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34 そんな材料の薬を飲みたいと思う?


 あぁ、そこそこ朝早く行ったのに、お昼過ぎちゃったよ。

 でもまぁ、その分、いろいろと情報は入りましたよ。


 その結果、アレカンドラ様にお願いしなくちゃならないことがひとつできたけど。お願いして大丈夫かな、これ。


 こんにちは、キッカです。


 仮の組合登録証を貰って来ましたよ。正式な登録証は後日渡されることに。

 なんでも特殊な加工をするため、少々時間が掛かるそうだ。

 あ、サイズは定期くらいの金属板。いま持ってる仮のやつは木製だけど。


 そしていまはゼッペルさんの所へ向かっています。


 自宅の塀を造ってもらわねば。




 さて、冒険者組合(正式)ではいろいろとお話を聞いてきましたよ。


 規約関連はごくごく当たり前のことだったので、それは割愛。


 探索者組合、狩人組合、傭兵組合が合併することになった経緯を教えてもらったよ。理由は単純で、各々が仕事を喰いあったというか、棲み分けできていたことが、できていないというのが原因。


 例えば、ダンジョンと街の移動の際、本来は傭兵の仕事である商人護衛依頼が探索者にいったりとか。

 護衛任務中の傭兵が、狩人に駆除依頼が出されていた猛獣を討伐したりとか。

 ダンジョン内に生息する魔物の狩猟依頼が狩人に出されたりとか。


 他にもいろいろ互いの領分に踏み込むようなことがあり、トラブルは日常的に起きていたようだ。

 とはいえ、組合同士が対立するほどのことではなかったため、半ばなあなあで済ませていたのだが、この十年ほどは、そうもいかなくなってしまったそうな。


 依頼人から『これはどこに依頼したらいいのかわからん』という苦情が各組合で一気に増えたからだ。というのも、この棲み分けに異常にこだわった受付が、依頼者に対し『これはうちの案件じゃない、他に行け』という応対をし始めたのが原因だ。

 そしてそれが、各組合の受付に伝播してしまったのである。


 これまでは引き受けて貰えていたことが、突然他を当たれなどと云われれば、依頼人は当然混乱するし、激怒もするわけで。


 これまで三組合間で暗黙の了解とされていたことが、急に厳密に行われはじめたことにより、苦情が激増したのである。殊に、得意先ともいえる依頼者からも苦情が来ようものなら、慌てずにいるなどできようもない。

 なにしろ収益に思い切り影響がでますからね。


 結果『もう組合をひとつにまとめよう』ということになり、三組合は合併されたのである。


 まぁ、イリアルテ家が、強引に推し進めたということもあるらしいけど。


 あ、原因となった受付嬢は解雇されて、王都の犯罪者管理局に回されたそうな。なんでも「これこそ私の天職」と喜んでいるらしい。

 ついでに他の、彼女に賛同して、やりたい放題していた受付の人たちもクビを切られたとか。


 いや、なんか変な影響を受けすぎて、使い物にならなくなったらしい。中には、依頼人に賄賂を要求した馬鹿者もいたらしいし。


 害悪でしかないな、最初の受付嬢。悪いことをしているわけではないが、やり方ってもんがあったでしょうに。


 そして合併後、名前の決まっていなかった組合の命名を私がしてしまったと。


 ……本当に冒険者組合になっちゃったよ。ティアゴさんとサミュエルさんは、他所とトラブルにならなければ問題ないと思っていたらしい。もっとも常識的な範囲内での命名なら。


 そして冒険者はその範囲に入ってしまったようだ。


 いいのかなぁ。どう考えても、冒険者って職業じゃないと思うんだけど。


 ま、まぁ、決まったものは仕方がない。


 そうそう、探索者について少し確認してきたんだよ。

 探索者の主となる仕事は、集団暴走を防ぐために魔物を間引くこと。でも、どれだけ討伐したかなんて確認できないわけで、そこはどうしているのか聞いたんだよ。


 魔物の胸部にある魔石。なんだか胆石みたいなものらしいけど、これを持ってくることで討伐の確認としているそうだ。鑑定盤に載せれば、なんの魔物の魔石か分かるので、討伐料の支払いにミスがなくなるのだとか。


「魔石はどんなことに利用されてるのですか?」


 訊いてみたよ。そしたら現状では使い道がなく、倉庫に溜まる一方とのこと。

 なんでそんなことになっているのかというと、御神託で廃棄してはならないと厳命されたからだ。


 事情を知っているので、まぁ、わかるけど。

 というか、ダンジョンの生み出した魔物って、魔素を固形化する生体装置なんじゃなかろうか? それを地上に放って、増えればおのずと魔素濃度も落ちるし。まぁ、固形化した魔素が増える一方になるけど、気化しているよりマシってことなのかな?


 となればだ、この有り余っている魔石を消費利用する何か、道具を考えれば、邪魔な魔石を消費出来、おのずと魔石に価値が生まれることになる。そしてそれは収入に繋がるだろう。


 まぁ、さすがに減らさないとマズいだろうし、その辺を考えるか。

 そこで思い浮かんだことがひとつ。


 現在、魔法の普及ということで、呪文書販売を決めたわけだけど、普及にはもうひとつ、いや、ふたつ方法があるんだよ。


 ひとつは魔法の巻物。開いて読めば、記された魔法が使えるというものだけど、魔石なんて使わないから却下。そもそも私は造れない。ダンジョンから発見されたりするのかな?


 そしてもうひとつが魔法の杖だ。これは杖に封じられた(っていえばいいのかな?)魔法を、杖に込められた魔力分、誰でも行使できるというものだ。

 そして魔力の補充には魔石を使う。


 頭に魔法を刻むのは嫌だっていう人もいるだろうし、なによりこれなら、誰かに譲渡することもできる。……盗まれるリスクもあるけど。


 魔法の杖を造るのは簡単だ。専用の付術台で、魔法の杖の素体に魔法を付術すればいいだけだ。


 ただ問題がひとつあって、魔法の杖の素体を造るのには、【生命石】という特殊な鉱石が必要となる。


 ……うん。【生命石】なんだけど、これゲームのアイテムなんだよね。当然リアルには存在しないわけで。でも、なぜかインベントリにはいっぱい入っているんだけど。


 とはいえだ、これを私が放出したんじゃ意味はない。いっぱいといっても、限りがあるからね。


 そこでダンジョンですよ。

 ダンジョンから産出できるようにならないか、アレカンドラ様に相談しようと思うのですよ。

 もし産出できるのであれば、魔法の杖も放出しましょう。こちらは攻撃魔法も有りで。


 杖なら普通の武器と一緒だからね。

 魔法だと暗殺とかやりやすいでしょう? 手ぶらでいいんだから。だから攻撃魔法の普及は現状避けてるのさ。

 杖なら剣と同じく預かればいいだけだし、警戒もできるしね。


 南方だとこの辺はどうやって対処しているんだろ? 大半が魔法使いというか、超能力者的な人たちらしいし。

 やっぱりそういう索敵能力者頼りになってるのかな? 要人警護とかは。


 そうなるとこっちでは無理だね。やっぱり攻撃魔法とかの普及は、ほぼ無期限で見送りにしておこう。


 おっと、危うくゼッペルさんのところを通り過ぎるところだった。

 依頼してきましょ。




 結局塀は、ふつうに煉瓦を積んでもらうことに決めた。木製は耐久度が心配だし、植え込みは根が敷石に影響を与えそうだからね。なので、無難に煉瓦積みです。


「工事は明日からはじめるぞ」

「随分と早いね」


 材料とか大丈夫なのかなと思って聞いたら。


「……暇なんだよ」


 と、云われた。


 私が注文した家具はどうなってるのか訊いてみたよ。いや、暇だなんて言われたからさ。そうしたら、木工に関して一番の腕を持っているベルントさん、ゼッペルさんのお弟子さんのひとりが異常に張り切って、他の者に手伝わせないんだとか。


 なんか、そんなことになった原因が、私が焼いたパウンドケーキにあるようで。

 これ、早めにもう一度焼いて持ってこないといけないな。

 外れ岩塩、仕入れてこないと。


 あ、外れ岩塩っていうのは、トロナって鉱石のこと。見た目が岩塩っぽいんだよね。おまけに形が岩塩と一緒。現状ではなんの使い道もないらしい。


 どうもダンジョンは形状を規格化しているらしく、骸炭も、岩塩も、トロナも、みんな豆炭の形状をしているんだよ。

 そのせいで、たまにまとめ買いした岩塩に、外れとして弾かれずに混じっていることがあるそうな。


 で、こいつを砕いて石灰石を加え骸炭で高温で焼くと重曹ができる。かなり乱暴な精製だから不純物も混じってるけど、そこはインベントリで分別ですよ。


 ……使うことあるのかって思ってた機能を、さっそく使うことになったよ。


 そうして手に入れた重曹を使って、パウンドケーキを焼いたのですよ。イーストもベーキングパウダーもないからね。ならば使うのは重曹一択です。


 トロナがあって助かったよ。これもダンジョン産だから、絶対何か使えるはずだと思って、インベントリで鑑定したんだ。そのあと奥義書見たら簡単な精製法が載ってて助かったよ。やー、これで固いパンとはおさらばですよ。


 こうして出来上がった『ちょっぴり焦げ焦げパウンドケーキ』の試食で、イリアルテ家の料理長さんが心配になるほど狂喜してたけど。


 そのあと料理人総動員でパウンドケーキ作りまくったけど。あの時は気分が高揚し過ぎて、みんなどっかおかしかったからね。私も含めて。


 調子にのって五十個くらい焼いたし。型は五つだから、十回も焼いたのか。


 で、私は十個+試作品を貰ったんだ。その十個はゼッペルさんのところへの差し入れと、周囲への建築による騒音のお詫びと引っ越し挨拶、そして私のおやつで消えた。


 そういや、食事の戒律みたいなものはないらしくて、教会でも喜ばれたよ。


 やっぱり美味しいものを求める欲求は凄いね。

 あの大雑把なトロナ精製の仕方を見てたから、料理長さん、トロナを買い占めてるんじゃないかな? 捨て値、下手すると無料(タダ)で手に入るし。


 うん、明日【アリリオ】に行く予定だから、私も買い占めておこう。




「そんなわけで暇だ。資材はあるから、明日からはじめるが、問題ないな?」

「うん。お願いするよ」


 こんな感じで建築依頼は完了。あ、それと門から玄関、および倉庫の入り口にまで敷石も敷いてもらうようにもお願いした。ついでに花壇として庭の東側を煉瓦で囲ってもらうことも。家具と合わせて、これで白金貨一枚くらいになるだろう。


 ……まだ多すぎるって云われるかもしれないけど。


 ◆ ◇ ◆


 こうしてやっとお家に帰ってきましたよ。


 そしていまは倉庫と云う名目で建ててもらった建物のひとつに来ています。

 倉庫といっても、窓はしっかりつけてもらったけれど。


 これからなにをするのかというと、プランタと鉢を設置して、温室にします。

 ゲーム仕様に準じてるから、ガラス張りとかじゃないよ。

 ここの文明レベルだと、ガラス張りはさすがに維持が厳しいだろうしね。


 えーと、広さからいって、四株植えることのできるプランタを三×三の九つ置いて、壁沿いに一株用の鉢を十四個ぐらい置けるかな?


 全部で五十栽培できるよ。


 それじゃ置いて行こうか。インベントリの肥やしになってるからね、設備関連のブツが大量に。ここが終わったら、隣の倉庫を鍛冶場仕様にしとかないと。


 それじゃまずはプランタを、ドスンドスンと置いていく。このプランタはあれだ、よく学校とかお役所なんかに置いてある、コンクリ製のやつ。たいてい漆喰(だと思う)で白く塗ってあるアレだ。これの見た目は煉瓦製になってるけど。大きさも、ふたまわりくらい大きいかな。


 それを九つ置いた後、壁際にキャビネットを並べ、その上に受け皿と植木鉢を載せていく。


 そして最後に肥沃土を詰め込んで完了。


 ……正直、この肥沃土がインベントリに入っている中では一番のチートアイテムな気がする。

 仕様書に書いてあったけど、この土、完全にゲーム仕様になっているそうで、植えた物はだいたい一週間で収穫できるみたいなんだよ。


 まぁ、効力維持に結構な量の魔石を砕いて撒かなきゃいけないから、それなりに大変だけどね。


 それじゃ素材を植えていきましょう。


 まずは麻痺毒用の素材。私の戦闘の主力だ。

 妖魔の腰掛x十

 ブラキキトンx十


 魔力・疲労回復+運搬力上昇薬。技量上げ用。

 ニワタケx四

 スギタケx四

 地房豆x四


 回復薬。販売用。技量が低いからたかが知れるけど。

 青茜x四 これは庭にも植えておこう。

 小麦は購入するからいいや。


 鍛冶補助薬。後々の為に栽培しておく。

 夜光茸x二

 膨星茸x二



 お菓子用の材料。パイをつくるのだ!

 赤ベリーx四 付術補助薬にも必要。

 黒ベリーx二 回復薬素材にもなる。

 青ブドウx二 魔力回復薬素材。

 ゲームでの果実だからね。ちょっと食べるのが楽しみだよ。


 二か所余った。とりあえずニワタケをふたつ追加。麻痺毒造る際に加えれば、継続ダメージの毒効果も追加されるからね。


 ひとまず、これでいいかな。

 それじゃ水をあげていきましょ。


 ◆ ◇ ◆


「ただいまー」

「お帰りなさいませ、キッカ様」


 倉庫ふたつを、予定通りに温室と鍛冶場に設え終えて母屋に帰ると、出迎えてくれたのはリリアナさん。


 ……あれ、なんでリリアナさんがいるの?

 いや、リリアナさんがいるってことは、リスリお嬢様もいるな。


「いらっしゃい、リリアナさん。今日はどういった用件でしょう? リスリ様もご一緒でしょう?」

「はい。数日中に旦那様が戻られると先触れがありましたので、そのご連絡に。後日またキッカ様にお屋敷においで頂きたく、そのお願いに参りました」

「あぁ、テスカセベルムの件は落ち着いたんだ。まぁ、あの王様はノルヨルムに侵攻するつもりみたいだったけど、結局どうなったんだろ?」


 ぼんやりとそんなことを考える。


「あの、キッカ様、なぜそれをご存じで?」

「はい?」


 私は首を傾げた。え、ご存じ? え? あ、まさか――


「……声にでてましたか?」

「はい。しっかりと」


 くっ、治ったと思ってたのに、この考えが口に出る癖。ぼっちだと独り言が多くなるっていうけど、私もそうだったんだよ! うぅ、矯正できたと思ってたのに。


「リリアナさん」

「は、はい、なんでしょう」


 私の声のトーンが少し下がったからか、リリアナさんがうろたえたようにどもった。


「あなたはなにも聞かなかった、いいですね?」

「はい、私はノルヨルムなんて聞いてません」


 だ、大丈夫かなぁ。まぁ、信じるしかないんだけど。

 いや、知られたからって、特に問題ないとは思うんだけどさ。

 スリッパに履き替え、メインホールへと入る。


 メインホールなんて大層な名前だけど、そこまでは広くないんだよね。ただDLCだとそう明記されてただけで。


 部屋の中央にぽつんと置かれた丸テーブルで、アンララー様とリスリお嬢様が仲良くお茶を飲んでいる。


 そこはかとない不安感が沸き上がるのは何故だろう?


「ただいま戻りました、お姉様」

「お帰りなさい、キッカちゃん」

「キッカお姉様、お帰りなさい」


 おぉう、お出迎えされるのがこんなにも嬉しいとは。お父さんは私より遅く帰って来るのは当たり前だし、お兄ちゃんはいつも私を迎えに来て、一緒に帰ってたからなぁ。


 ははは、お兄ちゃんのお迎えの時だけは、不自由な右足に微妙な感謝をしていたポンコツは私ですよ。それ以外は苛立ちの種でしかなかったからね。


 あ、ヤバイ、なんだか涙でそう。


 フードを外し、仮面も外す。仮面を外すとき、目に溜まった涙をさりげなく拭う。


 バレてないよね?


「あ、あれ? お姉様の髪の色が違う?」

「なにを云っているんです? 私の髪色は変わっていませんよ」


 土偶バレッタのせいで、違う色に見えるだけです。

 リスリお嬢様、いくら目をそばめても、色は変わりませんよ?


「ところでキッカお姉様、こちらの方とはどのようなご関係なのでしょう?」

「ララー姉様ですよ」

「キッカ様は天涯孤独と仰っていませんでしたか?」


 リスリお嬢様にそう云われ、私はお嬢様をじっと見つめた。


 ……いや、なんで赤くなるのよ。


「それに嘘はありませんよ、リスリ様。それにリスリ様だって、私を『お姉様』と呼んでらっしゃいますよね?」


 これでなんとか濁せないかなぁ。


「キッカちゃんとは生き別れて、ここで再会したのよぉ」


 ……えぇ、地下牢で生き別れましたね。あれを生き別れって云っていいのかなぁ。

 いや、リスリお嬢様、なんで今度は泣きそうな顔になってるんですか?

 とりあえずララー姉様の地上での肩書を紹介しておこう。


「ララー姉様はミストラル商会の経営者ですよ」

「経営の基本的なところは下に任せちゃってるけどねぇ」


 左手をひらひらとさせながら、ララー姉様はクッキーを口に放り込んだ。


 お砂糖が高いから、かなーり甘さは控えめなんだよね、アレ。というか、よく考えたらバター使ってないし、どちらかといったらボーロだよね、アレ。


 うん。今日植えたベリーがそれなりに収穫出来たら、クロスタータを作ってみよう。ベリーだけでどこまで甘くなるだろ?


 ちょっと楽しみだ。


「それでリスリ様、本日はどんなご用でしょう? リリアナさんからは、侯爵様の件についてと聞きましたが」

「はい。それでお姉様の都合はどうなのかと」

「明日、明後日は留守にする予定です。帰るのは明々後日になりますね。ですので、四日後以降でしたら大丈夫ですよ」

「留守ですか。どちらかへお出かけに?」

「【アリリオ】の宿場まで行くんですよ」


 そう答えたら、リスリお嬢様が椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がった。


 あ、リリアナさんが椅子を直してる。本当に椅子が倒れたのか。


「お姉様! まさかダンジョンに潜られるのですか!?」

「いえ。【アリリオ】の宿場を拠点に、森で植物採集をしようと思いまして。薬の素材になるものがあるかの調査ですよ。

 あ、そうそう。販売物に関してですが、魔法の他に薬を加えて置いてください」

「薬というと、リリアナの治療に使ったような薬ですか?」

「そうですよ。製法も含めて」


 あ、リスリお嬢様、びっくりした顔で固まった。

 目と口がそれぞれまん丸を描いてるよ。


「性急過ぎます。製法の公開は止めましょう。少なくとも誰がこの薬を作り始めたのか、それを周知させておかないと、後々面倒なことになります!」

「この薬を最初に作ったのは俺だ! とかいいだす輩が出てくるということですか?」


 確認すると、リスリお嬢様とリリアナさんが『そうです!』と声を揃えて答えた。


 それはそれで面倒なことになりそうだなぁ。

 それに実をいうと、ちょっと思うところがあって、万病薬のレシピ公開は控えるつもりなんだよね。少なくとも暫くは。


 理由は素材。現状、素材が手に入っていないのが理由ではなく、その素材そのものにある。

 ほら、素材が【蟹の殻】と【鷹の羽】だからね。誰がそんなもん粉々にして酒ぶっかけた後蒸留するだけで、万病薬になると思うのよ。


 ん? 他の素材はないのかって? 他はもっとひどいよ。【焦げたドブネズミの皮】とか【吸血鬼の灰】とか。そんな材料の薬を飲みたいと思う?


 それに大抵の人は、薬といったら植物を煎じる方向に行くと思う。怪しい方向だと、ビーゾー石とか動物の角を削って粉にしたものとかあるけど。


 あ、ビーゾー石っていうのは、なんかの動物の腎臓結石みたいなもの。昔は薬となると信じられていたそうな。……あれ? ビーゾーでいいんだよね? 確か読んだ本だとそう書いてあったけど、でもベゾアール石っていうのがなんかのゲームのアイテムにあったような。


 いかんいかん、また思考が脱線してるよ。


「キッカちゃんは、そのあたりなにか対策してるの?」


 突然押し黙った私に、ララー姉様が問うた。


「ひとまず万病薬のレシピ公開は見合わせる予定ですよ」

「え、それのどこが対策なんですか?」


 リスリお嬢様が首を傾げる。


「絶対に作れないと思います。回復薬ならともかく、よほど血迷った頭でもしていないかぎり、万病薬のレシピなんてわかりっこないですからね。作れなければ、自らの主張を通せないでしょう?」

「でも、誘拐とかされて拷問とか……」

「今は誘拐とか無理でしょうね。ご加護がありますから」

「素材の流れなどを調査されたりするのでは?」

「あぁ、それは私が仕入れるから問題ないわぁ」


 リスリお嬢様とリリアナさんが顔を見合わせた。

 ……ララー姉様、そんな苦笑いしないでくださいよ。


 本当はもうひとつ、魔法の杖のことがあるんだけど、これに関しては、侯爵様と謁見する時になるかな。できるかどうか分からないから。

 【生命石】の入手に関して、アレカンドラ様にお願いしないといけないからね。


 かくして、その日の午後は、トニックの販売に関して賑やかに相談しつつ過ごしたのでした。



誤字報告ありがとうございます。

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