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88 王都に到着しましたよ


 あの腹立たしい町を出て三日、二十五日となりました。無事、王都に到着しましたよ。

 組合員証を見せただけで、すんなりと門を通過できたよ。

 あ、王都も立派な外壁で周囲を囲われていたよ。ここもやっぱり城塞都市という感じだね。これはやっぱりあれだ、魔物の暴走に対する防衛処置、ということなんだろう。


 ディルガエアの歴史がいかほどなのかは知らないけれど、少なくとも二百年以上の歴史はあるわけだ。【アリリオ】が森から切り出されて拓かれたのが二百年前だからね。


 森からは結構な距離があるはずだけれど、このあたりも影響が大きかったのかな? それとも、森はもっと間近にあって、切り拓いて今のようになったのか。


 多分、後者かな。……いや、そうともいえないのか、あんなデカいのがいたし。


 バッソルーナを出て不眠不休で移動してきたからね、はやく休みたい気分ではあるけれど、まだ時間は朝の九時くらいなんだよね。

 あの後、街道を数キロ離れて、野っ原をてくてく移動してきたわけだけれど、少しばかり懸念していた追っ手はなかったよ。


 もっとも、私みたいな小娘が、街道を大きく外れて移動しているとは思ってもいないだろうけど。

 なんのかんので街道を外れると危ないからね。


 そんなわけで、インベントリにお肉が沢山増えたよ。


 草猪:高級品に分類されるお肉。人を見ると一目散に逃げる小型の猪。美味しいと聞いていたから、見つけた時に【氷杭(アイスパイル)】を撃ち込んで狩ったよ。これが三頭。


 牙猪:人を見るなり突撃してきたから返り討ち。普通のお肉。二頭。


 斑蛇:緑と黄土色の斑模様の蛇。サイズは五メートルくらい。こんな大蛇が平原にいるとか、びっくりだよ。美味しいかどうか知らないけど、唐揚げにする予定。

 ん? 食べるよ、普通に。鶏肉みたいって聞くし。一匹。


 兎:一メートルくらいある兎。こいつらどこにでもいるな。適当に狩猟。攻撃魔法の技量上げの一環。五羽で留めた。


 土竜:もぐら。……いや、もぐらってインベントリで表記されたけれど、これ、普通にドラゴンだよね。地竜じゃないの? そんなことを思ってたら、奥義書に土竜の頁の前に地竜の頁が追加された。画像を含め、説明文もUnknownとなってたけど。


 でっかい穴が空いてたから、面白半分で【氷嵐(アイスストーム)】の魔法を撃ちこんでみたんだよ。我ながらなにやってんだと思うけど、要はあの町での腹癒せだ。

 そしたら十メートルくらいのでかい蛇みたいな蜥蜴が飛び出してきたからびっくりしたよ。危うく轢き潰されるかと思ったよ。そして【氷杭】の頭のおかしい効果。


 ……なんで無傷であっさり倒せるんですかね。いや、脳をほぼ凍結させられたら、どんな生き物でも止まるだろうけどさ。本当、リアルだととんでもない効力の魔法になったな、【氷杭】。見習級の魔法なのに。


 あ、こいつは一頭。こんなのが大量にいたら大変だよ。


 これがこの三日の成果。サンレアンを出てからも、向かってくる牙猪とかは狩っていたけれど、ここ三日は見敵必殺でいったから、それなりに狩れたよ。


 先にも云ったけど、腹癒せ、八つ当たりの類なんだけどさ。


 兎を一羽だけ、王都に入る前にだして背中に担いで入都。

 いまは冒険者組合に向かっているよ。


 兎は常時依頼があるだろうからね。納品しておこうと思って。このところ狩人としての仕事をしてなかったからね。


 【道標(ロケーター)】さんの煙を辿って、てくてくと進むこと二十分。冒険者組合に到着。こっちの組合は門から少し離れた場所にあるんだね。

 そして建物もサンレアンの本部よりも大分大きい。

 それじゃ、納品してきましょ。


 からんからんからん。


 こっちはまた軽い音だな。


 中に入ると、結構、多くの人で賑わっていた。でもサンレアンとは違って、みんなが忙しそうにしているわけではない。


 駄弁ってるって感じかな。それにしても広いな。


 あたりを見回し、依頼掲示板を探す。

 依頼掲示板は右側の壁にあった。一応、兎の依頼があるかは確認しないとね。


 私みたいな仮面を着けた変な小娘が入って来ても、絡まれることはなかったよ。まぁ、兎を担いでいるからね。ちゃんと仕事をしているのなら、絡んでくる奴もいないだろう。


 さて、掲示板を確認。えーっと、狩人の常時依頼だろうから……お、あった。

 ……一羽銀貨十枚。あれ? 思ったより高い? 確か【アリリオ】だと五枚だったよね? いや、あの時はダブついてるって云ってたか。とはいえ、それの倍の値段ってことは、向こうよりも相場が高いみたいだね。


 それじゃ受付に……って、窓口多いな。どこに並べばいいんだろ? あ、一番右が総合案内みたいだ。丁度誰もいないし、訊いてみよう。


「こんにちは。王都の組合ははじめてなんですけど、兎の納品はどの窓口でやればいいですか?」

「狩人常時依頼ですね。四番の窓口でお願いします」

「ありがとう、おねーさん」


 それじゃ四番窓口に移動っと。


「こんにちは。兎の査定、買取りをお願いします。血抜き済みです」


 そう云ってカウンターに兎をでんと載せた。


「組合員証の提示をお願いします」


 おっといけない。忘れてた。


 受付のお姉さんに組合員証を渡す。途端、お姉さんの顔が強張った。


 あれれー? 嫌な予感がするぞー。


「き、キッカ様、少々お待ちください!」


 ガタガタを椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、お姉さんは奥へと走って行った。

 あっはっは、まただよ。なんなのもー。って、ちょっと待って、『様』って云ってたよね、『様』って。ここでも『様』なの? どういうこと?


「嬢ちゃん、あんたいったい何者だよ。ラモナが敬称で呼ぶなんて初めて見たぞ」

「何者もなにも、ただの一般人なんですけどねぇ」


 後ろに並んでいた赤ひげの狩人さんに答えた。


 まぁ、一般人は一般人でも、逸般人と書く方が正しいのかもしれないけど。


 ややあって、ラモナさんが別の女の人を伴って戻って来た。


「ではキッカ様、こちらへ。総組合長がお会いしたいそうです」

「あれ? ティアゴさん、まだこっちでお仕事中なんですか?」

「えぇ、八ノ月一日の勲章伝達式に総組合長(グランドマスター)も出席することになっていますので、その日まではこちらに」


 くんしょうでんたつしき? え、勲章!? 聞いてないよ!?


 頭の中がグルグルとしたまま、ラモナさんについていく。階段を上がり、奥の立派な扉の部屋へと案内された。


「総組合長、キッカ様をお連れしました」

「あぁ、入ってくれ」


 ラモナさんについて部屋へと入る。飾り気のないシンプルな部屋。かなり事務的な感じがするけれど、ソファーとテーブルは豪華なものが置かれている。


 応接室かな?


 テーブルのところではティアゴさんが待っていた。

 ついつい二本の角に目が行くのはなんなんだろうね? 失礼だろうから気を付けないと。


「呼び立ててすまないな、キッカ殿」

「お久しぶりです、ティアゴさん。足の方は……もう完全に問題なさそうですね、よかったです」


 ティアゴさんが私を呼んだのは、私に対してどうこうではなく、単にサンレアンの状況について聞きたかったようだ。


 ラモナさんが淹れてくれたお茶を飲みつつ、ここ最近のサンレアンの状況を伝えた。ある程度の情報は入っていたようだけれど、やはり当事者の話を聞きたかったみたいだね。


 あ、そうだ。あの腹立たしいことを云っておこう。


「ティアゴさん。ひとつ報告というか、苦情があるんですけど」

「苦情? なにがあった?」

「バッソルーナで組合職員に、私の組合員証が偽造品と云われ、犯罪者にされるところだったんですけど」


 お茶を飲もうとしていたティアゴさんの動きが止まった。


「そいつの名前は分かるか?」

「フェリペって云ってましたね」


 って、怖っ! ティアゴさん、その口元を歪めるような笑い方は止めてくださいよ!


「カリダード!」

「なんでしょう、総組合長」


 ティアゴさんが呼ぶと、すぐに奥の扉が開き、眼鏡をかけた、見たところ三十くらいの金髪の女性が出てきた。いかにも才女といった雰囲気の、細身の美人さんだ。


 呼びかけに対し、間髪入れずに入室してきたのが非常に気になるけれど、とりあえずそれについては忘れた方がいいのかな?


「バッソルーナ支部を一時閉鎖だ。誰か人をやって職員全員を徹底して調べろ。不正が行われている。審神教に依頼して【祝福】持ちを借りるのを忘れるなよ」

「穏やかじゃありませんね。連中、なにをやらかしたんです?」

「こともあろうに、正規の組合員証を偽造品と偽って、犯罪者に仕立て上げようとした馬鹿野郎がいる」


 カリダードさんは私たちのところにまでくると、ティアゴさんの隣に座った。


「あり得ない話に思えますが」

「なんでしたら、審神教の審判を受けてもいいですよ」


 私が答えると、カリダードさんは私をじっと見つめた。


「総組合長、彼女は?」

「あぁ、彼女がキッカ殿だ」

「み、神子様!?」

「……あのー、私って、組合ではどんな扱いになってるんですか?」


 さすがに不安になって訊いてみたよ。


「ほぼ教会と同じ扱いと思ってくれ。もっとも、そうでなくともVIP扱いになるだろうが」

「えぇっ!? なんでそんなことに!?」

「キッカ殿が組合にもたらす利益を考えると、無下にするわけにはいかん。魔法の呪文書に回復薬、さらにはゾンビ病も治す万病薬。どれだけの利益になるか見当もつかないレベルだ。なにせ組合運営にも金が掛かるからな。それに、飛竜襲撃がまたあった上に、最悪なことになんの利益も得られなかったわけだからな」


 あー……ゾンビだったからねぇ。


「確かに散財しただけでしたからねぇ。あ、あの防衛戦で使った万病薬ですけど、寄付ということにしますから、お代は結構ですよ。なんだか組合持ち出しみたいでしたから。そもそも、いまだ値段が付いていませんし」

「それは……」

「素材が見つかったんで、量産の目途がついたんですよ。定期的にまとまった量を仕入れる契約もしましたし。あー……でも、今後はどうなるかわかりませんね」


 私がそういうと、ふたりは怪訝な顔をした。


「どういうことでしょう?」

「いま話した偽造の件ですよ。私を犯罪者にして捕らえようとした理由がですね、万病薬にあるみたいなんですよ。なんだか私が製法を盗んだことになってるみたいです。製法を私から奪おうと画策したのか、それとも私とは別の製法で作っているのかはわかりませんけど。

 なので、場合によっては私の方は手を引こうかなと。面倒事は嫌いなので」

「製法を確立したというのはあり得ないでしょう。出来ているのなら、とうに薬を発表して、王家に売り込みなりをしている筈です」


 カリダードさんが断言した。


 そうなんだよね。私もそう思っているんだよ。私みたいなことをしているほうがおかしいからね。私がこんな適当な感じでやってる理由は、私の努力で作りだしたものじゃなからなんだけどね。

 で、クラリスなる人物の作ったとういう薬。本当にあるのかどうかは知らないけれど、他の製法がある可能性もあるのは事実だしね。だからなんとかして、その薬の開発者のクラリスなる人物を引っ張り出したいんだよ。


 ことあるごとにケチをつけられるんじゃ、薬を下手に卸せないし。


「あ、そうだ。これを云い忘れてました。私を捕らえたいのはレブロン男爵みたいですよ。フェリペなる生き物は男爵とつるんでるのかどうかは知りませんが、少なくとも協力してるんでしょうね」

「生き物……キッカ殿、実に容赦ないな」

「総組合長。フェリペってなんです?」

「バッソルーナ支部の職員だ」


 あれ、カリダードさんの顔が引き攣った。というか、彼女は何者なんだろ? ティアゴさんの秘書ってことはないか、ここ王都だしね。というと、ここの組合長さんかな?


「ティアゴさん、カリダードさんて、ここの組合長さんですか?」

「あぁ、紹介しはぐったな、失礼した。その通り、ここの支部長だ」

「失礼しました。カリダードです」

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。

 それでですね。一日の式典に私も呼ばれているんですけれど、大丈夫ですかね。レブロン男爵から横槍的なものが入ったりしませんか? 正直、こんな状況なので、私は辞退したいんですけど」


 いや、ティアゴさん、額に手を当てて項垂れないでくださいよ。


「確かに面倒なことがありそうだな。各貴族の代表が集まる日だからな。レブロン男爵も来るはずだ。さすがに式典の最中に横槍はいれないだろうが……。

 カリダード、これから王宮に行ってくる」

「総組合長、こちらはお任せください」


 カリダードさんの言葉に、ティアゴさんが苦笑いを浮かべた。


「キッカ殿、ひとまずこのことについて相談をしてくる。すまないが、また明日ここに来てもらえるだろうか? それまでは辞退は待ってくれ」

「わかりました。何時ごろに来ればいいですか?」

「早い方がいい」

「分かりました。朝一で来ますね」


 かくして、お話は終了。

 まぁ、式典は弥の明後日だからね。急がないと。というか、迷惑掛けちゃったな。なにかお礼をしないと。


 イリアルテ家の厨房を借りて、なにかお菓子でも作るか。


 ◆ ◇ ◆


「こちらが兎の買い取り料金となります。お確かめください」


 受付に戻り、兎のお代を貰う。銀貨十枚。それに加え、兎の状態による上乗せ三枚。


「はい。確かに受け取りました。それでラモナさん、未確認生物のリストとかってありませんか?」

「懸賞金の掛かっている動物ですね。ありますよ。えーと……こちらになります、どうぞお持ちください」


 紐で閉じられた紙束を渡された。


「え、頂いちゃっていいんですか?」

「はい。殺人兎狩猟の実績がありますからね。あ、殺人兎は、キッカ様の命名通り、格闘兎で種の登録がされましたよ」


 なんだか知らないうちに大事になってる!?

 冒険者組合に続いて兎まで名付け親(?)になっちゃったよ。


「私が適当に呼んでただけなんだけど……」

「他の未確認生物の狩猟も期待してます」


 わぁ、すっごい笑顔で云われたよ。

 私としては、ついうっかり狩猟しないように確認しておきたかっただけなんだけど。

 あと、インベントリに入っているヴォルパーティンガーを組合に出せるかどうかを確かめたいし。……賞金が掛かってるような気がするんだよね。


 まぁ、これは今晩にでもじっくり見よう。


「あんた、ちょっといいか?」

「はい?」


 おや、声を掛けられたよ。

 声のした方に向くと、私の基準で二十歳くらいの茶髪の男の人。みたところ、ごく一般的な剣士といういで立ちだ。部分的に金属を用いた軽装鎧に剣。それに小盾、これはバックラーっていうやつかな? それを装備している。


「なんでしょう?」

「俺と手合わせをしてくれないか?」


 は?




 突然のことに、私は思わず目を瞬いたのでした。





誤字報告ありがとうございます。

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