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316 なにを拵えたんだよっ!?


 ガシャンと、鉛色のオートマトンが別棟から歩み出す。その動きは微妙にぎこちない。


 どうやらまだ、調整が完全に済んではいないようだ。


 三階にいた学生の話だと、ダンジョンより集めたオートマトンを継ぎ接ぎした代物らしいが、なかなかどうして、外見上はバランスは取れているじゃないか。


 重量の関係から六足になっているのだろうが、それが原因で、核が機体の操作を制御できていないのだろう。恐らくは、六足であることがイレギュラーであるのだ。


 いや、そもそもオートマトンの制御機構……中枢をウルリヒはいじる、或いは作ることができるのか? 二足制御しかできない核ユニットそのままだというのなら、六足の制御をさせるのは無理もいいところだぞ。


 ウルリヒへと視線を向ける。凍結状態から復活した兵士たちに守られるように囲まれたその中心で、ひとり得意気にふんぞり返っている。


 ヨハンとスヴェンは、キョウカから距離をとって対峙していた。


 まぁ、ウルリヒの技術のことなどどうでもいい。あんな玩具を出してくれたんだ。ならばこちらも応えねばなるまい。


「あぁ、実に素晴らしいね。私が想像した中でも、もっとも愉快な行動をしてくれるとはね。ウルリヒ、君に対する評価を引き上げてあげよう」


 私は云いながら左手を左へと伸ばす。


 そしてこれみよがしに、それを呼ぶ。


「システルニーナ」


 巨大な金属の塊が私の傍らに現れる。


 召喚魔法などではなく、単にインベントリから取り出しただけだ。


 無骨で巨大なフレームに支えられた、大型の人型オートマトン。身の丈三メートル。実のところ、ゲームだと強力ではあるが微妙な性能の敵だ。まさに木偶の棒だった。接近戦さえしなければ安全に倒すことができるカモ、素材キャリアだった。

 だが、こいつは違う。なにせ仕様はトレーラームービーに登場したものだ。まるで別ゲーの搭乗型の半自律型人型兵器のように演出されていたヤツだ。


 右腕にはパイルバンカー、左腕には熱線砲という、まさに広告詐欺のような代物になっていたヤツだ。故に、その姿もゲーム版とは大分違い、全体的に丸みのあるフォルムとなっている。


 私がインベントリから出した【システルニーナ】は正にそれだ。真鍮合金製の金色のオートマトン。


 ウルリヒはシステルニーナの姿に、目と口でみっつのОの字を作って立ち尽くしていた。


「どうしたウルリヒ。お望みのオートマトンだぞ。欲しければ勝ち取れ」


 私は嫌らしい笑みを作る。


「貴様が求めるモノはここにあるぞ」


 アウクシリアがシステルニーナを繋ぎとめているロックを外す。ガゴンと音を立てて、磔のような状態であったシステルニーナが自由になる。各部モーターの甲高い音が響く。


 聞き慣れない音にウルリヒはもちろんのこと、彼を護衛している連中もたじろいだのか、半歩ほど後退した。


 意気地がない。本当に意気地がない。ふざけるなよ。その程度で私に喧嘩を売ったのか? 


 さて、それではシステルニーナにはあの出来損ないのアラクネみたいなオートマトンを破壊してもらおう。


 私は六足のオートマトンを指差す。それを確認したシステルニーナはゆっくりと歩き始めた。


 少しばかり補足をしよう。


 私が所有している、あっちが組み上げたオートマトンと、この世界のダンジョン産のオートマトンはまったくの別物だ。


 私のオートマトンは科学寄り。魔石を燃料として動いている電気人形だ。だがダンジョン産のオートマトンは、どちらかというとゴーレムに近い。


 この辺りの違いを教授してくれたのは大木さんだ。曰く――


『ゴーレムっていうのは、要は彫像を魔法で無理矢理動かしているわけだ。ただの岩の塊であるのに、肘とか膝が自在に動くのは、そこを魔法で随時変形させているからだよ。だからゴーレムは動きが鈍いんだね。うん。まったくの無駄だ。だから各関節部分を、予め普通に稼働するようにしておくのさ。簡単にいうとプラモデルみたいなものだね、金属製だけれど。予め動くギミックがあれば、変形させる必要が無い分効率的だし、なにより動きが速くなる。それがダンジョンに配備されているオートマトンの正体だよ』


 とのこと。


 まぁ、確かに。ロボットもゴーレムって云い張ればゴーレムだろうしな。ダンジョン産オートマトンの中枢ユニットは、いわゆるゴーレム(コア)とでもいうようなもので、それを機体のどこかに嵌めこめばそれでオートマトンとして起動するそうだ。


 核と機体との導線だのなんだのはまったく不要らしい。


 一方、私のオートマトンたちは、完全にドロイドだ。頭部に中枢を据え、動力を装備して初めて起動する。その機体はワイヤーだの油圧シリンダーだのを用いて動かしている。もっとも、それらを制御する中枢はAI的なものといっても、その実体はかなり神秘(オカルト)じみているが。エーテル素子なるもので作られた中枢ユニットに疑似魂魄を埋め込んであるというが、私にはさっぱりだ。複数の(CPU)を積んでどーのと云われた方がまだ理解できる気がするというものだ。


 歩行のおぼつかない六足オートマトンに、軽く地面を揺らしながらシステルニーナが接敵する。


 右腕を振り上げ、一気に振り下ろす。


 六足は後方へ数メートル跳び、それを躱す。いわゆるバックステップ。


 歩くのは怪しくとも、跳ぶことは出来るようだ。


 六足が左腕を右腕で支え翳す。


 む?


 慌てて弓をインベントリに戻し、黒檀鋼の盾を取り出す。


 直後、六足はボルトを連射しはじめた。


 あの左腕にはクロスボウ的なものが仕込まれているようだ。だが、照準の調整がなっていない。システルニーナにも当たっているが、その殆どがあちこちに無駄に飛んでいく。


 ガッ! ゴッ! と、流れボルトを盾で防ぐ。横目でウルリヒたちを確認するが、そちらにはボルトは飛んでいないようだ。


 角度的に範囲に入らなかったのか、それとも六足がウルリヒをきちんと確認して外したのかは判断できない。


 学生たちの話では、見境なく攻撃するとの話だったんだがな。


 システルニーナはボルトをものともせず突き進む。六足もすぐに矢玉が尽きてしまったらしく、殴り合いへと突入した。


 巨大な機体の殴り合いの迫力は異常だ。気分を高揚させるどころか、恐怖心しか周囲に与えない。ウルリヒの兵士たちの大半がこの光景に立ち尽くしていた。


 その中で、普通に戦っているヨハンとスヴェンは、実に忠実であるということだろう。いや、己の命が掛かっているのだ。キョウカから目を逸らすなど有り得ないか。


 しかし、キョウカは異常に強いな。ふたり相手に大剣だけで攻撃を完全に捌いている。一方、ふたりはキョウカの攻撃を捌き切れていない。この分なら、遠からずキョウカがふたりを降すだろう。


 視線を戻す。


 モーター音を響かせシステルニーナが右拳を突き出す。だがそれを六足は左腕でかちあげ逸らす。爆発音と共に撃ちだされた杭は当然当たらない。


 右腕から薬莢が排出される。


 ……は? 薬莢!?


 あの馬鹿、フライホイール式じゃなくて、本当に火薬式にしたのか!


 ……そういえば、パイルバンカーは弾数四発がお約束よね。とか阿呆なことを云っていたな。本当に四発にして、代わりに馬鹿げた威力にしたんじゃないだろうな。


 いや、そうじゃない!


 何をやらかしているんだ。銃の機構を作るのはダメだろう。私のことながら、アレの考えることはわからん。


 巨大な金属の塊による殴り合いが始まる。


 見た目的には、どちらも同様の打撃を与えているように見えるが、その差は歴然としている。機体を構成している素材の差が如実に出ている。


 既に六足の装甲はそこかしこが凹み、亀裂が生じている。だがシステルニーナの装甲は綺麗なものだ。内部構造にダメージは入っているかもしれないが、軽微なものだろう。


 今度はシステルニーナが六足の右ストレートを左腕でかちあげ、ガラ空きになった胸部に右腕を叩き込んだ。


 爆音が響く。


 パイルバンカーが六足の胸部を射貫いた。だが金属の塊を貫いた杭は引っ掛かり戻らない。


 これをチャンスとばかりに、六足がシステルニーナの右腕を掴み折ろうとするが――


 その程度ではビクともしないぞ。そいつはシステルニーナ(戦車)だ。頑丈さと高火力が取り柄の代物だからな。


 ぐいっと、システルニーナは上げた左足を六足の腹に当て、無理矢理に撃ち込んだ杭の引き抜きに掛かる。


 ギャリギャリと嫌な音を立てて杭が引き抜かれる。


 そして遂に杭が引き抜かれ、引き抜くために力を込められてい左足が一気に伸ばされる。蹴られたような状況になった六足は、たたらを踏みながら数歩退がった。


 胸部に大穴が空いてはいるものの、活動には問題がないようだ。それどころか、壊れた部分が歪な形でありながら修復されていく。


 なるほど。ゴーレムということか。多少の破損は自己修復すると聞いていたが、あの大穴も多少の破損に入るということか。


 だが、そんな大きな隙をシステルニーナが逃す訳もない。


 大砲のようになっている左腕を向ける。腕の歯車のようになっている部分がグルグルと回転し始めた。


 そう、左腕の中央部分は、歯車を縦に重ねたようなデザインになっている。故に側面には、歯の部分が等間隔に並んでいるようにみえるのだ。


 それが回転をはじめている。


 ただの飾りじゃなかったのか? いや、回転することになんの意味がある? 熱線砲だろう?


 まるでジェットエンジンのような甲高い音がことさら大きく響き渡り、直後、世界が真っ白い光で覆われた。


 思わず左腕を翳し、光から目を護る。


 光が収まると、辺りは燃えていた。


 植えられていた庭木は炎を上げ、六足と、その背後にあった別棟が消えていた。


 熱線に包まれ、溶け、焼け落ちていた。


 ……は?


 いや、待て、本当にあっちはなにをやらかしたんだ!? 魔改造しているのは見ていたが、なにをどうやった!?


 別棟が倒壊したぞ!? 煉瓦造りの建造物が融けて崩れ落ちたぞ。ここも凄い熱気なんだが!? 植木がまるで天然の松明だ! オートマトンも人型部分が熔解して、もはや見る影もない!?


 まるで大口径の高出力レーザーじゃないか!?


 あの馬鹿……いや、私の事なんだが……なにを拵えたんだよっ!?


 システルニーナを見る。システルニーナは冷却中なのか、左腕の装甲が開き、蒸気を噴き出していた。


 頭を抱えたい気分だ。少なくとも、本宅に延焼していないのが救いだ。まだ中に人がいるからな。別棟に人がいないのは確認済みだ。


 ウルリヒの方へと視線を戻す。


 そこでは、すでに片がついていた。護衛の兵士共はすべて切り伏せられ、残っているのはキョウカに剣を突き付けられたウルリヒだけ。


 ヨハンとスヴェンは、恐らくはシステルニーナの引き起こした余りの事にキョウカから気を逸らしてしまったのだろう。

 いまはアウクシリアたち二体が手足を正しく間違えてくっつける作業を行っている。


 私は左手の盾をインベントリにしまうと、システルニーナが固定床へと収まるのを待ってから、それを格納する。


 ふむ。これで騒ぎは終いだな。


 さて、ウルリヒは傷つけずにおこう。元凶で、最も痛めつけたい相手ではあるが、恐らくは無傷で解放した方が面白いことになるはずだ。


 いや、面白いことにしてやる。


 私を抱えた英雄スケルトンは、へたり込むウルリヒに向かって悠々と歩き出した。


誤字報告ありがとうございます。

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[一言] 記憶の共有の仕方が若干雑 現実の多重人格もそんなもんらしいですが
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