06 魔王
19/06/25 キッカの偽装ステータス部分の年齢を変更。
本ステータスの年齢が抜けていたので追加。
20/01/24 ステータスに走力を追加。精神→気力へと表記変更。
ライオン丸はどこからか取り出されたシーツがかぶせられた。まったくもって、扱いが酷く雑である。
でも手慣れている感があることから、神様方の中では、ああいうポジションなのだろう。
「では、ダンジョンの話の前に、魔王について説明しますね」
「あ、お母様、その前にひとつ確認させてくださいー」
ディルルルナ様が手を挙げた。
「ん? なに? ルナ」
「私の目に見えるキッカ様の名前とー、お母様の口にしている名前が一致していないのですが、どういうことでしょー? 一応、お母様に準じて、私たちはキッカ様とお呼びしていますがー」
「……あれ? あぁ、そうでした。キッカさん、先に偽装を解いておきますね」
「へ、偽装……あぁっ! 連中に今後付きまとわれないようにするのに、変装しましたね。って、名前まで変わってたんですか?」
いまさらながらに思い出したよ。そうそう、今は髪の色が亜麻色になってるんだっけ。そして死ぬほど似合わないツインテ状態だ。こう……なんだ、もうちょっと可愛らしい顔立ちだったら似合ってたんじゃないかと思うんだけど。無駄に美人系の顔だからな。
……うん、本当に無駄だったな。中身はブラコンのポンコツだし。
ん? 自分で云うのかって? だって自覚してるもの。
「では、ちょっとお見せしますね。これがこっちの【鑑定】で見えるものです。
ということで、どん!」
名前:ユーヤ・フカヤマ(深山湧谷)
種族:人間 性別:女 年齢:13歳
職業:学生
属性:土
筋力:D
知力:D
気力:C
体力:C
技巧:D
敏捷:F
走力:F
魅力:D
運気:F
技能:炊事 洗濯 掃除 基礎学術知識
祝福:――
おぉう。目の前にゲームでよく見るようなステータス画面が。濃い青地に白抜きで表示されてる。
むぅ。これはどうなんだ? 平均なのか、並以下なのか。運低いな! って、名前。これ常盤お兄さんが遊んだんだろうな。自分の名前がアレだからって、なんで深山湧谷。勝烈菊花とかにされなかっただけマシかな。おまけに13歳って。さすがにその頃はこんなに胸は育ってなかったよ!?
()の部分がグレイアウトしているのは、本来は見えない部分、ってことかな? 多分そうだ。
「それじゃ、となりに偽装を解いたものを、どん!」
名前:キッカ・ミヤマ(深山菊花)
種族:人間 性別:女 年齢17歳
職業:学生
属性:影
筋力:C
知力:B
気力:S
体力:B
技巧:B
敏捷:F
走力:F
魅力:S
運気:(F→)C(加護により三段階上昇+α)
技能:炊事 洗濯 掃除 裁縫 基礎学術知識
祝福:アレカンドラの加護(運気上昇)
(※※:主人公)
……いろいろと突っ込みたいところがあるんだけど。魅力がSって。いや、それ以上に最後の『主人公』ってなに?
「こんな感じですね。いろいろ思うところはあると思いますが。
敏捷と走力が低いのは、キッカさん、足に障害持ってたでしょう。その影響です。こっちで普通に暮らしていれば、直ぐに上がるでしょう。不自由だったぶん、気力と体力で乗り切っていましたから、気力と体力は高め……っていうか気力凄いですね。で、魅力は、キッカさん美人ですからね。あ、いまは厄介ごとにしかならないですから、顔も若干偽装して、十人並みにしてあるのですよ。この説明をしたら解きますからね。
で、技能と祝福は見ての通り。技能は生前の経験によるものです。祝福はさきほど私が付与しましたね。
そうそう、属性の影は、キッカさんが戦闘に関しては隠形中心でやっていくとのことでしたので、影としておきました。身を隠すなどの行動に補正が入りますよ。具体的には、影に溶け込みやすくなります。
そして最後の『主人公』ですが、これはキッカさんがトキワ様に願ったものですよ」
へ、私が願ったって……。
『ゲームキャラってアリですか?』
「あぁ。はい、わかりました。わかりましたけど、この表記はどうなんでしょう?」
「いや、私も悩んだんですよ。これどう表記しようかと。まぁ、括弧でくくられた部分は、キッカさんの他は私たちしか見えないですから、問題ないでしょう。
では、外見の偽装も解除しますね」
アレカンドラ様がパンと手を叩く。すると、ぽん! といった感じで、音はしなかったけれど、私が弾けた? みたいな感じがした。
とりあえず髪を見てみる。ツインテは解けて、腰ほどまでの長さになっている。
おぉ、真っ黒に戻ってる。あんまり黒いから、ちっさいころからカラスだのなんだのって云われたんだよね。悪口的な意味で。足を引いてたのもあったから、微妙にいじめの対象になってたんだ。だからって、私はこの髪が嫌いってわけじゃないよ。むしろ逆だ。ふふん。あいつらはこの髪を妬んでただけに違いないんだ。たとえそうじゃなくても、お兄ちゃんが好きだって云ってくれたから、いいんだもん。緑の黒髪って云ってもらえたんだもん。この髪は私の一番の自慢だい!
そして神様方はというと。
「ララーねー」
「ララーじゃな」
「ララーですね」
「ララーだ」
「私がいる……」
ほへ?
「あー、どうも見たことがあるという気がしていたら、アンララーにそっくりですね。顔はそこまで似ているわけではありませんが、雰囲気というか、イメージ的なものが」
アレカンドラ様が胸元で両掌をぱちんと当てて、にこにことしている。
え、似てるって、私、そこまで美人じゃないですよ。いや、顔立ちは整ってるとは思いますけど、ごく普通の日本人だから彫りも浅いし。
「そうですね。ララーにルナ姉さんを足し込んだ感じでしょうか」
「そうねー。角が取れたララーちゃんって感じねー。可愛いわー」
「あ、ありがとうございます。
あの、アレカンドラ様。こっちだと私みたいな……えーと、いわゆる平たい顔って、どんな扱いなんです?」
と、とりあえず聞いておこう。
「あー。この世界のルーツは、キッカさんがいたところと一緒なんですけれど、ここの人類は、いわゆるアジア系には派生できませんでしたからね。うーん、これもアレの影響なんですかねー。まぁ、美的感覚的には、問題ありませんよ。彫りの浅い顔でも、みんなの云った通りキッカさんは美人の類になります。安心してくださいね」
「あ、はい。わかりました」
ということは、前と一緒で男には気を付けないといけないのか。まぁ、今は身を護る術があるから、大丈夫かな。もちろん逃げる方向で対処しますよ。……逃げるのは対処と云わないか。
「では、魔王についてお話しします」
あ、魔王の話。ちゃんと聞かないと。
「キッカさんは『絶対生物』という言葉を聞いたことがありますか?」
「絶対生物、ですか? ちょっと聞いたことないです」
漫画かなにかで見たような気はするんだけど。
「ではそこから。まず、この宇宙の誕生と同時に、一体の生物も誕生しました。この生物はいかなる環境、いかなる状況下であっても生存し、殺すことはおろか、傷つけることさえ不可能な存在です。そして食事すらも不要。一応、なんらかのエネルギーを摂取、もしくは吸収しているとは思われますが。正直、これを生物と呼んでいいのかどうかも怪しい存在です。これが絶対生物と呼ばれる個体です。
ですが、ある時、なんらかの事故により、この生物が傷を負いました。
絶対に傷つけることなど不可能であったこの生物は、初めての痛みにのたうち、暴れ、いくつもの星々を破壊し、最終的にここ、アムルロスの赤道付近の島に墜ちました。
それは丁度、人類が狩猟だけではなく、農耕をはじめた頃のことです。
その生物はアムルロスに墜ちた時には痛みには慣れていたらしく、幸い、暴れることはありませんでした。そしてそれは、落ちた先で癒えることのない傷が癒えるのを待ち、眠りについたのです」
「傷は治らないんですか?」
「治りません。そもそも傷つくことがない生物だったのですから、自らを修復する機能がもとより備わっていないのですよ。そして治療行為も不可能です。なにしろ、外部からの干渉を欠片も受けつけない存在ですから」
あぁ、治療行為も弾いちゃうのね。
「まぁ、この生物がこの星にいるだけなら問題なかったのですが、その生物の傷から血液の如く瘴気が流れ出し、それはやがて世界に溢れ蔓延しました。
この瘴気が、いわゆる魔素、魔気と呼ばれるものです。
この生物は宇宙を生みだす原初の素、エネルギーからできています。つまり、純然たる世界を形作るためのエネルギーといえます。そんなものが世界に蔓延したため、この星の生態系が異常を起こしました。
いわゆる魔物と呼ばれる存在が生まれ、また人類や他の動植物も様々に変質することになりました。ナルキジャから聞いたと思いますが、各種人族は、瘴気により変質した人類です。
あぁ、そういった意味では、純粋な人類であるキッカさんと同種の人類はいないともいえますね」
うわぁ……。
「あの、その生物って、いわば血を流しっぱなしにしているようなものなんですよね? それでも死なないんですか?」
「死なないんですよ。アレが死ぬのは、恐らく宇宙が終わるときでしょうね。
説明を続けます。
もう察しがついていると思いますが、この生物が、現在『魔王』と呼ばれている存在です。テスカセベルムの王は、これが魔族を統べているなどといっていますが、南方へと侵略するための詭弁でしかありません。
あぁ、南方に魔法を使える者が多いのは、それだけ濃い瘴気に多くさらされているからです。瘴気の発生源に近いですからね。
さて、ダンジョンですが、これは私の前任者、或いはもっと前の担当者が設置した、瘴気の消費装置ともいうべきものです。このままだと瘴気の濃度が濃くなりすぎて、この星の生態系が終了してしまいますから。意図的に瘴気から魔物や物品を生産し消費しています。まぁ、おかげで人類には厳しい世界になりましたが、あのまま瘴気で滅びるよりはマシでしょう」
なんというか、無尽蔵のエネルギー発生装置が空から落ちてきたけど、そのエネルギーの使い方がわからない。放っておいたら世界に蔓延しちゃったよ。うわ、なんてこった、このエネルギー、毒じゃねぇか。やべぇ、このままじゃみんな死んじゃうよ! ってことか。で、その消費用にダンジョンが作られたと。……なんで魔物発生装置にしたんだ? まぁ、それはアレカンドラ様に聞いても分からないか。前の担当者がやったことだし。
「まぁ、こんなところでしょうか」
「はい。ありがとうございます。それで、その島というのは?」
「あぁ、赤道直下にある、えーと、四国くらいの大きさの島ですよ。ただ近づくのは不可能です。瘴気濃度が濃いので、近づくと死ぬか、変異して魔物になるかのどちらかです」
「ちょ、物騒ですね。そんな簡単に変異とかするんですか?」
「するんですよ。現状はなんとかバランスはとれているんですが。できればもう少し濃度を落としたいところです」
乾いた笑い声をあげるアレカンドラ様。
なんというか、気持ちはわかるな。これ解決法がないもの。
「これで魔王に関わらないように云っていた理由が分かったと思います。下手に刺激して暴れられたら、この星は終了しますからね。
だいたい、南方の国々はアレとなんら関係ありませんし。アンラが普通に貿易しているわけですから」
そりゃそうだ。『我々が世界を救うのだ』とか云ってたけど、云うように世界を荒らしまくってる連中なら、貿易なんてできてるわけないよね。
「まぁ、ひとまず押さえておくことはこの程度でしょうか。あ、後々疑問に思うことがありましたら、気軽に連絡してくださいね。トキワ様が、魔法に連絡手段を追加してあるそうですから」
「はい、わかりました」
常盤お兄さん、至れり尽くせりだな。
「さて、最後に。キッカさん、なにか聞いておきたいことはありますか?」
うーん、なにかあるかな……あ、そうだ。
「召喚された他ふたりって、具体的になにやらかしてたんです? 犯罪者なんでしょう?」
「あぁ……」
うわぁ、アレカンドラ様、あからさまにげんなりしてるよ。
「えー、顎割れマッチョのほうが連続殺人犯です。いわゆる快楽殺人者というやつですね。女性を殴り殺すことに性的興奮を覚える狂人です。被害者は二桁超え。
もうひとりの方は、連続強姦、強盗、殺人、放火犯です。強姦し、殺害し、金品を奪い、証拠隠滅のために火を放つ、というようなことをしてきた人物です。こちらも被害者は二桁超えです」
予想以上に酷かった!?
「本当、この国の連中はなんでここまで酷いのを引き当てるのか。彼らの世界の管理者は、これ幸いと処分をこっちに丸投げしたんですよ。魂の処分は非常に面倒でしてね。いや、簡単にできてしまったら、それはそれで問題ですから仕方ないんですけど。
で、どんなクズであろうと、誘拐には変わりないので、賠償うんぬんでさらに面倒なことに。
本当ならトキワ様こそここに加わるべきなんですよ。あいつらと違って、善良なキッカさんを誘拐してしまったわけですから。それなのに私に協力を申し出てくださって……。もう本当に頭が上がりません」
「あ、あの、お母様、元気をだしてくださいー。ほ、ほら、そこの愚弟の民が原因ですから、気晴らしに痛めつけでもすればー」
ディルルルナ様酷いな。いや、あのライオン丸には一切同情しないけど。
「……そうですね、もういっそのこと作り直しましょうか。気絶した振りをしてやり過ごそうなどと、姑息な真似をしていますし……」
えっ? あ、シーツを捲り上げてライオン丸が飛び起きた。
しっかり鎧着てる。
「は、母上! 平に、平にご容赦を!」
「いまさら土下座などしても遅いのですよ。それに、謝罪する相手は私ではありませんよ」
うぁ、怖っ。
「キッカ殿、先ほどは本当に申し訳ない。ここが地下牢故、そなたを罪人と思ったのだ。どうか赦してくだされ」
ちょっ、神様が私に土下座って――
「あ、頭をあげてください。神様が一介の人間なんぞに土下座とかしちゃだめですよ! 神様からしてみたら、私なんか路傍の石、塵芥に過ぎないですから」
思わず私も土下座しちゃったよ。人生で初めてだよ。というか、神様に土下座させちゃだめだよ。たとえ威厳の欠片もない神様だとしたって。
「テスカカカ、なにをキッカさんに土下座をさせているのですか?」
「ちょ、母上これは我――ひぃぃっ! 申し訳ございません! ご容赦を、ご容赦を!」
あ、あれ? なんか大変なことになりそう。
「い、いや、アレカンドラ様。神様が人間に土下座とかしちゃだめですから。ほら、私なんて木っ端みたいなものでしょうし」
「いやいやいや、キッカさん、なにを云っているのですか。あなたは現状は人と変わりありませんが、いずれこちら側になる方ですよ」
アレカンドラ様が目をぱちくりとさせて、私に云った。
……は?
え? いや、どういうことなの?