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322 いつものことなんだろうな


 二十一日となりました。本日は博物館の開店……開店? 開店違う、開館だ。開館セレモニーですよ。とはいっても、王宮の宝物殿を改装した仮の場所だけれどね。本来の博物館は、現在、美術館と共に建築中。大規模な区画整理をおこなって、貴族街と商業区の間に出来上がる予定だそうだ。この区画整理に伴って、貧民街が潰されたわけだけれど、そこの住人は別の場所に一時的に移動。大型の集合住宅を作って、そこに彼らを放り込む予定らしい。


 なんていうの、三階建ての長屋みたいな感じなのかな? あぁ、もちろん煉瓦造りだよ。


 で、ここは西洋風の世界なわけで。そこで集合住宅とかいうと、どうしても伝染病なんてものが頭に浮かぶのですよ。ペストとかペストとかペストとか。

 これは昨日、国王陛下と一緒にご飯を食べている時に話していたから、伝染病の懸念も伝えておいたよ。


 まぁ、公衆トイレが設置されていれば大丈夫かな。


 中世の排泄事情は酷かったらしいからね。バケツとかに用を足して、窓からぶちまけてたらしいから。


 日本だと公衆トイレが作られてたんだよ。長屋とかには。ほら、肥料にするから、それを溜めて売ってたんだっけ?


 そういえば、こっちの肥料事情はどうなっているんだろう? 少なくとも、昔の日本式ではないのは確認しているよ。

 クリストバル様に聞いてみようかな?


 と、また話が変な方に。


 博物館の話に戻ろう。


 開館セレモニーは午後に行われた。午前は芸術祭の開催式が行われたからね。


 そして開館セレモニーでは、国王陛下とティアゴさんの挨拶。昨日、私もなにかしら挨拶をしないかと云われたけれど、それは丁重にお断り、辞退したよ。


 セレモニー自体はすぐに終了。博物館の公開となりました。


 博物館の内容に関しては、事前に冒険者組合などに流してあったため、多くの組合員が詰めかけていたよ。


 さて、この博物館。博物館と云っても、ダンジョン産の物品の展示とか聖武具レプリカといったような、ダンジョンに関連するモノのみが展示がされている。もちろん、魔物の剥製も。

 目玉とされていたのが、ボストロールの骨格標本のはずだったんだけれど、現状はすっかりかすんでしまっている。


 いや、目立つことは目立つんだけれどね。でもそれ以上に目立つモノがあってね。


 現状、博物館の目玉となっているのはふたつ。


 モンゴリアン・デス・ワームの頭部の標本と、牛頭人食い鬼(タウラスヘッドオーガ)の剥製。


 このふたつが凄まじく目立ってるんだよ。モンゴリアン・デス・ワームの標本は見た目にはわけがわからん代物だけれど、その隣に小さなブースがあって、そこで映像が垂れ流しにされている。


 流されている映像は、私が渡したモンゴリアン・デス・ワーム戦の会敵時の映像。どうやら、この頭の部分の標本だと、全体像がさっぱり分からないために、こうして映像で情報を補完しているようだ。


 私がコインを投げて、モンゴリアン・デス・ワームが砂中から飛び出してくる映像は、確かに見栄えはする。よくあるパニックホラーの映画にありがちな感じだしね。


 興味津々でブースを覗いた人が、もれなく困惑したような顔つきででてきて、隣に飾ってあるモンゴリアン・デス・ワームの頭部標本の大きさに真っ青になっていたのは、ちょっと面白かったけれど。


 そしてもうひとつの目玉。


 牛頭人食い鬼の剥製。


 こちらは単に剥製と、その説明文のみの展示ではあるが、大斧を構えたポーズをとっている牛頭人食い鬼の姿は、いまにも動き出しそうに見える。


 ペペさん、仕事が凄すぎるよ。


 毛皮の色合いが、本来の色味よりも赤味がかっているのは、防腐剤の影響だろう。


 一通り巡ってから、私はバックヤードへと引っ込んだ。そこでは国王陛下がナバスクエス伯爵と話していた。UMA伯爵などと揶揄されているナバスクエス伯爵が、この博物館の管理責任者を買って出たということも、昨日国王陛下からは聞いている。


 うん。本当に魔物……というか、珍獣とかが好きなんだろうね。まぁ、当人がここの管理をするわけではないだろうけれど。


 実のところ、今回の展示ではひとつだけ展示することを見送ったものがあったりする。


 それは私が献上した、大物ダンジョンから持ってきたドラゴン。多分、剥製にされていると思うのだけれど、それが展示物とはされていなかった。


 まだ剥製として完成していないのか、それとも公開を見合わせているのかはわからないけれど。


 まぁ、ドラゴンともなれば、それだけで客を呼び込むことのできるものであるから、公開する機を後に回したというところだろう。


「おぉ、キッカ殿。此度は酷い災難に遭ったと聞いた。お見舞いを申しあげる」

「なんとか戻ってくることができました。やー……やっぱり人間は魔物なんかよりはるかに怖いですね」


 私がそんなことをいうと、国王陛下と伯爵は困ったような笑みを浮かべた。


「まぁ、魔物は、敵対しているものだからな。元より恐ろしいものだが、人間となるとな……」

「左様ですな、陛下。私のところにも、やたらと詐欺師がよってきますからな」


 あぁ……。きっと、偽物の剥製だのを持って来る奴がいるんだろうなぁ。人魚の剥製とか河童のミイラとか。そういうのを専門に作っている職人とかいるのかしらね?


「今後は、偽物を売り込みに来る輩もおりましょうが、その真贋の見極めはお任せを」


 あれ? でもその手のモノは鑑定盤があれば問題ないんじゃ? 訊いてみよう。


「鑑定盤があれば、そのあたりは大丈夫なのでは?」

「あぁ、それがそうでもないのだよ。死骸であるのならともかく、剥製とした場合には鑑定盤を誤魔化す方法もあるようなのだよ。鑑定盤も完ぺきではないということだな。私も一度、掴まされたことがあってね。あぁ、いま思い出しても腹立たしい」

「落ち着け、アーロン卿。その詐欺師はみつかったのだろう?」

「いえ、別人でした。まぁ、詐欺師であったことは確かでしたが。女性をだまして金品を巻き上げていたクズでしたな」


 結婚詐欺師かな? いるんだ。


「詐欺師、盗人の類は減らんなぁ。キッカ殿はそういった被害は遭ったりはしていないかね?」

「私は組合を通して販売をしているのがほとんどですから、遭遇することはないです。買い物で偽物を売っているのはたまに見かけますけど」


 そう答えると、その手の輩はいなくならんなぁ、と、国王陛下はぼやいていたよ。


「それでキッカ殿、博物館の感想はどうだね? なかなかよくできたと思っているのだが」


 問われ、素直に感想を述べる。うん。いい感じだったよ。説明文やらなんやらも充実してたし。文盲の人でも大丈夫なように、職員の人が控えていて、読み上げてくれるしね。そうそう、灯りをどうするのか心配だったんだよ。広い場所だから、ランプなんかだと数を置くことになるし、そうなるとどうしても暑くなるからね。

 その解決策として、配置されている職員さん全員に【月光の指輪】を装備させてたよ。私が組合に卸したやつ。おかげで博物館内はほぼくまなく明るかったよ。


 国が結構な量を買い占めたんだね。私以外にも付術できる人はいるはずだけれど、同じデザインの物で統一するとなると、私の作った物ぐらいしかないだろうから。


 ただ、ひとつ気になったことが。


「てっきりドラゴンも展示されるのかと思っていましたが」

「ドラゴンは後回しだな。現状の展示物だけで十分に満足できるものであるしな。これ以上、目玉となる展示物を出すこともないだろう」


 確かに、互いに打ち消し合って、印象が薄れそうですよね。


「一応、まだ出していないルームガーダー級の死骸は持っていますけれど」

「また行ったのかね?」

「いえ、先に討伐して回収しておいたものです。中層のボス……ルームガーダーですよ。確か、映像記録には……入れてませんでしたか。巨大なサソリです」


 【砂漠の女王】だっけ? 甲殻を鎧に使えないかと思って回収したんだよね。ただ、回収してそのまんま死蔵している状態だけれど。

 雑魚のサソリとの戦闘は、モンゴリアン・デス・ワーム戦の前に録画してあるけれど、中層ボスとの戦闘は記録していない。理由は至極簡単で、【氷杭】の魔法を秘匿しておきたいからだ。あれはさすがに公開しちゃダメだと思うからね。


「キッカ殿、それを譲ってはもらえないかね?」

「構いませんけれど、これも巨大ですから、場所を取りますよ」

「ふむ、ならば、練兵所へ行くか。あそこは基本的に空いているからな」

「陛下、私も同行させていただいてもよろしいですかな?」


 かくして、私たちは王宮の練兵所へと移動した。なんのかんので結構な多人数での移動だ。


 私たち三人と護衛で、二十人近くいる。ちなみに私の護衛には、リリィとリビングメイルのコンビとジェシカさん。今回の誘拐の事もあってか、今後、私が王都にいるあいだは片時も離れませんと宣言されたよ。ジェシカさんは本来、私の護衛というわけじゃないから、誘拐時、私の側にいなかったことは仕方がないと思うんだけれどなぁ。

 あ、ビーはお屋敷でお留守番。これだけ街中が人であふれかえっていると、いろいろと面倒なことになりそうだからね。


 ビーを盗もうとする輩とか出そうだし。そんなことになったら、ビーは容赦なく反撃するだろうから、普通に人死にが出てしまうよ。


 ほどなくして練兵所に到着。


 私は皆に見守られている中、【砂漠の女王】を取り出した。いつものように、【底抜けの鞄】から取り出したように見せかけて、インベントリから放り出す。


 ずしん、と、軽い地響きを立てて巨大なサソリが練兵所に現れた。とはいえ、毒針の部分は立っておらず、ぺたんと地面に落ちているが。


「これは……」

「甲殻が馬鹿みたいに固いんですよねぇ。多分、武器全般、ほぼ役に立たないと思います。魔法でどうにかするのが一番でしょうね。それでも大変でしたけれど」


 でもこれ、ここに出して置いたら、人が集まって来ちゃうんじゃないかな。博物館(仮)は、元宝物殿で同じ敷地内。ここからは目と鼻の先だし。


 国王陛下とナバスクエス伯爵は子供みたいに、【砂漠の女王】の甲殻を触ったりしてはしゃいでいるけど。


 あぁ、護衛のみなさん、なんだか困ったような顔と云うか、「仕方ないなぁ」というような感じの雰囲気になっているよ。


 きっと、いつものことなんだろうな。


 思わず苦笑をしていると、急にリリィが話しかけて来た。


『ご主人!』

『ん? どうしたの?』

『私も触って来たい』


 こいつもか。


『まぁ、いいわよ。国王陛下たちの邪魔はしないでね』

『大丈夫。私は違いのわかる人形!』


 なんの話よ。


 リリィはリビングメイルの肩から飛び降りると、【砂漠の女王】へと向かってテクテクと歩いていく。


 って、歩いていくのかよ。あんた飛べるんでしょ!?


 はぁ。と、私はため息をついた。


 そして周囲に気を回す。


 あぁ、やっぱり目敏い人がいたらしい。人が集まって来ちゃったよ。


 思わず私は護衛の方たちと目を合わせ、示し合わせたようにガクリと肩を落としたのでした。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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