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305 来客があったよ


 八月の十一日となりました。本日の朝食はパーティの残り物がメインですよ。貴族とはいえ、華やかで豪華な食事をしているわけではないのです。


 私がミストラル商会から仕入れている海産物の出所の港町の領主さまは、庶民と同じお魚の干物が普段の食事だって聞いたし。


 実際、貴族なんてそんなもんだよ。大半は。基本質素倹約で、見栄を張る時だけお金を掛けるみたいな。

 そうじゃないと領地経営なんてできないからね。お金がまったくもって足りなくなるから。


 実際、私だってまるっきり自覚なかったけれど、社長令嬢だったわけだしね。


 やたらと羽振りの良い貴族なんて、極々一部だよ。イリアルテ家なんかは【アリリオ】管理を行っているお家だからね。


 災害対策を考えると、お金なんていくらあっても足りないよ。税金だけじゃどうにもならないだろうし。


 そもそも【アリリオ】の宿場は、魔物の暴走災害の際には壊滅することが前提だから、あらかじめ復興予算を準備しておく必要があるからね。


 え、人?


 人は地下壕へと避難だよ。もしくは地下室。地下に籠って救助を待つのが、魔物災害の最善の対処方法だからね。


 溢れた魔物の討伐は、堅牢な城壁の上から弓や投石、もしくは煮えた油で行うのが基本だそうだ。


 ほら、その為に防衛砦なんてものが、昔は設置されてたんだからね。


 いまはダンジョン内で魔物の間引きを行っているから、暴走災害が起こることは殆どないけれど。

 だからもう、残ってる砦はアッハト砦だけで、他は都市に改装……って言い回しであってるのかな? 城塞都市に改装されているしね。サンレアンも昔は防衛砦のひとつだったわけだしね。


 さて、朝ごはんの話に戻そう。


 今朝の朝ごはんは、ゆうべ、半ば自棄っぱちで追加で作った餃子や焼売がメインですよ。


 さすがに追加で各五百個は多かったよ。とはいえ、三百は消費されたよ。皆さん、健啖家すぎやしませんかね。


 で、お土産として料理を用意することになっちゃってね。


 あぁ、こっちではお土産に折詰を渡すような文化はないよ。ただ……ほら、サンレアンで持ち帰り用のコロッケをはじめたでしょ。あれのことがあってね、今回は特別に、希望者だけ持たせる感じになったんだよ。


 ただ、問題として、器はどうするかってなったんだけれど、招待客のみなさんが自主的に用意したよ。


 いや、あらかじめ準備していたんじゃなくて、お土産の話がでた時点で、お付きのメイドさんやらに買いに走らせたみたいだ。


 そんなわけで、お土産用の料理作り。といっても、後は蒸すだけの状態の料理が残っているから、これを詰めればいいだけ。


 とはいえ、それだけというのも芸がないから、餃子を揚げたよ。


 なので、お土産の内訳は、焼売、蒸し餃子、揚げ餃子、春巻き、そしてコロッケというラインナップだ。


 そうそう、激辛コロッケの話をしてなかったね。


 リスリお嬢様が酷評していた彼が、予見された通りに文句をいいだしたよ。


 なんというか、辛さで人を撃退できるわけがないと。


 ……あれこれ考えた結果、ちょっと哀れになったよ。


 いや、香辛料の類がほとんど無いようなものだからさ、辛い食べ物って無いんだよ。辛さを求めると、塩かマスタードくらいでさ。


 マスタードも辛いけれど、唐辛子系の辛さと比べると、辛味が丸いし。


 うん、本当に辛い物を食べたことがないんだろうね。


 ダリオ様が疲れ切った顔でお相手をしていたけれど、扱いがぞんざいだったよ。


 四の五の云わずにこれを食え! といって、その御仁の口に激辛コロッケを押し込んだからね。


 今回の激辛コロッケは小さめに作ったんだよ。いわゆる樽型で、見た目的にはカニクリームコロッケみたいな感じ。


 頬張る感じになるのを厭わなければ、一口でも食べられるサイズ。


 結果、令息、悶絶してのたうち回ってたよ。


 周囲のみなさんドン引きですよ。


 な、辛いだろう? これでも控えめなんだぞ。ソースが掛かっていないからな。

 と、ダリオ様が追い打ちを掛けていたけれど、多分、生まれて初めての劇物の痛みで、聞いていなかったんじゃないかなぁ。


 美男子が台無しの有様になってたし。御婦人方が距離を取ってたからね。まぁ、涙と鼻水、おまけによだれを溢れさせた有様じゃ、近づきたいとは思わないでしょう。しかも、それは自業自得なわけだし。


 ……。


 いや、だから朝ごはんの話だよ。なんでまた戻った!?


 朝ごはんは餃子尽くしになったよ。


 蒸し餃子、焼き餃子、揚げ餃子の三種。水餃子は作らなかった。


 蒸し→焼き→揚げの順に、パリパリ感追加されていく感じだ。どれが好きかは好みの分かれるところだろう。


 私の好みは焼き餃子。蒸し餃子もいい感じなんだけれどね。そして揚げ餃子は、なぜか私の中ではカレー味じゃないと認めないみたいな感じになっていてね。


 自分でもわけがわからないんだけれどさ。


 そして分かったことがひとつ。


 なんというかね。食べ易さもあるせいか、ついつい口に運んじゃうんだよ。半ば作業感覚で。


 会話しながら、ひょいパク、みたいな感じで。多分、これがやたらと消費された原因なんじゃないかな。手軽さを求めすぎたかな?


 飽きないよう、それぞれで餡の材料と味付けを変えておいたことも、消費に拍車を掛けたようにおもうよ。


 食べ易過ぎるのも考え物ということなのかな?


 で、エメリナ様というと、今朝もご機嫌でしたよ。


 王都の甘味のお店、【エマのお菓子屋さん】のラインナップに、ゴマ団子とあんまんが追加されることになったよ。持ち帰り用ではなく、お店の食事ブースで出すようにするのだそうだ。


 現状、餡子が出回っていないので、暫くは中身は白あんで代用するようだ。小豆もその内に出回るようになるだろうから、そうしたら、今度はお汁粉とかぜんざいを紹介しようと思うよ。




 さぁ、今日はなにをしようか。


 昨年と違って、今年はさしたる心配事もないので気楽ですよ。


 新興宗教? 大木さんが娯楽気分で殴り倒しに行ったんだから、なにも心配することもないでしょう。


 ふむ。そうだ、ジラルモさんの工房へと顔を出してみようか。インゴットだけ押し付けたような感じになったからね。もし頭を抱えているようなら、ちょっと口出しくらいして来よう。


 そう決めて、人形とリビングメイルをお供に出掛けようとしたところで、来客があったよ。


 大木さんと、見知らぬエルフの女性。


「やぁやぁ、経過報告に来たよ」


 にこにことしながら、大木さんが云った。日本語ではなく、六王国語だ。ということは、内緒話というわけではないのかな?


「とりあえず、確実に実害を引き起こすであろう連中と、すでに実害を引き起こしていた連中、組織としては五つかな、潰してきたよ」

「また仕事が早いですね」

「控えめに云っても、連中、テロリストだったからね。ちょっと急いだんだよ。今年も王宮で七神の肖像画が公開されるだろう? そこを焼き討ちする計画なんて立ててたからね」


 私は目を瞬いた。


「え? 宗教団体ですよね?」

「狂信者に常識なんて通用しないよ。連中、自分たちの信仰が折れたことで、自棄……とはちがうな、なんていえばいいんだ? とにかく、自分たちだけが正しいと云って考えを一切曲げなくなったからね。

 アレカンドラさんを、自分たちの思想の形に押し込めようとしているよ」

「うわぁ……」


 って、結構アレな話をしているけれど、そっちのエルフのお姉さんに聞かれて大丈夫なの!?


「おひさしぶり、キッカちゃん」


 気さくな感じでエルフのお姉さんが私に話しかけて来る。


 ……あれ? 初対面に人に対する警戒心が湧かないぞ? というかなんだろう、エルフのお姉さんだよね?


 失礼だと思うながらも、私は目をそばめて見つめる。


 んん?


「はは。看破はできずとも、エルフじゃないって分かってるみたいだよ」

「ですね。私たちの加護も使わずに感知するとは、大したものです。本当に」


 は?


「私があなたと会うのは二回目よ。一度目の時は、首から上が隼だったといえば分かる?」


 ナナウナルル様!?


 え、なにごとですか!? いや、それ以前に――


 私は慌てて辺りを見回した。


「あぁ、音は漏れないようにしているから大丈夫だよ。お人形さんも、あっちでいい具合に盾になっているしね。遠目には観察されているけど、問題ないだろう」


 大木さんがどこだかに向けて手を振っている。


 ……監視している人、ショックだろうな、これ。


『一応、用心も兼ねて日本語にしようか』

『あ、はい。その方が落ち着けます』

『キッカちゃんも予定があるだろうし、手短に話すわね』


 ナナウナルル様が無表情のまま話し始めた。


『とりあえず、私の事はナナ姉様と呼んで頂戴』

『あ、はい』


 ……え、そこから?


 い、意外とお茶目な性格なのだろうか?


『今日ここに来たのは、【ダミアン】の調査のことよ』

『あ、急いだ方がいいですか?』

『いえ。というよりも、調査は不要になりそうね』


 ん? どういうことだろう?


『こっちに送り込まれた直後に召喚が行われたらしくて、被召喚者がダンジョン内で生活しているのが分かったのよ』

『は?』

『どうも【召喚器】単体で召喚を行えたみたいでね』

『あー……リリィが云ってましたね。単体で召喚できる召喚器が最初に作られたと。作った直後にいきなり召喚して、例の管理者が慌てふためいてたとか』

『一号がやらかしたのー?』


 しっかりと聞いていたらしく、リリィがリビングメイルの肩の上から訊いてきた。


 けっこう離れた位置なのに、良く聞こえたな。


『そうみたいね。……あれ? でもそれって破壊されたんじゃなかった?』

『それは試作器の最終版。目の一杯ある猿が召喚されたってきいた』


 目が沢山って……気持ち悪そうだな。


『一号機はそれを調整して、一回だけ自力で召喚できるようにしたものだよ。えらそーにいつも自慢しててうざかった』

『あ、会話できるんだ』

『あまりにうざかったから、変態が音声機能をオミットしてた。でも念話はできるはずだよ』


 あぁ、あのへしゃげたスライムみたいなことをできるのね。


 それにしてもすっかり制作者である管理者は“変態”呼ばわりになったな。まぁ、実際に変態だったようだし。


『それで間違いないだろうね。召喚された異世界人は、その召喚器の念話に苛っとしたのか、箱に押し込めてたわね』

『それで、その召喚された人は?』

『いわゆる【マッドエンジニア】って呼ばれるような人物みたいね。【ダミアン】は無機質型の魔物のダンジョンなんだけれど、それを見て狂喜してたわ』


 ……また残念な人物みたいだ。


『えーっと、メカフェチっていうのかしら? そんな感じね。ガラクタを作っては一喜一憂しているわ。探索者とも交流を持って、食料の取引をしているわね』


 随分と逞しいな。


『現状は問題らしい問題も起こしていないし、この人物に関しては監視で十分と判断したわ。それと、この人物の本来の世界の管理者は不在。もともと配置されていなかったみたいね』

『管理者のいない星なんてあるんですね』

『それなりにあるらしいわよ。お母様がぼやいていたわ。まともな人材が足りないって』


 人材……。まぁ、人材→神材へとクラスアップ? させるわけだしねぇ。変なのを引っ張り上げられないよねぇ。


『だから、時間軸管理者経由で交渉が行われて、誘拐の件に関しては折り合いがついたから、問題はもうないわ』

『なるほど。とすると、残りの問題はその御仁だけということですね』

『そういうこと。ひとりでダンジョンに住みつくとか、おかしなことをしているから、監視は怠れないけれどね』


 そういってナナウナルル様……ナナ姉様は大木さんに視線を向けた。


『こっちはこんなところかな。あぁ、この王都に巣食っていたテロリストレベルの新興宗教の連中は全て潰したから、組織に関しては安心していいよ。ただ、構成員はまだ何人か残っているだろうから、注意だけは怠らないようにね』

『了解です。まぁ、あからさまな護衛もできたので、きっと大丈夫ですよ』


 私は人形を肩に載せたリビングメイルに目を向ける。


 いや、なんでリリィは肩の上に立って、明後日の方向を指差してるのさ。なんか、どっかのポスターとかにありそうな構図なんだけれど!?


 大木さんもそれを見て苦笑いしてるし。


『まぁ、用心には越したことはないよ。僕はこれから他の町を回って、潰してくるよ』

『私はナナトゥーラに戻るわ。それじゃ、またね、キッカちゃん』


 そういって神様方は帰っていった。


 さて、玄関先のところで立ち話をしていたんだけれど、エメリナ様とリスリお嬢様、それに加えてイネス様もこっちを庭の方から見てたんだよねぇ。


 エメリナ様は大木さんの正体を知っているわけだし、訊かれるだろうなぁ。


 ……まぁ、訊かれてこまることでもないか。正直に、危険な新興宗教を潰して回ってると伝えてしまおう。


 あ、いま気が付いたけれど、これ、教会にも云っておかないと駄目なヤツだ。うん。ジラルモさんの所へと行く前に、教会へと回ろう。ジェシカさんに話しておけば問題ないだろうしね。


 さて、それじゃ、まずはこれからだよね。




 私はひとつため息をつくと、おいでおいでをしているエメリナ様の元へと向かったのです。


誤字報告ありがとうございます。

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