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37 侯爵様御一行じゃないですか


 こんばんは。キッカです。

 ただいまサンレアンに向かって移動中です。


 帰りの道中、人に見られないように道から外れて、いろいろと遊んでたからだけど、すっかり遅くなっちゃったよ。


 いや、いくつか確認しておこうと思ってね。


 まず、馬に乗れるようになったよ。なんとか乗れた。よじ登るって感じだったけど。とはいえ、召喚で召びだした骨の馬だからね。人目に付かないような状況じゃなきゃ乗れないね。


 でなければ、私がなんか変装するとか?


 いや、そこまでやってまで乗ることもないよね。

 まぁ、急ぐときは夜中に移動すればいいんだよ。


 それと【風駆け】の確認。とりあえずガチガチに防御を固めて、【黒檀鋼の皮膚(エボニースキン)】を掛けて、岩に突撃してみたよ。もちろん、距離を測ってギリギリでぶつかる程度で。

 うん。大丈夫だった。これで【風駆け】も安心して使えそうだ。

 移動手段ではあるけれど、基本的に道の途切れた場所、離れた場所に飛び移るのに使うことになるかな。


 そして最後に修行。いや、これはたまたまだったんだけど。そのせいでサンレアンに着くのが遅くなったわけだけど。


 格闘兎(ストライクヘア)をまた見つけたんだよ。ただ、そいつは特殊個体なのかなんなのか知らないけど、赤茶色の縞でちっさい角が生えてたんだよね。アルミラージとの混血体だったのかな。

 で、そいつに延々と殴られてきたよ。いや、殴られたというよりは、殴らせたっていうのが正解か。


 なにをしていたかというと、盾の扱いの習熟。やっぱり防御はきちんとできていた方が安心だからね。最悪、守りに専念して、攻撃はスケさんに任せてもいいし。

 命を大事に、ですよ。


 ということで、三時間くらい殴られてた。途中で兎が逃げようとするから、眩惑魔法で闘争心を煽って戦闘を無理矢理続行させましたよ。

 それこそ、体力切れで兎が気絶するまで。


 ……この兎どうしようかな。


 いや、珍しい個体だろうからね。修行も手伝ってもらったし。おかげで盾技能……防御のレベルが三十突破したしね。

 ふふふ、シールドバッシュができるようになったよ。


 うん、今回は見逃そう。インベントリにお肉はいっぱい入ってるし。ましてテイムなんてやりかた知らんし。

 ということで、気絶した兎に簡単に回復魔法を掛けて、放置してきたよ。


 そういえば、肉と云えば、あの蛙は食べられるのかな?


 まぁ、そのうち解体して食べてみよう。焼けばなんとかなるでしょ。

 皮の方はいろいろと使い道がありそうだし。なんかサメみたいな皮だったし。


 というようなことをやってたから、帰りつくのが夜になっちゃったんだよねぇ。

 多分、もう街門は閉まってるだろうなぁ。


 サンレアンの街はダンジョンに近い位置(約十五キロ)にあることもあって、街は高い壁で覆われている。いわゆる城塞都市というやつだと思う。

 で、夜は八時だか九時ぐらいには門が閉ざされて、人の出入りは禁じられちゃうんだよね。


 さて、街の外へ出るとなると、それなりの装備をしていないと止められるのが現状の私だ。

 農夫さんたちは作業着でも自由に出入りできているけれど。

 まぁ、冗談じゃなしに熊と殴り合い出来そうな感じの人たちだしなぁ。


 だから、私の今の装備は革鎧に仮面となっている。そして武器が弓になっているわけだけど、当然、近接武器も持っていないと常識的におかしいわけで。

 なので短剣を装備している。ただ、装備場所がちょっとおかしいけどね。

 左の肩口……というか、鎖骨の上あたりに鞘を留めて装備してある。


 ちなみに、装備しているのは地味な見た目の竜骨の短剣だ。もっとも、短剣としての性能は、ほぼ最高レベルだ。

 他の短剣にしようかとも思ったんだけど、デザインがね。かといって無難なデザインの鉄のナイフとかは性能がいまいちだし。


 そして装備箇所。なんで鎖骨の上なんて変なところにしてあるかというと、普通は腰の脇か後ろに装備するんだろうけど、それがダメになったんだよ。

 後ろは、後々クロスボウを使うようになったとき、ボルト用の矢筒をそこに装備するからそこはダメ。それに背嚢が被さって抜きにくいというのも理由だ。そして脇だと逆に装備しないといけないから、微妙に格好悪い気がして却下したんだよ。


 ん? 逆ってどういうことかって? いや、普通に柄を前にして装備すると、短剣だと刃渡りが短いから、正面に立った相手に簡単に抜かれてそのまま刺されるんだよ。

 だから短剣の場合は、柄を後ろ向きにして腰に差すんだそうな。

 利き手側に装備して、柄を掴んで後ろに抜くだけだから、短剣の場合はこっちのほうが抜きやすくてよさそうだ。


 でも見栄えを考えたら、腰に下げるのは普通の剣のほうがいいよね。


 で、いろいろ位置を試した末、左鎖骨のところに留める形にしたよ。


 既に街では、この仮面で変な子になってるから、変なところに装備をしたところで、問題ない問題ない。

 使いやすければそれが一番だよ。気にしたら負けだ。


 あ、やっと門が見えてきた。


 うん、やっぱりもう門は閉まってるね。門の側で野営しても大丈夫かな?

 ちょっと聞いてみよう。


 てくてくと門の前まで進み、門の上を見上げる。


 えーと門番の兵士さんはどこだろ? 街壁にいると思うんだけど。

 あ、いた。


「こんばんはー」

「なんだ? 仮面の嬢ちゃん」


 いや、仮面の嬢ちゃんって、もうそんな呼び名がつくようになってるの? 覚悟はしてたけどさ。でも仮面付けて街中歩いたのって、たかだか二日くらいだよ?


「悪いが、門を開ける訳にはいかないぞ。規則なんでな」

「はい、それは分かってます。で、ちょっと確認したいんですけど、ここの側で野営しても構いませんか?」

「あぁ、それは問題ないぞ。ただ、火の始末はきちんとしてくれ」

「はーい。わかりましたー」


 よし、ここで野営しても問題ないな。街道からちょっと離れてっと。

 今日の晩御飯は、普通の兎(サイズ一メートル)にしよう。

 それなりのサイズの石、落ちてないかな? ……【道標(ロケーター)】で見つかるかな。あぁ、見つけられるや。ほんと探しモノには万能だな。


 ただ、対象がはっきりと分かっていないと、反応しないっぽいけど。例の召喚アイテムは【道標】じゃ見つかんなかったしなぁ。あの一個は、私が見たことがあったから、【道標】が反応したんだろうし。


 まぁ、それは、もし見つけたら回収する約束だから、血眼になることもないだろう。そもそも手掛かりなしで探すのは無理だよ。


 さて、石はこれくらいでいいかな?

 穴を深めに簡単に掘って石で囲って、野営用に持ってきた骸炭を……三つもあればいいか、放り込む。門から見えないように背で隠して【火炎】で着火。

 骸炭はちょーっと火が点きにくいんだよね。でも火力は凄いけど。


 で、あとは、囲った石の上に網を載せて、簡易のバーベキュー台みたいにして、お肉を焼いていきますよ。

 味付けは塩しかないけど、まぁ、十分。

 あ、チーズだしとこ。


 腿のお肉切り開いたやつを載っけてっと。あ、網に油塗り忘れた。大丈夫かな。まぁ、いまから塗ろうとすると火傷するだろうし、このままいっちゃえ。


 次にお芋をすりおろして、小麦粉と混ぜて練って生地にしたのをお肉の隣で焼く。このあたりの主食となっているものだ。いわゆる芋餅ってやつだね。名前はなんて云ったっけ? バレ? パレ? 確かどっちかだ。

 パンもあるけれど、あれはどっちかというと携帯保存食的ポジションのようだ。発酵させずに焼いてるからなのか、かなり日持ちするみたいだしね。


 昔の日本でいうところの、兵糧丸みたいなものなのかな?


 で、このバレ、もちもちしてて、おいしいんだよね。ただお醤油がほしくなるけど。

 醤油の作り方なんて知らないしなぁ。あー、でも、味噌を作ることができれば、一緒にたまり醤油ができるか。味噌、作ってみようか。問題は麹菌なんだよね。闇雲にいろんな場所で大豆を発酵させて、うまく捕まえられることを祈る?


 あぁ、気が遠くなりそう。でも家の敷地内なら問題ないかな。

 大豆なら確か売ってたと思うし。……もしかすると違う豆だったりするかな。まぁ、明日買って確かめてみよう。


 おっと、ひっくり返さないと。あああ、やっぱり網にくっついた。

 箸をもう一膳だして、なんとか……よし、剥がれた。肉からも脂がでてきてるし、今度は大丈夫かな? 考えてみたら、日本にいたときはこんな大きな肉なんて食べたことなかったな。これ、一キロ近くあるよね?


 うーん、いまの体になって、妙によく食べるようになったからなぁ。まぁ、魔法で飲まず食わずでも生きられるけど、そんなことすると心が殺伐としてくるしね。


 食事は大事だよ。うん。


 ……焼けるまで玉菜(キャベツ)齧ってよ。


 軽く塩を振って、ぼりぼりと玉菜をまるごと齧る。

 大丈夫。ちゃんと【清浄(クリーン)】を掛けてあるから、虫とかはいないよ。


 ……もうひとつお肉焼いとこうかな。




 チーズを載っけた兎の骨付きもも肉を齧りながら、網の上のバラ肉をひっくり返していると、街道を進んでくる気配に気が付いた。


 乾いた地面を叩く蹄の音。


 馬? 【霊気視(オーラヴィジョン)】……いや【生命探知(ディテクトライフ)】でいいや。


 【生命探知】。生あるものを索敵する魔法。見え方は【霊気視】と一緒だけど、敵性体は赤いシルエット、それ以外は青いシルエットで視覚化される。

 【霊気視】だと、敵味方関係なく赤だから、その点は【生命探知】が優れている。ただ、射程がすごく短いけど。


 見えるのは青いシルエット。馬が……五頭。ん? 馬車はないっぽいな。早馬とかなら一頭だけだろうし、そもそもこんなのんびり進んでないよね。


 この街道を通ってるってことは、宿場からサンレアンへとやって来たってことだろうけど、こんな時間に?


 もぐもぐとお肉を齧りながらやってきた一行をみていると、門の前で止まった。見た感じ、かなり立派な身なりをしてる恰幅のいいおじさんと、見た目、ほっそりとした感じの赤毛の青年。


 うん、見た目だけだね。背中にでっかい両手剣背負ってるし。はったりであんなもの背負うわけないから、扱い熟せるってことだ。ってことは、いわゆる細マッチョってやつなのかな。


 それと、男の子。うーんと、こっちの年齢の感覚だと十歳くらいになるのかな。金茶色の髪の可愛らしい子だ。

 それと明らかに護衛と思われる軽装鎧のふたり。盾と槍の装備からして、完全に騎兵って感じだね。


 どうみてもお偉いさん。えーと、もしかして、侯爵様?

 えぇ、王都に行ってたんでしょ? なんでダンジョンの方か来るの?


 って……あれ? こっちを凝視してるね。まぁ【灯光(メイジライト)】がとんでもなく目立っているからね。宣伝効果としては抜群だと思う。

 いや、暗いからさ、杖を地面に突き立てて、その先っぽに【灯光】を掛けたんだよ。どうせ【灯光】は売りに出すんだし。


 だってさ、焼き加減が分かり難いんだもん。暗くって。お肉を焦がすのは罪ですよ、市民。


 あ、青年――お兄さんと護衛の人が馬から降りてこっちきた。なんだろ?

 ……お肉を火から退けとこ。このままだと焦がす気がする。


「こんばんは、お嬢さん。ここで野営かい?」

「はい。門限に遅れてしまいまして。それで、どういったご用でしょう?」


 問うと、お兄さんが杖を指差した。

 あぁ、やっぱりこれか。


「それがどういったものか気になってね。随分と明るい。魔法の杖かな?」

「いえ、これは【灯光】の魔法ですよ。杖の先に掛けてあるんですよ。近く、組合から売り出される予定ですよ」


 そう答えると、お兄さんと護衛のおじさんが、驚いたように目を瞬いた。


「売る? 魔法を?」

「はい。ところで、身分有る方々とお見受けしますが、領都へは入られないのですか?」

「規則は守るべきものだからな。我々とて例外ではないよ」


 ありゃ? 多分、侯爵様だと思うけど、自ら来られたよ。え、これ、不敬とかならないよね?


 侯爵様。恰幅がいいといっても、太っているわけじゃない。上半身に比べ、下半身がしっかりと鍛え上げられてる感じ。そうだな、どっしりした感じの柔道家っていうのがぴったりな例えだろうか。いや、ドワーフ体形って云った方が早い? 大槌なんかをブンブン振り回しそうな雰囲気の方だ。


 赤茶色の髪を短く刈り込み、その表情は柔和ではあるけれど、その雰囲気には凄い迫力を感じる。なんだろ、見た目的には、もの凄く人の良い町会長のおじさんみたいな感じなんだけど、滲み出るオーラが半端ない。


 うん。ホント凄いな。というか、この人に喧嘩売ってるアホがいるのか。リスリお嬢様が云ってたけど、どこの貴族なんだか。

 正直、絶対に喧嘩を売っちゃいけないタイプの人だと思うぞ、侯爵様。なにしろテスカセベルムの王様が三下に思えるくらいだぞ。


「それでお嬢さん、その魔法は組合だけで販売されるのかな?」

「魔法の販売は、組合と教会の二か所で行う予定です。魔法の系統に合わせ、それぞれで別の魔法を扱うことになっていますね。

 細かい部分は後日、イリアルテ家、組合、教会を交え決定する予定です。詳しくはエメリナ様がご存じでいらっしゃいますよ」

「母上が!?」


 あ、このお兄さん、エメリナ様の息子さん、ってことはリスリお嬢様のお兄さんか。となると、あっちの子は弟さん? 全員エメリナ様似だね。

 って、最初に思った通り侯爵様御一行じゃないですか。

 ……え、こんなところに居ていいの?


「あの、侯爵様? 本当に領都に入らなくて大丈夫なのですか? 侯爵様の留守中、なにが起きたのかを早急に確認した方がよいのではないのでしょうか? リスリ様がゾンビの大群に襲撃されたりしていましたし」

「ふむ、確かに。だが、お嬢さんの様子から察するに、リスリは無事なのだろう? ならば、そうも急ぐこともあるまい」


 うわぁ。なんだろう。これはリスリお嬢様に対する信頼なのかな。愛情がないってわけじゃなさそうだし。

 なにせドヤ顔してるしね。


 おや、なんだか門のほうが騒がしいね。


「なんだか門が騒がしいですね。どうしたんでしょう?」

「む? 門を開いた? なにをしているのだ!?」


 侯爵様はあからさまに顔を顰めると、門へと向かって歩き出した。


 開いた門からは――あ、リスリお嬢様だ。


「お帰りなさいませ、お父様。とっとと中にお入りください。まったく、皆に迷惑をかけてなにをやっているのですか、みっともない!」

「え、リスリ? それはないんじゃないか?」


 いや、リスリお嬢様、こういう場所でその対応はダメじゃないかな。侯爵様オロオロしてるじゃない。って、お嬢様、こっちに真っすぐ来るね。


 あぁ、侯爵様可哀想。


「お帰りなさいませ、キッカお姉様」

「はい。予定では明日の朝にもどるはずだったのですが」

「門のことですね。ご安心ください。今後はキッカお姉様は時間外でも通すようにしましたから」

「なんでそんな特別扱いに!?」

「キッカお姉様は重要人物ですよ? 当たり前じゃないですか」

「えぇ……。私は隅っこで地味に暮らせたらそれで満足なんですけど」

「無理です」


 そんな笑顔で云わないでくださいよ。


 私はがっくりとうなだれた。


「あー、リスリ? どうしてここに?」

「あ、お兄様、いたんですか」

「え、酷くないか?」


 侯爵家でのリスリお嬢様の立ち位置が分からないな。


「お兄様がいて、なんでこの時間にわざわざ戻ってくる旅程にしたのですか。【アリリオ】を回ったのなら、一晩泊まってくればよいでしょう?」

「いや、ちょっと急いで確認しなくちゃならないことができてな」

「なんなんですかそれは!」


 リスリお嬢様が詰め寄ると、お兄さんが私に目を向けた。


 え、私?


「お嬢さん、確認したいんだが、今日、兎を組合に納入したかい?」

「私が格闘兎って呼んでる兎なら納めましたよ」


 わずか銀貨五枚の、苦労に見合わない兎をね。


「あぁ、それだ! それのことだよ! 報告にはあったんだが、確認がとれていなかったんだ。君が狩ったあの兎だけど、殴りかかってはこなかったかい?」

「えぇ、格闘術に長けた兎ですよね? ですから私は格闘兎と呼んでるんですけど。見た目は縦縞の普通の兎にしか見えないんですよね」


 あれ? なんでみんな驚いた顔してるの?


「植物採集の途中で見つけたので、狩猟して、組合に納めましたよ。狩るのが大変な割にあまりにも安いので、今度からは自分で食べようと決めまし……って、どうしました?」

「実は、君の狩猟した兎は、これまで存在が噂されているだけで、確認されたことのない兎なんだよ。君が納めた後にそれが分かって、組合じゃ大騒ぎになってる」


 えぇ……もしかしてUMA扱いだったの? あの兎。

 そういや、奥義書でも『兎』としか表記されてなかったよね。


「それで報酬のことで問題になってね。とにかく、君には追加で報酬がだされる筈だ。近く、君の所に連絡がいくだろうから、その後、組合から報酬を貰ってくれ」

「……生け捕りにしたほうがよかったですかね?」

「さすがにそこまでは求めないよ。で、強かったかい?」

「普通の兎と思って近づくと、確実に不意打ちを喰らいます。私は運がよかっただけですよ。直撃を喰らうと、頭がなくなるんじゃないですかね」


 普通に樹を殴り倒してたしな。まぁ、そこまて太い樹じゃなかったけど。

 私のウェストくらいの太さかな。


「お姉様、本当に殺人兎を狩猟したんですか?」

「殺人兎って、また物騒な名前ですね。狩りましたよ」

「どうして無事なんです? 遭遇した狩人はみんな殺されるという話なんですよ」

「狩りの時は魔法の鎧を使っていますから、そう簡単に殺されはしませんよ」


 特に格闘兎の時は。最初の時に殺されかけたからね。

 あ、魔法って聞いて、リスリお嬢様が目をキラキラさせてる。


「それよりも、いつまでも門を開け放ったままにするわけにはいきません。中に入りましょう」


 とりあえず、みんなを促そう。

 よし、みんな行った。


 それじゃ、急いで片付けないと。

 生焼けバラ肉はインベントリ。網もインベントリへと。

 ちょん、と触っての収納は火傷しそうで怖いな。でも触らないとインベントリに入れられないからなぁ。


 さすがに骸炭は触れないな。しょうがない、鍋に放り込んで持っていこう。

 火箸も作ってもらったのは正解だったね。

 穴を埋めて、背嚢背負って、杖も背中に差して、鍋を持って移動。

 と、杖の【灯光】を解除しとかないと。


 【解呪(ディスペル)】!


 ちょうど侯爵様たちも馬に乗って街に入るところだ。急ごう。


「えーと、私も入っちゃって大丈夫ですよね?」

「あぁ、大丈夫だから早く入れ」

「ありがとうございます」


 うわぁ、なんだか兵士さん不機嫌だよ。

 正直、理不尽だ。私が何をしたっていうのよ。


「お姉様、どうしました」

「いや、理不尽だと思いまして。兵士さんたち機嫌悪いですし。私はちゃんと外で野営してただけなんですけどね。なんで私が悪いみたいに見られるのでしょう?」


 あぁ、そうか。


「今分かった。兵士って、人を護るためにいる訳じゃないんだ」


 ならいいや。


「ちょ、お姉様!? いまなにか物騒な言葉が聞こえたような気がしましたよ!?」

「はい? 気のせいですよ、リスリ様。侯爵様たちとは一緒に行かないのですか?」


 侯爵様たち、すぐそこで待ってるけど。なんでリスリお嬢様は私の左腕にしがみついてるんだろ?


「お父様、今日はキッカお姉様の所に泊まります! お母様の許可は得ています」

「はい?」

「リスリ!?」


 侯爵様が叫んだ。


 これ、私が悪いことにされたりしない?


「これもお仕事です。明後日、組合と教会を交えて会合を開きます。お父様はお母様より、よく話を聞いておいてくださいね。

 ではキッカお姉様、まいりましょう」

「旦那様、ご安心ください。お嬢様の護衛は私が務めます」


 あ、リリアナさんいたんだ。護衛か。そういえばリリアナさんも普通に強いんだよね。さすがにゾンビ相手だと、対人戦闘技術が役に立たなかったみたいだけど。


「今晩から打ち合わせをするんですか?」

「今夜はお話を聞かせてください。魔法販売についての打ち合わせは、明日お願いします。

 ではキッカお姉様、まいりましょう」


 いうなり、リスリお嬢様はずんずんと大通りを歩き始めた。


 リスリお嬢様!? って、思ったより力強いな。待って、引っ張らないで。転んじゃいますから!


 侯爵様、そんなポカンとしてないで、どうにかしましょうよ。


「キッカ様、ご安心ください。大丈夫です」


 いうなりリリアナさんが私の右腕を掴んだ。


 って、あの、リリアナさん?


「リリアナ、急いでいくわよ」

「畏まりました」

「え、ちょっと!?」


 これ、なんかどっかでみた宇宙人みたいなんですけど!?

 というか、私、後ろ向きなんですけど!!




 こうして私は、自宅にまで連行されたのです。



誤字報告ありがとうございます。

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