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291 王都に向けて出発


 王都に向けて出発しますよ。


 今回の道連れは、いつものようにビー。ボーは残念ながらお留守番。抱えていけるサイズなら大丈夫なんだろうけれど、引き連れて歩いていると厄介ごとを惹きつけることになりそうだからね。


 寄越せと云ってくる阿呆は存外多いのですよ。サンレアンだと、私の事もボーのことも浸透しているから、そんなことを云ってくる阿呆はいないけれど。


 いや、直接、私の所に来ていないだけか。組合の方へ問い合わせが来ているって、タマラさんが云ってたな。私に繋いでいない以上、そう云う連中なんだろう。


 さて、今回はさらにふたり、エリーとエミーのおふたりが同行するよ。


 ……いや、頼まれちゃってさ。


 これまで護衛任務で、私に知られないように同行しようとしていたみたいなんだよ。


 私がそれを撒いていたみたいなんだよね。いや、みたいじゃなく、撒く目的で街道を外れた上に【透明変化】を使ってしばらく移動したりしてたからね。あとを追うのは難しいと思う。

 足跡とかを追う技能があればワンチャン? いや、でも私の【羽根歩き】の技能のせいで、足跡は残らないしなぁ。せいぜい掻き分けた草の跡くらい? 素人考えだけれど、追うのは難しいんじゃないかな。


 ま、たまには誰かと一緒に進むのもいいでしょう。このふたりなら、変なことをするようなこともないしね。


 王都へはバイコーンに乗っていきますよ。乗っていくのは牝馬のアイリスの方。牡馬のほうはいまだに名無しのまんまなんだよ。いい加減に名前をつけないとなぁ。


 ふたりの馬は普通の馬。といっても、私の感覚からだと、普通の馬には見えないけれどね。ばん馬っぽい馬なんて、目にすることなんてなかったからね。そもそも、馬なんてTVの競馬放送くらいでしかみないよ。

 こっちの馬は全体的にずんぐりしてるからね。足も太いし。


 まぁ、足が折れたりしないよね? なんて、無闇な心配をしたりしないから安心だけれど。


 えーっと、準備は完了かな? それじゃ、出発しましょう。


 王都到着予定は七日後。七月の二十五日予定だ。


 いつものように、西門を出て、数百メートル進んだところで街道から外れる。


「き、キッカ様、どちらへ行くのですか!?」

「ちょっと街道から外れるだけですよ」

「なんで!?」

「十九!」

「エミーって呼んでくださいよ、お姉ちゃん! なんで間違えるんですか!」

「誰がお姉ちゃんか!」


 賑やかだなぁ。


「ですがキッカ様。なぜ街道を外れるのです?」

「人と遭遇することを避けるためです」


 私は答えた。


 必要がなければ、私は出来うる限りぼっちでいたいのよ。


「私、基本的に人嫌いなんですよ」

「えぇ……」


 エリーさんが眉を八の字に曲げた。


「えっと、それじゃ、なんで今回は私たちの同行を?」

「そりゃ、悪意がありませんからね。それに、アンララー様の旗下にはいったわけですし。それに人嫌いと云っても、世捨て人みたいな生活を選ぶほどではありませんからね」

「なるほど……大変ですね」


 エミーさんは鷹揚というか、呑気というか。こういっちゃなんだけれど、諜報の人って感じはしないんだよね。


 黒羊のあの女の子も似たような雰囲気だったけれど、彼女の場合、あれ、演技だったしなぁ。怖い怖い。


「十九……エミーがあっさりとキッカ様を見失ったので、その後に私が護衛についたんですけど、エミー同様、簡単に見失いました。後学のためにも、どうやったのかご教授願いたいのですが」

「あぁ、あれ、魔法ですよ。公開していない奴です。その内に、貰えるんじゃないかと思いますけど。諜報であるなら便利ですし。ただ、これに依存すると、技術が鈍りますけど」


 【透明変化】を使って姿を消す。これ、実のところ慣れないと大変なんだよね。自分でも自分の体が見えなくなるから。


 おぉ、驚いてる驚いてる。


「こんな感じの魔法ですよ」

「す、姿を消せるんですか!?」

「悪いことし放題ですよ」

「いや、しませんよ。してますけど。あれ?」

「お姉ちゃんは証拠品とかを回収してきますからね」

「本当はあんたもなんだけれどね。なんで武闘派なのに諜報にいるのよ……」

「暗殺要員ですよ」


 明るくいうんだ……。


「……暗殺をしたことは?」

「ないです」

「あんた、護衛しかしてなかったものね……」

「え、諜報ですよね?」

「はい。そういやあんた、なにやって序列を上げたのよ?」

「シングルのお忍びの護衛です」

「それは私が訊いても問題ない?」

「色町通いですよ」


 エミーさんの無邪気な笑顔に、私とエリーさんは顔を見合わせた。


「えーっと……情報収集?」

「性欲の発散じゃないですかね。年少の男の子ばっかり選んでましたし」

「年少!?」

「十歳前後でしたかね」


 えぇ……。そんな歳の子が男娼とかしてるの? アンラ怖いな。


「それ思いっきり非合法のところじゃないの。え、そんな娼館あったの?」

「【二】が作らせたみたいですね」


 エリーさんが頭を抱えた。


「あの人、そういう趣味だったの?」

「男の子たちの目がみんな死んでましたね。娼館主に、話し相手になってやってくれって頼まれましたよ。あはははは……」

「エミー!?」


 うわぁ……。あれだ、目のハイライトが消えたって表現がぴったりの目になったよ。


「エリーさん、その【二】という人は?」

「紳士然とした人物です。なんというか、有能な執事という感じの」

「それ、見た目だけです。私、いつも護衛について行きましたけれど、同じ子とは二度以上会ったことがありません」


 うわぁ……。


「そういう娼館があるって話は聞いたことはあったけれど……、よりにもよってうちの上司がそれをやってたとか……」

「娼館主が中途半端に人道的な人だったので、哀れでしたね」

「よく露見しなかったわね」

「顧客の大半が貴族でしたし。情報漏洩はありませんよ。あっても、火葬場の仕事が増えるだけですって」

「そう考えると、サンレアンの色町は健全なんですねぇ」


 健全なのか?


「って、まさかあんた、それだけで序列が十九にまであがったの?」

「そんなわけないじゃないですか。【二】ですけれど、意図的に自身の動向を漏らしていたみたいなんですよ。ですから、護衛として同行している時には、大抵、襲撃がありましたよ。みんな制圧して捕縛しましたけれど」

「制圧?」

「はい。制圧です」


 エミーさん、どのくらい強いんだろう?


 捕縛したんでしょう? 誰ひとり殺さずに。


「最後に護衛をした時には、護衛のメンバーは私以外みんな変わっちゃってましたけれど。それを考えると、損耗率が酷い任務でしたね」

「……なんであんたはそんなあっけらかんとしてるのよ」

「生き残りましたからね」


 エミーさんは得意気だ。けれど、そういうことではないと思うんだけれど。要はあれだ、ほぼ使い捨ての護衛として使われてたってことでしょ? そこで生き延びたから序列があがったと。


 ……実力主義っていえば聞こえはいいけれど、彼女たちのいた組織は、人材を育てようって気が無かったんじゃないかと思うよ。


 私とエリーさんが、なんとも微妙な視線を向けていると、なんだかエミーさんは慌て始めた。


「え、えっと……あ、サンレアンの娼婦のお姉さんたちはみんな明るいですね。アンラの貧民街の娼館とはえらい違いです」

「いや、エミー、サンレアンと一緒にしちゃだめだからね? ミッテイユはお世辞にも治安のいい街じゃなかったからね」


 教会の暗部は、そういうらしいところに拠点をおいているのかな? いや、彼女たちの組織は、そこにあったということだろう。


 そうそう、組織と云えば、あの【女神の剣】のことも聞いたよ。【勇神教】からはぐれた連中が作り上げた【陽神教】の下部組織。しかしその構成員の下っ端はそのことをしらず、名声と実績を得るために、【アリリオ】の二十階層を攻略していたそうだ。実体は【陽神教】の資金集め団体。

 それと【陽神教】は私を担ぎ上げようとしているらしい。


 あぁ……また面倒な。これ、この新興宗教を潰さなくちゃいけないのかなぁ。神様方は、自身のほうに実害がない限り放置みたいだけれど。

 いや、確かに実害がないのに、迷惑を掛けられそうだからって、潰す訳にはいかないけれどさ。


 うーむ。私のところへ直接来るのなら、どうとでもできるけれど、変な噂とか流されたら厄介なんだよねぇ。


 嫌だよ、いつの間にか教祖とかにされてたら。


 まぁ、いまからやきもきしても仕方ないから、これについては保留にしておこう。


 そんな感じで、その日は世間話をしながら、夕刻まで野っ原を進んだのです。


 正直、野営を考えると、こんな時間まで進むのはダメなんだけれど、私の場合食事だのなんだのは、出来上がったものをインベントリに放り込んであるからね。食事の準備時間は不要。


 あと、私は使ったことはないんだけれど、コンテナをインベントリにいれてあるんだよ。物質変換でつくったヤツ。簡易住宅代わりにしようと思って。


 だから、野営の準備をする必要はまるでないんだよね。灯りも魔法を使えばいいし。


 あ、不寝番は召喚で間に合わせるよ。


 ふたりが不安そうにしてたから、そう説明したところものすごい呆れられた。


 ものぐさすぎると。


 いいじゃないか。人は堕落するために努力する生き物ですよ。私は楽をできるところは楽をするのです。


 ということで、コンテナをででん。


 今日はできあいのごはんでいいや。なにをだそうかな……。無難なところで親子丼にしておこう。私だけが食べる訳じゃないし。


 ということで、ふたりに親子丼とレンゲを渡す。それと玉子スープ。味噌汁を出したいところだけれど、味噌汁、ダメな人はダメだからね。今回は見送りだ。


 親子丼は好評だったよ。こっちの人は、米飯も大丈夫みたいだね。


 そうだ。せっかくだから、これまで出していない料理の試食をこのふたりにしてもらおう。


 まずは梅干しだ。基本的に、海外の人には不評な食べ物から確かめるとしよう。

 

感想、誤字報告ありがとうございます。

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