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35 蛙さんだぁ!


 やって来ましたよ。ダンジョン【アリリオ】!

 ――の宿場。


 時間のせいか、人出はまばらだね。でも屋台が並んでるこの雰囲気はアレだ。


 縁日。


 串焼きだの果物屋だの、あれはお酒かな? そんな感じの屋台がたくさん並んでる。

 建物は多くはない。まぁ、ダンジョン探索支援のキャンプ地だからね。

 組合経営の宿泊施設に、組合の出張所。それと商人たちの出張店舗? なんというか、長屋的な感じな建物に、お店がいくつも入ってる。


 これあれだ、ショッピングモールみたいなものだ。


 この宿場の建物はすべて丸太小屋だ。きっと、壊されることが前提になっているのだろう。集団暴走が起きて被害がでたとしても、建て直しし易いようにしているように思える。


 火には弱いだろうけど、火を吐く魔物なんてそうそうでて来なさそうだし。


 さて、私はどうしましょうかね。


 まずは宿をとる? ……いや、このまま森に行くしなぁ。戻って来た時、部屋が借りられなかったら、また野宿すればいいし。


 ははは。さすがにひと月近く野宿生活すれば、いろいろと慣れるってもんです。宿場の近くなら、なにかあってもすぐ逃げ込めるしね。



 あ、一応、組合の出張所には行っておこうかな。なにか狩猟依頼があったら、受けてみよう。

 そういや、狩人さんたちも、ここを一時拠点にして森に入ったりしてるのかな? リカルドさんたちに訊いとけばよかったかな?

 まぁいいや、もうここまで来ちゃったし。


 えーっと、出張所はどこだろ?


 まさにお上りさんな感じで、キョロキョロしながら通りを進む。

 そういや、通りも舗装なんてされてないね。


 乾いた地面をブーツで踏みつけつつ進む。

 ちなみに、今日の恰好は革鎧一式です。革鎧といっても、ブーツだけ暗殺結社のモノにして、他は盗賊ギルド仕様のものだけど。なので全身魔法の防具となっています。

 背には新たに買った背嚢に、アップデートでインベントリに追加された弓と矢筒を背負っている。

 アプデについては後程。


 あ、兜は付けずに、いつもの仮面にしてありますよ。


 テクテクと歩いていくと、あっという間に宿場を縦断してしまった。

 正面に見えるのはバリケード、でいいのかな? 先を尖らせた丸太をX字に組み合わせた物騒な物が並べてある。


 その向こうに、巨大な巨石建造物? あれがダンジョンかな?

 巨大な一枚岩を左右にドドンと置いて、その上に同様に一枚岩を載せただけのような物が見える。幅は三、四メートル。高さは六メートルくらいあるかな? あ、岩に囲われてできた入り口部分の大きさね。岩の幅を加えると、更にプラス一メートルくらいかな。


 入り口部分は真っ暗だから、向こう側も同じように岩が積まれているのだろう。が、その巨大な入り口の向こう、左右斜め後ろあたりに、巨大な石柱が突き立っている。あれはなんなんだろ? 見た感じダンジョンの一部だよね? あれ。


 もうちょっと近くで見てみよ。


 テクテクと入り口に向かって進む。


 ほへー。でっかい。


 少しばかり仰け反るように入り口を見上げる。

 さすがにここまで大きいとは思わなかったよ。

 あ、作業してる人たちの邪魔にならないように、柵のところに寄っとこ。

 あれは犯罪者の人たちかな? 背中に籠を背負ってる……台車とか使っての骸炭採集じゃないんだ。


 革鎧に金属板を張り付けた軽鎧を着こんだ兵士さんがふたり。作業員が六人。これでワンセット、というか一パーティってことかな?


 ダンジョン右側に、倉庫と宿舎、それと事務所と思しき建物がある。

 事務所のほうは、兵士の詰め所も兼ねてるのかな?


 あ、倉庫の脇に荷馬車が停まってる。いまは荷物を積み込んでる途中だ。遠目でよくわからないけど、焼き印を押された木箱が積み込まれている。


 あれは骸炭かな? それとも岩塩かな? あ、そうだ、外れ岩塩を買わないと。組合で買えるかな? 行ったら忘れずに訊かないとね。


「おい、そこの。そこでいったい何をしているんだ?」


 ほい?


 声のした方に振り向くと、槍を持った兵隊さんがひとり。


 って、なんか、私が振り向いた途端にたじろがれたよ?

 そんなにインパクトあるのかな、この土偶仮面?


「お仕事ご苦労様です」

「お、おう。お嬢ちゃんはここに何しに来たんだい?」

「あぁ、今日初めてダンジョンに来たので、見物です。あまりに入り口が大きくてびっくりしてたんですよ。

 あ、今日は中に入る予定はありませんよ」

「あぁ、それならいいんだ。こど……ひとりで入るような場所じゃないからな」


 子供と云いかけましたね? まぁ、この背丈だから、そう思われるのはあきらめるしかないか。


「でもそのうち入る予定ですよ。こんな見てくれですけど、一応成人してますし、ちゃんと探索者登録してますよ」

「えっ?」


 うーむ、これはもう、日本人の宿命みたいなものなんですかね?

 外国での子供扱いの話はよく聞くし。


「昨日登録したばかりなので、まだ仮の登録証ですけど」


 そういって木製の仮登録証を見せた。


「おぉう、本物だ。嬢ちゃん、いったい幾つなんだ? 十二、三にしか見えないんだが」

「十七ですよ」

「十七歳!? ぜんぜん見えんぞ!」

「いや、背丈だけで決めつけないでくださいよ」

「なら、もっとちゃんと食え。いくら何でも細すぎだ!」

「はい?」


 細いって初めていわれたよ。ちょっとびっくりだ。胸のせいでそんなこと云われたことなかったからね。


「だって、ドワーフなんだろ?」

「いや、人間ですよ」


 兵士さんが胡乱気な目で私を見つめる。


 えぇ、どういうこと?


「だがその眼鏡、ドワーフが拵えたよくわからん道具なんだろう?」

「よくわからんって、これは遮光器ですよ。雪目とかにならないために使う道具です。降雪地帯とかでは普通の道具ですよ。まぁ、私は顔を隠す用途で使ってますけど」

「顔を隠すってなんでだ? 自分でそんなことを云うくらいだし、別にやましいことがあるわけでもないんだろ?」

「……誘拐されるんですよ」


 私は答えた。

 兵士さんがあんぐりと口を開けて固まった。


 嘘じゃないぞ。


「どうしました?」

「誘拐?」

「はい。これまでに二回誘拐されました。運よく逃げられましたけど」

「なんでだ?」

「私は金持ちってわけでもないので、完全に見てくれじゃないですかね? なのでこの遮光器を身に着けてるんですよ。こんなのを身に着けてる変な女を攫おうとする物好きはいないでしょう? 実際、声を掛けてくるのは、兵士さんみたいに、私を怪しむ人だけになりましたよ。変な輩に声を掛けられなくなったので、私には必須のアイテムです」


 そういって胸を張ると、なぜか憐れむものを見るような目で見られた。

 何故だ!?


「兵士さん?」

「あぁ、いや、難儀してるな」

「えぇ、本当に。あ、そうだ。組合の建物はどこでしょう? ダンジョンの入り口に目をとられて、まっすぐここに来ちゃったので、場所が分からないんですけど」

「あぁ、組合ならすぐそこ、右側の建物だ」

「おぉ、あんな近くに。ありがとうごさいます。お手数をおかけしました」


 お礼を云い、今度こそ組合に向かう。

 なにかできそうな狩猟の依頼があったら受けておこう。インベントリに突っ込み放しの、未解体の兎さんを処分してもいいしね。というか、スクヴェイダーを処分したい。

 ……美味しかったけど。美味しかったけど! それだけに余計ムカつく。


 我ながらどんだけアレを生理的に受け付けてないんだ、私。


 半ば狭量な自身に呆れつつ、私は組合の扉を潜った。


 ころんからんころん。


 あ、サンレアンとはちょっと音が違う。


 扉に上部についた……これもドアストッパーっていうのかな? 壁にドアノブが激突するのを防止するつっかえ棒に、鳴子みたいな木の棒が四本ぶら下がっている。


 中は閑散としていた。まぁ、お昼時だし、ダンジョンなり狩りなりに出ているのだろう。受付のお兄さんしかいないよ。


 それじゃ、張り出されている依頼書を見てみましょ。といっても、見るのは常設依頼だけど。


 えーと……あぁ、端っこに並べてあるのね。


 ……。

 ……。

 ……。


 うん。インベントリに入ってる奴で問題なさそう。

 と、そうそう、外れ岩塩のことを聞かないと。


 私は受付にまでいくと、まず常設依頼について確認を取った。

 要は、依頼を請けずに獲物を持ってきても問題ないかどうかの確認だ。


 もちろん、これは問題なかった。ただ、場合によっては若干買取り料が変動することがあるそうだ。


 そして外れ岩塩。邪魔だから、持って行ってくれるならありがたいと云われたよ。現在は採集してるわけではなくとも、どうしても間違っていくつかは搬入されるため、じわりじわりと倉庫に不良在庫として増えていくのだとか。


 現状、木箱に二十数箱分あるらしい。


「全部買います。サンレアンまでの運搬費を含めると幾らになりますか?」


 と訊いたら、お兄さん、目が点になってたよ。

 まさか買う物好きがいるとは思わなかったんだろうなぁ。


 処分費用が掛からずに処分できるということで、ほぼ実費のみで購入できたよ。運搬費含めて金貨一枚で済んだ。

 木箱のサイズは六十x六十x六十くらいの大きさだから、結構な量だろう。


 間違って採集されたものを集めたんだから、これで何年分なんだか。


「えーと、あ、住所がわかんないや。サンレアンの教会の向かいの家までお願いしたいんですけど、こんな頼み方で大丈夫ですか?」


 必要書類にサインしつつ、お兄さんに訊ねた。


「えぇ、問題ありませんよ。あそこに越されたんですか?」

「はい。運よく土地の使用許可を頂けたので。あ、事故のことは知ってますよ」


 そう云ったら苦笑いされたよ。


「ところで、こんなに外れ石を買ってどうするんです?」

「今後値が跳ね上がる可能性があるので、先に買い占めです。自分で使う分は確保しておきたいですからね。もしかしたら、イリアルテ家から、あるだけダンジョンから回収しろって依頼があるかもしれませんよ?」


 少なくとも、まだ依頼はでてないみたいだね。トロナの精製が納得できるくらいになるまでは出さないのかな? 料理長さん。

 それとも、サンレアンの組合で探索者に依頼を出したのかしら?


 まぁ、考えてもわからないや。私は自分の分を馬鹿げた量を押さえたからいいや。


「書けました。それじゃ、あとはお願いします」

「……はい、確かに。お届けは明日になりますが、よろしいですか?」

「留守番の者しかいないですけど、大丈夫ですかね?」

「料金は戴いているので、問題ありませんよ」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」


 よっしゃ、重曹確保! これでどら焼きを作るんだ。

 中身はあんこじゃなくて、シュガーレスジャムになるけど。


 赤ベリーと黒ベリー、どっちが美味しいだろう?


 そんなことを考えながら、森へと向かうべく組合を後にした。


 ◆ ◇ ◆


 さてさて、昨夜のことですが、最終アップデートがありました。

 これで私の体……能力や魔法に関してはほぼ完了です。『ほぼ』なのは、問題が出る可能性がないとはいえないからね。


 で、大きな変更がひとつ。というより、常盤お兄さんもいろいろ悩んだ結果なんだろうね。魔法の効果時間が、ゲーム内時間ではなく、基本リアルタイム準拠となりました。ただ一部例外として、変成魔法の灯り関連と、一部言音魔法の効果時間は長いままとなっている。


 変成魔法の効果時間変更の結果、リスリお嬢様とエメリナ様の記憶を一部改竄することに。【照明】の効果時間が一時間から五分と短くなった。まぁ、五分もあれば十分だ。掛け直せばいいし。


 途中で消したいときには、【自己解呪】の魔法を使うことになる。


 そして召喚魔法。こちらも大きな変更が。召喚時間がゲーム準拠になったので、基本一分。最大三分と変更。達人級の【永続召喚】のみ、召喚時間無限となる。


 で、スケルトンがリストラされました。それに伴いスケルトン兵とスケルトン弓兵がワンランク格下げ。玄人魔法にスケルトン魔術師が追加となりました。


 そしてこれが最大の変更。魔人ポジの召喚が追加。ただ、これは【永続召喚】のみとなっている。


 どうもこれ、常盤お兄さんが、私の護衛役のつもりで加えたみたい。

 鎧を着こんだ人型なので、そこまでは目立たないかな。

 ちなみに名称は【狂乱侯(レイバーロード)】。召喚の際、男性か女性かを選べる。多分、女性の方しか使わないかな。いや、男性を連れていると、変な噂になりそうだしね。一緒に住むことになるわけだし。


 次に言音魔法。こちらも効果時間が一部を除きゲーム準拠に。

 その例外は【幻影】。うん、まず使わないね。


 それ以外だと【風駆け】が効果中プラス数秒間無敵になりました。うん、あの危ないのを安全にしてもらえたみたい。なので、自爆で死ぬ心配がなくなりました。


 大きな変更、というよりは、きちんと確定したって感じだね。


 そして物資が大量に投入されました。


 武器がどさっと。いま背負ってる狩人弓は、新しく追加された弓だ。まぁ、飾りで背負ってるだけだけどね。一応、動物特攻がついている。

 それとなんの魔法も付与されていない基本武器が各種一式と、ほとんど産廃の魔法武器がいくつか。

 そして実用的な物として、対アンデッド武器としては完全にチートの【デイブレイカー】が追加されました。


 私の愛剣。まぁ、威力は控えめな剣だから、アンデッド戦でしか使わないだろうけど。

 いや、それ以前に接近戦なんかしたくないから、これもよっぽどじゃないと使わないかな。


 そして最後に、下着!


 これが一番ありがたかった。いや、こっちの下着はちょっとね、現代のものに慣れちゃってるとどうしてもね。


 ◆ ◇ ◆


 さて、そんなこんなで森に着きましたよ。


 宿場からたいして離れてないしね。というか、ダンジョンから二百メートルくらいだよ。とはいえ、ダンジョンを森から切り離して、周囲の森を開拓って、かなり大変だったろうに。


 いつダンジョンから魔物が出て来るかもわからない、森からだって猛獣だの魔物だのはでてくるだろうし。


 アリリオさん、頑張り過ぎでしょう。いったい何が彼を駆り立てたのか。そんなことを考えちゃうよ。

 と、それよりも採取採取。……うーん、このあたりは、もうすでに取ったのばっかりだね。外縁はさして変わらないか。まぁ、同じ森だし。


 それじゃ、奥へ行ってみましょ。【霊気視】を使って索敵はしっかりしておかないとね。


 下生えを踏みつけながら、奥へ奥へと進んでいく。

 ……我ながら足音がしないのは気味悪いな。ブーツに掛かっている【無音歩行】の魔法のおかげで、歩く音どころか、私が立てているであろう音がすべて消えている。


 藪漕ぎなんてすれば、ガサガサとうるさいハズなのに無音だ。

 凄いなこれ。とはいえ慣れるのにはちょっと時間が掛かりそうだ。


 三十分ほど進み、適当に辺りを見回す。


 採取していない草はないかな。


 って、あれ? なんか見覚えのあるのが――って、ドクダミだ!

 おぉ、効能がいっぱいあるドクダミじゃないですか。えーと、湿布の替わりに使えて、切り傷にも効果があって、服用すればお腹を整えてくれるんだっけ? 便秘とかにも効くんだったかな?


 あ、あっちには赤紫蘇がある。紫蘇はいろいろ使い道があるし、沢山とっていこう。紫蘇の実の天ぷらとか美味しいんだよね。これも庭に植えて増やそう。


 くっ、こうなると梅干を漬けたい。でも肝心の梅がないよ。


 この白い花はなんだろ? オオアマナ? 採っておこう。


 目についた植物を、適当に採取していく。インベントリから移植ごてを取り出し、根っこからしっかりと掘り起こしてインベントリに放り込む。


 そんなことを夢中になってやっていると、いつのまにか目の前には湖が広がっていた。


 おぉ、綺麗だ。向こうのほうで虫が飛んでるのが見える。トンボかな?

 と、【霊気視】が切れてる。掛け直そう。


 湖の際にまで歩きながら、【霊気視】を再びかける。すると湖を泳ぐ魚のシルエットが赤く視界に映し出された。


 たくさんお魚がいるねぇ。釣りなんかしたらいいかもしれない。そういや肉ばっかりで、お魚とか売ってなかったな。

 まさかと思うけど、食用に足る魚がいないとかないよね?


 ん? 何だアレ? 随分とずんぐりとした形。


 湖の奥、というか深い場所に、一際大きなシルエットを見つけた。それはラグビーボールにクジラのヒレと長い尻尾を付けたようなシルエット。


 なんだろ? オタマジャクシ? いや、オタマジャクシにヒレはないでしょ。って、大きいな。お魚の数倍どころの大きさじゃないよ。あのお魚、ニ十センチくらいあるよね? どんだけでかいんだ、コイツ。二メートル半くらい? 尻尾入れたら四メートルくらいありそう。


 赤いシルエットが水中を移動しているのを目で追う。浮上してきてる? だがそこで効果が切れ、シルエットは見えなくなった。三十秒は長いようで短い。

 クールタイムが終わるまであと二十秒。


 ……ちょっと怖いな、このタイムラグは。


 身を屈め、水面を注視しながらゆっくりと水際から離れる。

 湖に入るわけにはいかない。水棲の魔物のテリトリーに進んではいるのは自殺行為もいいところだ。

 なれば、攻撃手段は遠距離一択。……いやいやいや、逃げようよ、私。


 一応戦闘準備はしておく。

 昔から嫌な予感だけは当たるんだ。多分、もう見つかってると思おう。

 下手に逃げて、後ろから攻撃されるのはたまったものじゃない。


 ヘイトを取ってもらうことも考え、左手には既に【スケルトン魔術師(すけるとんメイジ)】をセット済みだ。右手には【氷杭(アイスパイル)】を一応準備している。


 息を潜める。


 やがて水面に波紋が生まれた。


 あ、水面から目が現れた。

 その姿には見覚えがある。あれは――


 か、蛙さんだぁ!


 湖に潜んでいた巨大な魔物。それは蛙の魔物。

 でも、シルエットで見えた姿は蛙とは云い難いね。

 水面から蛙が頭を半分ほどまで出てきた。


 大きい。頭の幅だけで一メートルはあるだろうか。青緑色の体色をした蛙。体表はくすんだように見える。きっと殿様ガエルやアマガエルのような滑らかな皮ではなく、ザラザラとしたものだろう。


 足じゃなくて、ヒレだものね。サメとかみたいに泳ぎに特化しているのかな?


 ずっとこっち見てるね。

 草に身を潜めてるけど、この草、そんなに丈が高いわけじゃないからなぁ。


 どうしよう? やっぱり見つかってる? 見つかってるっぽいな。

 あんなデカブツと真正面から戦いたくないんだけど。


 緊張感に息が詰まる。


 戦うか、逃げるか、私が決めかねていると、大蛙が動いた。

 水面から完全に頭をだし、その口を開ける。


 蛙がその大きな口を広げ開けた直後――




 急に森がざわめき、わけもわからず、私はその場にへたり込んでしまった。



誤字報告ありがとうございます。

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