.324 教育番組っぽい感じ
お祭り二日目となりました。
今日はのんびりとしていますよ。昨年はあっちこっち行ったりしていたけれど、基本的に買い食いして回ってただけだったし。いまはお肉が食べられないから(食べると吐く)、屋台巡りをしても楽しさ半減だしね。
いや、去年の屋台巡りは、夜中にこっそり抜け出して行ってたようなものだけれどね。レブロン男爵邸へと悪戯に行くのがメインだったし。……あれ? 悪戯はお祭り前だっけ? なんだか時系列が分からなくなってるな。
まぁ、いいや。
去年は演劇の観覧に行ってたんだっけ? あぁ、思い出した。ナランホとかいうお貴族様に絡まれたんだっけ。性欲的な意味で。
“神子様”なんて形で認識されるようになっているせいか、そういう目で見られることは、日本にいた時より激減はしているんだよね。それはまぁ、私的には喜ばしいことではあるんだけれど、たまにこんな風に強烈に不快なのがでてくるのがなぁ……。
さて、本日二十二日。特に見に行きたい演劇とかがあるわけでもないし、食べ歩きもダメ。武闘大会は決勝だけ見ればいいかなぁ、という感じだし、特にしたいことがないんだよね。
あ、品評会にはいかないといけないのか。でもあれもお祭りの後半だしねぇ。展示会は行われているけれど。
前半の今日は、お留守番でいいかな。
ん? 演劇のほうで観る物がある? あぁ、【暴れん坊陛下】は早くても来月なんだよ。稽古の問題と、会場の関係で。
昨年の劇団レース? で選ばれて、一年間の興行権を得た劇団なんだけれど、その選ばれた劇団は翌年はレースに参加できないんだよ。おまけに八月は王都では興行できない状況になる。ほら、劇場での興行権を買わないといけないんだけれど、八月はどこも早い時期に塞がるからね。なんだか予約のルールもあって、取れないんだそうだ。
でも九月にはとれたみたいだから、初日公演を観てから、私はサンレアンへと帰るつもりだよ。多分、国王陛下からお声が掛かると思う。一緒に観にいくぞと、このあいだ誘われたからね。
あの演出家兼脚本家のおじさん、ユニークだったもの。ああいった変な人って、まるでダメか傑作を生み出すかのどっちかだし、実績から見て後者だからね。
ふふ、来月がちょっと楽しみですよ。
さて、本日はお屋敷でのんびりと過ごす予定だけど、ひたすら寝るというのも色々と具合が悪いよね。自宅ならともかく、他所様のお宅でそれはあまりにも……ねぇ。
そんなわけで、なにかをしよう。料理は、お昼ごはんにムニエルでも作ればいいや。
ひたすら奥義書を読むというのもあれだしなぁ、なにかこう、手慰みになるようなものはないかな? 編み物っていうのもねぇ。このあたりの気候だと、防寒着なんてほとんど需要ないし。
うーん……。
あ、そうだ。あれを作ろう!
ということで、工作タイムですよ。そういや、去年はアレクサンドラ様のドレスとか作ってて、それなりに忙しかったんだよね。
……あぁ、それでか。こんなに時間を持て余してるの。
さて、準備するものは、こっちで容易に手に入るものにしよう。羊毛と布でいいかな? そして色々な色の糸。……ついでにバニラエッセンスも使おうか。匂い袋的な感じで。効果はすぐになくなるだろうけれど、なくなったところで特に問題はないしね。
実用性というよりは、工芸品的な感じになるかなぁ。実用性をもたせるなら、ガワは鹿皮で作ればいいしね。
ということで、制作をはじめよう。
それなりの量の羊毛をふんわり丸めて、数滴バニラエッセンスを垂らしてと。……おぉぅ、やっぱりバニラエッセンスは香りが凄いな。酔いそう。
これを薄布でつつんで、これを芯にして糸をぐるぐると巻いていく。コツは同じ所を巻かずに縦横無尽にランダムに、そして緩く巻いていくこと。最終的に球状にするからね。
『ご主人、ご主人』
『なにー?』
『何を作ってるの?』
……。からかってみようか?
『あんたの替えの頭』
そう答えたところ、いつもの無表情の驚愕の顔を見せる。本当、このリリィの顔芸はなんなんだろう?
『ご、ご主人、ご主人、大丈夫、リリィの頭は大丈夫だよ!』
なんだか別の意味合いに取れそうな答えが返って来たな。
『はっ! もしかしてこの間の失態のお仕置き!?』
勝手に結論付けたな。別に私は気にしていないんだけれど。私が攫われた後、残っていた実行犯を捕らえたんだから、十分に役目を果たしたと思ってるし。
『ごめんなさい許してください! 何でもしますから!』
えーっと、これも確かなにかのネタであったんだっけ? 元ネタは知らないけど。本当、口を開くとなにかしら出て来るなぁ。
『ん? いまなんでもするって云ったよね?』
だから、そのムンクの叫びみたいな驚き方をするのはやめてよ。
『だいたい、なにをされると思ったのよ』
『右手のワイヤー式ロケットパンチを標準型ロケットパンチへと改造される』
待て、なんだそれは。
『そんなことをされたら、右腕がなくなっちゃう!』
んんっ? あ、あー……ワイヤー式ってそういう。要はあれか、掃除機のコードみたいな。発射して、ワイヤー伸びきった後に、ぎゅるるるるるるる! 巻き戻すのね。ワイヤーがないと、腕がどこにいくか分からないと。
いや、そうじゃなくて。
『なにあんた、ロケットパンチなんて搭載してたの?』
『トキワ様に付けてもらった!』
……常盤お兄さん、いったいどんな魔改造をしたんですか。
『左腕もロケットパンチ?』
『左腕は超振動破砕システムが積んであるよ。私が対象を観て固有振動数を計測して、共振現象を引き起こして対象を破砕できるよ。直接殴る方が手っ取り早いけど』
……えっと、某漫画でもあったけれど、これ、とんでも科学でもないんだよね。確か、科学者の二コラ・テスラが巨大な鉄塊を真っ二つにした公開実験があったわけだし。いや、だからって、実用化できるかっていうと、別の話なんだけれどさ。
というかですね、常盤お兄さん。遊び過ぎじゃないですか? 危険どころじゃないんだけれど、この子。私より平和的な方向でポンコツっぽいけど。
『使っちゃダメだからね?』
『ダメ?』
『私が許可するまで使っちゃダメ。大抵はリビングメイルで事足りるでしょ?』
『わかったー』
返事はいいんだよね。
『それで、なにを作ってるの?』
『手鞠だよー』
結構なスピードで地鞠ができあがった。
あ、ドーピング指輪はつけているよ。そうしないと、なんのかんので時間が掛かるからね。
地鞠ができあがったら、まち針で目印的なものをつけていってと。
ステータスS級まで能力をあげると凄いな。物差し要らずだ。
『てんてんてんまり♪ てんてまりー♪ ってねー』
『おー、お歌だ。私も唄う!』
『唄うって、まぁ、唄えるだろうけれど』
『えっと……えっと……あ、大丈夫。知ってる!』
知ってるって……常盤お兄さんか!
日本語の他にも色々とデータを入れたんだきっと。さすがに科学知識のデータは入っていないと思うけれど。
これ、一度リリィとしっかり話して、何を知っているのか確認した方がいいかもしれない。
『ご主人、お歌!』
『はいはい』
まぁ、いいか。
こうして、私はリリィと唄いながら手鞠作りをしたのです。
……なんか教育番組っぽい感じな気がする。
暫し後。
最後のひと針を通して、完成!
古典菊模様の手鞠だ。個人的には一番好きなデザインなんだよね、これ。
ふふー。久しぶりに作ったけれど、上手くできてニヤニヤしちゃうよ。
てしてし。
ん? なに? ビー?
私の足を叩くビーに視線を落とすと、なにやら後方を指し示している。
そっちに視線を向けてみる。
目が合った。
ほんの少しばかり扉が開けられ、そこからイルダさんとアレクサンドラ様が覗いていた。
……。
……。
……。
え?
「あ、あの、なにをしているので?」
私は訊ねた。
「アレクサンドラ様がお見えになりましたので、ご案内差し上げたところ――」
「お姉様の歌声が聞こえたので、ふたりで聞きほれていました」
ふたりの答え。
……。
……。
……。
うぁぁぁぁぁっ!?
私は頭を抱えた。
恥ずかしい。恥ずかしいったらないよ。
私の唄なんてお察しなんだよ。なんでこんなことに……。
こうして、私はひとしきり後悔するのでした。
いや、だからなんでふたりともリクエストするんですか? 勘弁して。
誤字報告ありがとうございます。
※キッカの危機感に関して。
キッカが危機感を持っているのは、いわゆる性的な方向のものだけです。というのも、日本にいた際のトラブルが基本的にそれだけであったので。
故に、自身の行動がなにを引き起こすことになるのか、ということにまったくもって無頓着です。周囲の食文化が引き上げられれば、簡単に美味しいものを食べることができる。という程度の認識でポンポンとレシピを放出していたりするわけです。ある意味、平和ボケした日本人の典型ともいえます。
まぁ、アレカンドラからお願いされているというのも、後押ししているわけですけれど。
※今回のキッカの唄に関して。キッカは自身が音痴に片足を突っ込んでいると思っていますが、実際はちょっと上手い人並には歌唱力を持っています。ですが、今回はドーピングしていたため、歌唱力が大変なレベルに。当人はさっぱり気が付いていませんが。