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66 汝、空を舞うに能わず!

19/10/19 クロスボウの弦の巻き上げ表記を変更。


「とっととくたばれ! こんちくしょう!」


 喚き、今しがた私に火の玉を撃った飛竜を指差した。


『汝、空を舞うに能わず!』


 そして発動するは、言音魔法【竜墜】。


 だが放たれた言霊は外れた。


『おのれちょこまかと』


 ギリギリと歯を軋ませる。だが【竜墜】は【穏やかな空】と同様に、クールタイムの短い言音魔法だ。


 よし、次弾装填完了!


『汝、空を舞うに(あた)わず!』


 外れ。


 次弾装填中。


『汝、空を舞うに能わず!』


 外れ。


 だぁっ! ちょこまかちょこまかと!

 こうなったら、面白半分で設定した文言の方を使ってやる。


 よし、よーく狙ってぇ……。


『墜ちろ、蚊トンボ!』


 当たった!


 ……ちくしょう!


 くっそ、くっそ、なんでこっちが当たるんだよぅ。


 理由はさっぱりわからないけど、すっごい屈辱的な気分だよ。


『それもこれもお前のせいだ! とっとと死に晒せ! クソ蜥蜴が!』


 クロスボウを構え、撃つ!


 うん。射つ、じゃなくて撃つだよね、これ。装填してるのは太くて短い矢だけど。

 そういやこれ、ボルトとクォレル、どっちが一般的な呼称なんだろ?


 まぁ、大抵のゲームがボルトだから、そっちが一般的なのかな。


 そしていま撃ったのは、うん、外れた。


 おとなしく落ちるのを待とう。


 上空から非常に薄く淡い白い光が、まるで吹き付ける蒸気みたいに飛竜の背に当たっている。


 ダウンバーストってこんな感じなのかな? と、微妙に合っているのか、間違っているのかわからないことを考える。


 飛竜はどうにか抵抗しようとしていたが、唐突に落ちた。


 あ、あれ? 不時着とか、軟着陸じゃなくて、そんなボトって感じで落っこちるの!?


 どずん! と、地響きを立てて飛竜が地面に激突した。


 よーし、そこで動くな! ハチの巣にしてくれる!


 クロスボウの先端を地面に突き立て、鐙をしっかりと踏みつける。そして弦の巻き上げ用レバーを思い切り両手で引き、弦受けに引っ掛けた。あとはボルトを装填すれば、射撃準備は完了だ。


 ん? 装填が面倒? クロスボウだからね。こうやって装填するんだよ。手に持ったままだと重くてレバーを引けないからね。あ、素手で弦を引くと指を痛めるから、やらないほうがいいね。ガッチガチに弦を張ってあるから。下手すると指が落ちるよ。


 クロスボウを構え、撃つ。ボルトは狙いたがわず、飛竜の首に刺さった。


 って、あれ? なんか思ったような反応が無いよ?


 墜ちた飛竜をよく見る。ほとんど動いていない。あれ? 死んだ?


【死者探知】を使って確認してみる。

 飛竜に黄色い光のシルエットが重なった。


 し、死んでる!? なんだよ、落下死かよ。

 くっそ、くっそ、この怒りの矛先をどこへって、目に入ったお前だ蜥蜴!

 って、あれ? なんであいつも黄色い光が見えるんだろ?

 いや、光が見えるってことは、死んでるってことだよね?


 え、ってことは、あれ、ゾンビ!?


 !?!?!?!?


 ()、【太陽弾(サンライトバレット)】!


 墜落して動かなくなった飛竜に、【太陽弾】を撃ち込んでみる。するとたちまちバタバタともがきだした。だが落下の衝撃で骨折を、おそらくは複数個所しているようで、まともに動くことはできないようだ。


 うそでしょ! 飛竜ゾンビ!?


 ちょっと、難易度が一気に跳ね上がったんですけどっ!?


 殺そうにも死なないじゃないのさ!


 ぬぅ。まずいなぁ。この装備だと回復魔法の軽減はないんだよ。指輪は外せないし。さらに指輪追加するしかないか。


 あんまり増やすと悪趣味な感じがしていやだけど。


 回復魔法魔力軽減の指輪を、右薬指に嵌める。ひとまずこれで四割軽減。軽減系の指輪は自作してないから、これ一個しかない。


 あとはサークレットがあるけど、兜を装備したままで装備できるかな? そこまで兜はキツキツじゃないけど。


 ちょっとやってみよう。うん、装備は問題なくできた。できたけど。


 ……カツカツ当たって煩い、というかちょっとうざったいな。とはいえ、文句は云ってられないな。今度、兜の内側に革で内張りでもしようか? いや、革だと匂いが酷いことになりそうだ。布にしておこう。


 待て私。現実を見よう。大事なのはそこじゃない。重視すべきは、ゾンビと知らず、あの飛竜共と戦ってるみんなだ。


 うん、まずい。これちゃんと知らせないと。別の被害がでる。感染者が出る。


 下手すると、いや、絶対に万病薬が足りなくなる!


 私が触れて回っても聞いて貰えないだろうし、誰か、私と面識があって、信用に立場もありそうな人って現場にでてないかな。


 身動きできなくなった飛竜に【神の息吹(ディヴァインブレス)】を掛けて炎上させると、私は人が集中しているところへと向かう。


 ざっと見た限り、知っている人は見当たらない。というか、現場に出てそうな人で、私の知り合いっていったら数えるほどしかいないよ。


 さすがに前線にまできて、ただうろうろしているだけだと怒鳴られそうだ。


 とはいっても、ここであいつら落として、みんなで飛び掛かったとしたら、感染者出そうだよ。


 どうし――あ、いた!


 やっと見つけた見知った人!


『隊長さん!』


 見つけたシモン隊長の所へ行き、私は兜を脱いだ。

 顔を見せないと私と認識されないかも知れないからね。


「キッカ殿!? なぜここに!?」

『飛竜退治の手伝いです! それよりもあの飛竜ですけど、あれ、ゾンビです!』

「なに?」

『だから、あいつらゾンビなんですって。下手に戦うと、みんな感染しちゃいますよ!』

「ま、待て、言葉がわからん! どこの言葉だ!?」


 え? ……あ、日本語ずっと喋ってたよ。言音魔法が日本語だからそのまんまだった。えっと、ええと、こっちの言葉だとなんていえばいいんだ?


 少しばかりたどたどしくなったけれど、こっちの言葉で改めて説明し、私は墜とした飛竜を指差した。


 うん、良く燃えてる。そのまま灰になってしまえ!


 それを見た途端、半信半疑だったシモン隊長もさすがに顔色を変えた。


「ロクス! ナナイ! 触れ回れ! 飛竜はゾンビ化している!」


 近くで弓を射ていたふたりが走って行った。


「パニックになったりしませんかね?」

「連中はそこまで柔じゃない。問題ない。とはいえ、飛竜のゾンビか。ただでさえ厄介だというのに」


 隊長さんが歯を軋ませる。


 あ、そうだ。始末も隊長さんに任せよう。私が魔法使いまくって目立つのは避けたい。


 両手を塞いでいる兜を被り、インベントリから【聖気の杖】を取り出す。


 確か販売する杖のリストには入っていないけれど、これも追加で加えればいいや。

 【聖気の杖】。対不死の怪物(アンデッドモンスター)用の杖だ。【神の光】の魔法が封じられている。


 ゲームの杖とは違って、ちゃんと打撃力のある対不死の怪物用の魔法が封じられている。ゲームのは本当に、ただ退散させるだけだったからね。これなら、炎上もさせられるはずだ。


 隊長さんに杖を差し出す。


「これ使ってください。対不死の怪物用の魔法の杖です」

「おぉ、助かる。だがなんで対不死怪物用の杖なんて持ってきたんだ?」

「……訊かないでくださいよ」


 私は隊長さんから目を逸らした。


「……もしかして、間違えて持ってきたのか?」

「あははは……。まぁ、とはいえ、その杖の方が役立ちそうです。試し打ちするなら、その杖でも今回は問題ないというか、最適ですし。

 あ、これ、魔力が切れたら使ってください」


 そう云ってピンポン玉サイズの魔石の詰まった袋を隊長さんに渡して、その場から離れた。


 正確にいうと逃げた。このままだと誤魔化し切れなさそうだからね。確か、隊長さんは杖の使い方を知っている筈だから、問題ないだろう。


 よし、あとは【竜墜】で飛竜を墜として、みんなで殴ればなんとかなるだろう。墜ちた時点で戦闘不能になるみたいだし、火の玉にだけ注意すればいいだけだ。


 後処理もあの杖で燃やせるしね。


 と、そうだ。言音魔法を【無音魔法発動】に入れとかないと。いままで例外にしといたからね。


 上空の飛竜を確認しつつ、飛竜共のヘイトをとりつつ弓を射ているみんなの邪魔をしないように、やや離れたところからクロスボウを構える。


 そして――


――――――――――(汝、空を舞うに能わず)!』


 【竜墜】を飛竜に向けて撃ち放った。


 ◆ ◇ ◆


「ただいまぁ……」


 時刻は夕刻。だいたい五時間くらい戦ってたかな。とにかく面倒だった。


 【竜墜】がね、さっぱり当たらないのよ。

 偏差射撃――って、これもいえるのかな? まぁ、してるんだけど、飛竜の挙動が予測つかないんだよね。


 体を捻って急旋回とか普通にやるから予測つかないんだよ。


 何発無駄撃ちしたことか。これは今後の課題かなぁ。でも【竜墜】を使う機会なんてそうはないだろうしねぇ。


 いや、あったら困るよ。飛竜の相手であの有様だよ。


 攻撃に回ってた領軍や助っ人の傭兵さんたち、半壊状態だったからね。


 よくあの被害で済んだとも思ったけれど。


 みんな凄かったね。しっかりと飛竜の挙動をみてるから、飛竜の吐く火の玉に当たらないんだよ。


 とはいえだ。火の玉が直撃した人はいなかったけれど、地面に当たって炸裂した余波を受けた人は多数いたからね。怪我をしていない人は、ほんの数えるほどだ。


 とにかく、陽が落ちる前に片付けることができてよかった。暗くなったら、それこそ何もできなくなったはずだ。

 いくら単調作業じみていたとはいえ、暗くて見えなくなったら、至難どころじゃないからね。


 飛竜を燃やした後は、怪我人を教会に運んで治療のお手伝い。


 あ、あの鑑定盤って便利なんだね。普通の病気はともかく、人を変質化させる病はステータスに表記されるみたい。ゾンビ病とか吸血病とかの感染型のやつね。


 【ゾンビ化まで三日】とか、そんな感じで。感染していた人は全部で十六人。なんとか薬は間に合ったよ。


 その薬代に関しては、領都防衛ということもあって侯爵様が持つことに。


 さすが領主様。ここぞと云う時に恩を売り、自らの評価をアップさせる。領都運営上手だ!


 って、なに馬鹿な事考えているんだ私は。


 金額を考えればイリアルテ領としては大損だ。本来なら飛竜五体分の素材に食材が手に入るはずだったのが、ゾンビだったからね。


 焼却処分となったため、実入りはなし。まぁ、今後、魔法販売とトニック販売が軌道に乗れば、一気に税収もあがるし、今回の損失は取り戻せるだろう。


 もっとも、その薬は私が寄付したようなものばっかりだから、多分、金銭の動きはないんじゃないかな。私がその辺りを云ったらそうなると思う。現状、まだ値段がついてないしね。


 疲れ果てた私を、ボーが首を傾げながら迎えてくれた。


 あー。ボーを小屋に戻さないと。


 ボーを小屋へと連れていき、野菜とヘラジカの内臓肉を餌皿に入れる。あと水も補充してと。


 さわさわと軽く頭を撫でてから、私は改めて家に入った。

 玄関の鍵を掛け、自分に【清浄(クリーン)】を掛けて汚れを落とす。それからインベントリを使っての着替え。


 いつもの見習ローブ。これ、着てて楽なんだよね。


 のそのそと扉を開け、メインホールへと入る。


「お帰りぃ」


 ララー姉様の出迎えの言葉。

 うん。やっぱりこうして迎えてもらえるのは嬉しい。


「はい。只今戻りました」

「大変だったみたいねぇ」

「疲れましたよ……」


 椅子に座り、ぐったりとテーブルに突っ伏す。

 見ると、ララー姉様は目を細め、頬に指を当てつつ首を傾いでいた。


「んー、でも、まだ終わりじゃないのよねぇ」


 え?


「あー、来たみたいねぇ」


 え?


 ドンドンドンドン!




 ララー姉様の言葉に目を瞬く間もなく、玄関の扉が激しく叩かれたのでした。





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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に主人公弱い。 能力を半分すらつかいこなせてるとは思えない。 てか作者が主人公設定を活かしきれてないんだろうなぁ。
2021/06/09 06:18 退会済み
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