47 青? 青なら私の隣で寝てるよ
ただ今の時刻は午前五時を回ったところ。おはようございます、キッカです。
本日は兎を狩りに行きますよ。格闘兎を番で捕獲するのが目標です。
まぁ、これは問題なく達成できるのではないかと。
目的の獲物を見つけさえすれば、どうにかなるからね。多分、【霊気視】で見つけられると思うんだよ。最悪、【道標】さんに頼ってもいいし。まぁ【道標】さんは、たまにうんともすんとも云わない時があるけれど。
本日の予定は、六時に駅馬車に乗ってサンレアンを出発。八時に【アリリオ】到着。湖まで移動。十時到着予定。そこを拠点に兎をサーチ・アンド・デスト……って、デストロイしちゃだめだ。捕まえるんだよ。
結果如何に関係なく四時までに撤収、十八時発のサンレアン行の駅馬車に乗って帰宅。
こんな感じで進めていきますよ。
前回の時の蛙襲来みたいなことがなければ、日帰りで済むはず。
問題があるとすれば、私の巡り合わせの不運くらいだ。
「おはようございます。早いですね」
「依頼人より遅く来たんじゃ恰好がつかないだろ」
集合場所にいくと、既に【狼の盾】の三人が待っていた。
ただ今の時間は朝の五時を回ったくらい。
あ、こっちにも時計はある。ダンジョンで発見されたものを帝国が解析して、独自に生産しているらしい。
だから教会の時刻を知らせる鐘も毎日正確だ。
三人とも装備は金属で若干補強した革鎧。このあたりだとよく見かける鎧だから、主流となっているものだろう。一応軽鎧に分類されるかな。
得物は、シメオンさんが弓、アンヘルさんが槍、そしてフレディさんが片手斧だ。
これはバランスがいいと云えるのかな? フレディさんがタンク役って感じだね。左手にカイトシールドを持っている。
私の装備は前回と一緒。武器は狩猟弓。遮光器仮面に革装備一式。足のみ暗殺者仕様で、他は盗賊仕様なっているものだ。ただ、短剣だけは竜骨の短剣ではなく、黒檀鋼の短剣に変更。
いや、竜骨の短剣、ちょっと重くてね。
さて、私たちは挨拶もほどほどに、駅馬車へと乗り込んだ。駅馬車は八人掛けの三台で一隊となり、サンレアンと【アリリオ】を、日に三回往復している。
馬車はオープンタイプ。というかこれ、荷馬車を改造しただけじゃないかな。
雨の日はどうするんだろ? 幌を張るのかな?
早朝の乗客は探索者が殆どで、あとはたまに組合職員が乗る程度だ。サンレアンの狩人たちは、大抵、周囲の平原か、木材用に造られた人工林で狩りをしている。
私みたいに魔の森に入るのは、よっぽどの命知らずか馬鹿だそうだ。
あ、サンレアンの周囲には人工林が二十二、だったかな? 造られていて、ローテーションで毎年丸ごと伐採されては植林されているとのことだ。
「そういえばフレディさん、なんでスキンヘッドのままなんです?」
出発まで暇だし、不思議に思っていたことを訊いてみた。
フレディさんは昨年、どっかの宿で虱を拾ったらしく、駆除するのに髪を剃ったのだそうな。でもすでに虱は駆除済み。にも関わらず、いまもスキンヘッドのままだ。
「こっちのが楽なんだよ。また面倒なことにもならないしな」
「いまだに剃るのはおっかなびっくりな感じだけどな」
「ほっとけ」
フレディさんが目を細めて口をへの字に曲げる。
「でも冬場は寒そうですよ」
「そういや、自棄起こして剃ったのは年末だったよな。どうだったんだ?」
「あの時は寒いだのなんだの言ってる場合じゃなかったからな。とにかく痒さから解放されたかったんだ」
あー、相当ひどかったみたいだ。まさに苦虫を噛み潰したような顔、というのをしている。
「それじゃフレディさん、寒かったら髪伸ばしましょう。青髪なんでしょう? 私とお揃いですよ!」
「いや、俺の色はそんな黒っぽい綺麗な藍じゃねぇよ」
「綺麗は綺麗だったろう。コバルトみたいな青で」
おぉ、いかにも青っていろなのか。街でも見かけるけど、どうしてもコスプレ感がしてしまうんだよね、いまだに。みんな地毛なのに。
あっちじゃあり得ない色だったからなぁ。
そんなことを話していると、探索者たちが乗り込んできた。
そして最後に乗り込んできた金髪のそこそこ整った顔立ちの男が、私を見るなり不愉快そうに顔を顰めた。
「おい、なんでガキが乗ってるんだ? ダンジョンは遊び場じゃねぇぞ。降りろ」
お、いきなり降りろとか偉そうに云ってきたよ。前世でもそれなりの率で変なナンパにあったけれど、こっちでもか。
「フレディさん、フレディさん、ケチつけられましたよ。見た目で子ども扱いされるのは仕方ないとしても、こうもあからさまに侮辱してくるのはなんなんですかね? 悪意しかこもっていませんよ! というか降りろって、地味に馬車の営業妨害もしていますよ」
「子供相手にしか強気になれない残念な奴なんだろ」
「おい、てめぇ、その――」
「あぁ、やっぱり。そうでもしないと自らのアイデンティティを維持できない残念な人なんですね。そんなことするくらいなら自身を磨いて、自信を身に着ければいいのに。ただ年長者だからといって、子供を脅かして自らの優位性を得ていないと生きていけないとか。いったいどれだけクズなんですかね。立派な男のやることじゃないですね。みたところソロっぽいし。仲間になってくれる人もいないんでしょうね。もしいたとしたら、その人も人柄が知れそうですね」
おや。なんだか静かになったよ。
あ、シメオンさんがクスクス笑ってる。
「こ……の、クソガキ」
「ガキガキ云わないでくれませんかね。これでも成人しているんですが」
ふむ、言葉が途切れ途切れなのは怒り心頭の模様。というか、簡単に激怒し過ぎじゃないですかね。日常生活が心配ですよ。
「は? その形で大人だ? 病気かなんかじゃねぇのか? どうせその体格じゃまともに使えやしないんだ。おとなしく家に引きこもってろよ」
「ほほう。今度は相手の身体的特徴をあげつらって、侮辱してきましたよ。背の低いチビは生きている価値がないとでもいうんですかね? 背が高ければいいってわけでもないでしょうに。なんなんです? あなたは他人を侮辱し続けないと死ぬ病気にでもかかってるんですか? その調子だと、その内、侮辱するべきではない人まで侮辱して、そのあまり性能のよろしくなさそうな頭が、肩の上から落ちることになるかも知れませんよ? 『口は禍の元』というでしょう。……あぁ、これは私の故郷の言葉なんですけれど、謂わんとすることは分かりますよね?」
「あぁ、あれか、『賢いやつは余計なことを云わない』っていうのと同じか?」
「だろうな。莫迦ってことだろ、あれは」
おぉ、こっちじゃそう云うのか。
というか、シメオンさん、ぼそっと辛辣ですね。
あ、金髪、目を剥いて口をパクパクさせてる。
いや、瞬間湯沸し器過ぎでしょう。本当に日常生活まともに送れてるのかしら?
「魚みたいに口をパクパクさせてないで、静かに座っとけよ。人様に迷惑かけんな、くそうぜぇ」
乱暴な口調で云ってやった。目も細めてやったけど、仮面付けてるから意味なかったよ。
「それにしてもキッカちゃん、よく口が回るなぁ。いまのが素の口調かい?」
「どっちも素ですよ。ちゃんとした相手には丁寧に対するのが礼儀というものです。アレはソレに値しません。クズです。もしくはゴミ」
云い切った。ああいった連中は礼儀をもって接すると、こっちが降ったと思って図に乗って始末に悪いんだよ。そう云う輩は端から抑え込むのが正しい対処法だ。少なくともお兄ちゃんはそう云っていた。ただ、安全は確保しとけとも云ってたけど。殴られるのは嫌だからね。
「また辛辣だな」
「はっきりさせておかないと、後々面倒になったりしますからね」
「はっきり云い過ぎても面倒になる場合もあるぞ」
「云わずに後悔するより、云って後悔するほうがマシです」
ニタリとした笑みを浮かべる。
「てめぇ……無理やりにでも引きずりおろしてやる!」
金髪が喚いた。
「あぁ、もう、面倒臭いな」
『我に従え』
言音魔法【支配】第二段階発動! 第二段階は人間を支配、恭順させることができる。効果時間は不明。ゲームだと、PCだとさほど長くはなかったけれど、NPCとイベント絡みだと永続だったような気が……。
苛っとしてつい使っちゃったけど、マズかったかな? でも他のだと周囲の人を巻き込みそうだったんだよ。永続じゃないことを祈ろう。お願いしますよ、常盤お兄さん。
まぁ、永続効果でも構わないか。静かになったし。舎弟にするわけでもなし、放っとけばいいや。一から十まで命令しなきゃならない訳じゃないしね。
「他所様に迷惑だから、静かに座っときなさいよ。ったく、躾がなってないわね」
これだけでも命令になるから、あの金髪も大人しくなるだろう。もし効果が永続だったら、残りの人生、他人に迷惑をかけないように生きていくはずだ。
……なんだ、いいことじゃないか。
うん、ちゃんと最後の席、端っこの席に大人しく座ったね。
これで馬車の平穏が取り戻せましたよ。
「……キッカちゃん、なにかやった?」
「いえ。苛っとして、つい故郷の言葉でブツブツいっちゃいましたけど」
「あっさり云うこと聞いたな。拍子抜けだ」
フレディさんが胡乱な視線を向ける。
よしよし、アイツは大人しくしてるな。【アリリオ】の宿場まであのままならいいんだけど。
些細なトラブルもありましたが、無事【アリリオ】の宿場に到着。
組合出張所に顔を出して、森へと向かう。
ダンジョンの脇を通り抜けて、私を先頭に森へと侵入する。
「なんというか、また無造作に突き進むね」
「湖くらいまでは危険な動物とか魔物はほとんどいませんからね」
前回、周囲を索敵してみたけど、いるのはせいぜい小型の鹿とか猪くらいだ。狼もいたけれど、狼のほうで人間を敬遠している感じだった。
猪は小型でも脅威ではあるけれど、接触しなければ突撃してくることもないので、こっちが避けて通ればいいだけだしね。
うん。【霊気視】は便利だ。ゲームプレイでは、真っ先に拾いに行ったしね。
森を約二時間ほど進み、湖に到着。距離的には五キロくらいかな。正午まではまだまだ時間がある。うん、予定通りだ。
ここを拠点にして、さらに奥に行って兎を狩ってきますよ。
今にして思うと、前回あれだけ酷い目にあって、なんで私は更に奥へ突き進んだんだろ?
……あ、あの半円形に下生えが枯れてるところ、私が【暴風雪】を使った痕だ。うわぁ、こんな風になってるとは思ってもみなかったよ。
あぁ、だからさっき出張所に寄った時、妙に畏まられたのか。ダンジョンの脇を通る時も、兵士さんになぜか敬礼されたし。
私がなにかやらかしたって思われてるんだろうなぁ。いや、実際やったんだけどさ。まぁ、いまさらどうにもならないし、聞かれたらなんとかはぐらかそう。
それにあの開けた場所は拠点にするのに丁度いいしね。
「それじゃ皆さんはここで待機願います。私はちょっと兎を捕まえてきますんで」
「おいこらちょっと待て。ひとりで行くつもりか!?」
「はい、そうですよ。話したじゃないですか。皆さんには獲物を運ぶのを手伝ってもらうと云ったじゃないですか」
「いや、護衛も任務だが」
……あれ?
「あ。すいません。道中、サンレアンと【アリリオ】の間のことだけのつもりだったので」
「おいおい、ここは魔の森だぞ。そこまで奥地ってわけじゃないが、十分に危険な場所だぞ」
フレディさんが呆れたように云う。
うん。それは思い知ってる。なにしろここで殺されかけたからね。
とはいえ、付いてこられると、自由に動けなくなるんだよね。
「でも皆さん、狩りは専門じゃないですよね? こういういい方はしたくないのですが、多分、邪魔になってしまうと思います」
私がそういうと、赤髪のお兄さんとフレディさんが顔を見合わせた。
「それは分かるんだがなぁ」
シメオンさんが短く刈り込んだ頭を掻く。
ふむ、どこに妥協点を見出しましょうかね。
「では、一時間経って戻らなかったら、捜しに来てください」
そう云って私は北北東を指差す。【霊気視】で、おそらく格闘兎と思しきシルエットが見えた方向だ。ただ、えらく小さく見えたから、まったくの別物かもしれないけれど。
「この方向に真っすぐ私は向かいますから」
「この方向を真っすぐなのか? 途中で右や左に行ったりせず」
「はい、真っすぐです」
兎さんが移動しちゃったら、その限りじゃないけれど。まぁ、ここから既に獲物を捉えているとは思わないだろうしなぁ。
「わかった。一時間な」
「おい、シメオン!」
「彼女は一度ひとりで森に入り、獲物を狩り、無事に生還している。周囲の警戒も十分にできてる」
「だけどな――」
「だが俺たちが邪魔になるのも確かだ」
「危険なのに遭遇したら、迷わず逃げるから大丈夫ですよ」
少々説得に時間が掛かったものの、なんとかひとりで出ることに成功。
フレディさん、面倒見が随分といい人だ。過保護過ぎな気もするけど。
まぁ、ここは魔の森とか死の森って呼ばれている場所だから、仕方ないか。
普通は、二百メートルくらいまでしか入らないらしいし。これだと時間を掛ける訳にはいかないね。下手に心配されて捜しに来られても、正直困るしね。
ということで最終手段、【道標】さんに頑張ってもらいましょう。
【道標】発動!
よし、問題なく靄みたいな線が現れた。あとはこれに沿って進むだけだ。
身を屈め、藪を掻き分けて進んでいく。相変わらず装備のおかげで、音が一切立たない。これなら音で気付かれる心配はない。
やがて太い樹ばかりが生えている場所に辿り着いた。巨木ばかりのためか、森の中だというのに、意外と広い空間が周囲にいくつも広がっている。
【道標】に沿って移動すること二十分。
お、巨木の側に格闘兎(橙)発見。まずは雌か。む? あ、さらに奥に青も発見。ここで二羽とも生け捕ることができれば、すぐにお家に帰れるね。
橙は立ち上がって辺りを見回しているようだ。狩りの最中というわけでもなさそうだけど……お、足元に何かの残骸が転がってる。鼠的な何かが食べられたようだ。
ソロリソロリと背後から忍び寄る。念のため【透明変化】も掛けてあるから、余程のへまをしなければ、失敗はないだろう。
お約束の枝を踏んづけてポキッ! ってやっても音がしないしね。
兎さんのすぐ後ろ。手を伸ばせば届きそうなところにまで接近成功。
左手に魔法をセットし、兎さんに向ける。この距離なら外しようがない。
魔力充填完了! 変成魔法【麻痺】発射!
掌から撃ちだされた緑色の球が橙に当たる。すると橙は、まるでそのまま彫像にでもなったかのようにカチンと固まるとその場に転がった。薬物ではなく、魔法で引き起こす麻痺の特徴だ。
効果時間はせいぜい十秒くらいだからね。手早く捕縛しないと。
私はウェストポーチから昨日作ったベルトを取り出すと、それを首輪代わりに留める。
よしよし、効果はしっかり発動してるね。格闘兎(橙)は麻痺しっぱなしだ。
そう、このベルトには【麻痺】の効果が掛けてある。着けたが最後、この様である。もしかしたら、一定時間ごとに麻痺の成否判定が起きているかもしれないけれど、連続で抵抗に成功しない限り、すぐに硬直して動けなくなるからね。
……自分で作っておいてなんだけど、酷い効果だな。まぁ【体力吸収】とか【火炎】を付術するよりましだけど。前者はあっという間に衰弱死、後者は丸焼けになるからね。
よし、それじゃ、こいつをインベントリにしまってと。
……あれ? もう一度、え? しまえない?
あ。
……あれやこれやを考えて、考えが微妙に堂々巡りを始めたりすると、肝心な部分がすこーんと抜けるのは私の悪い癖だ。
いや、兎さんをしまおうとか、アホなことをしてたからさ、私。
もの凄いざっくりとしたインベントリの制限は“生物を収納できない”というものだ。
でも植物は普通に収納できるんだよ。植物だって生物だからね。だから、なにかしらの区分はあるんだよ。虫もいれることはできたし。
大きさなのかな? いや、丈の高い草とかもはいるけど、小動物は入らなかったしなぁ。
あ、テスカセベルムからディルガエアまでの道中で、【氷杭】で気絶させたアルミラージを収納しようとしてみたんだよ。結果は出来なかったのさ。
質量の問題なのかな? このあたりがいまいち不明なんだよね。
って、だからこれが悪い癖なんだって。肝心のところを無視してるよ。
昨日、フレディさんたちを雇った一番の理由。
単純に、生け捕りした兎をインベントリに収納できない。ただそれだけの理由だったわけだ。獲物をちゃんと担いで持って帰ったことを見せないと、街でうかつに出せないからね。
サムヒギン・ア・ドゥールがいまだにインベントリに入っているのは誰にもナイショだ。
ちゃんと分かっていたのに、今はこの様ですよ、私の頭は。
とりあえず、兎の周囲に魔法罠を撒いてと。火炎と電撃と冷気と竜巻。これでよし。それじゃ青を狩りに行きますよ。
余計な荷物がふえたよ。なんだこのでかい蜥蜴。コモドドラゴンを二回りくらい大きくした蜥蜴。でも頭の形は山椒魚を彷彿とさせるな。
この蜥蜴は頭蓋を叩き割られて死亡している。やったのは格闘兎(青)だ。
青? 青なら私の隣で寝てるよ。
ところで突然ですが、私は貧乏性です。そして目の前には新鮮な蜥蜴さん。これを捨てていくなんてとんでもない。
とりあえずインベントリに入れて血抜きだけしちゃいましょう。腐敗は出来る限り防がねば。なんでも生物が死亡した場合、もっとも早く腐敗するのは血液だそうですよ。腐ったものに浸されているような状態であれば、肉なんてすぐに臭くなるのは道理だよね。
とはいえ、こいつを個人的に確保したい気持ちはないから、組合に売り飛ばしたい。とりあえず、湖の近くまで運ぶ方法を考えよう。
いや、もう怪しまれてもいいか、近くまでインベントリに入れて運ぼ。
◆ ◇ ◆
「なぁ、キッカちゃん。これ、とてつもなく目立ってるんだが」
宿場に辿り着くなり、赤髪のお兄さんが心底嫌そうな顔で云った。
理由は背負っている格闘兎。身の丈一メートルの兎を背負っている姿は、なんとも微妙に可愛らしく、そしてユーモラスだ。
「あぁ、こればっかりはしかたないですね。でもどうせ、サンレアンでも目立ちますから諦めましょう」
蜥蜴はともかく、兎はサンレアンに持ち帰るからね。
「これも仕事の内だ」
「報酬に色つけますから、頑張ってください」
シメオンさんはフレディさんと一緒に、あのでかい蜥蜴を担いでいる。
蜥蜴は湖の側までインベントリにいれて運んだよ。そこで出して、みんなを呼んで運んでもらっている。
あれ? フレディさんがジト目で私を見てるよ。
「どうしました?」
「いや、『色付ける』っていう言葉を発するのが、これほど似合わない奴も珍しいなと思ってな」
「似合いませんか」
「お前さん、そういう言葉を使うには可愛らし過ぎるんだよ。どこぞのヒネたガキみたいな雰囲気もないから、えらいちぐはぐに見えるぞ」
お、おぉ、普通に可愛いとか男の人に云われたよ。下心なしに云われるのはちょっと嬉しいけど、反応に困るな。
「フレディさん、おだてても色が余計に付くだけで、なにもでませんよ」
「いや、出てるじゃないか、追加報酬」
そういってシメオンさんが笑った。
重たい荷物を担ぎ、ダンジョンの脇をのそのそと通り過ぎる。
出張所はもう目の前だ。時刻は夕刻。四時くらいかな。
うん。帰りの馬車には十分間に合う時間だ。
さて、この蜥蜴は幾らで売れるだろう?
ちょっと楽しみだ。
誤字報告ありがとうございます。