58 金属鎧よりも、見た目が金属鎧
19/10/03 鎧の総重量のミスを修正。
五月二十四日。鎧が完成しましたよ。
うん。またしてもボケをかましていて、ちょっとオロオロしたけれど。
いや、骨の鎧ってさ、陶器みたいなものなんだよね。陶器だと割れやすそうだな。セラミックと言い換えよう。うん。窯で焼成するわけだから、要は瀬戸物なんだよ。
なのになんで私は金型なんて作ってたんだろう?
いや、型は必要なんだよ。量産する気なんだし。でも金型にする必要はなかったじゃないかと。鋳造するわけじゃないんだから。
あー、でも、型が頑丈じゃないとダメだから、金属でいいのか。
あ、あれ? 間違ってなかった?
とにかく、途中から型ごと窯に放り込もうとか、おかしなことをやろうとを考え出していることに気が付いたんだよ。いつの間にか、どうやって焼くかということを、すっかり見失ってたんだ。
アホか私は。
結局のところ、型に素材を流し込んだ後、インベントリに放り込んで乾燥……というか、水分を適度に抜く。
いい塩梅に固まったモノを型から外し、窯で焼成。という流れでやることに。焼いてる途中で歪まないか気が気じゃないんだけど。
あ、焼成すると、焼きしまってサイズが縮むわけだけど、もちろんそれを織り込み済みで型を作ってあるよ。だから仕上がりは、オリジナルとほぼ同じになるはず。もしかしたら、気持ち小さくなるかもしれないけど、まぁ、誤差範囲だろう。
そんなこんなで完成しましたよ。
仕上がりがオリジナルとは違うけど。オリジナルは黄色っぽいクリーム色をしているんだけど、これは、なんというかクリーム色っぽい銀色っていうの? なんともメタリックな銀色になりましたよ。
原因は多分、混ぜ込んだ魔銀の粉だと思う。
まさかこんな金属的になるとは思わなかったよ。総金属製の全身金属鎧よりも、見た目が金属鎧してるし。骨なのに。いや、試しでちっさい板は作ったから、分かってはいたんだけどさ。いざ鎧サイズのものを見るとね。
強度は金属製鎧とほぼ同じで、打撃吸収はこっちのが若干優れてはいる。どんぐりの背比べだけど。
それじゃ、この完成品一号はマネキンに着せておきましょう。で、二号をダグマル姐さんのところに持って行って、三号を組合に見本で飾ってもらおうかしら? 四号は……販売用ストック?
そうだ、とりあえず魔法を付術しておこう。……各パーツごとにも付術できそうだけど、やったらどうなるんだ?
いや、変な不具合がでたら無駄になるな。指輪だって、片手に三つまでが限界だったし。
うん。ゲームだと指輪、ひとつしか装備できなかったけど、リアルなら左右で十個までいけるじゃない。見た目がすっごい悪趣味になるけど。
で、付術済みの指輪を試しに片手に五つ嵌めてみたのさ。そうしたらなんだか能力が発揮できてなかったんだよね。原因は不明。
指輪同士の能力が変に干渉するのかな?
試したところ、最大で片手に三つ。親指、中指、小指でなら付術が機能したよ。
まぁ、親指に嵌めると、予想以上に指が動かしにくいというか、すごい気持ち悪いから、私は最大でも片手にふたつしか装備しないことにしたけど。
そうだね、付術はゲームと同じでいいか。考えてみたら、足の部分なんて、左右でワンセットとして付術するしね。左右別々の付術だと機能しないだろうし。
そんなわけで、各部一種類ずつの付術。内容はこんな感じでいいかな。
兜 :水中呼吸
鎧 :疾病耐性上昇
手甲:運搬力上昇
足甲:スタミナ回復上昇
盾 :軽量化
まず兜の水中呼吸。重い鎧を着こんだ人が泳ぐのは無理だからね。溺死対策ですよ。船から落っこちても絶望しなくなります。船に這い上がる方法は知らないけど。最悪、兜以外投棄すれば、生き残れるよ。
鎧。こっちじゃゾンビ対策が大変みたいだからね。その一助に。
手甲。足に付ける予定だったけど、こっちに回した。
足甲。継戦能力を上昇。
盾。つけるものがないので、無難なところで軽量化。
技量上昇系をあえて外したのでこんな感じ。いやだって、それで勘違いして『俺TUEEEE』とかなったら困るじゃないのさ。主に周りが。
疾病耐性は盾にもってきても良かったんだけど、両手武器の人もいるだろうからね。実際、盾を持って歩いてる傭兵さんとか兵隊さんって少ないんだよ。大抵は槍とかの、長柄武器を持ってる人が多いから。
いわゆるタンク役的な人は、領軍の騎士様たちぐらいだよ。あとは探索者の人かなぁ。ダンジョンだと狭い通路とか多そうだものね。
あ、こっちだと騎士は貴族ではないね。普通に軍人扱いだよ。上級騎士になると、騎士爵という扱いになるみたいだ。
そんなわけで、こんな感じに仕上がりましたよ。仕上げ処理は簡単にしたけれど、鍛えてはいないから、防御力自体は基本のまんまだよ。
自分で使うとしたら、すっごい微妙な性能だけど。まぁ、販売用だから、これでいいでしょ。
……自重せずに付術したら、また値段が付けられなくなるだろうし。
私のは一切自重しなかったけどさ。
ん? 私用の鎧の付術はどんな感じかって? 酷いよ?
兜 :攻撃魔術魔力軽減・幻惑魔術魔力軽減
鎧 :攻撃魔術魔力軽減&魔力回復速度上昇・攻撃魔術魔力軽減
手甲:片手武器不意打ち打撃力二倍・弓技量上昇
足甲:火炎耐性上昇・冷気耐性上昇
盾 :盾技量上昇・生命力上昇
なぜか不意打ち打撃二倍化が付術できるようになってたよ。これかなり酷い付術なのに。常盤お兄さん、自重しなくていいってことですか?
まぁ、使えるなら使うけど。
本来なら軽装鎧に付けるような付術構成なんだけどね。ここに更に指輪とペンダントが加わる。攻撃魔法補助を付けまくっているのは、魔力軽減を百パーセントにすると、手に持っている武器の付術が同系統の魔法なら、魔力を一切消費しなくなるから。
その気になれば、一撃でドラゴンを墜とせる弓とかを撃ち放題にできるよ。
相手からしてみたら、悪夢でしかないね。
さて、この鎧の兜なんだけど、後頭部の部分がみょーんと伸びているんだよ。自転車の競技用のヘルメット? の形状をより強烈にしたようなというか、うん、あれだ。宇宙船を舞台にしたSF映画に登場した、異星生物の頭部。あんな感じなんだよ。この尖がった後頭部にはどんな意味があるんでしょうね?
現在、焼き上がって完成している鎧は四つ。乾燥をインベントリを使ってやっているので、すぐに焼きに入れるから。下準備で大量に材料を作っておけば、量産は簡単にできそうだ。
窯は鍛冶場の屋外に、煉瓦で作ってもらってある。ホームセンターとかで売ってるおっきな物置サイズ。ここに鎧のパーツを並べて焼くだけ。鎧なら四つまでなんとか一気に焼ける。温度管理の関係上、半日はつきっきりになるけど。焼成温度はだいたい千度くらい。骸炭をくべるのとふいごを吹かすのが大変なくらいかな。
朝から焼いて、夕方くらいに火を落とす感じ。そして自然に冷めるのを待って、翌朝に取り出しという流れだ。
◆ ◇ ◆
昨日朝方に窯出しした鎧を鞄に詰め込んで、入らない盾を鞄にひっかけてと。よし、鎧パックがふたつできましたよ。そして私は現在、その鎧を着こんでいます。
鞄を左右の肩にそれぞれひっかけてと、いざ出発。あ、荷物には定期的に【軽量化】の魔法を掛けていきますよ。そうしないと重くて歩けなくなるからね。
鎧の総重量は四十キロくらいだけど、手甲が四十キロほど運搬量上昇しているから、結果として総重量は驚きのゼロ! この鎧なら、カタツムリなんていう蔑称は返上ですよ。
なんという身軽な重装鎧。
……あ、あれ? やりすぎたかな? 私。
まぁ、やっちゃったもんは仕方ないね。着なければ発動しないし。
でもこれ、後ろから見たらすごい絵面だろうなぁ。なにしろこの盾、見た目がカブトガニというか、三葉虫というか、そんな風に見えるからね。そんなのをふたつ、左右の肩に担いでいますからね、私。
まずはダグマルさんの所へ行きましょう。組合より遠いけど、組合だとちょっと長引くかも知れないからね。
◆ ◇ ◆
ゼッペル工房に着きました。そしていま目の前で、ダグマル姐さんが凄い困ったような顔をしています。
あれぇ?
お、おかしいな。なにか間違ったことやらかしたかな?
「ダグマル、とりあえずなんか云え。嬢ちゃん、困ってるじゃないか」
「いや、親方、まさかここまでガチな鎧を作ると思ってなかったんですよ」
「あれ? 鎧を作るって云ってませんでしたっけ?」
私は首を傾げた。
「あたしは部分鎧だと思ってたんだよ。肩当とか、胸甲のみとか」
あぁ。全身鎧一式とは思わなかったのね。
「まいったな。こうなるとこの間の樽ふたつじゃちっとも釣り合わないじゃないか」
「いえ、これ、そんなに原価は掛かってませんよ。それに、これの基本素材は骨ですから、タダみたいなもんです」
「「は?」」
ゼッペルさんとダグマル姐さんの声がハモった。
ふふふ、この鎧の材料は、この間の豚骨スープに使った怪獣猪の大腿骨をはじめとした各部の骨だ。お肉屋さんで貰って来た骨も入ってるよ。
「骨? これがか?」
「嘘だろう?」
「嘘じゃありませんよ。本来の必要な素材のいくつかが入手がまず不可能なので、そのひとつを魔銀の粉で代用したんですよ。そうしたら見た目がこんなことになりまして」
そう云ったら、今度はじぃっと、私を観察し始めた。
ちょっ、さすがに恥ずかしいんですけど。というか、現物がそこにもあるんですから、わざわざ着てる私を見ないで、そっちを見ましょうよ!
「これが骨?」
「すごいね。鋼の鎧よりも性能がよさそうだ。なにより軽い」
盾を持っての感想。って、軽いのは当たり前だ。そういう付術だもん。
「いや、盾は重さを測るのに当てになりませんよ。そういうふうに作ってあるので。ほかの部分で確認してください」
「ん? どういうことだ、嬢ちゃん」
「そういう魔法を掛けてあるので。盾は本来の重量より大分軽いんですよ。半分くらいの重さになってるんじゃないですかね」
「「魔法!?」」
おぉ、驚いてる驚いてる。
「このあいだ作業台を作る時にいったじゃない。面白いものが作れるようになるって」
「え……あ……ま、まさか、魔法の道具が造れるのか?」
「そうだよ。云わなかったっけ? あ、付術台……作業台はどうなったの?」
結構日が経ってるしね。いつもの仕事っぷりを考えると、とっくにできてそうなんだけど。錬金台は蒸留器の取り寄せがあるから時間が掛かるんだろうけど。
「あぁ、蒸留器のやつと、あのよくわからん奴以外はできたぞ。それぞれ三台だ」
「それじゃ、ひとつはここに置いといてよ。これから使うでしょ?」
「いや、なんでだよ。さすがにそれはダメだろう」
「いろいろ無茶なことしてもらったし。そのお礼ってことでいいじゃない。それに造ったのはおじさんたちだよ。私は材料の一部を渡しただけだよ」
あれ? ゼッペルさん額に手を当てて考えこんじゃったよ。
「親方、ここは甘えましょうよ。そうしないと今度は頭を抱えるようなお礼を持ってこられますよ」
ちょ、ダグマル姐さん、頭を抱えるようなお礼って、そんな大層な代物を持ってきたりしませんよ。
「ダグマル、そうはいうが、あの作業台に使った資材の価値を考えるとだな」
「それじゃ、あたしはどうしたらいいんですか」
ダグマル姐さんがいうや、ゼッペルさんは私の持ってきた鎧へと目を向け、大層にため息をついた。
「あぁ、それもそうか……」
「あ、あれ? なにか諦められてません? 私」
「キッカちゃん、あなたはもうちょっと価値を覚えて」
「えぇ、だってあれ、骨ですよ。それと研磨用の粉状になった魔銀。あと他にも混ぜたものはありますけど、タダみたいな値段のものですし。
いや、それよりも、作業台、できてるんだよね? それじゃ一台、ちょっとここにもってきてよ」
ゼッペルさんの肩ゆすって、付術台を持ってきてもらうようにせっついた。
目の前に付術台が運ばれてきましたよ。お願いした通り、あのおどろおどろしい装飾は取っ払われました。ほとんど演出? だった蝋燭も無し。
髑髏の部分は女神さまの胸像へと変更され、そこに設置されていた宝珠(魔石)は女神像が抱いている。
女神様はディルルルナ様になってるね。まぁ、ここはディルガエアだからね。
「それじゃ、試しに魔法の武器でも作ってみましょうか。廃棄するしかないような武器ってありません?」
「包丁でもいいかい? 錆びだらけで酷いのがあるんだよ」
ダグマル姐さんがそういって、助手の人にそれを持ってこさせた。って、これ、どう使ったというか、どれだけ放置してたのさ。錆びの塊。刃はボロボロ。腐れて穴が開いてるよ。
「……どうしたんですかこれ」
「知らん。持ち込まれたんだよ。修復は無理って突っぱねたけれどね。まぁ、向こうも直せるとは思っていなかったようで、置いていったけどね。まったく、どっから拾って来たんだか」
「たまに嫌がらせじみたことをする奴がいるんだよ。どこまでできるか確かめようってことだろ」
あー。そういうヤな人ですか。他所の同業の人かな? サンレアンの職人なら、そんなしょうもないことしないだろうし。そんなことしたら、職人組合から注意がくるしね。
「まぁ、これなら壊しても心が痛みませんね。それじゃ、まず魔法を付術しちゃいますね」
そういって私は付術台に錆びだらけの包丁を載せると、ウエストポーチから出す振りをして、インベントリからビー玉サイズの魔石を取り出す。
魔石を包丁のすぐ脇に置き、さらにその両隣に手を置いた。
さぁ、付術だ。付ける魔法は火炎。魔剣と云って真っ先に浮かぶのは、炎の剣か、さもなくばSF映画にでてくるレーザーソードまがいの光の剣だろう。
まぁ、炎の魔剣といっても、別に刀身から火を噴くわけじゃないけどね。斬り付けた相手が炎上するだけで。
ということで、ばぢん!
分解すること前提なので、極小魔石での付術だ。
「これでよし、と。炎の錆び錆び包丁ができあがりましたよ」
「「えぇ……」」
ふたりとも、顔を見合わせた後、示し合わせたように声をあげないでくださいよ。
「それじゃダグマル姐さん、ちょっとこっちに来て、作業台に両手をついてください」
「あ、あぁ。これでいいかい?」
「はい、問題ないです。それじゃ、包丁に集中して、分解するよう念じてみてください」
「分解? まぁ、やってみるよ」
そう云い、ダグマル姐さんが包丁を睨みつけた。すると包丁は砂のように崩れた後、光となってダグマル姐さんに吸い込まれた。
「き、ききキッカちゃん! いまの何!?」
「あぁ、魔法の武具を作るための魔法を、いまので覚えたんですよ。私がいま作ったのは、云いましたけど炎の包丁です。ですから、ダグマル姐さんはいま、炎の武器を作る魔法を身に付けたわけです。試しになにか適当な武器に、炎の魔法を付術してみたらどうです? あ、魔石はこれを使ってくださいな」
私はそう云って、付術台の上にピンポン玉サイズの魔石を置いた。いわゆる小魔石だ。魔石なんて役に立たない我楽多扱いの物だからね。さすがに置いてないだろうし。
「いいのかい?」
「現状では、価値はただの石っころですよ」
私はあっさりと答えた。自分で作ったやつだしね、その魔石。
「ほれ、これ使え」
ゼッペルさんがベルトのホルダーに沢山差してある道具の中から、小刀を取り出し、差し出した。
「親方、これ」
「おう、こないだ新調したやつだ。買ったはいいが、どうにも合わなくてな。失敗しても問題ないから、これでやってみろ」
受け取り、ダグマル姐さんは小刀を魔石の脇に置き、両手をついた。
「目を瞑ってやったほうがやりやすいと思いますよ。頭に、威力と回数のバランスをどう取るか、浮かんでませんか?」
「あぁ、あるね。これは、この回数だけ使えるってことかい?」
「えぇ、そうです。回数が多ければ威力は弱く、回数が少なければ威力は高いです。使い切ったら、魔石で魔力を充填すればいいだけですよ。
炎の武器は、たまに相手を炎上させますから。そうしたら当たり前ですけど、火が消えるまで継続的にダメージを与えることになりますよ」
私が説明すると「なら回数のほうがいいね」と、ダグマル姐さんは答え、なんとも思い切り良く、ばぢん! と、炎の小刀を作り出した。
「見た目には普通の小刀と殆ど変わりませんけど、よく見れば赤い光沢が走ってるのが分かると思いますよ。鑑定盤でもあれば、魔法の武器になったのが一目瞭然なんでしょうけど」
「おう、そうだな。持ってくる」
え、あるの?
「あぁ、たまに素材持ち込みで依頼に来る客がいるんだけどね。その客がつかまされたのか、それともこっちを引っ掛けようとしたのかは知らないけど、素材に問題があるときがあるんだよ」
「あー、混ぜ物のインゴットとか持ってくるのがいるんですね?」
「そういうこと。鑑定盤を使えば、文句は云われないからね」
ペテン師が多いのかなぁ。市場にも結構いるしなぁ。
「よーし、持ってきたぞ。鑑定してみよう」
ゼッペルさんが近くのテーブルに水晶盤を置くと、ダグマル姐さんがその上に小刀を置いた。
名称:炎の小刀
分類:魔法の刀剣
攻撃属性:斬撃・炎
備考:
ごく一般的な小刀。刀身にわずかな歪みと捻じれがあるため、微妙に扱いにくい二級品。だが施された炎の魔法により、斬り付けた相手に炎による追加ダメージを与え、また稀に相手を炎上させることがある。
「おぉ、こんな風に表示されるんだね。いつも反対側にいたから、見れなかったんだよ」
あれ? ふたりとも呆然とした顔をしてるね。どうしたんだろ?
「どうしました?」
「い、いや、本当に魔剣になってると思ってね」
「嬢ちゃん、さっきの話から察するに、回数を使い切ったら、普通の小刀になるんだろう?」
ゼッペルさんが訊ねてきた。
そういやその説明してなかったね。
「魔力が切れたら、魔石で充填できますよ。魔石を一緒に握り込んで、気合でも入れれば充填されますから」
「これ、どんな名剣でも魔剣にできるってことだよね?」
「腐食魔剣がお役御免になりそうだな」
「剣の形をした鈍器っていわれてますしね」
なんだか思うところがあるみたいだね。
「おじさん、おじさん。こういうことで、近く魔石は価値がでて相応の値段で取引されるようになるよ。組合がそれを主導するから、もし手に入れることのできそうな伝手があるなら、今のうちに沢山集めておいた方がいいと思うよ。
今後、魔法の道具を作るのにも、充填するのにも必須になるし」
「親方、是非とも集めましょう」
「いやお前、刀剣鍛冶やるのか? 組合に登録するだけだから、簡単だけどよ」
「キッカちゃん、武器以外にも魔法は掛けられるんでしょう?」
「防具と装身具にできますけど。今度リスト作って持ってきますから、処分品をそれに合わせて集めてくださいよ。私がそれに付術しますから。それを分解して魔法を覚えてください」
おぉう、目に見えてダグマル姐さんの目の色が変わったよ。
「親方、ひとまず刀剣鍛冶登録は置いといてください。しばらく彫金やります」
「まぁ、いいけどよ。家具の装飾とかに魔法は掛けるなよ」
「……できるの?」
「さぁ? やったことありませんし。多分、無理だと思いますけど」
付術用の魔法はまず無理だと思うけど、普通の魔法の付術はできそう。
って、なんかダグマル姐さん、ニヤニヤしながら考え込みだしたんだけど。
「嬢ちゃん、また厄介なものを」
「え、ダメだった?」
「面白過ぎるだろ、これ。ダグマルの奴、調子に乗っていろいろ試すぞ」
「結果教えてね」
「嬢ちゃんも同類なのかよ」
「できることと、できないことは知っておかないとダメじゃん」
そう答えたら、それもそうかとゼッペルさんは笑ってた。
ほとんど苦笑いじみてたけど。
そんなこんなで、ゼッペルさんの所での用事は終了。
さぁ、今度は組合へ行かないと。
こうして私は、再びカブトガニ盾を引っ掛けた鞄を担ぐと、組合へと向かったのです。
誤字報告ありがとうございます。