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77 神々の茶会 2


「うがぁー!」


 思わず髪を掻き毟りながら私は喚きました。


 一向に問題が減りません。ひとつを解消すると、その結果によりふたつみっつ新たに問題が生まれるということが頻繁に発生する有様。


 いえ、それでも、減る時は減るので、対処を始めた当初よりは問題の総数は減ってはいます。一応。微々たるものですが。この調子なら、数百年程度で正常化するでしょう。


 恐らく、多分、きっと……。


 くそぅ、希望的観測でしかありませんね。とはいえ、作業を進めなくては一向に終わりませんし、下手すると勝手に増えて行ってしまいますからね。


 まったく。前任者のあの変態の無能っぷりが腹立たしくてなりません。


 なんであれを銀河管理者に指名したのか理解に苦しみます。時間軸(ルート)管理者はなにをトチ狂ったのでしょうか?

 それともどうやったのかは知りませんが、勝手になったのでしょうか?


 そういえば、現在は銀河群管理者になっているのでしたよね。まったく接触はありませんが、あんな者をそんな重職に就けて大丈夫なのでしょうか?


 あぁ、この超新星の処理をどうしましょう。このエネルギーを消滅させなくてはならないんですが、下手に拡散させると余波がそこら中に……。


 だいたいなんでこんなところに超新星爆発なんかが起きてるんですか。ブラックホールより厄介なんですが。残った中性子星が邪魔で邪魔で仕方ありませんよ!


 あ、こっちの遊星が良いところに。軌道をちょっと修正してと……よし、これでブラックホール行きになります。これでこの問題は終了です。あ、折角ですから、この遊星から資源を回収しておきましょう。キッカさんになんの報酬も渡していませんでしたからね。


 お、あっちの星間戦争が治まりましたね。頭を挿げ替えただけで問題が終わるとは、あそこの惑星管理者はどれだけ無能だったんですかね。私情で自分の管理する惑星を利用しないで欲しいものです。喧嘩をするなら、管理者同士で直接殴り合えばいいんですよ。その後、私が気に入らない方を処分して、残ったほうに首輪をつければいいだけですから。


 えぇ、もちろん、後釜が見つかったら処分しますよ。慈悲なんてありません。


 あのゴミが指名した連中は軒並み使えない以上、切らねばならないですからね。


 ふむぅ、もう超新星爆発の影響は、影響を受ける管理者に丸投げしましょう。さすがに完全には消せません。

 さて、この中性子星をどう処理したものか。こいつをどうにかしないと先に進めないんですよねぇ。ブラックホールになってくれれば、蒸発させて終わりにできたんですけど……あぁ、無駄に面倒臭いですね!


「お母様、失礼します!」


 ん? この声は――


「ララーちゃん、どうしたの?」

「例の召喚具が見つかりました」


 え?


 アンララーの言葉に思考が停止します。


「キッカちゃんが見つけてきてくれました」


 えぇっ!? 探しようがないから、もし見つけたら回収しますっていっただけでしたのに、もう見つけたのですか!?


「み、見せて! どこにあるの?」

「こちらに」

「……骨?」


 アンララーが取り出したものは骨。大腿骨ですね。正確には、人間の大腿骨に似せた代物です。……この刻み込まれた文字は、単なる雰囲気のようですね。ただの文字のようななにかの羅列でしかありません。


「トキワ様に連絡しましょう」

「トキワ様にですか?」

「残念ながら、私にはこれを解析しているだけの余裕がないのですよ。見つけたら連絡をするようにも云われていますし――」


 おや、キッカさんからの連絡ですね。どうしたのでしょう?


「お母様?」

「キッカさんから連絡です」


 そう答え、私はキッカさんからの連絡に耳を傾けました。


 ◆ ◇ ◆


 はぁ……。


 ディルルルナとアンララーが、安堵したようにため息をつきました。


「お母様、大丈夫。問題はありません」

「追跡はします。ですが、恐らく問題はないかと」


 ふたりの言葉に、私はひとまず安心しました。


 あの骨の召喚具により召喚された者は、すでに殺害されていると云うことです。ただ、その魂が見つかっていないと云うのが問題ですが、こちらはララーが見つけ出してくれるでしょう。


 しかし、吸血鬼ですか。まさかそんな化け物を召喚するとは、どれだけ厄介なのでしょうかね? これらの召喚具は。


 ですが、ひとつ気がかりなことがあります。


 なぜ、管理者が抗議にこないのでしょう? 先の時は、あからさまに宣戦布告をされたのですけど。


 あ、あの殺人鬼ふたりの故郷の管理者とは話がつきました。というか、トキワ様が力づくで黙らせました。

 私との交渉をみていて、相当、腹に据えかねたそうです。……容赦ありませんでしたね。まさかあちらがわの時間軸管理者を動かすとは思いませんでしたよ。

 というか、許可をもらって直々に半ば亡ぼすとか……。


 一気に始末せずに、どちらが上かを徹底的にわからせたうえで、二度と歯向かう気を起こさせないように痛めつけた状態で、あちらの時間軸管理者に処分を放り投げましたからね。


 あちらの時間軸管理者には、我々の上司である時間軸管理者から話が通っていたわけですから、あの二柱は独断で上からの通達を無視していたということです。


 惑星管理者から銀河群管理者までは、現場担当ということで、上下関係に関しては絶対とは云い切れません。ですが、その上の時間軸管理者は絶対者といってもいい立場になります。さらにその上の根源(ルーツ)管理者となると意見することすら間違いなのです。


 根源管理者は、いわゆる世界における絶対神ですからね。根源管理者が存在するからこそ世界が有るのですから。


 恐らくあの管理者二柱は廃棄処分となるでしょう。いい気味です。


 ……そしてなぜか時間軸管理者から私のところに、謝礼としていろいろと送られてきましたが。

 恐ろしくて梱包された物を開けられないのですよね。トキワ様が来られた時に、一緒に開けようとは考えているのですが。


 いえ、トキワ様も当事者ですからね。


「こんなところでしょうかね?」


 力場で梱包した骨を見ます。うん。力の綻びもありませんね。なにせ別時間軸へと飛ばしますからね。途中で行方不明にでもなられたら大変です。


「よし。問題なしです。では、トキワ様のところへ送りましょう」


 ぱちんと指を鳴らし……鳴ら……な、鳴らない……。


 うう、なんということでしょう。指が鳴らなくなってますよ!?

 くっ、これも、幼女姿に戻された弊害ですか。幼女にされてから五年、指を鳴らそうなんて思ったことなんてありませんでしたからね、まったく気が付きませんでしたよ。


 よそ見をして見なかったことにしている娘ふたりの気遣いが辛いです。


 えぇい、骨はとっととトキワ様のところへと行きなさい。


 目の前から骨が消えました。


 それにしても、トキワ様にはお世話になりっぱなしですね。なんとかお礼をしたいところですが、以前それをいったら、キッカさんの事をお願いされましたからね。


 ……ただ、監視というか、お目付け役というか、そんな感じに云っていたのが気になりますが。

 そんなに危険人物なのでしょうかね? キッカさん。

 いまのところは、なんの問題もなく過ごしているようですけど。


 むぅ……。


「お、お母様? その、どら焼き食べますか?」

「キッカさんの手作りで美味しいですよー」


 アンララーの気を遣った声と、のほほんとしたディルルルナの声。


 やれやれ。いけませんね。しっかりしないと。

 それにしても、ディルルルナは本当にマイペースですね。まぁ、そのように作ったわけですけど。戦神でもあるテスカカカより強くなったのは誤算でしたが。


 いや、それよりも大事なことがありますよ。


「どら焼き。キッカさんの手作りですか……」

「はい。食文化の発展に関してお願いしたら、随分と乗り気になってくれました」


 おぉ、それはありがたいですね。そしてアムルロスで生まれた新たな甘味ですか。地球産の甘味ですけれど、何れはアムルロス生まれの甘味も増えて欲しいものです。いまのところは、飴玉とか、蜂蜜漬けにドライフルーツ、山羊乳に砂糖か蜂蜜を加えたものを固めたチーズ擬きくらいしかありませんからね。


 あぁ、あと、ビスケットっぽいものもありましたか。かなりボソボソとしたものでしたけれど。


「本当は餡子っていう、豆を材料にしたものを挟み込むようですけど、その豆がないのでベリーのジャムで代用したと云っていました」

「このジャムはキッカさんが持ち込んだ素材ですけどねー。でもジャムはアムルロスにもありますから、ララーが広めればあっというまに根付くんじゃないかしらー」


 ふむ。ではひとつ頂きましょうか。


 ふんわりとした歯ごたえに、ほんのり酸味のあるジャムの味。舌に伝わるジャムの冷たさと甘みが良いアクセントとなっています。

 手で持って食べることができるのもいいですね。ただ、貴族間ではなかなか広まらないでしょうけれど。主に礼儀作法が原因で。


 これをフォークを使って食べるとなると、この円形の形から変えることになるでしょうね。そうすると、どら焼きらしくなくなる気がします。


 ……同じ調理方法で、形を四角いケーキのようにしただけで、名前を変えて発表する恥知らずな料理人とかでなければいいのですけど。


 あぁ、そういえば広めるのはアンララーでしたね。なら問題ありませんね。


「美味しいですねぇ。アムルロスにある素材だけでできたとは思えませんね。ジャムは、アムルロスの物でも問題ないのでしょう?」

「大丈夫ですよぉ。薬の素材用に生産していたベリーの余剰分をジャムにしたものを使っただけですからねぇ」

「あぁ、それならわざわざジャムを買ったりはしませんね。ふふふ。私の長年の夢がかないそうですね」


 自然と笑みがこぼれます。


「夢、ですか」

「えぇ、美味しいものを食べる。それだけですけどね」


 ふたりが顔を見合わせます。


「もちろん、アムルロスの素材で、ですよ」


「そこまで拘るものなのですかー?」

「ものなのですよー」


 ディルルルナの口調を真似て答えました。


「私が人間だった頃は、食事に気を回しているだけの余裕はありませんでしたからね。食事に手間をかけるだけの時間がなかったのですよ。生きることが最優先でしたからね。

 とにかく、辺りは魔物だらけでしたから。自分たちが食料にされないようにするのに精一杯でした。

 あなたたちが生み出された時期には、魔物も大分駆逐できていましたし、なによりあなたたちには、まだ人格なんてものがありませんでしたからね。記憶ではなく、記録として知っているだけでしょうから、まったく実感はないでしょうけれど」


 五千年も前のことですしね。魔物どもを森にまで押し戻すのに、どれだけ苦労したことか。今思えば、よくもこの北の大陸に生きる人類が生き延びられたものです。南の人類と違って、特殊な能力を持つ者などほぼ皆無だったというのに。


 それにしても、なんで食文化が発展しなかったんですかねぇ。まぁ、食用可な魔物はやたらといましたから、食料難になることはほとんどありませんでしたし、その辺りが原因なんですかねぇ。南方の人類は、素材をそのまま齧ってるような感じですし。


 あぁ、そういえば、香辛料関連は人類未踏の地にしか生えていないんでしたね。……外洋を行くのは自殺行為ですから、どうにもなりませんね。塩にしても、二百年前まで安定供給なんてできていませんでしたしね。

 こうなると、香辛料や調味料も、キッカさんがどこまでもたらすかにかかってくるわけですか。


 ぱくりと、もうひとくちどら焼きにかぶりつきます。


 ふんわりとした食感に甘みのある微かな酸味。


 本当に美味しい。


 ふふ。なんだか感慨深いですね。


 ◆ ◇ ◆


「こんにちはー」


 ディルルルナとアンララーがアムルロスに帰ってから数時間後、今度はトキワ様が見えました。


 あの骨の件だとしたら随分と早いですけれど、なにかあったのでしょうか?


「いらっしゃいませ、トキワ様。どうされました?」

「あの骨の解析を終わらせたよ。ちょっと気になることがあってね」


 お、終わらせたんですか!? 仕事が早すぎやしませんかね!?


「ほら、誘拐した者を担当してる管理者からの苦情が一切なかっただろう? こういう場合は大抵ロクなことにならないからね。嫌な予感しかしないから、慌てて解析したよ」


 トキワ様を炬燵に招き入れ、お茶を淹れます。


「だとしても早すぎませんか? そちらに送ってから、五時間と経っていませんよ」

「あぁ、大丈夫。一番肝心なところを優先的に解析して、追跡したから。それに、中身は前に解析した奴と一緒だったからね。問題なかったよ。


 でだ、まず召喚元となった惑星だけど、管理者が不在だった」


 はい? 不在って、管理者のいない惑星が存在するんですか? 生物のいない惑星にも管理者はいるのですよ? 大抵は星系管理者が兼任していますけど。


「不在ですか。どういうことですか?」

「簡単な理由。世界が崩壊していたよ。全てが腐ってた。アムルロスにあるゾンビウィルスの強化版というか、ロクでもないレベルのものが蔓延して生きている存在がほぼ皆無だ。動いているモノの七割がゾンビ。ほかは不死の怪物各種。一応生きている者もいくらかいたけれど。

 あの星の人類は、このまま絶滅して終了だろうね。

 でなければ、上位の不死の怪物のための、食肉用の家畜となるかだ。

 そんなわけで惑星の管理を放棄。管理者は異動ってところかな。……責任として処分された可能性もあるけど」


 これは、私にとって運が良かったということでしょうか?


 あぁ、いや、まだ魂の件があります。


「一応、事情説明と現在の状況を、向こうの時間軸管理者に送っておいたよ。あとは返事待ち。多分、なにも問題ないと思うよ。吸血鬼化して変質した魂なんて不要だろうしね、こっちで処分してくれれば、それでいいってなるんじゃないかな」


 魂の処理。輪廻の環から完全に外れていますからね。神格化なんて以ての外である以上、処分するしかないのですが……。


 魂の処分は大変なんですよねぇ。いや、そんな簡単に処分できてしまったら、それはそれで問題にしかなりませんから、仕方ないわけですけど。


「まぁ、それは先の事だね。ちょっとこれを見て欲しい」


 トキワ様はそういうと、炬燵の上にあの骨を置きました。そしてパチンとゆびを鳴らすと(悔しい)、骨の上になにかのリストがずらずらと現れました。


 何でしょう? 見たこともない文字ですけれど。骨に刻まれていたものとも違う文字のようですし。


「これは何ですか?」

「この【召喚器】が召喚した者の名簿」


 えっ。結構な人数ですよ。えーっと、全部で六十一名ですか。


「死亡者の名前は表記がグレイアウトする仕様みたいだよ」

「……いちばん上がハイライトされているんですけど」


 私はゆっくりとトキワ様の顔を仰ぎました。


「最初に召喚された者は生きているみたいだね。居場所は把握してるのかい?」


 え、ちょっと待ってくださいよ。最初に召喚されたのって――


 血だけじゃなく肉も喰らう吸血鬼ですよね?


 いや、それならもう吸血鬼じゃなく食人鬼ですか。

 いやいや、呼び方はどうでもよくてですね。


 燃やし尽くされたって聞きましたよ? なんで生きてるんですか?


「まずいことになりました」

「え、把握してないの?」

「あの、胸に杭を打たれて焼き尽くされても生存可能の生物っていましたっけ?」

「え? いないよ! え? アレカンドラさん? 嘘でしょ!?」


 あぁ、賠償だなんだのトラブルはありませんが、危険な吸血鬼が野放しとは。

 あははは。どうしましょう?

 ……とりあえずアンララーに連絡して丸投げしましょう。

 私はあの中性子星をどうにかしないといけません。




 私はアムルロスの事を考え、頭を抱えたくなったのです。





誤字報告ありがとうございます。

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