357 相性がよかった
本日、私はダンジョンに来ています。私の名前が付けられたダンジョンですよ。
そして、目的外だけれど、ちょっと気になって確認したところ、またしてもゴブリンが集落を作っていましたよ。
あいつらどこにでも湧くな。どんだけ繁殖力が強いのよ。まぁ、まだ数百人程度の集落だったけれど。
……どっからか渡って来たのかな?
とりあえず二日ほどかけて征伐。半日くらいで軒並み始末はできたんだけど、逃げ隠れた奴を始末するのが面倒でね。
捜すのは簡単なんだよ。捜すのは。【道標】さんがいるし。ただあっちこっちに散るからさぁ。
リリィやスケさんたちと手分けしてもこれだけの時間が掛かったからね。十二人でこの有様だよ。
……おかしいな。前の集落を潰した時には、逃げずに掛かって来たんだけれど。
部族の違いなのかしらね?
さて、ダンジョンを訪れた理由は、木材を取りに来たんだよ。
木材。で、真っ先に頭に浮かんだのが、ここの上層の大木。トロールがうろうろしているけれど、伐採はなんとかできるでしょう。
伐採方法? 考えてないよ。なんとかなるでしょ。さすがに斧で切るのは厳しいと思うけど。なにか物質変換で道具を作ってどうにかしようという、楽観主義でここまで来ちゃったよ。
木材が必要となったのは、研究所を立てるための建材としてだ。ゼッペルさんの所に依頼に行ったんだけれど、木材不足で無理と云われちゃったんだよね。
なので、その木材を調達しに来たのだ。
木材は一年くらい乾燥させないとまるっきり使えないんだけれど、そこはインベントリを使って水分を抜いてどうにかするよ。
……多分、大丈夫なはず。
さぁ、やってまいりましたよ上層部。
とりあず、大雑把にだけれど、木を切り倒す方法は考えたよ。まず、普通にノコギリとかチェーンソーで切り倒すのは無理。直径からして馬鹿げているからね。
そもそもそんなサイズのものは作れない。
あ、私の物質変換って、両手を広げたくらいのサイズが限界なんだよ。魔素を集めた力場みたいなのを形成するんだけれど、それが掌で挟むようにしないとできなくてね。
なので、ワイヤー……というか、チェーンソーのチェーンの部分を使って木を切り倒すよ。
と、その前に、切り倒す方向側の幹を、斜めに切って置かないとね。倒れる方向をきちんと制御しておかないと。自分が潰されて死にましたは間抜けすぎる。
この斜めの切れ込みは、斧を使ってやったよ。サイズがサイズだから、これもひと仕事だ。
手を抜く方法が思いつかなかったから、斧で地道に切り取ったよ。一時間くらいかかったよ。ここまでやっておけば、問題なく他の木の間を潜り抜けて倒せるだろう。
さぁ、それじゃチェーンをぐるりと巨木に回して、これを回転させることで切って行こうと思うよ。切断状況に合わせて、チェーンを短く……なんてできないから、回転機構の反対側に伸ばしてく感じになるかな。
……後ろへと伸ばす機構を考えないと、大変なことになりそう。後方部分は独立した別ユニットにすればいいか。
そんなこんなで、大雑把にだけれど準備完了。チェーンを伐採する木の幹に巡らせて、繋ぐ。
準備していて思ったんだけれど、これ、伐採中にチェーンが切れたりしたら大惨事になりそう。近くに私がいたら真っ二つ――とまではいかなくても、普通に死ぬんじゃないかな?
大丈夫なようにチェーンの威力に耐えられるような金属製のタワーシールドを二枚出そう。さすがにタワーシールドなんて作っていない。だから物質変換でだしたけれど……ほぼこれが出せる限界の大きさかな。質量的には問題ないんだけれどね。
かくして、伐採を開始。
もの凄い騒音を立てつつも、伐採は順調に進んでいる。
適当に作っただけの魔道具だけれど、うまくいくものだね。
ただ、問題がひとつ。
この騒音でトロールが寄って来ちゃったよ。こうなるともう、相手になんかしていられないので、【静穏】の魔法で闘争心だのなんだのを無理矢理落ち着かせることで、戦闘を回避する。
こうして一時間ほど掛けて巨木を伐採。集まって来ていた何頭かのトロールを押し潰しながら倒れた。
これをインベントリに格納し、水分を抜いて乾燥させ、材木へと加工する。
えーっと……柱って、木の中央、芯の部分を中心に作るものだよね? 必要なサイズで柱の部分を確保して、それ以外の部分は板材へと加工してしまおう。
うまくいくかな? あ、できる。肉の解体作業と似たようなものだね。あっちは全自動だけれど。
一本分で足りるかな? あと二本ぐらい材木にしていこうか。余る分には問題ないし。そのままゼッペルさんたちへのお土産にしてしまおう。
あの人たちワーカホリックだからね。材料があればヒャッハー、暇が潰せるぜー! とかいって、なにかしら家具とか作り始めるし。
目の前を地響きを立てて、ちょろちょろぶらぶらとトロールが横切っていく。
ぬぅ、トロールうざいな。全裸でうろつくなよ。色々と見苦しいんだよ。まったく、同士討ちでもしてろ。
私を殺しに来ていたトロールたち。戦闘意欲を魔法で失わせることで安全を確保していたんだけれど、ちょろちょろと目障り以前に非常に邪魔だ。【狂暴化】を掛けてその場から逃げ出すことにする。
うん。【狂暴化】。掛けなきゃよかった。視覚的に。どん引きとかどうこういう前に、背筋が凍ったよ。
機材をインベントリに放り込んで、リリィを抱えてその場から離脱した。
数百メートルほど離れて、かろうじて樹々の隙間からみえるトロール同士の殴り合いを眺める。
迫力が凄いというか、ひどいな。こっちまで振動がわずかだけれど届くんだけど。
さすがに五メートル超えの巨人によるバトルロイヤルは迫力満点だ。
さて、目的は達したんだけれど、どうしようか?
上の階、浅層のお宝部屋へと戻り、暫し考える。
うん。最下層の突破を試みてみよう。時間がかかりそうなら、そこから帰ればいいし。考えてみたら、大木さんから貰った【転移の指輪】を使えば、大木さん家に脱出できるしね。
そう思いたち、私は最下層へと向け、ショートカットの階段を降り始めた。
★ ☆ ★
サンレアンに帰ってきましたよ。
最下層? うん。なんかね、私と異常に相性がよかった。考えてみたら、入った直後に飛んできた火竜を【竜墜】を掛けるだけでほぼ即死させられる、って時点で、思い至ればよかったんだよ。
竜。ほとんどが空を飛んでくるんだよ。
【竜墜】を掛けるでしょ。落ちるでしょ。即死、もしくは瀕死、最低でも色々骨折。
苦労しないんだよね。瀕死の竜に近づくのも怖いから、遠距離から【氷杭】をヘッドショットしまくって仕留めたし。
これがさ、最下層中ボスの地竜以外すべてに効いちゃったんだよね。
で、地竜なんだけれど、古竜体で【バンビーナ】の成体が赤ん坊かと思えるくらい大きかったんだけれどさ。それこそ、ディルガエアで語り継がれてるあれって、誇張無しだったのかよ! と思えるくらいに。
【麻痺毒】が効いた。
えぇ……。この巨体で効くの? 成体に効いたから試しに矢に塗って射たんだけれどさ。
あぁ、いや、本来なら効かないんだろうなぁ。そもそも矢が鱗を貫けないから。私の持ってる弓が頭おかしいからこその結果とおもおう。ラスボスの青銅竜には毒はまったく効かなかったし。
あ、最終の五階層のボスは、みんな竜だった。各種竜ね。色違い。赤(火)、青(雷)、緑(毒)、褐(蒸気)、青銅(全属性)という顔ぶれ。
個人的には褐が一番怖かったよ。火傷で一番酷い有様になるのが、蒸気による火傷って聞いたことがあるけれど、まさにその通りだったね。いやぁ、上空をすれ違いざまにブレスを吹き付けられてさ。直撃はしなかったけれど、余波をまともに喰らったのさ。
体中痛いわ、多分、皮膚がずるむけになったんだろうね。変な感触してるわと酷かったんだよ。あ、目は半ば失明して視界が真っ白って有様だったよ。
まさかそこで【死の回避】が発動するとは思わなかったよ。
その後、なんか勝ち誇ったように上空で滞空している褐竜に【竜墜】を掛けて落っことして、そのダメージにもがいているところを存分に冷やして凍らせて始末したけど。
青銅は、大木さんの云うように強かったけれど、あれは地力が他の竜と一線を画してるレベルって感じで、それ以外は、他の竜とさほど変わらなかった。
あまりにタフだったから、落っことしてから始末するまでにちょっと時間が掛かったけれど。やたらと頑丈だったな。
まぁ、そんな感じだった。
そしてこれ、普通の人には完全に攻略不能。そもそもボスに辿り着くのが困難。
上空をドラゴンだのワイバーンだのがブンブン飛び回ってるところを進むのは、先ず無理だよ。【竜墜】のクールタイムが五秒とかいう、破格の性能じゃなかったら、私だって回れ右して帰るレベルだよ。
宝物? あははは。お察しの通りだよ。【カノン】。鎧が全てそろったよ。そして【聖包丁カノン】なんてものが出たよ。
大木さん!? 外すっていってたじゃないですか!!
さすがにこんなものを国に押し付けるのもあれだから、これは私が使おう。包丁だし。幸い【カノン】は実用一辺倒のデザインだから、
あとで行くから、ちゃんと云っておこう。多分、すっかり忘れてるんだと思う。
それじゃ、指輪を出してと。大木さんの所に寄って、ついでにサンレアンにまで送ってもらおう。
誤字報告ありがとうございます。