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301 博物館(仮)の展示物


 エメリナ様に連れられて、王宮へとやってまいりました。


 えぇ、大木さんがやらかすと云うことを報せるために。部署的にはどこにいくのかと思っていたところ、国王陛下のところへと直接向かいましたよ。


 正確には、王妃殿下を介して国王陛下の元に。侯爵婦人という肩書では、いきなり会えるものではないからね。王妃殿下であれば、なんというか、上級貴族の奥様ネットワークと云うか、派閥関連のこともあって、それなりに簡単に会えるみたいだ。特に、エメリナ様とオクタビア様は昔からのお友達であるらしいし。


 微妙に放蕩癖のある国王陛下のことで、当時婚約者であったオクタビア様の相談相手になっていたらしいよ。エメリナ様。


 さて、その国王陛下はというと、大木さんがやらかすということを聞かされても、さほど驚いた様子はなかったよ。

 多分、マヌエラさんが報告していたんだろうね。そのマヌエラさんも呼び出されてたし。


 で、国としては、被害に遭ったものを回収するだけみたい。扱いとしては『超局地的な災害』って感じかな?


 いや、考えたら凄い厄介なんだよ。連中の崇めているのがアレカンドラ様ってことになってるもんだから、教会にしろ国にしろ、どうにもできないんだよね。直接崇めるなっていうのは、暗黙の了解的なものだからさ。

 そう、連中の中でも崇めているものが別個になっていたりとか、統一されていないんだよ。例の実在するか不明の銀髪の女性だけれど、アレカンドラ様だったり、神子だったりとなっていたりね。


 ……よく宗教団体としてまとまってるな。というよりも、本当に宗教は名目だけで、金集め団体なんだろうね。もしくはいわゆるSEX教団か。


 そんな怪しげな団体とはいえ、下手に干渉すると宗教弾圧になっちゃうから、まっとうに六神を崇めている人たちがあれこれ騒ぎ出しかねないし。


 そんなわけで、現状は情報収集しつつ、教会と連携して『どうしたものか』と頭を悩ませている状況なのだそうだ。


 そのせいかマヌエラさん、やたらと疲れ切った顔をしていたけれど。なんだか可哀想になってきたな。なにせ、不毛とも云えるような作業しかできないような状況だろうし。


 連中にアプローチしたところで――


『それは、あなたの心が穢れているからです』


 としか云わないからな。冗談じゃなしに。


 そのくせ、自分たちはどんなに非道なことをしても許されると思っているから、本当に始末に悪いんだよ。まったく。


 さて、お報せ自体はすぐに完了したよ。したんだけれど、せっかくだからと王宮の別棟へと案内された。なんでも、宝物殿として作られた建物だとか。


 あ、エメリナ様はオクタビア様に掴まって、競馬場に出店するお店に関しての相談をはじめていたよ。


 さて、宝物殿だけれど、今年に入ってから少々リフォームを施したそうだ。


 ……んん? 宝物殿をリフォーム? セキュリティでも強化したのかしら?


「まったく使っていなかった建物だったからな。まさに無用の長物となっていた物を利用できるようにしたのだよ」


 は?


「え? 宝物殿ですよね?」

「宝物の類は、本殿の宝物庫で十分に収まっておるのだ。おかげで宝物殿は単なる物置になっておったのよ」


 宝物殿が物置って。まぁ、空のままにしておくのは無駄だろうけれど。


「さすがに今年の芸術祭までには建築が間に合わなかったらな。物置となっていた宝物殿を暫定的に利用することにしたのだ」

「えーっと、なにをするんです?」

「魔物の展示だ。骨格標本や剥製だな。ほれ、以前にいっただろう? 博物館を作ると」


 あぁ、そういえば、そんな話がありましたね。


「一次調査隊も討伐した魔物を持ち帰ったのでな。十分に展示できるだけの数がそろったのだよ。それに加え、ナバスクエス伯が剥製を幾つか貸し出してくれたからな」


 あぁ、あのUМA伯爵。そういや、バイコーンを受け取った時に狂喜してたって聞いたな。ほら、王家に追加で捕獲を頼まれた時に、その内の二頭を回してもらったんだよ。約束だったからね。


 宝物殿へと到着。


 うーむ。倉庫……いや、蔵といったほうがいいかな? ただ、サイズは体育館サイズだ。随分と大きい。ここを一杯にするほどの宝物、となると、どれくらいの量になるんだろ。


 ……なぜか、私の頭には警察が並べた性犯罪者の戦利品が頭に浮かんだけれど。


 ほら、ニュースとかで整然と並べてあるじゃない。下着とか。雨合羽とか。


 ……使用済み雨合羽に執着したあの犯罪者の性的嗜好はなんだったんだろう。いや、どうでもいいことだけれど。


 建物の正面に立ち、扉を見上げる。高さ三メートルくらいの大扉で、表面にレリーフの掘られた豪奢な仕様だ。


 正面扉を開けるのは面倒だから通用口へとまわろう。と、陛下は近衛の後をついて歩き始めた。


 本日の護衛の近衛騎士は、サーコートを纏った簡易鎧姿だ。さすがに私の作ったあの重鎧でガチャガチャ歩いていたら、目立つ上に物々しくて仕方ないものね。


 衛兵の守る通用口を潜り抜け、宝物殿内へとはいる。


 入った先は、いわゆるバックヤード的なところ。スタッフルームというか、作業所かな。これから展示されるであろう、魔物の剥製なんかがいくらか置いてある。


 お、ジャッカロープの剥製がある。全身のやつ。冒険者組合には三頭渡して、一頭はトロフィーにされたんだよね。他は普通に解体されて、食肉になってたと思うんだけれど、一頭を剥製にしたのかな?


 それとも、私とは別に捕獲した人がいるのかしら。ジャッカロープの生息域が南に移って来ていたみたいだし。


 あ、室内は明るいよ。近衛の方が魔法を使ったからね。順調に魔法は浸透してきているみたいだ。


 小部屋を通り抜けると、そこは講堂みたいに開けた部屋。


 中は思ったよりも明るい。明り取り用の窓が、上手い具合に機能しているね。とはいえ、展示物をしっかりと見せるにはちょっぴり暗い? 説明文を記された案内板が読みにくいな。


 そういや、こっちの識字率ってどうなんだろう? もしかしたら、当日は案内役というか、説明を担当する人が各所に置かれるのかもしれないね。


 周囲の壁をぐるりと見て、次いで天井を見上げる。


 イメージ的には、宝物殿とか云ったら、壁面とか天井に……フレスコ画っていうんだっけ? そんなのが描かれているのを思い浮かべたんだけれど、そんなものはなかったよ。


 置かれている展示物の中でも、一番目立つのは中央に寝かされている骨格標本だ。


 私の狩ったボストロールの骨格標本だね。となりに、例のでっかい棍棒が置かれているよ。


 その隣には、ベヘモスの頭部骨格が展示されている。さすがにこっちは全身骨格じゃないね。そういえば、一次調査隊はボスベヘモスを討伐できているんだよね?


「一次調査隊はベヘモスは討伐したんですか?」

「おぉ、成功したぞ。さすがに標本にするには間に合わなかったが。代わりにキッカ殿より戴いた、雑魚のほうのベヘモスの頭骨を展示してある」


 てくてくと宝物殿……いや、展示場っていったほうがいいかな? その中央へと進む。こうして骨になっているとはいえ、七メートルの人型の骨格標本ともなると、まさに圧巻だ。


 そしてその隣ベヘモスの頭骨。


 うーむ。これ、ドラゴンの頭骨って云ったら、みんな信じそうな形をしているよ。角はないけれど。


 周囲を見回すと、ほかにも大物ダンジョンに生息していた魔物の標本が並んでいる。


 あのでかい犬とか、あれはプロトケラトプスの頭骨だね。それと……なんか隅っこ立ってるアレ、シャモティラヌスじゃないのさ。狩ったんだ。一次調査隊、頑張ったな。私は怖いから放置したのに。


 それから――え?


 奥の壁に張り付けるようにしてあるもの。見覚えのある円形の異形の標本。


 モンゴリアン・デス・ワームの頭部の標本が飾ってあった。


 色味がちょっぴり赤味がかっているのは、保存液とか云う、どこぞのダンジョンで採集できる腐食性の水のせいだろう。なんでも、薄めると強力な防腐液になるそうだから。


 砒素でも混ざってるのかな?


 それはさておいて、改めてみるとデカいな。円形に開きっぱなしになっている口なんて、私が立ったまま入れそうだし。


「冒険者ギルドからも標本を借り受けたのだ。キッカ殿が射た矢も、そのままになっているぞ」

「え、抜いてないんですか!?」

「そのままだったな。ほれ、この角度からならみえるぞ」


 国王陛下はモンゴリアン・デス・ワームの正面から右斜め前に移動し、僅かに屈む。

 私もその隣に普通に立つ。


 あぁ、うん。見えるね。私が射ち込んだ矢が三本。


 脇にある案内板にはスケッチが描かれている。ご丁寧に人のシルエットも脇に描かれ、一目で対比することができる。


 こうして客観視すると、またえらくでかいな。いや、サンレアンで解体するときにも思ったことだけれど。


「そういえばキッカ殿。映像で見せてもらったのだが、これを討伐した時につかっていた弓はなんなのだね? 随分と変わっていたように見えたが」

「あぁ。あれは私用に調整した、魔法使い用の弓ですよ」


 魔氷の弓。自重を一切せずに、自己強化を出来る限りやりまくって強化した弓だ。おかげで、魔法の追加打撃だけで六百を超えたイカレ性能になっている。


 多分、飛竜くらいなら当たれば墜とせる。


 ゲームの時に使っていた弓の、正に実物版。ゲームでも難易度ハードまでなら、竜を一射で墜とせたからね。


 考えたら、そんなものを体内に撃ち込まれて、二射……いや、連射してたからな。とはいえ、一射は確実に耐えたんだよね、モンゴリアン・デス・ワーム。とんでもない耐久力だな。


 他には……あれ? 武具?


「武器も展示しているんですか?」

「あぁ、あれはゴブリン共が使っていた武器とのことだ。どうやらダンジョン内の宝箱から出た宝物を使っていたようだぞ。あそこに展示してあるものは、ゴブリン専用となってしまった魔法の武具だな」


 おぉ、そんなのがあったんだ。


「キッカ殿が倒したのではないかね? ゴブリン女王の装備などだぞ」

「は?」


 え? いや、確かに倒したけれど。


「え、魔法の武具とかあったんですか? ……女王は狙撃で始末したんで、装備とかまったく気にしてませんでしたね。全て始末した後で、めぼしいものを探す気もなくて放置しましたし。なにせやたらと大きな集落でしたから」

「狙撃で倒したのかね?」

「取り巻きが面倒だったんですよ。覇者だの戦争師だのが集まってましたから。あんな化け物共、まともに戦いたくないです」

「……覇者の噂は聞いたことがあるが、戦争師というのはどのくらい強いのだね?」

「覇者の上位種だと思います。魔法もロクに効きませんし。正面切って戦おうなんて思わない方が無難です。多分アレ、人食い鬼よりも強いと思いますよ」


 国王陛下がまじまじと私を見つめる。


「ゴブリンだろう?」

「ゴブリンですよ。ゴブリン女王なんて、三メートルくらいあるでっぷりとした巨体でしたし」


 国王陛下が目をパチパチとさせた。


「三メートル!? ゴブリンなんだろう」

「ゴブリンですよ。国王陛下」


 そういえば、国王陛下も若いころはやんちゃしてたらしいけれど、さすがにバレリオ様みたいにダンジョンに潜ったりとかはしてないだろうしなぁ。


 色町通いくらい? オクタビア様がぼやいてたし。あぁ、でも、ルナ姉様のディルガエア民へのお言葉もあったし、魔物退治くらいはやったことあるかな。


「うーむ。報告にはあったが……。ダンジョンの浅層に町をつくることを検討した方がよいのか?」

「あー。あのダンジョンの一層と二層は、さして危険じゃありませんから、そのほうがいいかもしれませんね。あのデカい犬はちょっかいを出さなければ、近寄ってきませんし」


 実際、浅層のほうが外よりも安全だろうし。とはいっても――


「まぁ、それをするにも、まず道を作らないといけませんけれどね」

「十年単位の事業になりそうだ」


 そう云って国王陛下は肩をすくめて見せた。


 ふむ。この感じだと、もう組織は起ち上げたのかな。もしかしたら、もう魔の森の伐採作業が始まったのかもしれないね。


 ……もしかしたら治安が良くなるんじゃないかな。いま下手な犯罪を犯すと、もれなく伐採作業に駆り出されるだろうし。


 そんなどうでもいいようなことを考えつつ。私はご機嫌な国王陛下と共に、ほぼ公開準備の整った博物館(仮)の展示物を見てまわったのでした。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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