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302 総合案内受付嬢はお仕事がしたい 5


 おはようございます。私、冒険者組合本部、総合案内受付担当のタマラと申します。


 本日はここ、冒険者組合王都支部へと出張してまいりました。本来なら、【アリリオ】出張所のネリッサ所長が出張する予定でしたが、色々と事情が重なり、巡り巡って私が出張することになりました。


 ……まぁ、私、基本的に暇ですからね。


 ですが、仕事がないのは私のせいではありません。何故か私の窓口に誰も来ないからなのです。本来は私の担当である業務の方々も、シルビアやナタリアの窓口へと行ってしまうのですから。

 ふたりもふたりです。なぜ私に回さずに自分で処理してしまいますかね。


 仕方がないので、毎日、花壇で花を相手に話をしている有様ですよ、私は。あとは錬金薬の作成をしているくらいです。キッカ様から茜シリーズ各種の種を頂いたので、いまや花壇には青茜だけではなく、紫茜や紅茜、黄茜と、四種の花が咲き乱れています。


 そういえば、キッカ様よりアドバイス戴いた骨などの効用を試してみました。えぇ、変な毒が出来上がりましたよ。


 【減速】と鑑定盤で鑑定された毒。キュカさんに試しに使ってもらったところ、その効能は不思議な物でした。


「動きが遅くなるのよ」


 キュカさんはいいました。


「宙に浮いている時間も遅く、長くなってたわ」


 訳が分かりません。


 えーと、動く速度が遅くなる。これはなんとなく分かります。魔法の毒ですからね。動きを鈍らせる効果があるのでしょう。ですが、跳躍した場合も、その鈍った速度のままゆっくりと宙を舞うというのは意味不明です。


 普通ならば、すぐさま落っこちるでしょう!? どういうことですか!?


 確かにキッカ様は面白いものができるとは云っていましたが。


 面白過ぎるでしょう!?


 しかも、そんなものが【塩】と【牡鹿の角】で作り出せるんですよ! 子供のお小遣い感覚の原価でしかありませんよ!


 チェロのお茶に混ぜて飲ませて効果を確認しましたよ。……その後、しこたま怒られましたが。


 ゆるゆると動いているところ、ほっぺをつついて引っ張ったのは間違いでしたね。反省しましょう。


 えぇ、私はできる子です。次は観察するだけにしましょう。


 さて、効能の確認後、副組合長に現物を渡して説明したところ、またしても頭を抱えていましたね。なにしろ、これまでにない毒物です。しかも効果時間後はまったくの無害となる親切仕様の錬金薬です。使い道は工夫次第でしょうか。


「いくらで販売しましょう?」

「売るのか!? いや、前に持ち込まれた【麻痺】の毒薬よりは遥かにマシな代物ですが。悪用するには微妙でしょうし、それに足の速い魔獣などから逃げるのにはいいかもしれませんね」

「【麻痺】の毒薬というのは?」


 それに関しては、恐らく私は聞いてはいないハズ。


「なんでも、一瞬で彫像の様に硬直させるのだそうですよ。斬り合いをしている最中にその毒の塗られた刃が当たれば、その場で硬直、ばったりと倒れるのだそうです。キッカさん曰く、効果中に簡単に止めをさせると」

「また恐ろしいものを」


 ん?


「それ、素材さえ判明すれば、誰でも作れると云うことですよね? 施設は必要でしょうけれど」

「そうなりますね」

「錬金台の一般開放は考えた方がよいのでは?」


 錬金薬を精製するための器材、錬金台は、現状、組合と、あとは王家と教会に研究用にと贈られただけのハズだ。どちらも一般開放はされてはいない。もちろん、組合の錬金台も、専属とされた錬金薬師のみが扱っている状態だ。


 ふふふ。私は栄えある錬金薬師のひとり目ですよ。


 む? キッカ様ですか? キッカ様は伝道師であり、錬金薬の祖でありますからね。師祖として扱われています。我々はその弟子、あるいは生徒という扱いです。


 すくなくとも記録にはそう記されることになります。キッカ様にとっては不本意でありましょうが。


 そんなわけで、総合案内受付が担当にして、錬金薬師となったわけですが、ここ最近は後者の仕事ばかりをしています。


 新たな薬の組み合わせを見つけ出すのも、それなりにやりがいのある仕事ですしね。……時に、不毛な気持ちにもさせられますが。


 失敗が続くことを嘆き、そんなときはどうするのかとキッカ様に訊いてみました。あれは、確か回復薬軟膏の納品に来られた時のことです。


 キッカ様は云いました。


「実験に失敗はありません。その方法では薬は出来ないと分かったんですから」


 ……なるほど。考え方次第ということですか。


「できるようになるか分かりませんけれど、錬金技能が上がれば、錬金素材をそのまま齧れば効能がわかるんですけれどねぇ」


 なんと!


「まぁ、毒物もあるので、あまり勧められませんけれど。それに、ネズミの尻尾とかそのまま齧りたくないでしょう?」


 え、ネズミの尻尾!? さすがにそんなものは……。


 はっ!? まさか、ネズミの尻尾も錬金素材になるのですか!?


 その後、キッカ様に問いましたが、露骨に目を逸らされてしまいました。多分、素材として使えるのでしょう。


 ちょっと色々と組み合わせてみましょうか。


 ……か、齧って確かめたほうが良いのでしょうか? さ、さすがにそれは……。


 話を戻しましょう。


 私は現在、出張で王都支部に来ています。芸術祭に間に合わせるため、少々、急いで王都入りをしました。


 準備は二十日までに整えなくてはなりませんが、本日はまだ七日。僅かではありますが余裕があります。


 同行した解体師兼剥製師のペペさんが、万全を期すために先方と連日話し合っています。


 私はと云うと、もう手続きだのなんだのは終了したので、またしても暇となっているわけです。


 休暇は来週から今月いっぱいもぎ取ったので、王都の芸術祭を堪能する予定ではありますが、それまでは王都支部の手伝いを行いましょう。


 ……いまだに深刻な人手不足であるようですからね。


 昨年の吸血鬼騒動の結果、使い物にならなくなった者が多数出て、退職してしまいましたから。例の、吸血鬼化を促すワインは、肉体だけではなく精神面にも影響を与えたらしく、影響の浸度が三段階目を超えた者は、やや粗暴になっていたそうですから。


 依頼の受注や達成報告にくる組合員と簡単に喧嘩をする職員など、無用ですからね。


 そんな中。組合職員とはいえ、積極的に仕事に加わるわけにもいきません。なので、こちらでも私は錬金薬を作っています。


 折角ですので、こっちでも【減速】の錬金薬を作っておきましょう。そうだ、あとで花壇の手入れもしておかないと。先ほど見ましたが、このところ手入れにまで手が回っていないようでしたからね。雑草が混じって生えていましたから。


 ……一応、本当に雑草かどうか確認しておいた方がいいですね。なにが薬の材料となっているのかわかりませんしね。

 後で、こちらの錬金薬師に話を訊いておきましょう。




 お昼過ぎ。ひとまず【減速】の薬が出来上がりました。さて、これはどうしましょうかね?


 現状、ここの組合長……支部長はお飾りみたいなものなんですよね。もともと組合員、主に傭兵や探索者の戦闘能力向上のために、訓練を行っていた脳筋のひとらしいですし。


 とりあえず、薬関連の担当をしている人を探しましょう。そこらの職員を掴まえるより、受付業務の誰かに訊く方が確かですね。


 裏方職員よりも、受付職員のほうが全体を把握している者ですから。なにせ、やってきた組合員は時に、突拍子もないことを云ってきたりしますからね。


 錬金部屋を後にし、サンレアンの組合本部とは比べるべくもないほどに広い建物内を歩み、ホールに面した受付にやってきました。


 えーと、手の空いていそうな……あ。


 丁度、受付のところへとやって来た人物に目が留まりました。


 深い藍色の長い髪をした低身長の女性。目の部分を覆うゴーグルと、なによりその大きな胸がやたらと自己主張をしています。


 その背後には、なんともおどろおどろしい雰囲気の鎧姿の人物。ただ、肩に人形を載せている辺り、非常に不可解に思えます。


 ご挨拶に向かいましょう。


 私は薬瓶を詰め込んだ布袋を抱えたまま、受付へと向かって歩き始めました。


「あれ、タマラさん? なんで王都支部にいるんです?」


 私の姿に気が付いたキッカ様が私に問います。


「お久しぶりです、キッカさん。出張ですよ。ついでに芸術祭を堪能できるように、休暇もたっぷりもぎとりました」

「出張ですか」

「はい。キッカさんが討伐した【牛頭人食い鬼】を運んできたんですよ」

「あぁ……」


 あれ? なにやらこの答えだけで納得されたご様子。


「博物館に展示するんですね?」

「えぇ、そうです。ご存知でしたか?」

「先日、国王陛下が直々に案内してくださいましたよ。なんでも、無謀な探索者を戒めるためでもあるらしいですけれどね。

 ロクな準備もなく、初見のボス……ルームガーダーに挑んで壊滅全滅するパーティが後を絶たないということですから」

「あぁ、サンレアンだと、そういうことが……」

「サンレアンはダンジョンの街ですからね、ラモナさん」


 そう云ったあと、キッカ様は来訪の目的を話しました。


 どうやら、ここ王都支部でも【回復薬軟膏】を卸しているようです。キッカさんは対価を受け取ると、帰って行きました。


「タマラさん」

「なんです? ラモナさん」

「キッカ様についていた人物をご存知ですか?」

「あの人形を肩に載せた御仁ですか? でしたら私も知りませんね。いま初めて見た方ですし」

「護衛の方でしょうか?」

「恐らくは」


 なにしろキッカ様は、やたらとトラブルに見舞われていますからね。


 さて、それでは、私も私の目的を果たしてしまいましょう。


「さてラモナさん。こんな毒物を作ったのですが、幾らぐらいで販売しましょうか?」


 折角です。いまだに値付けが終わっていないこの毒の値段も決めてしまうとしましょう。


 毒物の概要説明を訊き、顔を引き攣らせている彼女の姿に、私はひとりほくそ笑んだのでした。


誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >一応、本当に雑草かどうか確認しておいた方がいいですね。なにが薬の材料となっているのかわかりませんしね。 >後で、こちらの錬金薬師に話を訊いておきましょう。 こんな事をしてたら、いつの間に…
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