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360 和菓子のレシピ


 神様方と話し合いをした結果、私の身の振り方が決まりましたよ。もともと、寿命で死んだら、神様方の所で雑事のお手伝いすることになっていたわけだけれど、前倒しすることになったよ。


 なんかね、私、寿命以外では死ににくくなっていた上に、私が魔力を上げまくってあれこれした結果、半ば不死化してるらしい。こうなった原因はこの神様謹製の肉体にあるとのこと。まぁ、言音魔法に耐える仕様にした結果、強化人間みたいになってるみたいだからね。おかげで凄まじく燃費が悪いし。

 そんな訳だから、普通の人が魔力をあげたところで不死に至る事はないみたいだ。寿命は飛躍的に伸びる可能性があるらしいけど。……リリアナさんが冗談じゃなしにエルフ化とかしそうな勢いなんだけれど。


 で、今後、常盤お兄さんのところを拠点にするか、このままアレカンドラ様のところを拠点にするかは、まだ未定。


 あぁ、そうそう。世界間の移動がしやすくなったらしいよ。この時間軸世界と、私が元々いた時間軸世界限定だけれど。なんか、常盤お兄さんが双方の時間軸管理者のあいだを取り持った? らしくて、どういうわけかふたりが意気投合しちゃったらしいんだよね。


 ……常盤お兄さんはなにをどうやって、そんなことが出来たんだろ? もしかしたら大木さんも絡んでいるのかもしれない。こっちの時間軸管理者とは知り合いらしいし。


 時間軸管理者たちにもなにか目的があるらしいんだけれど、ふたつの世界であれこれやるのは双方にメリットがあるそうだ、ということで、ひとまず私たちのところ、地球とアムルロス間……じゃないな、アレカンドラ様が管理する銀河と常盤お兄さんが管理する銀河間での交流を行うことになったそうだ。


 スケールが大きすぎて、いまいちピンとこないけれど。


 当面は、アレカンドラ様と常盤お兄さんの良く知ってるアムルロスと地球間での交流になるわけだけれどね。


 まぁ、アムルロスは、世界獣のせいでいろいろ制限が掛かっているから、近いうちに交流する星は別の所になるだろう。


 そんなわけで、私は雑用? として、放浪することになりそうですよ。あちこちの星を巡って、交流させるのに問題なさそうな世界の選定をやることになったよ。


 一ヵ所に定住しないでフラフラするだけだから、非常に気楽にやれそうだ。お供はリリィにビーとボー。ビーとボーは私の眷属化することになって、寿命が私に紐づけられることになったよ。私が成り上がりの神様擬きになるわけだから、実質、ビーとボーも不老不死となったよ。


 まぁ、この子達はルナ姉様とララー姉様に気に入られているから、死なせるなんてとんでもない、ってことになったのが一番の要因だろうけど


 そんなわけで、日々暮らしにくくなるアムルロスを後にするために、やることをとっととやってしまいましょう。教会での礼拝後、私の家の前でお祈りをしていくのが習わしみたいになって来てるんだよ。


 ……家から出るに出られない。


 とりあえず、無駄に貯まったお金の消費先は確保できたので、そっちの方は完了。一応、もうひとつネタとして蒸気機関のヒントだけグレーテルさんに置いていくことにするよ。


 蒸気機関を作り上げるのは、そこまで難しくはないと思うんだよ。確か、漁師さんが初めて蒸気船を見て、見様見真似で似て非なる物を作ったなんて話を聞いたことがあるし。事実かどうかは知らんけど。あ、ポンポン船のことね。

 蒸気機関だけれど、厳しいのは機構の制作かな。部品やらなんやらは、全て手工業の状態だからね。


 幸い、化石燃料が文字通り無尽蔵だから、問題はないんじゃないかな。……公害が気になるくらい? 骸炭をどんどこ燃やしたとして、どのくらいの大気汚染になるんだろう。


 まぁ、ダンジョン産の骸炭は、妙に煙が少ないし、そこまで公害を気にしなくてもいいのかもしれない。……きっと骸炭のようななにかなんだよ。


 さて、ここは私の自宅の客間。ただ今の時刻は深夜の零時過ぎ。先ほどまでちょっとしたお話をリスリお嬢様にしていました。えぇ、リスリお嬢様は本日はお泊りですよ。


 今日、話した『お話』は以下のもの。


 “世界を救った英雄は、何故、その直後に自害しなくてはならなかったのか?”


 映画的なものを作ろうと、いろいろとはじめているリスリお嬢様だけれど、現状はかなり厳しいといえる。魔具研……じゃなくて、機械研はその補助的なことも考えて作ったわけだけれど、機材だけで映画を撮れるわけじゃないからね。


 まぁ、そのあたりはいろいろと試行錯誤していって欲しい。


 今回の話は、こっちだとほぼないといっていいタイプの話だ。ハッピーエンド、バッドエンド、悲劇、喜劇は一応存在する。でも、この話みたいな、最良の終わり方なんだけれど、ハッピーエンドとはとてもいえない、という微妙な話は聞いたことがない。


 やっぱりね。映像コンテンツとして初回は、ある程度のインパクトは欲しいと思うのよ。ありきたりの使い古されたお話もいいとは思うけれど、これまでにない話を最初に持って来るのもひとつの手だと思う。


 奇をてらうのも良し悪しだから、その判断はリスリお嬢様がすることになるけれど、その際の選択肢のひとつとしてもいいんじゃないかな。


 そう思って話したんだけれど……まさか泣かれるとは思わなかったけれど。


 『おいてけ堀』の時も思ったけれど、なんというか、感情移入と云うか、話に没入する深度が私なんかよりもずっと強いみたいだ。


 多分、こっちの人はみんなこんな感じだと思う。


 私も……ある意味、アレなんだけれど、それでもこういった方面では非常にドライな反応なんじゃないかって気がしてくるよ。


 リスリお嬢様はひとしきり涙した後、どうにかして“彼”が助かる術はなかったのかと思案していたけれど、そのまま疲れて寝ちゃったよ。


 さてさて、それで私は眠りもせずになにをしているのかというと、お菓子関連のレシピを翻訳している最中ですよ。


 エメリナ様にレシピ集を置いて行こうかと。


 ただ、洋菓子だと材料の点で詰みそうなので、和菓子のレシピを置いていくよ。


 京菓子とか綺麗だしねぇ。あれなら貴族のお茶会にでてもまったく問題ないと思うのよ。こっちのお茶はハーブティーが基本だし、和菓子でもお茶請けには問題ないんじゃないかな。


 ゼラチンとかお菓子に利用できるレベルで抽出……っていえばいいの? するのは難しいだろうからね。でも寒天ならどうにかなると思うのよ。


 寒天はミストラル商会に見つけて貰ってあるからね。良ーく洗って、お酢を加えたお湯で煮だせばいいんだから、お手軽ってものだよ。


 【菊花の奥義書】にはお菓子のレシピも結構な量が記載されている。なんというか、見たことがあるだけのお菓子であっても、そのレシピがあるんだから、本当にチートだと思う。


 ただ、当然のことながら全て日本語だから、これをこっちの言葉に翻訳して、それを私がプリントアウトする感じ。


 プリントアウトなんていってるけど、物質変換で出すだけだ。それも植物紙ではなく、羊皮紙で。


 そういや、羊皮紙の生産の為に、結構な数の獣、山羊だのが潰されていると思うんだけれど、あまりお肉は流通していないね。さすがに無駄にされているとは思わないけれど、生産者とその周囲で消費されているのかな?


 そんなことを考えつつ。一枚ずつレシピを実体化。


 こんな片手間でできるようになるまでは、ちょっと苦労したんだよ。


 まず、日本語レシピを見るでしょ。それを六王国語に変換したものを頭に思い浮かべて実体化、なんてことをしているんだけれど、最初は日本語の入り混じった変な暗号文になっちゃってね。


 数十枚失敗してから、やっとまともなモノを出せるようになったよ。ふふ、数十枚だよ。失敗した最後の方は、変なところにひらがなが一文字混じるとかだったけれど。


 なんでそんなところに『る』が入ってるんだよぉ! と、頭の中で叫びつつ頭を掻きむしったのは、二十分くらい前だ。


 で、写真付きのレシピを何枚も出していると、お腹も空いてくるわけだ。なにせ、見ているのはお菓子だし。


 ……ついでに物質変換で出して、摘まみながら作業をするなんて云う、あまり行儀のよろしくないことをしているよ。


 出したのはもちろん和菓子。花を象ったねりきりのお菓子だ。行儀悪く、口にポイと放り込んで、一口で食べてるけど。一口サイズ、というには微妙に大きいけれど、口に入らないほどじゃない。


 いかんな。物質変換が便利過ぎて、どんどん堕落しそう。


 おおよそ一通りのレシピを出し終わり、これを製本する。製本と云っても、端っこを錐で等間隔に穴を空けて、革表紙をつけて紐で縛るだけだ。


 もっと立派な装丁にしたかったけれど、まぁ、いいかな。


「お姉様、なにをしているんですか?」


 いきなり後ろから声を掛けられ、私は椅子に座ったまま飛び上がった。ついでにさくらんぼを模したお菓子を喉に詰まらせかけた。


「お、お姉様!?」

「だ、大丈夫、大丈夫です。びっくりした……」


 なんとか飲みこみ、ほっと息をつく。


「すいません、起こしちゃいましたか?」

「いえ、そう云うわけではありませんが……」


 そういうリスリお嬢様の視線は、机に置いてある和菓子に釘付けだ。ちなみに、いま残っているのは桜を象ったものと紫陽花を象ったものだ。


「……こんな時間ですけれど、食べます?」

「え?」


 戸惑ったように私を見つめると、次いで机の上の和菓子へと視線を向けた。


「え、食べ物なんですか?」

「お菓子ですよ。以前作った白あんをベースにしたお菓子です」


 答え、皿を手に取りリスリお嬢様に差し出した。載っているのは桜のほうだ。さすがに紫色のお菓子は、なれていないとたべるのに度胸がいるだろう。


「フォークとかがないので、行儀悪いですが手づかみでお願いします」


 恐る恐るという感じでリスリお嬢様は一口齧り、目を見開いた。


 和菓子のしっとりした食感は、ふわふわのスポンジの食感とはまるで違うからね。ほんのりとした甘さも私は好みだ。


「このお菓子のほうが、お茶に合うような気がします」


 ものによると思うけれど、あのちょっぴり酸味の強いお茶には、確かに和菓子の方が合うと私も思うよ。個人の好みにもよるだろうけど。


「このお菓子も含めて、レシピをまとめましたので、明日、エメリナ様に渡そうかと思っています」

「まさか、その冊子がそうなのですか?」


 リスリお嬢様が目を丸くしている。まぁ、いきなりのレシピの大量とかだからねぇ。


 そして不意に首を傾いだ。


「なぜそんな突然に、そんなに沢山のレシピを?」

「近く、私はここからいなくなりますから」


 私は答えた。そろそろ云っておかないとね。


「平穏に暮らしたかったのに、それが無理な状況になってしまいましたからね」


 さてと、きっとごねるだろうなぁ。いくら聞き分けが良くてしっかりしているとはいっても、ステレオタイプのらしい貴族ご令嬢って部分もあるからねぇ、リスリお嬢様。


 なんというか、私を独占したいみたいな感じもあるんだよね。なんでそんなに私みたいなのが気に入られたのかは、さっぱりだけど。


 かくして、その晩はリスリお嬢様を宥めることに費やされたのです。


誤字報告ありがとうございます。

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