表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/363

48 視線で石にするんでしたっけ?

19/09/02 名前のミスを修正。マティアス→マティウス

19/09/05 白金貨←→金貨 のレートのミスを修正。


 ころんからんころん。


 あぁ、解った!

 この間からずーっと気になっていたことが、突然氷解した。

 というか、思い出した。


 組合事務所に入るとまず聞こえるのがこの鳴子の音。


 このカラコロという音をどこかで聞いたような気がして、私はずっと気になっていたんだよ。

 これあれだ。骨チャイム。ゲーム内で鳴子として使われていた、恐らくは人骨を連ねて“すだれ”みたいにぶら下げた代物。あれだ!


 ゲームの方が音は軽かったけれど。地味にうざいんだよね。単純なだけに警報装置としては優秀だし。


 うん。喉に魚の骨が引っ掛かっていたような感覚がなくなってスッキリですよ。それじゃ、この平たい頭の蜥蜴を引き取って……あれ? 受付のお兄さんが顔を引き攣らせて固まってますね。


 ……嫌な予感しかしないんですけど?


「あ、あのー、戻りましたけど、その、どうしました?」


 なんとなく恐る恐る訊ねてみる。


「あ、あぁ、キッカさん、お帰りなさい。その、ちょっと待っててください!」


 ガタガタを音を立てて立ち上がると、お兄さんは奥へと走って行った。


 ……行っちゃった。まぁ、いまは他に誰もいないからいいけど。


 いや、ダメでしょ。


 というかこの流れ、前もあったな。となるとギルマス……じゃなくて、ここ出張所だから、所長さんか。うん、きっと所長さんを呼びに行ったんだろう。


 ……えぇ、今度は私、なにやらかしたの?


「マティウスの奴、どうしたんだ?」


 フレディさんが首を傾げている。

 とりあえず、受付のお兄さんの名前がマティウスというのは分かった。


「どう考えても俺たちが担いでるこれが原因だろ。とりあえず降ろそう。さすがに重い」


 シメオンさんが顔を顰めた。


 あぁ、やっぱり辛かったんだ。


 床に置いちゃっていいよね。さすがに四メートル近いと、載せることのできるテーブルなんてないし。


 とはいえ、床に置くにしても、真ん中にでんと置いたのでは邪魔でしかたがない。


「ど、どこに置きましょうかね?」

「解体場に持ってっちまおう。査定もそっちでやってもらえばいいだろ」


 そう云ってシメオンさんがくるりと体の向きを反転させる。同じようにフレディさんも反転。これで先頭が、蜥蜴の頭から尻尾に変更となった。


 私と赤毛のお兄さんで、またも両開きの扉を開きっぱなしに固定して、大蜥蜴を担いだふたりが扉をくぐり抜けるのを待つ。


 うん。たまたま近くを歩いていた人がギョっとしてたけど。


 もう死んでるので無害ですよ。


 十数メートル程移動し、倉庫のように見える解体場の大きな両開きの引き戸を開ける。


「こんにちはー。獲物持ってきたんですけど、こっちでいいですかー? まだ査定は済んでいないんですけどー」


 一見して人が見当たらないので、とりあえず大きな声で声掛けしてみる。


 すると正面の台に置かれた熊の影から、血塗れのエプロン姿のおじさんが現れた。


「おぉ、また大物が来たな。あぁ、そっちの台の上に置いてくれ」

「大物って、十メートル以上の魔物とかも解体するんだろう?」

「そういうのはこっちから現場に解体しに行くんだよ」


 解体師、とでもいえばいいの? 小柄ないかついおじさんが、降ろされた大蜥蜴を検分していた。ペペさんと云うらしい。

 このおじさんもドワーフかな? 短く刈り込んだ茶髪に、これまた綺麗に刈り込んだ髭面のおじさん。なんだろう、プロレスラーに居そうな雰囲気だよ。背丈はちっさいけど。


 大きな石を磨き上げて作られた台の上に、でんと大蜥蜴が置かれる。


「ほほう、こいつは凄いな。脳天を一撃か。また綺麗に一発打ち込んだな。誰がやったんだ?」


 一斉に三人が私を見つめた。


 って、私じゃないよ!


 ペペさんが目をそばめる。


 そりゃそうだ。見た目通り非力な小娘に、そんな芸当できる訳がありませんよ。


「……さっきから気になってたんだが、嬢ちゃんが背中に背負ってるその兎、もしかして殺人兎か?」

「はい、そうですよ。私が背負ってるのは牡の個体ですね。その蜥蜴を仕留めたのはこの子ですよ」


 私が答えると、おじさんは目を剥いて兎と蜥蜴を交互にみつめた。


「話には聞いていたが、また恐ろしい兎だな。頭蓋を陥没させる一撃とか、どんだけの力で殴ったんだよ。

 つーか、そいつは一匹でこの蜥蜴を食うつもりだったのか?」

「近くに雌もいましたから、番なんじゃないですかね。ちなみにその雌はそっちの兎です」


 赤毛のお兄さんを指差す。雌個体はお兄さんが背負っている。

 ……うん。さすがにそろそろ名前を聞いた方がいいかもしれない。


「なるほど。普通の兎と思って攻撃したら、そりゃ返討ちに遭うわな。こんなもん重装の騎士でもなきゃ耐えられんだろ。……いや、打撃だから、下手に耐えられるぶん、地獄かもしれんな」


 あぁ、一撃で死ねず、高機動のうえ高い運動性の兎さんが死角から死角へ移動しつつ、本来なら必殺の一撃を連続で繰り出してきますからね。死ぬまで殴られ蹴られ続けるのか。まさに地獄。


 ふふふ。私もやられたよ。


 奇跡的に最初の一撃を躱せてなかったら、もう死んでたよ。慌てて【黒檀鋼の皮膚】を張って、言音魔法の【自然の安寧】を使って無理矢理戦闘解除したからね。


 【自然の安寧】を使うまで、ボコボコにされましたよ。


 ゲームだと一度も使ったことのない言音魔法だよ。獣を落ち着かせるなんてやらなかったからね。基本、喧嘩売られたら殲滅してたから。


 そして“戦意が無く無抵抗な兎”を容赦なく殺したのが私ですよ。


 ……リアルだと私の行動パターンは、ただの危険人物だな。


「しかし、まさかこうして実物を目にするとは思ってもいなかったな」

「ん? そんなに珍しいのか? この蜥蜴。まぁ、頭が蜥蜴らしくないっちゃ、らしくないが」

「あぁ、知らんのか。まぁ、無理もないわな。こいつは――」


 ペペさんがフレディさんに説明しようとした時、バタンと大きな音を立てて奥の扉が開いた。なんか『痛い!』って悲鳴が聞こえた気がするんだけど。


「ペペ、まだ直してないの? ここの扉開けるのに、いつも苦労するんだけど」

「わざとそうしてあるんだよ」

「なんでよ!」

「無駄な催促ばっかりしてくるからだよ! いくら催促しようが、解体に掛かる時間は変わらん。手を留める分、却って遅くなるわ!

 いい加減いい歳なんだから、少しは落ち着けよ」

「歳はほっぽっといてよ。それに私はまだ小娘もいいところの歳よ!」

「人間ならババアだ」

「だからほっぽっといてよ!」


 銀髪のスラッとした美人さんと、いかつい髭を短く刈り込んだおじさんの掛け合いが始まった。


「漫才かな?」

「漫才ってなんだ?」


 フレディさんに訊かれた。


 あぁ、こっちに漫才ってないのか。そういや、外国だと漫談が主流みたいなことを聞いたことがあるな。こっちでもそうなのかしら?


「漫談ってわかります?」

「ん? あぁ、たまに大きな酒場とかで、催しのひとつでやってるな。いわゆる馬鹿話だろ?」


 おぉ、よかった。漫談は通じるのね。それなら説明しやすいや。


「漫才はそれのふたり版ですよ」


 そんな説明をしていたら、ペペさんとお姉さんが私をじっと見つめていた。


「いや、私たちは芸人じゃないから」


 お姉さんが真面目な顔で云った。




「やれやれ、ここ数日で、生きているうちにお目に掛かれるかどうかも分からないものが、こうも運び込まれるとはね」


 大蜥蜴をひとしきり検分するなり、お姉さん、組合【アリリオ】出張所所長であるネリッサさんが呟いた。私の見る三人目のエルフさんだ。


 先に見たふたりは、先日の会議で会った風神教のふたりね。


「ペペ、あんた良くふつうに対処できたわね。知ってたら普通はパニックを起こすレベルでしょ、これは」

「そりゃ生きてたらの話だ。頭がこの有様なら、こいつはただの肉塊だろ」


 ふたりの言葉に、私の口元が引き攣れるのが分かった。


 えぇ、またなの?


 普通にいる蜥蜴じゃないの? まさかこれもUMAとかじゃないよね?

 フレディさんたちだって、ただのでかい蜥蜴って認識してるみたいだし、少なくとも殺人兎みたいなUMAではないと思う。ないよね? ないと云って!


 ユニーク個体とか、そんな頻繁に遭遇するモノじゃないでしょ。


「その、そんなに珍しい蜥蜴なんですか?」

「あぁ、こいつは災害よ」


 は?


 ネリッサさんの言葉に、思わず私はぽかんとなった。


「災害ってまた物騒だな」

「でかい蜥蜴? にしか見えないぞ。まぁ、ここまででかいと、普通に猛獣だろうが。南方に生息している鰐なんて、これくらいあるんだろう?」


 鰐か。たしかにそうだね。同じくらいかもしれない。こいつは尻尾の先まで入れると三メートル越え、四メートル近くありそうだよね。尻尾をひきずらないように、紐で簡単に括って運んできたし。


 ……こいつ、結構な重量あるよね。よくシメオンさんとフレディさん担いでこれたな。フレディさんはともかく、シメオンさん細いのに。


「まさかと思うが、コイツ、バジリスクか?」


 シメオンさんがボソリと云った。途端、ふたりの顔がさっきの受付のお兄さんのように固まった。


「ご明察。こいつはバジリスクよ。私も実物を見るのは初めてね」

「えーと、視線で石にするんでしたっけ?」


 確かそうだよね?


「えぇ、そう云われてるけれど、実際には毒よ。息に混ぜて無色無臭の特殊な毒を撒くのよ。その毒を吸ったものはまるで石になったみたいに体を硬直させて、そのまま死に至る。異常に強力な麻痺毒、ってところね」


 ネリッサさんが説明すると、【狼の盾】の面々が私を凝視してきた。


「……キッカちゃん。まさか?」

「へ? まさかって、なんです?」

「いや、この兎」

「いやいやいや。そんな変な毒なんて使ってませんよ。というか、バジリスクの毒だったら兎死んじゃうじゃないですか。私をなんだと思ってるんですか?」

「ん? どういうこと? まさかその兎、生きてるの?」


 ネリッサさんが眉をひそめつつ私を見つめた。


「えぇ、今回は生け捕りが目的でしたから。首尾よく捕獲出来て満足ですよ」

「それで、それはどうするのかしら?」

「実際のところ、あまり考えてなかったんですよね。前回納入して、過分にお金を頂いた気がしたので、突発的に『それなら生け捕りにして来よう』とか思っただけですから。なので、侯爵様に献上しようかと」


 おぉぅ? なんだかネリッサさん、すっごい微妙な顔になったよ?


「ま、まぁ、バレリオなら面白がるだろうけど。大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。どうにかする方法はありますので」


 最悪、【支配】でどうにかする。その上で【鎮静】の魔法を付術した首輪でも着ければ安全だろう。【鎮静】は周囲の者を味方と認識させる魔法だからね。問題は、それをすると番犬代わりにはならないということだ。


 この間の角付き格闘兎みたいにできればいいんだけど。


 仲間になりたそうに、こっちを見ている。


 って、なったからね、本当に。いや、飼う気はないから置いてきたけれど。

 こいつらは力の差を見せつけると、相手に恭順するっぽいんだよね。


 だからまた盾の訓練がてら、ちょっとやってみようと思ってる。


「さて、キッカちゃん。こいつは災害級で、基本的に軍が相手にするレベルのものよ。だから、いくらか特殊な形でこれを引き取らせていただくわ」

「えーと、どうなるのでしょう?」

「まず、報酬として白金貨一枚。モノを考えると異常に安いけれど、これは手付みたいなものと思って頂戴」


 んん? どういうことだろ?


「その上で、こいつは王都に持って行ってオークションに掛けるわ」


 おぉ、オークション。というか、やっぱり珍しい魔物は高値で買う物好きがいるんだね。


「出品やらなんやらの手続きは組合で行うから、そこは任せて。ただ、あとで契約書にサインをお願いね。落札額の一割を組合に入れてもらうけれど、構わないかしら?」

「一割? 安すぎません?」


 運搬費用とか、いろいろ経費を考えたらもっとかかる気がするんだけど。


「なんだか気が引けるので、二割持って行ってくださいよ」

「キッカちゃん、ほんと欲がないね」

「いろいろと心配になるんだが」


 あれ? なんで哀れむような目で見られてるんだ?


「あ、そうだ。運搬するにも日数かかりますよね。大丈夫なんですか? 腐っちゃいませんか?」

「ペペ?」

「最悪、防腐液に漬け込むしかないな。ただそうなると、使い道が大分限られるが」


 防腐液ってなんだろう?


「それは問題ね。剥製ぐらいにしか使えないじゃないの」

「そうなんだよなぁ」

「あの、氷漬けにするくらいならできますけど」


 とりあえず提案してみた。どうせなら良好な状態で出品したいしね。


「氷漬けって、どうやるの?」

「私、魔法使いですから。でもそうなるととんでもなく重くなるかも知れませんけど」


 そういったら、今度はもの凄い探るような目で見られたよ。


 あれ? 『なに云ってんだこいつ』って目で見られると思ったのに。


「そういやそうだったな」

「でも灯りをつける魔法しか見てないからな」


 シメオンさんと赤髪のお兄さん。

 うーん、そこまで気にすることでもないのかな? 魔法が浸透するまでは、基本的に人前で使わないようにしてるんだけど。迫害とか怖いから。


「よし、それなら石材運搬用の馬車を持って来よう。その上に載せてからやってくれ。ネリッサ、手続きを急いでやってくれ。それと王都に連絡だ。直近のオークションに捩じ込んじまえ」

「腐らせるよりマシか。キッカちゃん、すまないがよろしくお願いね。私は契約書の用意をしてくるから」


 そういってネリッサさんは、また扉のところでひとしきりガタガタした後、事務所へ戻っていった。


 外を回ったほうが早いんじゃないかしら。


「なんだか大変なことになったな」

「ただの拾い物なんですけどねぇ」

「まぁ、金はあって困るようなもんじゃないだろ」

「あり過ぎると困るものですよ。招かれざる客というのがやって来ますから」


 知らない親戚とかは一切存在しないけど、賊の類はいるだろうからね。

 銀行的なところはないのかな? お金を預かってくれるようなところ。


 いや、ここの社会形態で、どこまで信用していいのかさっぱりだからな。


 まぁ、その内なにか考えよう。


 かくして、私たちは忙しく動き回ることになったのです。


 まぁ、運んで、水に沈めて凍らせて、それから契約書を作っただけだけど。


 さて、帰ったら侯爵様のところに兎を押し付けにいかないと。

 一週間厄介になったからね。多分番犬用だと思うんだけれど、いまはなにもいない、大きな檻があるのは確認済みですよ。


 あぁ、そうそう。駅馬車で帰ると云ったら、ネリッサさんが馬車を用意してくれたよ。多分、兎がいたからだろうと思う。


 今、目の前の絵面が凄いもの。


 シメオンさん、兎、フレディさん、兎、赤髪お兄さん。


 ……なんだこれ。


 こうして私たちはサンレアンへと帰路についたのです。


 ◆ ◇ ◆


 翌日。

 組合にて依頼完遂の手続きを行う。

 あ、ちゃんと今回の依頼は、組合を通して行っている。組合員としての実績になるからね。


 実績は等級の査定に一番関わるものだ。これにより等級は決定されている。そして等級は信用、信頼の証となるものだ。等級が高ければ、それだけ報酬の高い依頼を請けることも可能となる。もっとも、それに見合った危険も伴うけれど。


 金、紫、黒が上位級。青、緑、赤が下位級なんて云って分けているなんて話もある。これは黒以上になると、指名で依頼が入って来るようになるからだ。

 要は、黒以上は有名人。青以下は有象無象ということだろう。まぁ、かなり乱暴な云い方だけれど。


 そうそう、依頼する側は、べつに青以下を指名してもいいそうだ。あまりする依頼人はいないけれど。


 ちなみに【狼の盾】の面々は黒だ。最近はサンレアンで楽な護衛をしているけれど、以前は物騒な地域の商人護衛を請け負っていたらしい。なんでも詐欺まがいの依頼を掴まされて、その上、依頼主が原因でその地域の商人との折り合いが悪くなってしまったため、昨年こっちに流れて来たのだとか。


 今は【アリリオ】の情報を収集しているようで、探索者登録も考えているそうだ。


 話を戻そう。

 やろうと思えば、仲間内で依頼を回して実績を捏造できそうだけど、そこはさすがに組合がきちんと管理している。

 依頼内容はしっかりと組合が精査して、依頼として問題ないかを調べられるからね。


 今回は普通の護衛扱いだったんだけれど、あの蜥蜴のせいでまた実績がおかしなことになったみたいだ。

 正直、ただの拾得物で高評価を貰うというのはどうなのか?


 個人的には嫌なんだけれど、評価するのは組合だからなぁ。

 まさかと思うけど、森の奥に行って生還したからって理由じゃないよね。森に入る狩人だって、まったくいない訳じゃないし。基本的に命知らずの馬鹿だと思われはするけど。


 それはさておき。手続きも終了しましたし、それとは別の分配を行いますよ。


「こちらが皆さんの取り分になります。お納めください」


 金貨十枚の束をふたつと金貨五枚、シメオンさんたちそれぞれの前に並べた。


「いや、嬢ちゃん、これはなんの報酬だ? 依頼報酬は組合から貰ったぞ」

「あ、これはバジリスクの報奨金の取り分ですよ。金貨百枚、みんなで山分けです」

「あれはキッカちゃんのモノだろう?」

「いや、私は拾ったようなものですからね。運んだのはフレディさんとシメオンさんですし。それで報酬を私が独り占めとかないでしょう?」

「俺は兎しか運んでないけど?」

「手の塞がってるみんなの護衛です」


 はっきりそう答えると、三人がじっと私を見つめてきた。


「独り占めしとけばいいものを」

「こんなことで良心の呵責に苛まれるのはご免です」


 私は答えた。そしてこうも云った。


「あぶく銭はパーっと使うものですよ。まぁ、今回はみんなで等分ですけど。残りはオークションが終わってからですね。いくらになるか楽しみですね」


 あ、そうだ。


「それに、皆さん、近く【アリリオ】を潜るんですよね? でしたらその資金は丁度いいと思いますよ。いまは使わずに持っておくことをお勧めします」

「魔法かい?」


 シメオンさんが訊いてきた。さすが察しがいい。


「教会から販売される方ですね。対不死の怪物用ですよ。

 不死の怪物の巣窟だっていう地下二十層初踏破! なんていうのを目指してみてもいいと思いますよ。でも無茶はしちゃダメですけど」

「それはキッカちゃんが目指した方がいいんじゃないか? いまなら他に効果的な魔法を扱える奴がいないんだ。やりたい放題じゃないか?」

「……多分、私はひとりだとダンジョンに入れて貰えませんよ」


 いや、三人ともそんな簡単に『あぁ……』って、納得しないでくださいよ。


 くそぅ。みんなして人を見た目で判断して。


 いいもん。入る算段はついてるんだから。


 問題は、それをやるための最も効果的な修行場所がダンジョンってだけだ!


 ……いや、ほんと、どうしましょうかね、これ。

 まぁ、慌ててダンジョンに潜ることもないし。


 他にもやることたくさんあるし。自らを鍛えるのは焦らず進めましょう。


 とりあえず、午後は錬金をやろう。そろそろ温室に植えた素材が収穫できるはずだしね。


 さぁ、今日もがんばるぞう。




誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ