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328 グーでやってね


 なんの冗談なのよ、これ。


 えぇ……。さすがにこんなの予想してないよ。つか、予想なんかできるかぁっ! これもあれか、私の運の仕業か? 本当にどうなってんのよ。悪化してない?


 あ、いや、今思ったんだけれど、もしかしたら日本にいたときって、その手の問題を事前にお兄ちゃんが潰してた?


 お兄ちゃんの知り合いって云う、飲食業と土建屋をやってるっていう強面のおじいちゃんが、いわゆるその手の親分さんっていうのは知ってたけれどさ。あの一家はアラスカ送りにされて蟹を獲ってたわけだし。三年で行方不明になったけど。


 え、そういうこと?


「嬢ちゃん、本当に運が酷いな」


 ジラルモさんがしみじみとした顔で私を見つめた。


 ここは武具の展示エリア。私たちはまずスタッフの統括所? みたいなところへと足を運び、そこに詰めていたジラルモさんを訊ねた。


 揉め事、事件に関して訊かないとね。いきなり現場にいって、面倒臭いことになるのは嫌だからね。絶対に事件を起こしている連中は絡んで来るだろうし。


 で、状況を訊いたんだけれど、うん。案の上だったよ。現場は私の作った翠晶シリーズを展示してあるブースの前だ。その前で立ち塞がるように、筋肉質の男どもが横一列に並んで威嚇してるらしい。


 一応、こっからもかろうじて見えるよ。なんだか手を後ろ腰にやって胸を張っている、詰襟の応援団の人たちが頭に浮かんだけれど、実際、そんな感じだよ。統一した黒い制服を着た連中だ。


 まぁ、そんなのを眺めつつも、いまは私の運気の話になってるけど。


「これでもアレカンドラ様にどうにかしてもらったんだよ。さすがに酷すぎるからって。ちなみに、その時にアレカンドラ様に鑑定してもらった運の値はFだったよ」

「Fぅっ!?」


 ジラルモさんが驚いたような声をあげた。


「Fって、マジか嬢ちゃん。Fなんてステータス値、初めて聞いたぞ。どんなに悪くてもEだぞ。それも足が欠損して走れなくなったとかでだ」

「マジだよ、ジラルモさん」

「なんで生きてるんだ?」

「酷くない!?」


 ちょっと!?


「いや、普通、そんな運気だと、なにかしらの事故なり事件に巻き込まれる、或いは病気とかでとっくにおっ死んでるぞ。……あぁ、いや、事件には巻き込まれまくってたな、嬢ちゃん。不憫な……」


 泣くほど!?


「え? そ、それほどなの? いや、アレカンドラ様の加護のおかげで、いまはCにまであがってるからね。大丈夫だよ」

「むしろ、アレカンドラ様でさえ、そこまでにしか回復できなかったのか……」

「違うよ!」


 なんか更に憐れまれだしたんだけれど。


「キッカ様、ご安心ください。これからは私が常に護衛いたします。必要ならば、軍犬隊を脱退しましょう」

「ジェシカさん!?」


 今度はジェシカさんが暴走しだした? あ、いや、多分、これ素だ。なんというか、ナイフ事件の時に、私が【工神】なんてことになってたからだと思うけど。

 ……なんか、昔の私を見てるみたいだな。狂信者とヤンデレって同じ方向なの?


 あ、なんかラトカさんの目もヤバイ。


「いや、アレカンドラ様の力が足りなかった訳じゃないよ。AとかSなんてされたら、怖いことしかなさそうだから、控えめでお願いしたんだよ。ジェシカさん、大丈夫です、いまはCにまで上がってますから!」


 さすがに生涯、私に付き従うとか云いだされでもしたら困るよ。神様に仕えるとなれば、狂信者としては本望なのかもしれないけどさ。私、神様じゃないし。……大木さん曰く、能力的には片足突っ込んだ状態みたいだけど。


「それでジラルモさん、あれなに?」


 慌てて私は、逸れていた話を戻した。今問題にするべきは、私の展示品の前に陣取っているあの連中だ。


「あれなぁ……」


 ため息をひとつつくと、ジラルモさんは仁王立ちして周囲を威嚇している連中を見つめた。


 連中は何か騒いでいるが、ここからだと良くは聞き取れない。解放だのなんだの云ってるけど……まぁ、たいしたことじゃないだろう。


「ありゃホルガーのシンパの鍛冶師崩れの連中だよ。なんか組織じみた変な集まりになっててなぁ」

「ホルガー? 誰それ?」

「あー……嬢ちゃんにはこっちの名前じゃ馴染みないか。あれだ、前に嬢ちゃんのナイフにケチを付けた貴族の小倅が連れて来た鍛冶師だよ。いつの間にかグスキとかいう偽名だか屋号だかを名乗りだした」


 あー、あいつか。あの大男。


「シンパが出来るほどだったんだ。私の印象だと、そんな感じ微塵もなかったけど」

「実際、少しばかり腕が立つ程度の職人だ。鍛冶の技術で人が集まったわけじゃないんだよ。人格者、ってわけでもないしな」


 はい?


「奴が武器を作るのに、炉に猫をぶちこんだって話はしたっけか?」

「あー、そんなこと聞いたねぇ。それが元で工房を破門……じゃなかった、絶縁されたんだっけ?」


 最悪の罰を工房から受けてるんだよね。あ、破門と絶縁の違いは、破門は解かれれば工房に戻ることは可能。でも絶縁は、絶対に戻ることはできないんだよ。当然、そんなことになれば同じ業界には知れ渡るからね。まともに仕事は出来なくなるのは必至なわけだ。にも拘らず、貴族の小倅に拾われたり、あんなシンパがいるって、どういうこと?


「そうだ。そんなイカレタことをする輩だったんだが、それを信奉する阿呆な若手職人がいてなぁ。実際、ホルガーの作る作品は、使い勝手を無視した変な意匠の剣だの斧だのばかりだったんだよ。そしてそれが一部の連中に受けてな」


 ジラルモさんは盛大にため息をついた。


 え、えっと……それってもしかして、中二病的なやつかな?


 よくわからんが、なんかカッコいいってだけの。なんの役に立つのか謎の突起とか生えた。


「奴に影響された職人が作った剣がそこにあるよ」


 ジラルモさんが指差したその先には、どうみても実用性なんてものからはかけ離れた、謎の装飾の施された剣がひとふり。


 どこぞのゲームの武器かな?


 第一印象:持ち難そう。


 第二印象:無意味に重そう。


 第三印象:おもいっきり斬り付けたら折れそう。


 柄の部分のあのナックルガードはなに? 柄より長いんだけれど。しかも上下両方についているから、持ち難いなんて物じゃないんだけれど? ついでに刀身方向にも伸びている理由はなんなの? 無駄な加重だよ。それを補うためか刀身を肉抜きしてあるし。しかも円形じゃなく幾何学模様に。わざわざ穴開けて削ったのか。強度が落ちてるんじゃないかな?


 これは恰好良いのか? すくなくとも私の美意識からはかけ離れてるよ。中二テイストなら、魔人武器がそんな感じだけれど、あれはあれで実用的だぞ。


「作者は十年後くらいに激しく後悔しそう」

「ははは……」

「お酒の席とかで仲間にいじられて、羞恥に身悶えする羽目になるんだよ」


 あ、この変な剣、売約済みになってる。誰が買ったんだろ?


「そういえばジラルモさん、グスキってどうなってるの?」

「あいつは嬢ちゃんの見つけたダンジョンまでの道を切り拓く労役に回されたよ。いわゆる樵の強制労働だな。いまは旧オルボーン領にいるよ」


 おぉ、本当にそうなったんだ。


「奴なんぞには過ぎた役だ。かのアリリオ殿が仲間と共に成し遂げた偉業と同じことをするんだぞ。人を募れば、いくらでも集まる仕事だろうに。アダルベルトも与える労役を考えろってんだ。確か俺も伐採作業にでも送れといった気がするが、切る方じゃなく、丸太の荷役でいいじゃねーか」

「危険な場所に優良で善良な人を送るよりマシだと思うけど。なによりタダだし」


 あ、あれ? なんで皆さん、呆れたような目を向けますかね?


「タダって、嬢ちゃんよ……」

「お金は大事だよ。去年、私が物の価値をよくわかっていなかったせいで、余計な散財を国にさせちゃったしね。額面が大きすぎて、鎧の支払いが分割になったんだよ」


 結構、痛いと思うんだよね。各部署ごとに予算は組まれているだろうし、いざという時の余剰金はあるだろうけれど、日本円換算で十五億とかになっちゃったわけだし。


「まぁ、その辺りはどうでもいいか。問題は、あの馬鹿共なんだよなぁ。はっきりいって邪魔でなぁ。やってることは妨害だから、摘まみだしたいんだ。だがなまじ中途に腕が立ちやがるから、武力制圧なんてことは軽率にできねぇんだよ。展示品に被害がでたら事だしな」


 あぁ、なるほど。なんで放置しているのかと思ったら、そういうことか。……眩惑魔法を使えば、あっという間に制圧はできるんだけれど、眩惑魔法はなぁ。正直、攻撃魔法よりも質が悪いと思うし、なにより公開していないからなぁ。あぁ、一応【鎮静】だけは公開してたか。あれは悪用しようがないからね。パニックを治めるくらいにしか使えないし。


 うーん……となると、舌先三寸で丸めこむ? お兄ちゃんが得意だったんだよなぁ。一ヵ所だけ逃げ道を残して追い込んで自滅させる、それが思考誘導ってものだよ、なんて云ってたけど。


 私にできるか?


 うん。無理だね。人には向き不向きというものがあるのだよ。でもま、ちょっとお兄ちゃんの真似事はやってみたくはあるよね。やってみようか?


「私が行って、直接話してきてもいいかな?」


 がしっと、ジラルモさんに腕を掴まれた。


「いやいやいやいや。勘弁してくれ。もし嬢ちゃんになにかあったら、そっちの嬢ちゃん方や執事さんに殺されちまうよ」


 ジラルモさんが私の後ろへと視線を向けた。


 あぁ、うん。やめた方がいいね。笑ってるけど笑ってない目が揃ってるよ。もしノコノコ進んで行って、私がうっかり殴られようものなら、あいつら殺されちゃうよ。


 とはいえ、あいつらの存在は腹立たしいしなぁ。


 そうだ!


『ねぇ、リリィ、あんたのロケットパンチって、どれくらい威力があるの?』

『岩を砕くよ。拳の一念岩をも砕く!』


 今度はことわざか。また妙な改変を。


『あいつらが死なない程度に威力を抑えられる?』

『大丈夫だよ。本気で撃つと右手が壊れるから』


 それは欠陥じゃないの? ……いや、常盤お兄さん、その方が面白そうだって理由でそうしたような気がする。主に『右手が壊れたー』って騒がせるために。


『それじゃ、あそこで立ち塞がってる馬鹿共を、端から順に昏倒させてくれる?』

『処す? 処すの!? 任せて!』


 なんか物騒なことをいいだしたな。大丈夫かな? ちょっと見てみたかったから頼んだんだけれど。


 なんかぐるぐる右手を回してるし。表情は相変わらずの無表情だけど。そういえばいま気が付いたけれど、この子の目は追視になってないね。ビクスドールの目って、どっから見ても視線が合うように造られてるものだけれど。


『ねぇねぇ、グーじゃなくてチョキにしちゃダメ?』


 目つぶし!? さすがにそれはちょっとダメだよ! パーもダメだからね、手刀になる!


『グーでやってね。というか、そんなことをしたら指が折れるんじゃないの?』


 リリィがいつものように、ハッ! とした無表情を浮かべた。


 考えてなかったのか。自分で拳が壊れるとか云ってた癖に。


「あの、キッカ様? お人形さんがはりきっているように見えるのですが」

「ちょっと、あいつらをのしてくるように頼みました」

「すると、こちらの鎧が?」

「いえ、リリィがやります」


 皆がリリィを見つめた。


 リリィはというと、リビングメイルの肩の上に立っていた。


『いっくよー。木偶ロケットぱーんち!』


 ちょ、なにその掛け声。自分で木偶って。いや、なにも考えてないんだろうけれど。


 リリィの右腕がすっとんでいく。そして――


 すこーん!


 というような間抜けな音を立てて、端に立っていた黒づくめのおでこに直撃した。


 飛んでいった腕は、きゅるるるるるるっ! という音と共に腕が戻ってきて、ばちん! とリリィの腕に収まった。そして直撃を受けた男は、見事に白目を剥いて、ばたんと倒れた。


 突然のできごとに、連中とギャラリーはざわめきつつも、ほとんど棒立ちだ。


 なにが起こったか分かってないのかな? というか、誰も倒れたやつを心配してないね。仲間意識が薄いのかな?


『第二射、いっくよー! 木偶ロケットぱーんち!』


 ふたりめが倒れた。お、今度は慌てふためきだしたね。でも飛んできたリリィの腕を認識できていない時点で、元凶がここだっていうのは分かってないね。というか、回避行動を一切しないところをみると、素人かな?


『第三射、()ーっ!』


 リリィ、面倒臭くなったかな? 三人目昏倒。


「そろそろ逃げ出しそうだな」


 ジラルモさんがぼそりと云って、なにか合図を送っている。


 あぁ、あっちの出口にスタッフがいるんだね。逃げてきたところを取り押さえるのか。


 四人目昏倒。あ、逃げ出した。




 かくして、迷惑千万な連中の制圧、捕縛は完了した。


 さて、それじゃちょっとお話をしてみましょうかね? 話を聞く価値もなさそうだけれど。


誤字報告ありがとうございます。

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[一言] ね○ろけっとぱーんち
[一言] 話が通じない相手と話はしなくていいと思うんですが いつもお優しいことで
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