魔法に関して詳しく説明をすることとなったのです。




 ……あれ? 魔法については王様も知っている筈だよね? なんで呪文書のことを知らないんだろ?




誤字報告ありがとうございます。

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