309 石焼き芋が強すぎる
生涯、卵に困ることが無くなったキッカです。
ん? 卵なら安定して確保できているだろうって? うん。できているよ。家で魔闘鶏を飼ってるしね。何故か殻の色が青いけど。あげている餌は普通の餌なんだけれどなぁ。
実際、卵を、鶏卵をお願いしたのは、レシピ関連のことが大きいんだよ。どうにも流通している卵の主流がアヒルと鵞鳥であるせいでさ、レシピによっては大変なことになるんだよ。
主にお菓子関連。
卵一個、という表記だと、私的には普通に鶏卵なんだけれど、こっちだとアヒルになってたりするんだよね。アヒルの卵一個は約鶏卵の三倍くらいの量になるからね。
ね、レシピが大変なことになるでしょう?
こうなるともう、卵液何CCとかって表記した方が楽になって来ると云うね。
……鶏卵一個(М玉)が何CCかだなんて知らないよ。
まぁ、これで、レシピを売り渡す際の手間が減るってものだよ。
これまではアヒルの卵を基準にして、レシピを書き換えていたけれど、今後は卵の表記を鶏卵と書く手間だけになるだけだよ。
ん? それだけの為に養鶏場をおねだりしたのかって? そうだよ。
それに現状は、卵は結構な高級品になっているからね。
アヒルや鵞鳥の卵が多少なりとも出回っているけれど、それってほぼ副産物みたいなものだし。
鵞鳥やアヒルが養殖されているのは、羽根ペンの材料のためというのがメインだからね。肉、卵は副産物みたいな感じになるかな。
フォアグラ? いや、そんなのは作っていないよ、というか、そういった食文化はないよ。
そういや、こっちの人はあまり……というか、ほとんど内臓を食することはないんだよね。食肉に関しては、ウサギが異常にいるから。あいつらはちゃんと間引きしていかないと、冗談じゃなしに食物連鎖が崩れてえらいことになりそうだからね。
なんであんなにいるんだか。
まぁ、手軽に狩れることもあって、初心者狩人から玄人さんまで、毎日狩られて、日々、人々の食卓に上っているわけだけれど。
そういったわけで、私が養鶏場をおねだりしたことで、卵が広く出回るようになって、且つ、鶏肉もそれなりに出回るようになると、他にもいろいろとレシピをだせるからね。
……もつ煮込みが食べたくなってきたな。今晩、厨房を借りてつくろう。【バンビーナ】で狩って来た鶏肉は大量にあるし。
どっしりとした濃い目の味噌煮込みは良いものだよ。適度に煮込んだちょうちん大好き!
さて、今日はなにをしよう……って、結局は厨房を借りることになるな。多分、今日は厨房に籠りっきりになるかな。
今年の料理対決。私はまたしてもゲスト枠で参加することになっている。目的としては、今後、流通に乗ることになるジャガイモとサツマイモの周知だ。
今年の料理テーマはそのために芋となっているわけだけれど、一般参加の選手が触ったことはおろか、見たことも無い芋を手に取って調理するわけもない。なので、私が調理して、周知するわけだ。
そんなわけで、私が使うのはジャガイモとサツマイモ。本日は試作品を作ろうと思うよ。
ジャガイモに関しては、前にジャガイモ尽くしで作りまくったんだけれど、あの時に出していなかった料理を出したい。
……作ってなかった料理ってあったかな。
スパニッシュオムレツは作るとして……あれ、本場の人が作り方を説明していた動画が私の基本だから、フライパンサイズになるけど。人数も多いし、問題ないか。むしろ、ふたつみっつ作った方がよさそうだ。
ジャガめんたいマヨ作りたいけど、明太子なんてないしね。ズルをすれば出せるけれど、そんなことをしたら後々面倒なことになるしね。
あとは……むぅ、手の込んだ感じのレシピがないぞ。うーん。そもそもジャガイモは、それだけで美味しく頂けちゃうからなぁ。茹でて、あとベーコンなりソーセージと一緒に炒めるだけで十分だし。
あ、ベーコンで思い出した。えーっとなんて云ったっけ。ハ……ハ……ハなんとかポテト。名前忘れた。
ポテトをスライスするように切れ込みを入れて蛇腹状にしたものに、その切れ込みにベーコンを差し込んで、さらに上からチーズを掛けて……載せて? オーブンで焼くだけの料理。
なにせ調理時間は一時間のみだからね。あまり手の込んだものは作れない。
ジャガイモ料理はこんなところでいいかな? あぁ、ジャガイモの周知が目的なんだし、ポテチ……はヤバすぎる気がするから、フライドポテトも出すとしよう。
ジャガイモ料理はこれでいいか。さびしいかな? 余裕があったら、ポテトグラタンも作っておこう。
次はサツマイモ料理。
今年はギャラリーひとりじゃなく、数人に配る予定。ということで、まずは定番の石焼き芋。これはレシピもなにもないね。
石焼き芋は配布用として、料理としては茶巾しぼりと芋羊羹を作ろう。
考えてみたら、サツマイモもジャガイモ同様、火を通すだけで美味しくなる食材だから、下手に手の込んだ仕込みをしなくていいんだよね。却って美味しくなくなるなんて有様になりかねないし。
スイートポテトでも作る? いや、でもなんか、焼いた茶巾絞りって感じがしてきたぞ。材料がほぼ一緒だし。大学いもは、個人的に嫌いだから作らない。いや、美味しく思えないとかじゃなくて、後始末が大変だから嫌なんだよ。ベッタベタで飴状になった砂糖がお皿にくっついてさ。
それじゃ、厨房へといって、試作をしようか。
★ ☆ ★
「お姉様、今日は何を作るんですか?」
リスリお嬢様がわくわくとしたような顔で、私に訊ねてきた。
「リスリ様、すっかり厨房に馴染みましたね」
「見聞が広がりました」
侯爵家のお嬢様が見聞を広げる分野じゃないよねぇ。あぁ、いや、飲食業に手を伸ばしているから、必要なのかな?
いや、経営者ってだけなら、必要はないよねぇ。
「料理人の良し悪しを測るためには、最高の料理人の腕を知らなくてはなりませんからね。ナタン師は最高の料理人のひとりですから」
「リリアナ、持ち上げてもおかずは増えないぞ」
「それは残念です」
真面目腐った顔でリリアナさんがいうと、ナタンさんは肩を竦めた。
「今日は料理対決用の試作品を作ろうかと」
「すると、お芋料理ですか? 昨年のジャガイモ祭りを思い出します!」
「ジャガイモ祭りって……」
いや、確かにジャガイモ尽くしだったけれど。
「さすがに今年は無理ですよ。昨年のジャガイモ尽くしで、知ってるレシピのほとんどを使っちゃいましたから。
今日作るのはスパニッシュオムレツですよ。あとは、茶巾しぼり、サツマイモを使ったお菓子を作ります」
そうだ、ついでだから焼き芋も作っておこう。というか、これからやることは奇行と思われそうだけれど。
「その前に、ちょっと別の料理というか、やっておきますね」
七輪をだして、骸炭を放り込んで火を熾す。そうしたらバッターを上に乗っけて玉砂利を敷き、その上にサツマイモを並べる。近所の総合ディスカウントストアの店先で、こんな感じで実演販売? されてたよ。そっちは電熱式で、敷いた砂利を熱してたけれど。
よし。後は適当に、焦げ付かないように回せばいいだろう。
「お姉様、これは?」
「サツマイモを焼きます!」
「えっ!? あ、あの、あの小石を敷いたのは?」
「石焼き芋ですからね。石は必要です」
云い切っておく。遠赤外線がどうのっていうんだっけ? よくわからん。そもそも芋を焼くなら、焚火に放り込んでも良いのだ。
それじゃ、スパニッシュオムレツを作って行こう。
これも家庭で作ろうと思うと、二の足を踏む料理だよね。本格的なものじゃなければ、問題なく作れるんだろうけれど、「そんなのはスパニッシュオムレツじゃねぇっ!」と、本場の料理人に怒られそうな代物だと思う。
まずは、フライパンに油をダバー。揚げ物をするわけでもないのに、大量の油を投入。正直、この時点で気軽に家庭で作るのにはハードルが高い。油の後処理は大変だからね。
揚げ物が可能になるくらいにまで熱したら、そこへジャガイモ、玉ねぎのスライスを塩で和えたものを投入。油で煮ていきますよ。そう、揚げるんじゃなくて煮る。
スライスしたジャガイモを、軽く叩くだけで割れるようになるまで煮ますよ。
……これだけ見てると、すごい体に悪そうな料理に見えるな。
よし、これを笊で油切りしてと。この油は廃棄ですよ。正直、もったいない気がするよ。
それじゃ、次の工程にいこう。ジャガイモと玉ねぎを煮ている間に準備した卵液。今回は卵三個分。そこへ油煮したジャガイモと玉ねぎを投入。混ぜ合わせていくよ。あ、ジャガイモと玉ねぎは、共に約六百グラムだよ。
適度に崩しつつ、一部はしっかりと潰して混ぜたものを、今度はじっくりと焼いていく。量が量だから、完全にフライパンサイズになるよ。
くっつかないように、フライパンをこまめに揺すりつつ、いい塩梅に火が通ったら、フライパンからお皿へと、スライドさせるように載せる。そうしたらそのお皿を持って、フライパンへとひっくり返す。
いや、量が量だからさ。フライパンを煽ってひっくり返すのは無理なんだよ。絶対に崩れるから、こんな感じでひっくり返しているよ。
お皿を取り除いて、残り半面もしっかり焼けたら出来上がりだ。
ということで、スパニッシュオムレツの完成。味付けが塩だけだから、かなりシンプルだ。
シンプルだけど、一番手間が掛かってるのもこれだよねぇ。
例の名前を忘れたヤツも同時に作っているけれど、あれはジャガイモに細かく切れ目を入れた時点で調理終了みたいなものだし。スライスしたベーコン挟んで、チーズを掛けてオーブンで焼くだけだから。
そんなわけで、二品完成。
なんだろう。実際作ってみたわけだけれど、簡単すぎて、本番で作るのはダメなんじゃないかって気がしてきた。去年のハンバーグとか塩釜みたいな派手さがないよ。
いや、調理に派手さを求めてどうするっていうのはあるけれど。
それじゃ、茶巾絞りにはいろう。
材料はシンプルだ。サツマイモ、砂糖、そして塩。
サツマイモを茹でて、混ぜて、布巾で一口大のサイズにギュッと絞るだけ。
実に簡単。今日はサツマイモを茹でる際に、レモン汁を投入して茹でることにするよ。変色防止のためのひと工夫だ。酢を加えてもいいんだけれど、やっぱり分かるんだよね。だからクチナシを使って無理矢理綺麗な色を出していたりしたんだけれど。
茶巾絞り好きだから作ったんだけれど、さすがに簡単すぎるかな。スイートポテトに切り替えた方がいいかな。
茶巾絞りの為につくった生地に、ミルクとバターを混ぜ込み、形を整えてオーブンで焼く。
バニラエッセンスを加えたいところだけれど、あれは流通させていないからね。今回は使用は見送りだ。
調理はひとまずこれにて終了。
ジャガイモ料理の方は、作る物を見直すか、スパニッシュオムレツをアレンジする方向で検討しよう。
それじゃ、みんなで試食といこう。
美味しくできた。美味しくできたよ。うん。でも石焼き芋が強すぎるよ。
もう、サツマイモは下手に手を加えないほうがいいんじゃないかな?
感想、誤字報告ありがとうございます。
※ナランホは侯爵です。すいません。修正します。
※イリアルテ家のキッカのレシピの寡占状態について。基本的にキッカが他に売る気がないと云うのが大きいです。取引先が増えるのが面倒ということと、なによりキッカ自身が基本的に人嫌いであることが影響しています。一応、イリアルテ家以外にも、ミストラル商会と王家にレシピを販売してます(ミストラル商会:燻製関連とカレー粉。王家:食パン)。




