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315 私はただの魔法使いだ


『我が視覚に捉えられぬ霊気無し』


 言音魔法【霊気視】をつかう。


 あらためて周囲を見回し、館内の人の動きを確認する。


 慌ただしく動いている者が幾人も見える。


 ふむ。どうやら私の行ったことが露見しているようだ。やはりどこかに監視カメラ的なものが仕掛けられていたのだろう。


 それに注意して辺りをあらためて見回す。あからさまに怪しい機材が、廊下の天井隅にぶら下がっているのを見つけた。


 【雷撃】


 破壊完了。貴重なものかもしれないが、知ったことか。


 それにしても、私の危険性というものをまるで理解していなかったのか? 私は自身を【魔法使い】であると公言しているのだ。冒険者組合ですこしでも情報を集めれば、私に関することは直接的に集めることは無理でも、間接的にいくらでも入ったハズだ。にも拘らず、ただ施錠しただけの部屋に閉じ込めただけで安全とでも思っていたのか?


 まったくもって呆れ果てる。


 普通はいざというときに取り押さえるための警備を扉の所に配備して置くものだろうに。


 さて、人数は……三十人……いや、四十人くらいか? さすがに片腕の塞がった【英雄スケルトン】だけでは厳しいやもしれん。


 召喚【狂乱の女侯】


 燃えるような赤毛の魔人を召喚する。これで私の召喚枠はすべて塞がった。尚、彼女には名付けをしてある。【杏花】。これは私が名付けたわけではなく、向こうが付けた名だ。【狂花】とも掛けてあるようだ。私が先に召喚してしまったわけだが、問題はあるまい。



 ひとまずはこの戦力で行こう。戦力の更なる追加もできるが、それはあのウルリヒとやらの目の前で出してやろう。羨望と絶望を同時に味わわせてやる。


 私の脚の再生はあえて行わない。連中に対し報復する正当性は残しておかないとな。


 それじゃ、進むとしよう。




 方針は見敵必殺。ただし胴体を両断することだけは禁止した。蘇生するのに面倒な手間が増えるのはいただけない。飛び散った腸を詰める作業などに時間を割きたくないからな。


 なにより臭い。


 【霊気視】で人のいる方向へと進み、見つけ次第に斬り飛ばす。キョウカは本当に一切の容赦が無い。頼もしい限りだ。命乞いなどただの雑音だ。命乞いなどせずとも命など取らん。そもそも命なんぞいらん。


 会敵した者は悉く手足を斬り飛ばされ無力化され、たまに首を飛ばされる者が出る程度だ。


 作業の面倒さから、オートマトン・アウクシリアを二体出す。蜘蛛と蟹と蠍を足して三で割ったようなオートマトンだ。戦闘用ではなく、作業補助用の機体である。こいつをインベントリから出したのは、執事、メイド、警備と、キョウカが切り倒した連中をきちんと並べてもらうためだ。もちろん、斬り飛ばした腕だの首なども。それぞれ間違えずにきちんと並べてもらう。


 但し、手足だけは左右逆に。


 【究極回復薬】を掛けて治療をしていく。首を飛ばされた者には、それに加えて【電撃】を撃ち込み、止まった心臓を無理矢理再稼働させる。


 死んでもらっては困る。後の人生、不自由に生きてもらわねば。


 ……いちいち【霊気視】を掛け直すのも面倒だな。屋敷であれば、指輪ひとつで十分か。


 【生命探知】の指輪を取り出し、右手薬指に嵌める。飾り気のない簡素な指輪だ。銀の輪っかというのがぴったりな代物だ。


 おや? 青の反応がふたつあるな。敵対でも中立でもなく友好か。


 上階に見えるふたつのシルエットに、私は眉根を寄せた。


 すでにこの階、二階には誰もいない。残りは三階のこの二名だけだ。他の者は一階、恐らくは玄関ホールあたりに殆どが集まっている。五人ほど東翼にもいる。


 ふむ。まずは三階のふたりを確認してから、少しばかり遠回りになるが、玄関ホールを避けて東翼に回るとしよう。




 三階にいた者は非戦闘員の学生ふたりだった。学生と云っても、実際の所は公務員のような扱いとなるはずだ、確か帝国の大学は。


 当然、ふたりとも私より年上だ。にも拘わらす、ふたりとも腰を抜かしたように床に座り込んで、ガタガタと震えていたが。


 私ではなく、英雄スケルトンとキョウカに怯えていたのだと思いたい。


 彼らのいた部屋はモニタールームの様な場所だった。なるほど、ここで監視をしていたのか。となると、ここまでの所業も観られていたのだろう。ならばこの反応も頷ける。


 どうみてもイカレタことをしているからな。


 だが、ある意味好都合だ。ここまで怯えているのなら、きっとなんでも答えてくれるだろう。


 ……。

 ……。

 ……。


 なんともまた酷い話だ。本当に私の運はどうなっているのだ?


 いや、運がどうのではなく、厄介な輩を引き付けるなにかを私は発しているんじゃなかろうか。


 要はこういうことだ。


 昨年の学会で、自身と同じオートマトンの研究をしている学者の成果に嫉妬し、それを超えるべく如月工房のオートマトンに目をつけ、私を攫った。


 それを実行するために私兵と転移の魔道具を無断で複数持ちだしていたとのことだ。もっとも、その無断持ち出しが大学と実家の双方で露見したらしく、私を攫ったその日に帝都へと弁明に行っていたとのこと。


 いまも不在であるのか確認したところ、今朝方早くに戻って来たそうだ。


 これは……どう評価すればいいのか。


 子供じゃないんだから。教授というからには、結構な歳だろう? 見たところ中年男性にみえたが。


 私を攫った時の状況からして、その手際はあまりの乱暴と云うか、行き当たりばったりといっていいだろう、臨機応変とはいいがたい。恐らく、私を取り押さえていた者の他にもいたはずだが、その連中は捕らえられているだろう。更にだ、如月工房の事を調べておきながら、私に関しては一切調べていないというのだ。


 私は工房のオーナーで、技術者は他にいると思っていたようだ。なるほど、だから技術を渡せという云い回しだったのか。


 私のような小娘が、オートマトンのことなど欠片も理解していないだろうと思われたわけだ。


 馬鹿じゃないのか?


 公家の人間ということだから、一般常識に関してはしっかりとした教育を受けている筈だぞ。


 あぁ、公家というのは、帝国皇室の八家のことだ。帝国は八つの都市国家が合併して出来上がった国家だ。そして皇帝はその八つの都市の首長……分かりやすくいえば王家といっていいだろう。その八家が会議を行い、皇帝が選出されるという特殊な統治形態をとっている。そうして選ばれた皇帝が没すると、再度八公家で会議をして、誰が皇帝となるかを決めているわけだ。


 これは……帝政といっていいのか? 私はその辺りはさっぱりであるから不明だが。まぁ、アムルロスではナルグアラルンは帝国となっている。


 そんな八公家のひとつの人間が、この有様とか。


 まったくもって呆れ果てる。


 情報を提供してくれたふたりは、私に対して敵対反応が一切でていないので見逃すことにした。助言として、そんな馬鹿とは縁を切るべきだと云い残して。




 東翼へと屋敷の中庭を抜けて入る。一階でバタバタとしていた者たちは、玄関ホールからも出て、屋敷正面で隊列を組んでいる。


 【天の目】は本当に便利だ。


 ふむ。見たところウルリヒもいるな。もちろん、私の足を斬り飛ばしたスヴェンとやらも。どうやら帰る私を盛大に歓迎してくれるようだ。そう、見送りではなく、歓迎だ。


 ならば、しっかりと応えてやらねばなるまい。


 だがその前に、厨房に籠っている連中を始末せねば。




 厨房へと到達した。ここにいるのは私と私を抱えた英雄スケルトンだけだ。キョウカには外から厨房の勝手口へと回って貰っている。逃す訳にはいかないからな。


 厨房の出入り口は倒されたテーブルを用いた、簡易のバリケードが築かれていた。


 ふむ。立て籠ることを選んだわけか。だがこっちはやることは変わらん。


『我が力、揺るぐことなし』


 言音魔法にてバリケードを吹き飛ばす。くぐもった悲鳴が聞こえたところをみると、吹き飛んだテーブルが籠っていた連中に当たったようだ。


 その騒音に合わせ、キョウカが勝手口を破って突入する。


 挟撃され、浮足立った料理人連中はあっという間に制圧された。そしてやることはこれまでと同じだ。


 料理人五名とメイド三人。斬り飛ばした全員の手足を間違えて繋げて治療。全員、昏倒させているから楽なものだ。静かなのもいい。尚、料理長だけは追加で処置を施す。舌を切除し、普通に治療をする。舌を再生したくば、ダンジョン産のポーションを買えばいい。あぁ、舌程度なら、冒険者組合で恐らくは販売されている上級トニックを使う手もある。タマラ嬢であれば、もう調剤できるはずだ。調剤用の装備も渡してあるわけだしな。


 変わり果てた状態となった私の足も回収した。……はて? 私のブーツが見当たらない。誰かが盗ったか? まぁ、ひとまずは置くとしよう。


 私たちは玄関ホールへと向かう。そしてそこから堂堂と外へと出た。


 正面には、エルツベルガー家の私兵が隊列を組んで我々を待ち構えていた。中央奥に、ウルリヒと護衛のふたりの姿がみえる。


 警戒の仕方が異常だな。まぁ、私の他に、どこから現れたのか不明な二名と二体がいるからな。警戒もするというものか。


 私は英雄スケルトンに抱えられたまま前にでる。二歩ほど遅れてキョウカ。そしてアウクシリア二体が続く。


「やぁ、ウルリヒ、なにやら忙しそうなところを邪魔をしてすまないな。私は帰らせてもらうよ。こう見えても色々と忙しくてね。君たちに預けたものを取りに来たのだよ。

 私のブーツはどこだい? あれが無くては、私は裸足で帰ることになってしまうよ」


 英雄スケルトンは私が声を張り上げ話している間も進む。


 ん? ウルリヒの側にいるメイドのひとりが狼狽えたな。なるほど、アレが盗ったか。【道標】を発動する。間違いない。どうやら履いているようだ。趣味が私と同じようだが、だからといって赦すつもりは欠片も無い。


「その足では必要ないだろう、小娘。そのふたりを何処から連れて来たのかは知らないが、この人数相手にゃ手が足りないな。大人しく屋敷に戻れ!」


 ヨハンだったか。そいつががなる。知るか。私は会話する気などないんだよ。


「必要不必要は私が決める。あれは私のものだ。勝手に決めるな。

 そうそう、それはそれは素敵なもてなしをありがとう。まったくもって、吐気がするほどに不愉快だったよ。

 これから私が行うことは、ささやかながらの礼だ。是非とも骨の髄まで堪能するといい」


 左手を前面に伸ばし叫ぶ。


『我が吐息、全てを凍てつかせん』


 言音魔法【氷の吐息】。いわゆる冷気のドラゴンブレスだ。前面広範囲に影響を及ぼすが、威力は残念に尽きる。が、影響を受けた者はすべて【氷の棺】を受けた時と同様の状態に陥る。


 多数の敵を無力化するには丁度いい魔法だ。


 あとは端から作業をしていけばいいと思ったんだが……少しばかりタイミングが早すぎたか。奥にいた七、八人が範囲に入らなかったな。


 キョウカが抜剣し突撃していく。


 凍り付いた仲間の間を抜け、ヨハンとスヴェンをはじめとした影響を受けなかった私兵たちが前面に出て来る。


 キョウカと接敵したひとりが、たちまちのうちに腕を斬り落とされた。


 並の兵士じゃキョウカは止められん。例え倒れたとしても、すぐに再召喚することができる死兵だ。もっとも、あの様子じゃキョウカを倒せる者はいなさそうだな。


 今はヨハンとスヴェンがキョウカを止めている。


「死ねぇ、魔女めが!」


 こっちに流れて来た警備兵のひとりが叫びながら突撃してきた。


「魔女とは失敬な。私は悪魔となど契約なぞしていないぞ。私はただの魔法使いだ」


 反論するが、兵士は聞いてなどいないだろう。


 横殴りに剣を振るってきた。が、英雄スケルトンは左足を半歩退げ、私を守るように斜に構えると、兵士の剣を手の剣で軽く弾く。そしてそのまま流れるような動作で両足を斬り飛ばした。次いで無様に倒れた兵士の頭を容赦なく蹴飛ばした。


 おぉう、痛そう。


 兵士はたちまち気を失った。


 こっちに流れて来たのは三人。残りのふたりも同様に無力化する。そして倒れた連中の手足を切断することも忘れない。


 さて、左右あべこべにくっつける作業だ。そういえば、血管とか神経とかどうつながっているんだろう? 【究極回復薬】を使っているわけだから、どうにか上手い具合に繋げているんだろうけれど。


 まぁ、不具合なく繋がっているのだから、問題ないだろう。


 アウクシリアが並べた兵士たちに【究極回復薬】を掛けて回る。


 よし、こっちは終了だ。


 向こうも、そろそろ凍り付いた連中が動き始めるな。キョウカはまだヨハンとスヴェンのふたりを相手に戦闘中だ。さすがに一対二では、そう簡単に倒すことはできないようだ。


 こっちは端から順に手足を斬り飛ばしていこう。


 再度歩みをはじめる。


 その私たちの姿に怖気づいたのか、メイドの数人が逃げ出した。


 逃がす訳ないだろ。


 インベントリから無強化の長弓を取り出す。ついでに技巧と敏捷のドーピング指輪を【生命探知】の指輪と入換える。


 速射し、逃げるメイドたちの足を射貫いていく。姿勢的にやりにくくはあったが、どうにかなるものだ。


 さて、残ったのはウルリヒとヨハンとスヴェンだけだ。


「く、こうなれば、貴様たちで実験してくれる!」


 急にウルリヒが叫んだ。


 見ると、明らかに目の色が尋常じゃない。この切羽詰まった状況に耐えられなかったか?


「ウルリヒ様!? おやめください!!」


 ヨハンが叫ぶ。だがウルリヒはその声をまるで聞いていない。


「起動せよ、我が機械人形よ!」


 ウルリヒが手にしていたリモコン? を掲げる。すると直後、屋敷の別棟から鈍い機械音が聞こえて来た。


 そちらへと目を向ける。


 金属製の腕が別棟の扉を打ち破り、扉を引きはがした。


 ガチャガチャと不規則な足音を立てて、それが開いた扉から姿を現わす。


 それは上半身は人型、下半身は蜘蛛、あるいは蠍の姿をした大型のオートマトン。


「へぇ、なかなか強そうじゃないか」


 私は口元に笑みを浮かべて見せた。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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