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326 ベイクドチーズケーキ


 昨日はずっと手鞠を作っていたキッカです。


 あのお茶会の後、アレクサンドラ様と手鞠を作っていたのよ。


 アレクサンドラ様、今度は手鞠づくりを流行らせようとしている様子。流行は追うものではなく、作り出すものなのよ! と、ガチで云う方ですからね。


 同年代の令嬢方とお茶会もよくしているみたいだし、交友関係はかなり広いみたいだ。

 公爵令嬢だし、軍閥のトップにいるお家だもの、軍関連のお家とはいろいろと交流があるんだろうね。


 そんなところのご令嬢がお嫁入りするわけだけれど、イリアルテ家はどういう方向に向かうつもりなんだろう。


 ダンジョン関連となれば、まぁ、武力は必要だけれど、そのあたりは傭兵や探索者、それともちろん領兵がやってるからねぇ。


 そういえば、エスパルサ公爵領がどこにあるのかは知らなかったから、アレクサンドラ様に訊いたんだよ。


 場所は王都の南にあるそうだ。イリアルテ領は北東の端っこだから、距離的にはかなり遠いね。


 エスパルサ公爵領の主な産業は牧畜。国内ででまわっているチーズの類はのきなみエスパルサ領産らしい。


 馬牧場も沢山あるそうだ。で、バイコーンにも興味があるらしいけれど、私に捕獲を依頼することはないとのこと。


 どうしてだろう? と一瞬思いつつも、すぐにどういうことか想像がついたよ。


 エスパルサ家は軍閥トップでしょう? 要は武力上等なお家なのですよ。なにせパーティで、サロモン様がバレリオ様と実戦さながらの模擬戦をするくらいですからね。


 そんなお家が、小娘である私にダンジョンに行ってバイコーンを捕まえて来てと頼めるのか? という話ですよ。百歩譲って、案内を頼むくらいなんじゃないかな。


 アレクサンドラ様とオスカル様がいなかったら、サロモン様が率先して【バンビーナ】へと突撃してたんじゃないかと思うよ。


 そんなことを昨日は話していたよ。


 さて、本日はお見舞いのお返しの準備をしますよ。お菓子を焼いて、明日届けてもらうのさ。私が持って行こうと思っていたんだけれど、こういうものは代理人が行くものだと、ベニートさんとメイド長さんにこんこんと説明されたよ。


 客人として招かれたりしているのであればともかく、物品の受け渡しだけであるなら、代理人が行くのが普通らしい。


 うん。貴族のしきたりはよくわからん。アムルロスならではの慣習であるのかもさっぱりだ。


 まぁ、見ず知らずの人のところを訪ねるのは、なかなか度胸がいるから、私にとっては願ったりのことではあるけれどね。


 それじゃ、お菓子を作っていくとしよう。


 作るお菓子はチーズケーキ。チーズケーキといえば、大雑把に三種類あるけれど、作るのは基本のベイクドチーズケーキだ。


 チーズケーキなら、こっちにもとからある食材だけで作れるしね。


 ……と思っていたんだけれど、レモンだけは私の持ち込みだ。レモンも放出してあるから、その内出回ることになるだろう。えーっと……ミレレス男爵領、だっけ? テオフィラ枢機卿の嫁ぎ先で果樹園を作って生産すると行っていたからね。


 さぁ、作って行こう。


 あ、ひとつだけズルをしたよ。型。丸いのを物質変換でだした。何度か自作はしてみたんだけれど、微妙に歪んでて上手くいかなくて、完成させるのを放置していたんだよ。


 それじゃ、型をどん。あ、クッキングシートなんてないし、代わりにバターを塗っておこう。底に砕いたビスケットを敷き詰めてと。


 ビスケットは夕べ、夕食後に厨房を借りて作ったよ。クッキーを作るようなものだからね。簡単だ。


 クッキーとビスケットの違いなんて、卵を使うかミルクを使うかだけだと私は思ってるし。


 クリームチーズに材料を順に投入しながらしっかり混ぜ合わせる。ひとつひとつきちんと混ざってから次を加えるのがコツだと思う。


 お砂糖、卵、小麦粉に生クリーム、そしてレモン汁。


 レモン汁はクリームチーズを作るのにも使うから、結構な量だね。とはいっても、ひとつをしっかり絞れば十分足りるけれど。


 しっかりと泡立て器で混ぜ合わせてと。あ、前に造ったブレードカシナート(大木さんに見せてもらった)みたいなフードプロセッサーは使わずに手作業だよ。

 いや、フープロだと泡立っちゃうからね。


 出来た生地を型に流し込んで、あとはオーブンで焼くだけ。


 これをひとまず十個つくったよ。


 二十個作る予定だから、かなりの作業だ。時間もかかるし。いや、オーブンには十個も入らないからね。


 五個ずつ四回焼く予定だ。


 あぁ、そうだ。礼状も書かないと。


 順ぐりに焼いていき、焼き上がったチーズケーキは粗熱が取れるのを待ってから、冷蔵箱へ。


 “庫”ではなく“箱”だ。以前に私が作った、木箱に魔氷を仕込んだだけの代物。要はアイスボックスみたいなものだ。


 この冷蔵箱に入れて、明日まで寝かせる。焼き立ても美味しいとは思うけれど、ベイクドチーズケーキは一晩おいた方が味が馴染んで、断然おいしいと思う。


 こんな感じで、ナタンさんのお仕事をちょっとばかり邪魔をしながらもなんとか二十個完成。


 実際の必要数は十三個だったんだけれど、七個は予備と云うか、イリアルテ家の使用人の皆さんの分とか、私のストック分とかだ。


「あっ」

「どうしましたか? お嬢様」

「いえ、入れ物を考えてなかったんですよ。まさか剥き出しのまま渡すわけにもいきませんし」


 メイド長さんに答えた。


 なんという間抜けさだ。紙箱なんてないしね。となると籠か?


 型を五号サイズで造っちゃったからな。


「バスケットでよろしいかと。適切なサイズの物を用意致します。数は――」

「十三個で。あぁ、いや、十二個で。ひとつはイリアルテ家用ですから、このまま食卓にあげてしまえばいいですしね」

「かしこまりました」


 メイド長さんが目配せをすると、手の空いていたメイドさんが会釈をして厨房から出て行った。バスケットの調達にいったのだろう。


「出来立てを食べちゃだめなのかい?」


 ナタンさんが待ちきれないような様子で訊いてきた。


 ナタンさんとしては、味見をしてみたいんだろうな。【エマのお菓子屋さん】の調理責任者だし。


 でもこれを譲る気はありませんよ。


 多分、エメリナ様がレシピを購入されると思いますから、今度、自分で作って確かめてください。多分、私が云っても納得しきれないだろうし。


 苦笑しつつ、そんなことを考える。


「私もそう思って、一度、焼き立てを食べたことがあるんですよ。で、これに関しては、焼き立てより、一晩おいて冷ました方が美味しいと結論付けました」

「焼き立てのが美味いと思うんだがなぁ」

「そうなんですよねぇ。それで私もがっくりしたんですよ」


 そんなことを云ったら、ナタンさんとメイド長さんが私を驚いたように見つめた。


「あぁ、がっくり来たのは、出来栄えにではなく、一晩待てばもっと美味しくなっていたのに、なんで私は我慢できずに食べちゃったんだと後悔したんですよ」


 私のこの答えに、ふたりは納得したようだ。


「余分に作った七つはどうするんだい?」

「ふたつは私のストック分です。ふたつはみなさんで。残りのみっつは、教会と組合、それと私を影ながら護衛をしているふたりに渡そうと思います。いろいろと心配と迷惑を掛けてしまいましたからね」


 多分、一番慌てふためいたのは、エリーさんとエミーさんだよね。というかさ、貴重な転移アイテム、しかも使い捨てを私の誘拐なんかに使うとは思わないよ。普通は、皇族の脱出用とか、そういうかんじで設置してあるものじゃないの? 使い捨てだから、暗殺者から逃れるのにも最適だし。絶対に追って来られないからね。


 そんなものを無断使用したって話だし、私を誘拐した人、帝国でたいへんなことになってるんじゃないかなぁ。


 そういえば、詳しいことは大木さんが知っているのかな?


 一度、詳しく訊いておかないと。向こうからの伝言を伝えてもらっただけだからね。


 その後も適当に世間話をしていたわけだけれど、やっぱりチーズをお菓子に使うという発想はなかったみたい。


 大抵はお酒のおつまみとかで、スライスしたものをそのまま齧ったり、チーズおろしで削ったモノをシチューとかに入れたりっていうのが主流っぽい。


 そんなわけだから、お菓子としてのチーズというものに興味津々のようだ。


 まぁ、チーズと云っても、あの固い奴をつかっているわけではないから、イメージしているチーズを使っていないって云うのは事実だろうけど。


 お、やっと最後の五つがオーブンにはいった。あと四十五分で作業も終わりだ。



「キッカちゃんが新しいお菓子を作っていると聞いたわよ」


 最後の五つが焼き上がった頃、エメリナ様とリスリお嬢様がお店から戻って来た。


 それじゃ、ふたりを説得しないとね。それとレシピの値段交渉かな。私が攫われていた間、私を捜すためにいろいろとして頂いたみたいだから、差し上げちゃっても構わないんだけれど――


 エメリナ様の顔をみる。すっかり商売人の顔になってるよ。


 こうして私は、ベイクドチーズケーキのレシピの値段交渉へとはいったのです。


誤字報告ありがとうございます。

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[一言] クイジナート社のフードプロセッサーは世界一ぃ! かどうかは存じ上げません
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