03 ゲームキャラってアリですか?
「異世界召喚ってわかる?」
常盤お兄さんの言葉。
へ? 最近やたらとラノベとかで増えたジャンルだよね。
え、嘘でしょ。
「困ったことに、その召喚の術で君の魂が捕まった。残念ながらこれを阻止することができない。僕たちの属しているこの世界外からの干渉でね。
で、この召喚を行った世界の、その星の管理担当者に抗議をしたんだよ。そうしたらそっちはそっちで面倒臭いことになっててね」
「どういうことですか?」
「どうもそこも他所の干渉を受けて、召喚アイテムがその星に幾つか撒かれたらしいんだよ。で、そのひとつが使われて、君と、他二名がどこぞの世界から召喚されている」
え、悪戯的な感じ?
「正直、これ、あまりよろしくない事態なんだよね。外部世界の魂がはいると、輪廻のシステムにノイズが入って最悪、世界が壊れるから」
ちょ、一大事じゃないですか。
「まぁ、大量に召喚されなければ大丈夫なんだけど、だからって放置はできないしね。
向こうの管理者は頭を抱えてたよ。しょうがないから手助けすることにしたんだ。
なんか、他二名の方の管理者は『知らね』ってスタンスらしいし」
うわぁ。でも常盤さんは助ける方向か。あはは、本当、お兄ちゃんみたいだ。うん、私の直感は間違ってなかった。
あぁ、できるなら、私も常盤さんも生きている時に会いたかったなぁ。
「そこで深山さんにお願いなんだけど、召喚された先でこの召喚アイテムを回収してくれないかな。あ、もちろん、異世界召喚ではお約束の、いわゆるチート能力もどうにかするよ。どうだろう?」
ち、チート能力か。
チートって嫌いなんだよなぁ。お兄ちゃん『ゲームをつまらなくしてどーすんだよ』って云ってたし。実際、私もそうだしなぁ。試しにやってみたら萎えたし。
とはいえ、リアルだしな。転生しました。死にました。は頂けない。
どうしよう?
…………。
「あ」
急に常盤お兄さんが声を上げた。
「ごめんよ。誤解される云い方をしたね。別に、アイテム回収は引き受けてくれなくてもいいんだ。向こうは向こうで回収役をだすらしいから。深山さんは向こうでたまたま見つけたら拾って欲しいっていう程度だよ。それと、やる、やらないに関係なく、能力はつけるからね。そこは安心してほしい。それと、向こうの世界について云ってなかったね。向こうはいわゆる剣と魔法の世界だよ。まぁ、魔法はかなり微妙らしいけど」
……ごめんなさい。すでに引き受けるつもりで、チート云々で悩んでました。
「えーと、召喚は確定なんですよね。ですから、そのアイテム回収はお引き受けします。どんなものかはわかるんですよね?」
「おぉ。ありがとう。召喚アイテムだけど、深山さんが召喚された先に、これみよがしにあるだろうから分ると思うよ。まぁ、そこで強奪とかすると大変なことになるから、それは止めとこうね」
そりゃそうだ。
「それじゃ、能力はどうしよう? 大抵はどうにかできるよ」
「すいません、ちょっと考えます」
むぅ、でもチートはなぁ。無敵とかになっても、命は安全だろうけど、なんか、堕落しそうな気がする。下手すると、向こうの人たちから石投げられたりするような事態になったりしない? 悪魔の使いとか云われて。
私の脳裏に、ある映画の主人公が思い出される。神に選ばれて不老不死にして、首を刎ねられない限り不死身となった剣士の物語。彼は死から蘇った結果、悪魔の使いとして迫害され、追放されたのだ。恋人からも石礫を投げつけられて。
さすがにそういうのは嫌だしなぁ。
あ、そうだ!
「あの!」
「あ、決まったかい?」
「ゲームキャラってアリですか?」
「……はい?」
常盤お兄さんが首を傾げる。
そう、ゲームの主人公キャラだ。
ゲームのキャラは、成長しきれば存在自体がチートじみたものになるけれど、それまでは普通……いや、まぁ、普通だと思う。
鍛えなければ、弱っちいわけだしね。
なので、それならば私が納得できる。
その旨を簡単に説明する。
「ちなみに、どのゲームのキャラにするんだい?」
「え、その、自分で云っておいてなんですけど、大丈夫なんですか?」
「ゲームによるとしか云えないなぁ」
あぁ、SF的なものだと、妙なことになるものね。サイボーグとか、存在自体がオーパーツになるわけだし。
そんなわけで、私がゲームについて説明をする。
オープンワールドRPGの主人公キャラだ(洋ゲー)。シリーズの四作目と五作目を、お兄ちゃんのPCでやらせてもらって、ドはまりしたんだ。
個人的には四作目の方が好きなんだよね。ただ育て方次第で、四作目は普通に超人になっちゃうからな。最終的に神様にまでなってるし。……どちらかというと邪神だけど。五作目で、多分登場しているしね。で、五作目は超人にはならないけれど、チートじみた能力は持っている。とはいえ、オンリーワンな能力じゃないから、チートとは思わないけど。まぁ、特殊な魔法枠って感じだったからなぁ。
個人的には五作目をベースに、五作目で削除された四作目でできた事を追加した感じでできないかなぁ。
そんな感じで常盤お兄さんに云ってみた。
……うん、云ってみるもんだね。あっさり了承されたよ。
それどころか、お兄さんもやってたよ。それもやり込み勢だったよ。なんかノリノリで作業が始まったよ。
一応、向こうの世界に合わせて、いくらか改修するそうだ。
「改修って、たとえばどんなところを?」
「一番改修するところは【召喚魔術】だなぁ。さすがにゲームの存在はいないからねぇ。あぁ、でもいくらかは残るよ。死霊術の方になるけれど。あと武具召喚もできるよ。あれ、召喚じゃなくて魔力変成だしね。まぁ、削った分、代わりに便利な魔法を入れておくよ。分類的にも召喚魔法で問題ないし」
あぁ、そうか。ゲームの召喚魔術最強の魔人とか実在しないだろうしね。あ、ゾンビ召喚が必要か聞かれたんで、それはお断りした。でもゾンビ作成は残してもらってたりする。まぁ、使うことはないだろうけど。……なんか、スケルトンチーム召喚を入れとくとか云われたけど。スケルトンチームってなんだろう? 多分、四作目のMODだろうなぁ。あと召喚魔法で問題ない便利な魔法ってなんだろう?
それと他の魔法はどうなるのかな? 技能とか、あとパーク。
うん。楽しみだ。
身の安全を考えるなら、隠形と眩惑魔法を真っ先に鍛えた方がいいな。
リアルな命が掛かる以上、真正面から戦う脳筋スタイルはありませんよ。それに攻撃魔法は微妙である以上、攻撃魔法メインも怖いからありませんよ。こそこそと小賢しく生きるのだ。
まったりとお茶を飲みつつ、作業が終わるのを待つ。お茶請けは沢庵だ。
なんか、ひとりお茶を飲んでるのは申し訳ない気もするけど、お手伝いなんでできようもないしなぁ。
ややあって。
「よし、終了っと。細かい説明をしたいけど、さすがにそろそろ向こうへ行かないとね。なかば時間を止めてあるとはいえ、のんびりし過ぎるのもあれだ。
さて、召喚魔法にインベントリを魔法として追加したよ。いわゆるアイテムボックスだね。そこに取説いれておいたから、向こうで落ち着いたら読むといい」
そう云って常盤さんは、手に握りこぶし大の、黄色っぽい輝きを発している水晶玉をこちらに見せた。
「あ、ありがとうございます」
インベントリか。要は無限収納。ゲームと一緒なら、食品とかは腐らない。あ、魔法扱いってことは、重量も無視できるのかな? おぉ、できるんだ! これは便利だ。チートっぽいけど、重量概念のないゲームだと普通だしな。問題ない問題ない。
どうせ必需品は担ぐだろうし、本来なら処分するものを持ち運べるようになるってことだ。泣く泣く処分、ってことがなくなるのは、私としては嬉しい。なにしろ貧乏性だからな!
「あと、君はちょっと、不愉快な目に遭うことになると思う」
「はい? どういうことでしょう?」
私は首を傾げた。
「君を召喚した連中の召喚動機だよ。要は、チート能力持ちを手に入れようってことさ。どういうわけか雑兵ではなく、英雄を召べると分かっているらしい。召喚過程で、餞別ってわけではないけれど、どこの管理者も特殊能力を付与して召喚先へと送り出すからね。召喚先で簡単に殺されないように。でもって、それを理由に召喚先の管理者に取引を持ち込むわけだ。
これも向こうさんが頭を抱えている理由。すげぇ面倒臭いことになるからね」
あぁ……。
「で、向こうの管理者は、そのことで召喚者たちに対し激怒していてね。君に代わりに罰を与えて欲しいらしいよ。自分でやると、怒りに任せて大陸沈めそうだから」
あははは。
「あの、他二名のほうは?」
「クズだから問題外だってさ。どうも普通に犯罪者らしい。連続殺人とか強姦とか」
うわぁ。
「で、深山さん、希望通りにしたわけだけど、これだとあからさまなチート能力というのがないわけだ。連中の使う【鑑定】とやらで見ても、君はごく普通の一般人と認識される。まぁ、将来、存在がチート並みになるなんて、分るわけがないからね。
で、これがどういう結果になるかわかるかい?」
「……外れってことですか」
「そういうこと」
ということは、失望されるというより、『苦労したのに、でてきたのは外れかよ!』って感じか。課金ガチャでゴミ引いた扱いってとこか。
「まぁ、殺されるってことはないだろうけど、よくて軟禁。悪ければ幽閉して放置かな」
「そんなことするくらいなら、殺すんじゃないですか?」
そのほうが楽だろうし、経費も掛からないし。
「いや、異世界からの召喚だよ。同じ姿はしているものの、得体の知れない存在だ。軟禁して観察するか、でなければなかったことにして餓死させるかだろ。直接殺すのと、間接的に自然死させるのとでは、差がでるからね。殺すことで発動する呪いなんかは、これやられると発動しないからね。まぁ、そこまで考えているかはわからんけど」
うーむ。でもそれだと、始まる前に詰みそう。でもそういう予想が立ってるってことは、回避はできるんだよね。
常盤さんをじっと見つめる。
「ま、殺されそうになったら全力で逃げて。肉体を向こうで創ったら、君をそこに定着させて、それからこの水晶玉、能力を付与して地上に送ることになる。
あ、インベントリにいろいろ装備だのなんだの突っ込んどいたから。財力MAXでニューゲームみたいになるけど、そこは納得して。そうしないと殺されちゃうから」
あ、はい。
まぁ、召喚される場所がそんなところじゃ、ごく普通の一般人はどうにもならないし。
生き延びる為に装備やらなんやらがあると。
「それと、魔法関連はすべて覚えてる状態になってる。魔力の関係で、大半はそのままじゃ使えないけど。詳しくは、それも取説読んでね。さて、なにか他にここで訊いておくことはあるかい? なければ向こうの管理者のところへいくけれど」
え、あ、そうか、どうしよう。
ん? ちょっとまって、ということは常盤お兄さんとはこれでお別れってことだよね。
え、嫌だよ。折角出会えた好みドンピシャの人だよ。
もう気分としては一目惚れどころじゃないんだけど。
ずっと一緒にいたいくらいなんだけど。
えーっと、えーっと……。
あぁ、目がグルグルしてきた。
「ちょ、深山さん? 大丈夫? あからさまにおかしな感じになってるけど!?」
「だ、大丈夫です!」
私は答えた。心無し声が大きい。
「い、いや、大丈夫じゃないね。え、本当、急にどうしちゃったの?」
常盤さんがうろたえてる。でも、とにかくなにか云わなくちゃ。
じゃないとここでお別れだ!
「お、お願いがあります!」
「お、おぅ。なにかな?」
「私をお嫁さんにしてください!」
――――っ!??
ちょ、ちょっと待て、私はいったい何を口走った!?