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320 タルタルソースもつくろう


 足を生やしたよ。


 もう、二度とやりたくない。腕をくっつけるのと訳が違うよ。


 気持ち悪い。すっっっっごい気持ち悪い。


 最初に激痛が走るんだよ。塞がってる切断面が開くわけだから、これが痛いのは仕方ない。その後、骨やら肉やら血管やらが生えてくるんだけれど、それに合わせて神経も当然再生して伸びて行くんだけれどさ、これが気持ち悪いんだよ。


 なんていうの。ヤスデとかムカデを一杯に入れたお風呂に足を突っ込んだらこんな感じなんじゃないかな? っていうような感触がしてね。チクチクわさわさウネウネした感触が酷いんだよ。


 いくらドMでもダメなものがあるんですよ!


 腕を切断された時は割と平気だったし。


 まぁ、治せるから、っていう安心感があるからかもしれないけど。でも痛いものは痛いんだけれどね。


 でも再生のあれはダメだ。もう二度とこんな目に遭わないようにしようと決意したよ。皮膚の再生が一番最後だったのもアレだったし。


 足を生やした後に、いつものようにリスリお嬢様が来たので見せびらかしたら、はしたないと叱られたよ。本当、謎なんだよね。足とか晒すとはしたないと云われるのに、ベーシックな社交用ドレスは、なぜにあんなにも胸の部分を開いて谷間を強調しているのかと。


 と、足を生やす前の話を。


 教会から、先日お会いした三名の重鎮、ビシタシオン教皇猊下とテオフィラ枢機卿、そして月神教のシドニー枢機卿。

 そういやシドニー枢機卿、無神論者だったのがひっくり返って、えらい熱心にアンララー様を信仰しだしたらしい。まぁ、目の前で神罰が降って人が死ぬところを見ればそうもなるかな。私が名指しで脅しもしたしね。


 他には軍犬隊の方が数名。ジェシカさんは当然のこと、ファウスト隊長も来ていたよ。


 そして冒険者組合からは、総組合長のティアゴさん。芸術祭で行われる武闘大会関連の仕事でこっちに来ていたらしい。そしてラモナさん。ラモナさんは一般職員だけれど、王都支部での私担当ということで、ティアゴさんと一緒に来たみたいだ。


 話し合いの方向は、いかにして帝国に落とし前をつけさせるかってことになっていて、私が怖気づくレベル。

 そうしないとのらりくらりと逃げられるらしい。変な合議制の国家体制だから、専制君主国家を相手するみたいにはいかないみたいだ。簡単にいうと、王様が八人いて、話し合って「代表お前な」と決められた者が皇帝を名乗っているらしいから。ちなみに皇帝の交代は、皇帝の死亡後であるので、ころころとトップが変わることはない。


 うん。気が付いたと思うけれど、毎年の持ち回りだったとしても、皇帝になるのは八年に一度。実際は死ぬまでは変わらない(余程の馬鹿をやらかしたら変わるだろうけど)。なので、皇帝の座から遠ざかっているどころか、建国以降、一度も皇帝を排出していない公家もあるそうだ。


 やらかしたアレの実家はエルツベルガーっていうらしいけれど、一応、先々代の皇帝の家系とのことだ。まぁ、だからどうだってことだけれど。


 ディルガエアは帝国へ食糧の輸出を相当量しているんだけれど、なんか、トラブルが絶えないらしいんだよね。それもあって、ディルガエアはこれ幸いと大変やる気になっているよ。


 マルコス宰相閣下がすっごい悪い顔をしてたよ。


「帝国に麦を売らなくとも、麦の消費が跳ね上がりましたからな、まったく問題ありませんとも。むしろ、国内の食が充実するというものです」


 まぁ、お米と一緒で、保管さえしっかりしていれば、問題ないしね。揚げ物や麺類の関係で、消費が一気に増えたこともあるし。


 帝国との交渉は、最終的に賠償金云々になるだろうから、私の昨年の年収を日割した金額を基準に脅すって云ってた。


 私の去年の年収っていくらだっけ。かなり馬鹿げた額になってるはずだけど。


 まず、近衛の鎧。組合に委託している鎧。薬関連。あとは魔法がひとつ売れる度に幾らか報酬が入って、他はなにがあったっけ? あぁ、お料理レシピ代があるか。あとは魔物を売った報酬があって……オークションでの収入もいれていいのかな? ネズミ捕りは今年の収入だよね?


 となると……金貨にして二万枚くらいになるんだけれど。えーっと、一日当たり――五十五枚? 金貨五十五枚!? ひと月の生活費って、金貨二枚程度だよ。一日で何年分稼いでるの私? 二年分とちょっとだ。


 え、現状で、慎ましやかに暮らすだけなら七百年以上働かずに生活できるの? いや、物価の変動があるだろうから、さすがにそこまではいかないだろうけれど。


 ……ここまでお金があると、誤差の範囲でしかないな。


 そして組合。こっちはかなり地味ながら厳しいことをするみたい。薬の販売を拒否するとのこと。他にも販売に大幅な制限を掛けるとのこと。


 薬だけれど、貴族からは入荷次第寄越せってレベルで、購入の打診がきているんだって。もちろん、買占めなんて組合はさせないから、適当にあしらっているそうだけど。

 薬の生産は行われているけれど、現状はサンレアンとディルガエア王都だけ。理由は錬金台がそこにしかないから。錬金台の材料の関係で、いまだに数がないんだそうな。ネックになっているのは月長石と孔雀石、そしてなによりも魔石。月長石と孔雀石は、必要量さえあればクズ石でも構わない。でも魔石に関しては一定の大きさを求められるため、数が集まらない。


 ちなみに、必要なサイズの魔石を得るためには、人食い鬼サイズの魔物を狩る必要がある。


 これまでに集められた中にはないのかって? あるよ。でも、私があれこれはじめるまで、魔石は棄てるに棄てられないゴミ扱いの代物だったからね。扱いが粗雑だったり、大きさが手ごろだって理由でスリングの弾丸にされたりしたせいでないんだよ。


 こっちの人たちの魔石に対する認識は、腎臓結石とかと同じ扱いだからね。地球でいうところの、ベアゾール石みたいな認識もないから、本当にゴミ扱いだったのさ。


 今は付術関連で必須になったため、価値ができたけれど。


 で、薬なんだけれど、当然、帝国でも入荷した端から貴族が買って行く状況なのだそうな。今後はそれを一切断るとのこと。


 理由は、貴族向けに販売されている回復薬が、私の作ったものだから。現状、出回っている錬金回復薬は、私、タマラさん、ラモナさんが調剤したものがほとんどだ。その中だと、私の作った回復薬がいちばん効能が高くて高品質であるため、高級品扱いで販売されている。


 貴族なんて見栄を食って生きているようなところがあるからね。それに加え、値段に見合った効能があるとなれば躊躇いなく買うというものだ。


 あ、私がいま組合に卸している回復薬は、下級と中級の二種類だよ。あと軟膏。


 そのため、帝国貴族への薬の販売停止だけでも、かなりの打撃があるそうだ。あ、適当な人物に代わりに購入させるということに対しては、きちんと対策をとってあるとのこと。


 薬と云えば教会でも販売をしているけれど、運び込まれた怪我人への治療の一助として使われているため、制限は掛けられてはいない。


 ただ、なにかしらの“不便”が彼らには掛けられるとのこと。


 地神教と月神教はもとより、水神教はかなり激怒している。特にヒルデブランド枢機卿が陣頭に立って、いろいろと指示をしているそうだ。ヒルデブランド枢機卿は教皇を引退して相談役となった枢機卿ではなく、侍祭から成り上がった苦労人だ。


 大木さんが云うには、『キッカちゃんを相当気に入っているみたいだよ。子供好きの人物で、キッカちゃんの事を孫みたいに思っているみたいだね』だそうだ。それもあってか、帝国には容赦なく対処していくらしい。かなり暴走しているような気もするんだけれど、ノアベルト教皇もヒルデブランド様と一緒になって暴走しているらしい。


 なんか、私と会ってからおかしくなっているらしいけれど、これ、あれか。異性に対して微妙な魅了効果(ほんのり好意的になる)を発揮するパッシブ能力と、何故か年配の職人気質の人には気に入られるアレのせいか。


 まぁ、帝国に関してはテスカセベルム並に気に入らなくなってきているから、どうでもいいか。水神教の方針にたいして、私がどうこう云える訳でもないしね。


 そして最後に、事によっては暗殺して回ることも辞さないと決意している私がいる。これが私の意志なのか、もうひとりの意志なのかは不明だけれど。


 ま、結果がでるのは早くても再来月くらいだろう。なにせ、移動に時間がかかるからね。だからそっちは放置しておこう。


 となると、問題となるのは【陽神教】の残党だけか。大木さんが組織だけは壊して来たっていってたけれど。なにをしたのかは不明だけれど『仲間割れって云うのは醜いよね』なんて云っていたから、きっとロクでもない事なんだろう。楽しそうだったし。


 ★ ☆ ★


 二十日となりました。芸術祭の前日ですよ。今日のお昼辺りから、街では気の早い人たちが浮れだして、お店も一足早くお祭り仕様で営業をはじめたりするのです。


 広場に作られた臨時ステージでは劇団の若手が稽古も兼ねて即興劇をしたり、地元の奥様方がこの日の為にと練習してきた演劇をしたりと、各々が好き勝手にお祭りを楽みはじめるのが本日二十日。


 なんだけれど、私はイリアルテ家で大人しくしていますよ。まぁ、あれだけみんなに心配を掛けちゃったからねぇ。


 街を回ってきます! とか気軽に云えるほど、神経は太くないよ。


 アレクサンドラ様が見えて、私を確認するなり泣き出しちゃったし。


 ……今日はアレクサンドラ様にしがみつかれていますよ。


 この感じだと、アレクサンドラ様もお出掛けをすることはなさそうだ。ダリオ様はアキレス王太子殿下を手伝うために、王宮へと行っているし、ずっと私にくっついていることになるだろう。


 ふむ。今日はどうしよう。


 そうだ。食事をどうにかしなくては。いや、お肉をいまは食べられないからさ。昨晩はトマトのチーズ焼きとサラダとミルクくらいしか食べてないんだよね。


 本日はがっつり食べたいから、お肉以外の食材の料理を自分で作ろうと思うよ。


 とりあえず、お魚は食べられるので、お魚料理を!


 ということで、すっかり馴染んだ厨房へとお邪魔して、コンロをひとつ借りる。ナタンさんが見物に来たけれど、特に目新しいものは作らないよ。


 本日の私のメニューは、イトウのフライだ!


 鮭と同じ扱いにしても問題なさそうだしね。衣をつけて揚げるだけだ。


 そうだ、タルタルソースもつくろう。


 マヨネーズが存在していなかったから、もちろんタルタルソースなんてものはアムルロスに存在していない。


 材料は卵、タマネギ、ピクルス、パセリ、レモンにマヨネーズだ。


 まずは卵を茹でよう……アヒルの卵だと、かなりの量のタルタルソースになりそうだ。

 タマネギ、ピクルス、パセリを刻んで、レモンを絞る。タマネギとピクルスはナタンさんに分けてもらって、パセリとレモンは私の持ち出しだ。


 ゆで卵を細かく潰して、刻んだ野菜を混ぜ合わせたらマヨネーズを加えて和える。あ、マヨネーズは私の作った大豆マヨだよ。


 最後にレモン汁を加え、後は塩、こしょうで味を整えてできあがりだ。



 む? 味見ですか? どうぞ、ナタンさん。あ、大丈夫ですよ。みなさんの分も作りますから。


 タルタルソースを掛けた揚げたてのイトウのフライを差し出す。


 そうだ。せっかくだから海老も揚げよう。大きすぎて切り身状態になっている海老だけど。


 ……やっぱりエビフライには見えないな。凄い違和感だけれど、味は海老なんだよなぁ。当たり前だけれど。はんぺんのフライみたいに見えるよ。もういっそのこと、すり身にしてはんぺんにしようか?


 新鮮な海の幸とか欲しいなぁ。カレイの煮つけとか食べたい。やはり一度、海にまで足を運ぶべきかな。


 そんなことをぼんやりと思いながら、バッターに揚がったフライを油から上げていると、味見を終えたナタンさんが話しかけて来た。


「キッカちゃん、このソースなんだが……」

「ご自由にどうぞ。マヨネーズをアレンジしただけのようなものですし」

「そういうわけにはいかん。奥様に大目玉をくらっちまう」


 ナタンさんが目に見えるほど身を震わせた。


「大袈裟な。まぁ、レシピ代は適当にお願いします。たぶんこれ、すぐに盗まれるでしょうし」

「いまだにマヨネーズのレシピが盗まれていないのだから、大丈夫だろう」

「まだ盗まれてないんですか?」


 ちょっと驚きだよ。卵じゃなくて大豆をつかっているからかな?


「この魚は美味いな」

「そういえば、ナタンさんも魚料理はしませんけれど、そんなにこの辺りの魚はダメですか?」

「泥臭くてなぁ」

「泥を吐かせたりしてもダメですか?」

「いや、よくわからんが」

「お姉様の作ったひつまぶしは美味しかったです」


 大人しく私の調理風景を見ていたアレクサンドラ様が話に入って来た。


「ウナギはうまくいったんですよねぇ」


 そういえば、お兄ちゃんは川魚に厳しかったな。上流で獲れる魚ならともかく。鯉はもう食べないって云ってたし。あ、鮒の甘露煮をよくもらったけれど、あれも結構泥臭かったな。


 それを考えると、この辺りの川魚は食べなくてもいいかな? 今度、湖で釣りでもしてみようか? でもサムヒギン・ア・ドゥールが怖いんだよなぁ。


「ひつまぶしも食べたいです」


 アレクサンドラ様が目を輝かせている。


 美味しいものの効果はすごいな。本当にひつまぶしが気に入ったんだね。日本食が気に入られるのは嬉しい限りだよ。


 よし、ウナギはあるし、作るか。


 ひつまぶしとフライって合うかな?


感想、誤字報告ありがとうございます。


※『裏』のやった仕返しで、手足の入れ替えをしなかったのは、さすがにできない

、繋がらないと判断したからです。太さも違うしね。ちなみに、料理人たちの抜いた舌は、放置した彼らの胸の上に置いてきています。お皿に載せて。『食材だ。使え』という意味を込めて。

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[一言] ひつまぶしの調理で暇つぶしってか……
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