55 骨の鎧を作ります
ありがたいことに、私は七神全てから加護を頂いている。
まぁ、そのことで、妙なことになってしまっているけれど、そのことを差し引いても、本当に助かっている。
アレカンドラ様から頂いた【運気】。これのおかげで、多分、私はいまも生きていられるんだと思う。なかったらあの時のゾンビ戦で死んでたんじゃないかな?
いや、もっと前の、森に沿って歩いている時に死んでたかな。
自分の運の悪さは自覚してたからねぇ。
ディルルルナ様から頂いた【抗毒】。毒による即死回避の加護。現状ではお世話になってはいない。いや、いたら大変だけど。
これは近く、凄くお世話になると思う。錬金素材の効能を調べるのに、食べられそうなものを見境なく齧る予定だからね。
えぇ、あからさまに毒物だろう、ってものも齧る予定だから。
もともとそのつもりでお願いした加護だしね。
ノルニバーラ様から頂いた【看破】。嘘を見抜く加護。これはなんというか、役立ってるんだよなぁ。あんまり役立っちゃダメだろって思うんだけど。
いや、結構いるんだよ。商人面した詐欺師って。行商人に多いかなぁ。家の目の前は広場になってるから、早朝は市みたいに露店が結構出るんだよ。ときどき見て回るんだけど、かなり嘘が飛び交ってたりするんだ。
しかも値付けが凄い微妙なところだから、騙されたことが分っても、『まぁ、仕方ないか』と諦める値段だったりするんだよ。
追いかけて取り返す労力に見合わない、とね。
この加護のおかげで、私は詐欺には引っ掛からずに済んでいますよ。
多分これは、私より、私を騙そうとする人にとって幸運だろう。
いままで仕返しとか体が不自由でできなかった分、きっとノリノリでやるぞ。
アンララー様から頂いた加護の【外見不老】。これ地味に凄いと分かった。体の成長が止まる。恐らくは、現状が私の肉体の最盛期(初期)ぐらいだと思うのよ。
この状態で身体的に老化はしない。寿命はふつうに消費しているけれどね。つまりだ。体のサイズが変わらないってことなんだよ! いや、太ったり痩せたりはあるけど、そこはコントロールできるからね。でもね、胸の成長はどうにもならないでしょ。
これ以上は大きくならない。これは私にとっては朗報ですよ。下着事情も安心です。
背丈? んなもんとっくに諦めとるわい!
あ、下着には適当に付術を施すよ。まず壊れなくなるから。擦り切れもなし。
いや、さすがに下着がダメになったからって、常盤お兄さんにまたお願いするのもね。確かに、貰った下着見て『これは常盤お兄さんの趣味なんだろうか?』とか、暫く悶々としてたけどさ。
次。
ナナウナルル様から頂いた【天の目】の加護。うん。迷子知らず。上空から地上を見るように周囲、広範囲を見渡せる能力。
戦略的には非常に有用な加護ですよ。まぁ、私にはそんなに意味ないけれど。
いずれ森の深部に探検に行く予定だから、その時にはすごく活躍するに違いない。
テスカカカ様から頂いた【察知】。悪意、敵意を知ることができる。これも凄い助かってる。悪意と敵意の他にも、なんていうの? 欲望的なの。いわゆる性的な視線なんてものも分かるんだよ。いや、以前もその辺は分かってたけどさ、それ以上に露骨に分かるようになってね。
下心ありありの連中を避けるのに助かってるよ。
うん。声を掛けられる前に逃げるのさ。いちいち相手にしてらんないし、なにより私の性格だとトラブルにしかならん。
下手に魔法なんて力を持っちゃったからね、『こうなったら、じつりょくこうしだ。わがちからをおもいしるがいー』みたいなことをやりそうなんだよ。
ん? なんで幼児言葉っぽいイントネーションなのかって? ノリだ!
最後に、ナルキジャ様から頂いた【植物図鑑】。私のインベントリのせいで、おかしな形に変質して【菊花の奥義書】になってしまった加護。
そういえば、この加護に関してはナルキジャ様はかなり渋っていたんだよね。
最初は【百科事典】だっけ? だったのを、便利過ぎるという理由から、アレカンドラ様の言葉を受けて【植物図鑑】へと情報を削ぎ落す感じで頂いたわけだけど。
うん。このほど、なんでナルキジャ様が渋っていたのか分かりましたよ。
これ、とんでもないチートアイテムだよ。さすが【神器】というべきか。
うん、単なる図鑑じゃなかったんだよ。奥義書はよく読んでいたんだけど、植物図鑑部分は見ていなかったんだよね。で、このほど錬金を始めたことで、植物図鑑部分も目を通すことにしたんだけど――
【サンプル】
こんなのがドクダミの頁の一番下に記されてた。
あ、奥義書、本の体裁をしてるけれど、これ、3Dホログラムっていうの? そんな感じで開いた本の上に内容が浮かび上がるんだよ。
でもって、操作はタッチパネル形式な感じ。
そして一番下に【サンプル】。
そこを突いたら、画面からドクダミが一株でてきたよ。
しかも種の形での取り寄せも可能だったよ。
なにより、私の知識というか、記憶にあるからか、地球産の植物も取り寄せ可能だったよ。
なるほど、ナルキジャ様が渋るわけだよ。これが【百科事典】のままだったら、やらかしてたぞ、私、絶対。
控えめってお願いしたのが功を奏したというべきか。いや、これでも大概だよ。アレカンドラ様はどれだけ椀飯振舞する気だったんだろう?
あ、この取り寄せは、もちろん奥義書の【植物図鑑】の部分のみの機能だよ。
そんなわけで、私はひとつ思うことがあって、あるものを早速取り寄せてプランタにその種を植えた。このあたりの気候じゃまず育たないんだけど、あの非常識な温室ならきっと何とかしてくれる。
そんなわけで温室にプランタを、鉢をひとつ追加しましたよ。
ついでに庭にじゃがいもを植えた。こっちの主食のお芋は、なんというか里芋とじゃがいもを合体させたような感じだったからね。ねっとりとした食感のじゃがいもって感じ。
いや、すりおろして塩と小麦粉と混ぜて練って焼くだけで、やたらと美味しいからいいんだけどさ。でも私はじゃがバターが食べたかったんだよ。もしくはじゃがベー。
あともちろん米も取り寄せたよ。水田の管理は無理だから、陸稲を選んだよ。これもプランタに植えて温室へ。
おぉう、一気に食生活が向上しそうですよ。
でもこれは外には出さないようにしておこう。明らかに異質だからね。品種改良の進んだものだし。家で食べる分だけ育てますよ。
あ、これで素材の確保はできるから、中濃ソースは作れる。おぉ、とんかつがいけるぞ! スパイスの類も植えとこう。あぁ、このままだと庭が農園になりそうだよ。
◆ ◇ ◆
新しいプランタを温室に置いて、ついでに先日の収穫量から、地房豆をひとつ減らして代わりにニワタケを追加。これで大体収穫量が薬を生産する上で一定になる。地房豆が思ったより多く取れて余り気味になったんだよ。で、ニワタケの収穫が少ない。
収穫のスパンは大体五日。一週間みれば確実に収穫可能。
思ったんだけどこれ、ダンジョンとかのリスポンと同じことが起こっているんじゃないだろうか?
肥料代わりに大量の魔素、魔石の粉末とか撒いてるし。
……まぁ、収穫できるならいいや。塩だってダンジョン産だし。
魔素が元になって造られているモノを食したからといって、健康に問題があるわけじゃない。そもそも、世界に溢れてるから魔法なんてものも使える訳だしね。
そんなわけで、錬金素材と食材関連が多分安定。あ、温室の昆虫だけれど、よく考えたらいないと受粉だのなんだのができないから、必須だったんだよね。
あれ? でも育ててるのは大半が菌類だぞ。地房豆も花が咲いてるところを見たことない謎植物だし。地面に浮き出た血管にしか見えないし。ベリー系くらいだね、虫さんに働いてもらうのは。
……まぁ、いいや。ジオトープみたいなものでしょう。
さて、錬金は次の収穫までお預けです。そして今後の事を考えると、そろそろ魔法だけではなく、近接戦闘関連の技能を上げること考えなくてはなりません。
普通の服で戦闘は危ないからね。またうっかり【黒檀鋼の皮膚】を掛け忘れたりしたら、それこそ致命傷を受けそうだし。
いまだに蛙さんの一撃が足の骨折だけで済んだのは、単に運が良かっただけだと思ってるからね。うん。アレカンドラ様ありがとうございます。
で、まずは防御面から充実させようと考えている。だからこの間から盾の扱いになれようと頑張っているわけだけど。
そして次の段階は鎧だ。鎧の扱い、というか着こなしの習熟?
いや、鎧の着こなしってなんだよ、って思われるかもしれないけど、そうとしか云えないしね。軽装鎧、重装鎧、それぞれに技能があって、もちろん、その技量が上がればパークだって解放される。
……どう考えてもおかしなものもあるけど。
重量がゼロになる(かのように感じる)って、なんなの? って思うし。荷物だと重い重装鎧も、着てしまえば重量がゼロに! っていうおかしい技能。
それに加え、高いところから落ちた際のダメージが半減とか。物理法則さんを不条理な力で殴りつけてやしませんかね?
まぁ、そっちの修行を開始したいのですよ。でもその修行方法っていうのが酷くてね。敵に殴られて扱いを覚えろっていうものだから、性能の悪い鎧だと酷いことになるのは目に見えてるんだよ。
そんなわけで、信頼に足る頑丈な鎧を作るところからはじめるよ。うん、インベントリに魔法の掛かっていない素の状態のモノは一通り入っているけれど、それを使う気はないよ。
とりあえずドワーフ鎧を作って、適当に付術して、熊にでも殴られてこようかと。
なので、まずは鍛冶をやります。
ここまで説明するのにどれだけ回りくどいのよ、私。
そして鍛冶作業をあっさり断念する私。ダメだあれ。熱すぎるよ。それに加えて暑すぎるよ。熱中症になって倒れるって。
対策には耐熱関連の付術を掛けた装備を着ればいいけれど、そっちは後回しだ。
予定を変更して骨の鎧を作りますよ。骨の粉と特殊な樹脂? を混ぜ合わせたものを焼成して作る鎧。正確にはもっといろいろと混ぜるけど。
なお、特殊な樹脂はスライムの体液? で代用可能だった。
でも作業に入る前にちょっと実験したんだ。準備に一日かかったけれど。
こっちの素材で作りたいからね。
で、レシピ通りのものと、勝手に素材の一部を変更したものとを使って、試験的に名刺大の板を作ってみた。
ゲームでのレシピだと【魔氷】とゲーム特有の魔物の素材を使うんだよ。で、これはインベントリに入っているモノだけで、入手は絶対不可能な代物だからあまり消費したくないんだ。
それに、こっちの素材だけで作れたなら、好評なら製法を公開してもいいしね。
なので、なにか別のモノで代用できないかと思って、試しに【魔銀】を【魔氷】の代用品として使用。
魔物素材に関しては、インベントリ鑑定でほぼ同じと判明したスライムの体液で代用。
結果、ほぼ同じものができた。若干重量が増したけど、許容範囲だ。
ちなみに、元の材料はこんな感じ。
骨粉。魔氷の粉。陸水母の体液。きれいな水。
変更した材料はこれ。
骨粉。魔銀の粉。スライムの体液。聖水。
聖水を使っているのは、水を運ぶのが面倒だからだ。我ながら酷い理由である。
これをよく攪拌して一晩置いたものを型に入れて焼成する。鎧の各パーツの型を作るのは面倒だけれど、一度作ってしまえば、使い回せるからね。
まぁ、現物があるから、原型を作らなくて済むだけ楽なのかもしれないけれど。
そういや、石膏ってあるのかな? あれば型を作るのが楽になりそうなんだけど。
あ、それと、木材も分けてもらおう。また仮面をひとつ作るのだ。これも型を取って、骨製にしてみよう。ついでに、今付けてる遮光器仮面も型を取っておこう。
五月十七日。そんなわけでゼッペルさんのところへ行って、ウサギ小屋の発注をするとともに材木を分けてもらいましょう。
で、依頼に行っただけなのに、なぜか歓声じみた声が上がったのが謎だ。
え? どういうことなの? 豚骨ラーメンのせい?
少々戸惑いながらも、ゼッペルさんを見つけてお仕事の依頼。
ついでに石膏のことを聞いたら、ふつうにあったよ。なんか石を見せてもらえた。バサニ石っていうんだって。で、それを粉末にしたものを譲ってもらえたよ。
材木と含めて、お代を払おうとしたら受け取ってもらえなかったよ。これまでの依頼で過分に貰い過ぎだって。
……えーと、確かこれまでで支払ったお金って、白金貨で四枚くらいだったかな? 家一軒と家具一式だから、妥当な値段じゃないかと思うんだけど、まだ微妙にこっちの物価を理解していないのかな?
気が引けるなら、また差し入れしてくれって云われたよ。
いいでしょう。ならばまた豚骨ラーメンを持っていきましょう。
そうして帰宅。後程、ゼッペルさんたちが作業に来る予定だ。
そしてここ二日間、放置しちゃってた兎さん。ごめんよ。ちゃんと君のお家を作ってもらうからね。あぁ、そうだ、この子の名前も決めないと。
只今、ゼッペルさんたちはウサギ小屋を増設中。場所はゲームと一緒。玄関部分の左側。ゲームだと囲いだけだったけど、そこに雨よけの屋根と簡素な塀を建ててもらっています。
材木と石膏は鍛冶場に運んでもらって、私の目の前に置いてある。
あ、粘土を忘れた。うん、確保は明日にしよう。湖までいけばあるでしょ。
ということで、本日は仮面の原型を作るとしよう。作る仮面は、予てから作ってみたかった『ペスト医師の仮面』。中の構造がよくわかんないから、外面だけだけどね。確か、くちばし部分にハーブを詰め込めるようになってるってきいたことがあるけれど。
ノコギリで材木を適度なサイズに輪切りにした上、大雑把な形に余分な部分を斬り落としていく。
そうして出来上がったいびつな三角錐の木材。こいつを削っていきますよ。
そして私はエルフの短剣を鑿代わりに取り出し、木を削り始めたのです。
誤字報告ありがとうございます。