36 魔物だからって、物理法則を無視し過ぎよ
ペタンと尻餅をつくように、私はその場にへたり込んでしまった。
なにが起こったのかは理解できていない。分かっていることといえば、私が腰を抜かしてしまっていることと、まるっきり体に力が入らないということだ。
要は、完全に身が竦んでしまっている。
相手は蛙。蛙と云えば長い舌、水際から多少は離れているとはいえ、ここまで届くかもしれない。
とにかく、身を護ることを最優先にしなくては。
蛙に呑み込まれて人生終了は絶対にお断りだ。
【雷の霊気】!
竦んでまともに力ははいらないけど、魔法はなんとか使える。まずは全身に電撃を纏う。これで捕ま――
バチッ!
左脚に衝撃が走る。
あぁ、やっぱり届いた。電撃を纏って正解だった。とりあえずは、これで簡単に喰われる心配はなさそうだ。
とはいえ、すぐに張り直せるように準備はしておこう。
よし、次。
【スケルトン魔術師】召喚!
すぐそばに黒いボロ切れを上半身にまきつけたスケルトンが現れる。
スケさんGO!
スケさんが乾いた骨特有の軽い音を立てながら走り、水面に目だけを出している蛙に向け、冷気の放射を開始する。
届いてる? ちょっと遠いな。
水面から蛙が跳ねた。いや、飛んで、滑空し、スケさんから距離を取った。
宙を飛ぶ巨大な蛙の魔物。
あの蛙の魔物、覚えがあるな。えーと、なんて云ったっけ?
そう、あれだ!
サムとヒギンズとアヴドゥル。
……。
違うわ! 誰なのよ、その三人組は!
私はゆっくりと息をできるだけ吸い込むと、同じようにゆっくりと吐き出す。
はは、いつものポンコツっぷりが出てきた。
大丈夫。小学生の時みたいに、少しおかしくなってるけど。ちゃんと思考はできてる。
さぁ、どうしよう。
火事はまずいし、湖だと電撃は拡散しそうだよね。となると冷気一択。
いいね。私がゲームでメインで使ってたのは冷気魔法だからね。
装備を攻撃魔法補助装備に、頭装備は【竜司祭の氷仮面】へと変更。デザインが『いあ、いあ』な神様っぽい真っ白な仮面だ。冷気耐性と冷気魔法を増幅する効果がある。
これだけで冷気魔法の効果が五割増しだ。
再び蛙が飛ぶ。
滑空し、そのままスケさんへと突っ込み、旋回して湖へと戻る。
スケさんはヒレで殴られ、いとも簡単にバラバラに砕け散った。
一撃か。これ、私が喰らったらひとたまりもないな。
というかあの軌道おかしいでしょ。どういうことよ。どうみても物理法則無視してるでしょ。そもそも、空飛んでる時点でおかしいけどさ!
これあれか、ドラゴンが空を飛べるのは魔法によるものっていうのと一緒か。
再び【スケルトン魔術師】を召喚する。
この戦闘だけで召喚魔法の技量が大分あがりそうだ。
【雷の霊気】を張り直し、【氷杭】を狙い撃つ。
こうなったら持久戦上等だ!
あ、【黒檀鋼の皮膚】を張っておこう。殴られて首でも折れたら洒落にならない。こんな肝心なことを忘れてるなんて、ちょっと浮足立ってるのかもしれない。
蛙が湖面上を飛び、大口を開く。
またも森がざわめき、再び身が竦む。
まるで他人の体のようにしか感じずとも、歯を食いしばる。
あぁ、やっとわかった。これ【叫び声】か! シュリーカーとかバンシーのあれか! 恐慌状態にしたりするやつ。
聞こえないのは人間の可聴域を超えてるからか。また厄介だな。
聞こえないのに効果があるなんて!
とはいえ、スケさんには効かないよ! なにしろ骨だかんね!
蛙が水中に潜る。位置を確認するために【霊気視】を再度使う。水中を移動する蛙のシルエットが赤くはっきりと見える。
スケさんが狙い撃つべく【氷杭】を手の平から連射している。って、【冷気】から【氷杭】に切り替えてる! 結構優秀だな、スケさん。
私とスケさんの【氷杭】がつぎつぎと水面に吸い込まれていく。だが蛙にはかすりもしていない。水中での機動力はかなりのものだ。
ぬぅ、速いな。あんなにでっかいのに。あの体形なら水の抵抗も大きそうなものだけど、そうでもないのかな?
蛙が水上に飛び上がった。
【氷杭】を撃つ! その巨体を簡単に晒してくれるのはありがたい。だがそうそう当たらない。こういう対単体用の射撃型魔法は命中率が悪い。
そもそも掌から撃つのが基本なのだ。慣れないと狙いをつけるのが非常に難しい。
えぇい、当たらん! 別の魔法にしたほうがいいかなこれ。
【氷杭】は攻撃魔法の中でも、射程が非常に長い魔法だ。エイムの練習にはもってこいだけど、そもそもその練習を私はロクにしていない。
テスカセベルム王都を出た後、森に沿って移動していた際、狩りを兼ねて使っていた程度でしかない。
一度着水したかと思うと、蛙は再び飛び上がり旋回する。
うわ、こっち来た。
腕を交差させ、身を護る。
が、蛙は私のすぐ側を通り過ぎると、後方で宙返りをするように反転し、私に向かって突撃してきた。
ちょっ! なんだその無茶な軌道を実現する機動力は! お前がしてんのは滑空でしょ!? いくら魔物だからって、物理法則を無視し過ぎよふざけんな!
ばぢんっ!
「きゃぁぁぁっ!」
すれ違いざま、思い切り尻尾で弾かれ、私はごろごろと転がった。
ばしゃん! と、水音が聞こえる。蛙はまた水中へと戻ったようだ。
あぁ、くそっ! 水際にまで運ばれた。まだ足腰立たないってのに。おまけに泥だらけだよ!
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
【氷杭】はまともに当たらない。範囲のある魔法にしたほうがいい?
【氷嵐】を使う? でも溜めのせいで【氷杭】みたいに連射はできない。範囲はそこそこ広いとはいえ、速度が遅く、射程も数十メートル程度だ。
あの蛙の機動力なら、範囲から逃げるのも容易いだろう。
あ、スケさんがまたも砕かれた。
すかさず召び直し、【雷の霊気】と【黒檀鋼の皮膚】も張り直す。
って、あぁ、忙しないな、コレ。
視界の端に表示される魔法効果を示すアイコン。どんどん減っていく効果時間のカウントダウンが焦る気持ちを加速させる。
って、これ、マズくない?
攻撃魔法の魔力消費はゼロでも、召喚魔法と変成魔法は普通に消費する。変成魔法は達人級まで技術を上げてあるため、消費はかなり抑えることができるが、召喚魔法も攻撃魔法もまだいいところ見習レベルだ。
思った以上に魔力を消費している。
戦闘という、緊張感のある状況では、魔力回復の速度は激減する。このままだと魔力切れを起こしかねない。というか、確実に魔力が足りなくなる。
これは魔力回復薬のお世話になるかも知れないな。ゲームじゃ使った記憶なんて一度か二度しかないのに。
ぬぅ。なんだか屈辱的な気分だ。
蛙はブンブンと飛び回り、器用に旋回しては湖に戻ることを繰り返している。私の方にあまり攻撃してこないのは、【雷の霊気】を嫌がってのことと、わずらわしいスケさんのせいだろう。
だが、私を食料とすることを諦める気はまるでなさそうだ。
よし、持久戦は止めだ! こうなったら湖を凍らせてやる。
腰の抜けたままの状態だけど、【暴風雪】を使ってやる!
達人級魔法の【暴風雪】。自分を中心に約半径三十メートルを凍てつかせる広範囲魔法だ。ゲームだとバグがあって自爆するんだけれど、こっちではそんな心配はない。さすがにそんなバグまで常盤お兄さんは再現していない。
両手に【暴風雪】をセット。魔力を充填する。
丁度水際にまで弾き飛ばされたからね。ここからならそれなりの範囲を凍らせることができるだろう! タイミングをうまく見計らえば、ヤツを氷上に打ち上げさせることもできるかもしれない。
再び蛙が飛ぶ! 狙うはスケさん。
よし、今だ!
せーの! どかん!
私を中心に、冷気が噴出し、周囲を凍結させていく。
うん。見た感じは暴風雪というよりは、地吹雪みたいな感じだね、これ。
おぉ、いい感じに湖面が凍結していくよ。
……いま思い出したけど、ゲームだと凍結したりしなかったよね。そこまで仕様が一緒じゃなくてよかったよ。
スケさんを砕き湖外へと滑空した蛙は、またしてもとんでも機動で湖に戻って来る。だが既に湖面は凍結済みだ。
べぢっ!
当然、蛙は湖に帰れず凍結した湖面にその巨体を叩きつけた。
水中に戻れない蛙は慌てたようにじたばたとしている。さすがに勢いをつけることのできない状態からは、飛ぶことはできないようだ。
よかった。氷が割れないか心配だったんだよ。でも十分分厚く凍結したようだ。
【竜司祭の氷仮面】万歳!
それじゃ、これで終わりにするよ!
蛙に向け、右手を差し伸ばす。
ふふん! 動かない的ならさすがに外さないよ!
【氷杭】を蛙の頭に向けて連射!
お前の頭をハリネズミにしてやる!
バシュバシュと【氷杭】が蛙の頭に突き刺さっていく。
はじめのうちはバタバタ暴れていたが、やがて動かなくなった。
それでも構わず連射!
ややあって、【死体探知】を使ってみた。蛙の姿に、黄色のシルエットが重なる。死体である証拠だ。
あぁ、ちゃんと死んでる。やっと終わった。
私は安堵の息をついた。疲れた。
それじゃ、あの蛙を回収しましょ。
立ち上がろうとして、突然の激痛に凍った湖面の上に転んだ。
あまりの痛みに涙を零しながら、痛む左脚に目を向ける。
左脚があらぬ方向に曲がっていた。
「あぁ、左脚が折れてる。最初のアレか」
舌で叩かれた左脚。あの一撃で折れたのだろう。あれが頭にでも当たっていたら、私は終わっていたに違いない。
その事実に背筋が寒くなる。
【雷の霊気】に加え、【黒檀鋼の皮膚】もかけておけば、こんなことにはならなかったハズだ。この怪我は、自分の判断ミスといえるだろう。
私はがっくりと肩を落とした。
インベントリから万病薬をとりだし、一気に呷る。
みきっ!
「いっ……」
折れた骨が矯正され繋がる痛みにたじろいだ。
な、なるほど、リカルドさん、顔色を変えたわけだ。折れたばかりでこれだもの。変にくっつきかけてたのを矯正したんだから、その痛みは大変なものだったろう。
なんだか一気に疲れた。もう動きたくない。
【覇者スケルトン】召喚。
「あれ、地面にまで移動して」
召びだした覇者に、蛙の移動を命じる。
あのままだと氷が溶けて沈んじゃうからね。せっかく綺麗に仕留めたんだ。ちゃんと持って帰りますよ。
空を見上げる。空はもうオレンジ色に変わり始めていた。
あぁ、もう夕方だ。
目を瞑り、大きく深呼吸をする。
他人のように感じる体。失せた現実感。感情の剥離。おかしくなっていた感覚が、落ち着いたせいか、もとの通りに戻っている。
いや、あれだけ足に痛みを感じたんだから、そこまで心配することもなかったのかな。
安心して、私はため息をついた。
五歳の時の誘拐後に起こった状況。父と兄は随分と心配していた。なにしろ感情が失くなったようになっちゃったからね。
事件とかに巻き込まれた子供には心のケアを。というけれど、私もそうされる側になっていたわけだ。
六年生の時に、さすがに心配になって父に訊いたのだ。自身がおかしくなっていることは自覚していたから。
カウンセラーには相談しなかったのかって? するわけないじゃん。信用なんてできないもの。当時私が信用できたのは父と兄だけですよ。
父も心配して調べてくれていたみたいで、いろいろと話をしたんだ。さすがに私のメンタル、心のことに関しては、私と直接話し合うなんて、それまでしたことがなかったからね。
というか、デリケートすぎて普通はできないよ。
で、現金なもので、父の話で自分がどうなっているのか、それを客観的に見ることができた。そして、おおよそながらの父の意見を聞くこともできて、いろいろと落ち着いちゃったんだよね。
解決はなにひとつしていなくて、現実感とか感情の剥離とかはそのままだし、お父さんかお兄ちゃんがいないと、ちっとも安心していられなかったけれど。
それから暫くして、お父さんのお葬式、火葬のときにわんわん泣くことができて、やっと人間らしくなれたのに……。
はぁ。治ったんだと思ってたんだけどなぁ。
まさかこんな風にぶり返すとは思わなかったよ。
まぁ、あの頃みたいな夢現的な非現実感な感じはなかったけどさ。
冷めた感じじゃなく、苛立つような思考もしてたし。
スケさんの方に目を向ける。
スケさんは滑る足場もものともせず、蛙の魔物の尻尾を掴んで、湖の縁にまでズルズルと引き摺り、運んでいた。
その蛙の魔物の全体像をじっくりとみて、私はやっとこの蛙の魔物の名前をちゃんと思い出した。
思い出したその名前に、思わず苦笑いを浮かべる。
あぁ、あの突然頭に浮かんだ変な三人の名前は、あながち間違いじゃなかったのか。
◆ ◇ ◆
やっと帰ってきた。
樹々の間に見える、巨大なみっつの岩の塊に、私はほっとした気分になった。
蛙を回収した時にはもう、陽は半ば暮れていた。
仕方ないから、あのまま湖畔で野営しましたよ。宿場にもどるとなると、帰りつくのは夜半になりそうだったからね。
なにより、疲れてもう動きたくなかったんだよ。だから大きな木の根元で一晩過ごしたよ。
周囲に魔法罠を撒いておけば警報装置代わりになるしね。
そういや、魔法罠、ゲームだと一個しか置けなかったけど、こっちだと一種類につき一個置けるんだよね。おかげで使い勝手がいいよ。
それに時間を気にせずに帰ったら、魔物か何かに間違えられそうじゃない。真っ暗な中、森からのそのそ出てきたりしたらさ。
そんなわけで、明るくなってから帰りましたよ。
いまの時刻はお昼ごろかな。
きちんと出発した時の恰好にもどして、背嚢と弓と矢筒は背中じゃなく、胸に抱えるようになっているよ。逆に背負ってるっていえばいいのかな? これ。
なんでそんな風になっているかというと、兎を担いでいるから。うん、途中で格闘兎を狩ったんだよ。ただこれは青じゃなくオレンジの縞で、サイズも二回りほど大きい。
どうもメスはオレンジ縞で、オスよりも大きいみたいだね。サイズは一メートルほど。
それを一羽背負って、あとインベントリから出したスクヴェイダーを二羽手に持って宿場に戻ってきました。これで残りは後二羽。ついうっかり、格闘兎の後に一羽狩っちゃったからね。もういっそ、残りの二羽はイリアルテ家にあげちゃおうかな。
と、そんなわけで、今の私はすごい変な格好なのですよ。
とりあえず組合にいって売り払いましょう。
のったりのったりと歩いて組合へ。
さすがにちょっと重いよ。
ころんからんころん。
組合出張所に入ると、受付のところに兵士さんがふたり。狩人とか探索者の人は見当たらないね。昨日もそうだったけど、この時間はやっぱり、みんな出払ってるんだね。
で、兵士さんたちはどうした……って、なぜ私を凝視してるんですかね?
って、ひとりは昨日の兵士さんじゃないですか。
どうしたんだろ?
「おぉ、嬢ちゃん、無事だったか。捜してたんだ」
「昨日はお世話様でした。って、捜してたってなんのご用です?」
私が目的ですか。ほんと、なんだろ?
「あー、お嬢ちゃん、森に行っただろう? 湖には近づくなってこの馬鹿が注意し忘れた上、森に入ったお嬢ちゃんが戻ってこないからな。捜索隊を出す手はずを整えに来たんだよ」
年配の兵士さんが説明してくれた。
おぉう。行方不明者扱いになってたのか、私。
まぁ、あの蛙のせいだろうけど。なにしろたった一日だもの、大袈裟だよ。
「あー、それは……。ご心配をおかけしました。見ての通り無事ですよ」
そう云いながら、パタパタと右手を脇に伸ばし上下に振った。
って、こんなことするから子供に思われるんだよ。
「それで、湖に行くなっていうのは?」
「あぁ、妙な魔物が住みついてな。近く、領主様主導で討伐隊が組まれる予定なんだ。まぁ、その領主様が王都に呼ばれてしまったから、延期になってるんだがな」
私が退治した奴かな? やっぱり問題になってたんだ。多分、この宿場の水源だろうしね。あんなのがいたんじゃ、水路のメンテナンスとかもできないしね。
「しかし、なんだ。大猟だな。スクヴェイダーなんてひさしぶりに見たぞ」
「そんなに獲れないんですか? 私は結構遭遇するんですけど」
「見つけてもすぐに逃げられるからな。矢で射ようにも、木を盾にしたりと、頭がいいんだよ」
あー。私、基本【霊気視】で見つけて、隠形+【透明変化】で忍び寄って射るか【氷杭】だからなぁ。
「運がいいんですかね。見つかる前に狩れるんですよ。あ、お兄さん。査定お願いします」
そう云って、私は受付カウンターにスクヴェイダーを置いた。
「えーと、この兎はどうしましょう?」
「そこの、壁際のテーブルに置いてください」
左側の壁にぴったりとくっつけて置かれた、随分と足の太い頑丈そうなテーブルに、兎を載せる。
兵士さんが手伝ってくれたよ。助かった。
背嚢をちゃんと背負い直していると、お兄さんが出てきて兎の状態を確かめている。
……【氷杭】をつかったから、ちょっと状態はおかしいんだよね。外傷がまるでないようなものだから。血抜きもしてあるけど、それもインベントリを使ってやったからなぁ。
「確認しました。どれも素晴らしい状態ですね。スクヴェイダーが一羽金貨二枚。兎の方は銀貨五枚になります」
「あ、はい。ありがとうございます」
スクヴェイダーがやたら高いな。どれだけ希少価値なのよ。一羽金貨二枚って。そして兎の安さよ。普通のあのでっかい兎ならともかく、格闘兎でもそんな値段か。リスクと値段が見合わないな。
今度狩ったら自分で食べよう。
硬貨を受け取り、ポシェットに放り込んであるお財布にしまう。
「それでは、いろいろとお騒がせしました。私は、サンレアンに帰りますね」
領主様が戻って来るしね。呪文書の件とかいろいろあるし。アレカンドラ様に、【生命石】のこともどうなったか教えてもらわないと。
「気を付けて帰れよ」
「最近、ゾンビの出没がよく報告されてる。妙な人間をみたら、近づかずに逃げるんだぞ」
「はい、ありがとうございます。兵士さんたちもお仕事頑張ってくださいね」
こういう忠告はありがたいな。って、ゾンビが増えてるっていうのは物騒だな。それだけ被害に遭った人がいるのか、それとも未発見のダンジョンからでてきているのか。
森の奥にはまだダンジョンがあるはずだからね。ナルキジャ様が云ってたし。
いずれ探検してみようかな。
まぁ、それは先の話だ。今日はお家に帰りましょう。
あ、そうだ。これは知らせておいた方がいいか。
私は入り口のところで振り返ると、伝えるべきことを口にした。
「そうそう兵士さん。湖にいたサムヒギン・ア・ドゥールなら、もういませんよ」