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319 あぁ、引き籠りたい


 TPOを弁えろ、阿呆。


 ……いきなりなんだって? いや、お説教のお言葉だよ。


 ほら、大木さんはもうひとりの私と話をしたわけじゃないのさ。それで、どんな感じだったか訊いたんだよ。


 私たちが入れ替わっている時って、私はこう……なんていうの、背後霊って、こんな感じなのかなっていうような立ち位置にいるんだよ。でも見ることは出来るけれど、音声とかは聞こえないんだよね。


 だから、無茶苦茶なことをやってるのは知っているんだけれど、どんな言動なのかは知らないのさ。


 なので、そのあたりを知りたかったんだけれど、そうしたら、さっきの一言を云われたよ。


 伝言だって。


 システルニーナのことみたい。主にその装備。


 う、うん。自重しなかったからね。ゲーム内の鍛冶屋さんの言葉から、これを使ったら火力が飛躍的に上がるんじゃね? という工夫をしたり、自身の攻撃の熱量で熔け落ちたら間抜けもいいところだと思って、耐熱を百パーにしたりして拵えた自信作なんだよ。


 なんか、熱線砲なんか積むなって話らしいんだけれど……あれ? 装備してたのは火炎放射器というか、火炎砲なんだけれど。


 そのことも確認したところ、私を誘拐する動機となった例のオートマトンを熔解させた挙句、その背後にあった建物を焼失させたみたい。人に当てたら多分、黒焦げどころか消し炭になるレベルって云われたよ。


 ……あぁ、うん。ダメだね、それ。そんなに威力が上がってたのか。


 それに加えてもうひとつ。パイルバンカーの杭の撃ちだし機構。


 い、言い訳をさせておくれ。なんか最近も云った気がするな、この台詞。


 えっと、撃ちだし機構だけれど、最初はフライホイールだっけ? そんな感じので作ってみたんだよ。でもあまりにも威力が悲しかったんだよ。だから威力を上げようと色々と試作した結果、火薬式を採用したんだよ。連撃もできるようにするために、オートマティック拳銃の機構を真似た結果、あんな感じになったと。おかげで右腕はかなりゴツくなったよ。でも左腕の火炎砲もかなりゴツイから、バランスはとれたね。


 その結果、システルニーナのフォルムはサイズの合わないアメフトのアーマーを着た人みたいになってるよ。頭は小さいけれど。個人的にはすごい好き。


 あ、弾薬はどうやって作ったのか? ズルして作った。だからあれは表に出す予定は全然ないよ。ひとりで眺めてニヤニヤするために作ったようなものだからね。それが実戦したのかー……。見たかった。




 さて、朝ごはんをなんとかいただいた後、王都に帰ってきましたよ。大木さんに送ってもらいましたとも。


 で、イリアルテ家に帰ったところ、大騒ぎになった。いや、行方不明になっていたのが、しれっと戻って来たからね。更には私の足が切断されているのが知れて、さらに酷いことになった。


 あ、足だけれど、再生するのは今晩にするよ。一応、地神教の方にも報告する予定だからね。再生するのはそれが終わってからだ。


 そう云ったところ、この状態、状況を見て、私が教会まで出向くのはいかん! とバレリオ様が仰って、いま、ベニートさんが教会にまで連絡に走ってる。


 多分、誰かがこっちに出向くことになるんだろうと思う。


 あ、そうそう。私を運ぶ役目は、英雄スケルトンのままだよ。リリィのリビングメイルと交代しようかとも思ったんだけれど、リビングメイルの鎧って魔人の鎧だから、トゲトゲしてるんだよ。


 うん。抱えられるととても痛い。刺さる。なので私の運搬は英雄スケさんのままだ。


 そんなわけで、いまは事情説明をするために待機しているところなんだけれど、頭にはリリィがひっついていて、右にはリスリお嬢様、左にイネス様がくっついている状態だよ。


 ただリスリお嬢様はともかく、イネス様はなんとなく私を妹枠ではなく、お子様枠にしているような気がしてならないんだよね。私、イネス様とはふたつしか歳は違わないよ。


「ふたりとも、いい加減に離れなさい。それじゃキッカちゃんが休めないでしょう」

「離れたらまたキッカ様はどこかに行ってしまいます」

「どこにも行きませんよ。そもそも行こうにも、いまは足がありませんし」


 ぐぅぇ。


 なんでそんなに力を込めてしがみつくの?


 さすがに苦しいし、暑いんですけれども。いくらディルガエアが夏場でも過ごしやすい気候であるとしても。


「キッカちゃん、さすがにそれは笑えないわ」

「移動が不便なだけで、他に問題はないんですけどねぇ。今のところ幻肢痛もありませんし」

「幻肢痛ってなんですか?」


 リスリお嬢様が訊ねる。


「失われた手や足の痛みを感じる症状のことですよ。いまの私で云えば、爪先に痛みを感じたりするような感じですね」

「あぁ、聞いたことがあるわね。“幻肢痛”っていうのね」


 エメリナ様がお茶に口をつける。


 今日のお茶はちょっと苦手だ。ハッカ茶みたいな感じなんだけれど、すごい鼻に抜ける感じがするんだよ。


 そういや、前に紅茶を作ろうとか思って、そのまま保留しっぱなしだっけ。サンレアンに戻ったら今度こそ作ろう。


 私はお茶請けのクッキーに手を伸ばす。飾り気のないシンプルなバタークッキーだ。


 そういや、ジャガイモのクッキーってあったな。料理対決で作ってみようか。


「私を攫った実行犯の連中ってどうなりました? ひとりは私を転移の魔道具の効果範囲に押さえつけて、私と一緒に転移しましたけど」

「残りの連中は捕縛済みよ。キッカちゃんを攫った後の事はなにも考えていなかったみたいね。後始末ができなかったことで大騒ぎになってね。トイレの中で悶絶していた者たちを、その時は保護したのよ。まぁ、保護と云っても、お人形さんと鎧が取り押さえていたことで、警備の者とひと悶着あったんだけれどね」


 あぁ。リリィは私の所在を感知できるからね。私の気配がトイレから消えたことで、中に突入したんじゃないかな。


『賊は私が捕らえた』


 またリリィはネタ台詞みたいなことを。


 私の頭にしがみついているリリィは、きっと無表情なドヤ顔をしているのだろう。


『警備の人は無事よね?』

『大丈夫。私は負けない』


 いや、そうじゃなくてね。……バレリオ様もなにも云っていないし、大丈夫なのかな? 大丈夫なんだと思おう。


「そういえば、催涙ガスを一瞬で散布するなんてできるとは思ってもいませんでしたよ。連中、どうやったんです? 自分たちも巻き込まれるような間抜け具合だったみたいですけれど」


 あぁ、それなら簡単よ、と、エメリナ様が説明してくださった。


 うん。本当に簡単だった。


 用意する物は【底抜け~】系の時間停止機能のある収納。そして液状の催涙効果のある薬剤。あとは熱した石を入れた器。これだけ。


 連中は【底抜けの巾着】から焼石の入った器をだし、そこに薬剤をかけ、一気に蒸気化させただけだそうだ。


 実に単純だ。私なんかはスプレー缶とか催涙弾みたいなものを思い浮かべるから、そういう手法はまったく思いつかなかったよ。


 これからはガスとか、そういったものにも気を付けて生活しないといけないのかな。ガスマスクでも作るか。でも見た目がなぁ……。ペスト医師のマスクでさえ異様に怖がられたしなぁ。


 何故かタマラさんは嬉々として被ってお仕事しているけれど。


「ただ、掴まえてからちょっと面倒にはなっているわね」

「面倒ですか?」

「連中、転移の魔道具をもう一式持っていたのよ。お人形さんが優秀でね。トイレにいた実行犯を捕らえた後、他の場所で罠を張っていた連中の仲間を見つけ出して捕らえたの」


 頭にしがみついているリリィがもそもそと動く。胸でも張っているのかな?


「転移の魔道具は帝国が独占しているものだから、それを使って他国での犯罪と成れば国際問題となるわ。それを所持しているのは国家と教会だけだもの。そして教会がそれを使ってキッカちゃんを攫うなんてことは有り得ない」


 エメリナ様が不敵にも見える笑みを浮かべる。


「国王陛下は今回の事で、帝国に激しく抗議するそうよ。帝国側はかなり困るでしょうね。あの国は食料を自国で賄えていないから。ディルガエアからの抗議はただ事ではないレベルで受け止められるはずよ。それに加えて教会からの抗議。教会としては勇神教の有様があるから、今回の事に関しては全力を出すでしょうね。水神教とてアレカンドラ様から直接の神罰なんて受けたくないでしょうからね」


 なんだかすごい大事に!?


 いや、よく考えたら大木さんもなにかやる気だよね? 別れ際、すっごい笑顔だったし。七神と違って、なんの制約もない神様がウロウロするとか、完全に災厄みたいなものだと思うし。


 いやいや、その前にだ。国としては私をどういう位置づけにしているんだろ? これが普通の平民だったら、ここまで大事にはならないよね? 教会の方は私を神子認定しているのを利用して、もうひとりが焚きつけたみたいだけれど。


 ……。

 ……。

 ……。


 うん。無理。どう頑張っても頭が思考を放棄してるや。もう、なるようにしかならないんだから、諦めて成り行きを見守るとしよう。


「帝国はどう対処すると思う?」


 エメリナ様の視線が、私から私の腕にしがみついているイネス様に移った。イネス様はほんの少し思案すると、口を開いた。


「教会の抗議がある以上、知らぬ存ぜぬを通せるわけもないもの。首謀者一派の処分と賠償あたりで交渉して来るでしょうね」

「私、結構やらかしてきましたけれど、私の身柄を要求されたりしませんかね?」

「それは有り得ないわね。そんなことをしたら七神教が、というよりは、軍犬隊が帝国相手に戦争を始めるわよ」


 え?


「軍犬隊って、そういう人たちの集まりだから。加護持ちの人物に対しての狼藉に対して、行動しないハズがないのよ。多分、教会側は鎖を握るのに大変なはずよ」


 あ……そうだった。普段はそうは見えないけれど、あの人たちって基本、狂信者なんだっけ。


 それこそ神が望むなら、いくらでも命を捧げましょうというくらいの。


「そういえば、ジェシカちゃんが『親衛隊を組織します』って云ってたわね。お人形さんからの伝言が無かったら、軍犬隊主導で聖戦を発動していたんじゃないかしら」


 うわ、それ、思いっきりダメなヤツじゃないですか。というか、もうひとりは完全に火薬庫に火を投げ込んでるじゃないのさ。わかっててやったの?


 というか、リリィの伝言って何?


 リリィに訊ねたところ、自力で帰ると、もうひとりが伝言したらしい。念話っていうの? テレパシー的なもので話ができるからね。いまもしたし。


 どうしよう。しばらくしたら教会から誰かくるだろうし、なんとか穏便にしてもらえるように云うべきかな?


 いや、そんなこと云ったら、逆に焚きつけそうな気もする。


 私は顔を引き攣らせた。


 頭を抱えたい。でも両手は押さえつけられてるよ。




 かくして、私はこう思ったのです。




 あぁ、引き籠りたい。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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