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350 変身すればいいんだよ!


 いましがた云われた内容がまるっきり頭に入って来ず、きっと私はかなり間の抜けた顔をしているはずだ。


 なにしろ、聞いた途端にでた言葉が――


「は?」


 のこれだけだもの。


 試合場で暴れた(らしい)後に、私は客席には戻らずに、その足でイリアルテ家にまで帰ってしまった。そのことでリスリお嬢様とアレクサンドラ様が非常に心配して、部屋で頭を抱えている私の所へと突撃してきたわけだけれど。


 その後、なぜか明日の品評会本番のために忙しいハズのジラルモさんがやってきて、その話に私が思考停止しているのが今だ。


「いや、嬢ちゃん、呆けてないでしっかりしてくれ」

「……聞き違いかな?」

「聞き違いなもんかよ。女神様」


 ぎゃーす。どういうことよ。


「頭を抱えんでくれよ」

「いや、どういうことなんです?」


 というか、お嬢様方、なんで目をキラキラさせて、胸元で手を握り締めて私を見てるんです?


 愛の告白シーンとかじゃないですよ、これ。


「実はさっきまで、アダルベルトの奴と教皇猊下と、そこに何故か呼びつけられた俺とで相談してな。今後のことも考えて、嬢ちゃんを女神様であると、明日、宣言することにした。おかしな輩が嬢ちゃんを煩わせないために、こっちで先手を打っちまおうってわけだ。なに、鑑定盤での鑑定結果で、嬢ちゃんは【工神】と認定されとるんだから、問題ないだろ」

「問題しかないですよ!」

「でも女神様なんだろ?」

「片足しか突っ込んでません!」


 ……待て、今、なんて云った私!?


「お姉様!」

「やっぱり」


 今度はお嬢様方が手を取り合って目をキラキラさせている。


 見る人が見れば、薄い本を厚くしそうだ。


「なんだよ。やっぱりそうじゃないか」


 私はまたしても頭を抱えた。この口が先に出る癖はどうにかならないものか。いや、そもそもこれまで、喋ることを考えて話すなんてことしたことないんだよ。

 思考と一緒に喋ってるようなもんだから。


 口から先に生まれたって、こういうことを云うのか? いや、意味が違うか。


「やはりお姉様はアンララー様なんですのね!」

「いや、違いますよ、リスリ様」


 私は慌てた。さすがにそう思われるのは拙い。


「はぁ、それじゃもう白状しますけど、私、死んだら神様方と一緒に仕事をすることになっているんですよ。まぁ、一種の温情ですね」

「温情?」


 もうこうなったら仕方ないから、ぶっちゃけよう。ジラルモさんなら吹聴することもないだろうし。云うにしても国王陛下にぐらいだろう。


 教皇猊下は……普通はおいそれと会えるものでもないしね。


 ということで、私の魂が召喚されたことで変質してしまい、この世界でも、元の世界でも異物となってしまったこと。そのせいで輪廻に入れなくなってしまい、完全に産廃状態であることとかを話した。


 いや、産廃っていっても通じないから、その辺は分かるように話したけれど。


 そうしたら、なんだかみんな、なんとも表現しようのない顔で私を見つめるんだよ。


 多分、同情的なものなんだと思うけれど。


「だからお姉様は、もう帰れないと……」

「私の場合は召喚の際に死んじゃったので、どっちにしろ帰れないんですけれどね。……私がいまこうしているのって、考えたら本当に温情みたいなものなんですよねぇ。新しく体なんて創ったりせずに、魂を消し去ってもよかったでしょうに。神様方は随分と情があるようです」


 情、というわけでもないのかもしれないけど。クラリスは元の世界の時間軸管理者の玩具というか、実験素材? みたいなことにされているらしいし。


「というかですね、ジラルモさん。私が神認定されたら、どうしたらいいんです?」

「ん? いままで通り好きにしてたらいんじゃねぇか?」


 は?


「え、いいの? いや、今まで通りとはいかないでしょ。教会に軟禁されるとか?」

「あの教皇猊下がそんなことするかい。つか、そんなことしようもんなら、それこそ教会に神罰が落ちらぁな。まぁ、なんだ。ちっとばかり、外を歩くと周りの人間が平伏(ひれふ)すくらいだろうよ」

「えぇっ、それって大分――」


 あれ? 素顔を晒して歩いている時と変わらないか。とすると、髪色以外の変装とかしないでいい感じ?

 いや、でも平伏されるっていうのはちょっとなぁ


 そんなことを思ったところで、あることを閃いた。そうだ、これならうまくいきそうだ。

 場合によってはサンレアンを引き上げることになるけれど。


 まぁ、どう転ぶか分からないけれど、とりあえず姿を消すことも念頭にいれて、しばらく……短くて半年? ながければ数年くらい引き籠って様子を見る? いや、数年とかなら、どっかに引っ越した方がいいか。


 明日の品評会で、私の武具一式関連の行き先と共に、この件も発表するそうだ。あぁ、あの翠晶武具一式だけれど、【風神教】へと行くことになったよ。アンゼリカ様が聞きつけて、文字通り飛んできたらしい。


 飛行魔法とかではなく、ナナウナルル様の祝福の一種らしい。ナナウ様の祝福は一種類ではなく、複数あるようだ。というかだ、アンゼリカ様がこっちにあっという間に来たのはそれでいいとして、どうやってナナトゥーラに連絡したんだろ? 無線機っぽいものでもあるのかな? 帝国にはあるみたいだけれど。


 ジラルモさんはそれだけを伝えに来たらしく、滞在時間はわずか三十分ほど。お茶も飲まずに帰っていった。

 なんだかもうしわけないから、パウンドケーキをお土産に渡したよ。インベントリに放り込んでおいた、作り置きのひとつだ。それと、あす教皇猊下も品評会に来るそうだから、伝言をお願いしたよ。


「『召喚器により召喚された者は、全部で五人ですよ』って、伝えてもらえます?」

「そんなことくらいなお安い御用だが。明日の朝一で打ち合わせをすることになっているからな。五人だな?」

「えぇ、五人です。これでわかるかと思いますよ」


 認定されちゃうんだったら、とことんやってもらいましょう。多分、これでわかるんだと思うんだよね。私が何者か。

 テスカセベルムにばれると、ちょっと面倒かな。ヴィオレッタは感づいていそうなんだよねぇ。私が城内にいること自体おかしいわけだしね。


 ま、なんとかなるでしょ。


 一応、大物ダンジョンをクリアしておこう。最悪、あそこの最下層で暮らせばいいや。

 大木さんの所? いや、さすがに竜の姿であるとはいえ、男性の家を生活拠点とするにはねぇ。




 さて、夜となりました。時刻は深夜零時を回ったところ。


 リスリお嬢様たちもさすがに今日は気を遣ってくださったのか、ひさしぶりにひとり寝ですよ。


 寝てないけど。


 さっき思いついたことを実践しようと思ってね。そのために小道具をつくるのさ。


 さっき思いついたこと。変身。


 そう、変身すればいいんだよ!


 ということで、変身のために作るものはカラコンと、髪色を変えるペンダント。


 カラコンは前にも作ったことがあるから、もうコツはわかってる。問題はペンダントの方だ。


 ララー姉様から貰った神器だけれど、これ、コピーとかできるのかな?


 とりあえず、物質変換で創ってみる。


 作業用に置いてある簡素なテーブルにつき、両手の平を迎え合わせにして魔法を発動する。


 真っ黒い、微妙に青く光る砂できた球体のようなものが出現し、そこからペンダントトップがポトリと落ちて来る。


 赤い石の嵌ったペンダントトップ。これ、なんの石だろ? この魔法、結構アバウトなんだよね。私のイメージが適当なのかもしれないけど。


 前にカラコン作った時も、色の調整で苦労したしなぁ。あ、これレッドジャスパーっていうのか。うん、知らん。


 そんなことよりも、ちゃんと髪色は変わるのかな?


 ペンダントに組紐を通して、首に掛ける。お、変わった。変わったけど。


 こっちの世界で一番多い髪色は赤系。金褐色とか赤茶の髪色が一番多い。だからその辺を狙ったんだけれど……なんで緋色になるかな。これじゃ凄い目立つんだけれど。


 失敗。それじゃもう一回。


 ……。

 ……。

 ……。


 四苦八苦しつつ、七つ目。今度のはオレンジ色の宝石のペンダントトップ。サンストーンの嵌ったものが出来上がった。そして変化した髪色は、ほぼ狙った金褐色。……気持ち明るいから、光の加減だと亜麻色っぽくも見えるかな。とはいえ、元の髪とは印象がまるで違う。


 これにカラコンで瞳の色を変える。


 あれ? なんかオレンジ色っぽいのができた。おかしいな。グレー系にするはずだったんだけれど。髪色で赤系をあれこれやってたせいかな?


 まぁ、ちょっと着けてみよう。


 着けてみたところ、元の瞳の色と相まって、いい塩梅に明るい茶色になった。これいいや。端っこの方はオレンジ色っぽくグラデーションになってるし。


 さて、髪と目の色は変えた。そして次が本番だ。


 私の少し抜けた顔立ちをどうにかしますよ。抜けたっていうのは、ややタレ目気味なんだよね、私。この目のせいで、微妙に目を伏せたりすると流し目みたいになって、無駄に色気が出るというね。


 それと、神像の顔立ちも柔和な感じでデフォルメしているせいか、ディルルルナ様とアンララー様の神像も、妙に東洋人的な顔立ちの上、やたらと色気のある感じになっているんだよね。


 まぁ、だからこそ私がうりふたつなんていわれる羽目になっているんだけど。


 泣き黒子が無駄に色気を増長させてるしなぁ。なんでこんなところばっかりあの女から受け継いだのかしらね、私。いや、あれはタレ目じゃなかったけど。


 それじゃ、この顔をメイクで作り直すよ。


 メイク道具をどどんと。


 目元をくっきりさせて、つり目っぽくすればいいかな?


 プロ級とはいかないけれど、メイクの腕にはそれなりに自信があるぞ。


 特徴のある黒子とかをけして、メリハリをしっかりつけてと……。


 完成。


 ……時折お兄ちゃんが、女は怖いぞ、とかいっていたけれど、うん、鏡に映ってる私の顔を見る限り、その通りだよね。


 別人レベルで変わったよ。我ながら怖いというか、気味が悪いな。ここまで変えられるっていうのは。


 最後の仕上げは胸を抑えて、ハイヒールで背丈を嵩増ししてと。あとはここに、昨年エメリナ様から貰ったメイド服を着ればいいかな。


 ……ヒールのある靴なんて殆どはいたことがないからな。ちょっと危ないかな。技巧を底上げしておけば、普通に歩く分には、ドーピング補正であしを“ぐきっ”とかやったりしないだろう。


 メイドの恰好なら、ほんとうならベタ靴なんだろうけれど。


 姿見で確認。


 ふふ、いい感じ。これで明日、どうなるかやってみよう。でもまずはリスリお嬢様で確認をするとしよう。


誤字報告ありがとうございます。

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