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287 別神だから見逃している


 問題が発生した。


 問題と云うか、分かり切っていたことなんだけれどね。いや、当たり前の事なんだけれどさ、和食……日本食というものは、基本的に箸で食べることを前提にしているような料理が多い。だから、それらをナイフとフォークで食べようとしようものなら、正直、食べづらいのである。すべてがすべて、というわけではないけれど。


 なにが云いたいかと云うと、うな重がまさにそんな感じになったんだよ。


 米飯を使った料理は、軒並みそんな感じになるかなぁ。


 親子丼とかはスプーンで食べれば問題ないけれど、これが天丼とかカツ丼になると、途端に食べにくくなる。載っている具材が大きいからね。そしてそれはうな重にも云えること。


 うな重を普及させようかな、などと思っていたけれど、これは断念した方がよさそうだ。でも、ウナギと米飯の組み合わせはもうひとつある。


 ひつまぶし!


 こっちはスプーンで食べても問題ないからね。ウナギを用いた混ぜご飯みたいなものだし。


 試食の際に、アレクサンドラ様がすこしばかり難儀していたからね。


 だからすぐにひつまぶしにしてみたんだよ。あれなら普通にスプーンで食べても問題ないし。


 そうそう、肝心のお味についていっていなかったね。


 うん。ちゃんとウナギだったよ。美味しかった。懸念していた皮だけれど、白焼きにするときにちょっと強めに火を通したのが良かったのか、ゴムみたいにはならなかったよ。問題なく美味しく戴けたよ。


 アレクサンドラ様にもご満足いただけました。


 ウナギを見せたらドン引きしてたけれど。


 一般的な女性同様、長い生き物は苦手の様子。


 そういや、去年、王都からの帰りに私は斑蛇を狩ったけれど、メイドさんたちが大騒ぎしたっけ。リリアナさんは平気だったけれど。


 よくよく考えたら、蛇肉って流通していなかったよ。稀に組合に持ち込まれたりするみたいだけれど、大抵は皮目的で狩られるため、肉は狩猟依頼を受けた狩人が食べるのが殆どみたいだ。


 私はというと、蛇は鶏肉みたいな味って聞いていたから、興味本位で狩って食べたりしてたけれどね。あぁ、もちろん、こっちに来てからね。

 確かに鶏肉っぽいけれど、独特の微妙な臭みはあるから、唐揚げにするのが無難だと思うよ。


 さてと。


 微妙に時間ができたわけだけれど、やらなくちゃならないことが結構あるんだよ。


 組合に委託しているメタスラ鎧を搬入しないと。まだ半分しか作ってないよ。……値段が凄いことになったから、そうそう売れないとは思うけれど。

 むしろ、四領売れたことがびっくりだよ。


 いや、これまでの倍以上の値段になっちゃったからさ。


「これでも安いくらいです」


 と、タマラさんに叱られたよ。……まぁ、性能がおかしいからね、この鎧。重めの軽装鎧並の重量になってるし。


 出発予定日までにパーツは全て準備できるんだけれど、組み上げるのに掛かる時間を考えると、六領くらいかな。仕上がるのは。


 あとは、粛清者の鎧をふたつ。エリーさんとエミーさんの分。


 ……エミーさんの鎧がちょっと問題なんだよね。いや、彼女、体重の増減が激しくてさ。……ちょっと緩めに調整しておこう。どうせそこかしこのベルトで締めることができるんだし。大丈夫だろう。


 そうそう、エミーさんとはちょっと手合わせしたんだよ。


 いやー、諜報員なのに、戦闘面で優秀って聞いてはいたけれど、すごいね。気がついたら転かされてて、終了。


 なにをされたのかわからん! というのは初めてだったよ。私は基本的に鈍臭いから、体術の類はかなり残念なんだけれどさ。とはいえ、びっくりしてるだけで終わる、というのは問題でしかないな。


 いわゆる軽業師的な戦い方をする人は、私には対処できそうにないや。ドーピングしまくればなんとか? って有様だよ。クラリスと戦った時みたいに。


 鎧の受け渡しの際に、【女神の剣】に関して聞いてみたよ。かなーり面倒臭いことになっている模様。


 なんていうの。特撮の悪役組織みたいなことになっているらしい。面倒臭いことに、祭神にしているのがアレカンドラ様だから、信者が集まっているのだとか。それも教会内の派閥抗争だの出世抗争だのでドロップアウトした連中が集まって、現在もなお成長中とのこと。


 えーっと、七神教から弾かれた、って時点でダメな人間である可能性が非常に高い。特に審神教なんかは、教義の関係上とてつもなく厳しいわけで、弾かれる奴=犯罪者といっても過言ではないし。地神教もにたようなものか。ルナ姉様がことあるごとに神罰を振るってるみたいだし。月神教はこないだ粛清の嵐がふきあれたばっかりだしね。

 水神教と風神教はちょっとわからないけれど。

 勇神教? あそこはもうどこに向かっているのか……。アレカンドラ様が面白半分でやらかしたことが、そのまま主流になっちゃったから。アレカンドラ様、頭を抱えてたし。


 なんか、いまはボディビルダーの巣窟みたいになってるらしいよ。勇神教の主流派は。おかしなことをやらかさない分、平和的ではあると思うけれど。元々、勇神教って脳筋集団みたいなところだし。


 と、【女神の剣】教団だけれど、その本拠が不明。教会の諜報部門が探しているらしいけれど、結果は芳しくないみたいだ。


 私に接触して来る可能性があるから、注意をするように云われたよ。


 ……このところ、私にくっついている監視だか護衛だかが増えたのは、これが原因なのかな?


 そういや、私を祀り上げてどうこうしようとする連中が現れるかもしれない、なんてことを以前に聞いたけれど、そういうこと?




「――というようなことを聞いたんですけれど、なにか問題は起こりそうですか?」


 目の前でぱくぱくとうな重を食べているお二方に問うた。


 ルナ姉様とララー姉様は目をぱちくりとさせると、ふたりで顔を見合わせた。


「問題ないんじゃないかしらー?」

「そうねぇ。あいつらにキッカちゃんをどうこう出来ると思えないしねぇ」

「えぇ……でも狂信者と、それにあやかって甘い蜜を吸おうって連中の集まりですよね?」


 ふたりはそっくり同じ動作で首を傾いだ。


「例えば、キッカちゃんが攫われたとしましょー」

「キッカちゃん、オーキナート様のところへ転移で逃げれば解決ねぇ」

「例えば、キッカちゃんが襲われたとしましょー」

「キッカちゃん、もう、そういう事態への対処はしているでしょう? 襲った方が哀れになるわねぇ」

「例えば、キッカちゃんを従えるために、いけないお薬を盛られたとしましょー」

「キッカちゃん、毒物関連は自分で浄化できるわよねぇ。まぁ、それ以前に、大概の害ある薬物は無効だけれど」


 は?


 え、どういうことですかララー姉様。最後のは私も知らないんですけれど!?


「キッカちゃんの体が特別製なのは知っているでしょー?」

「言音魔法に耐えられるように拵えられているからねぇ」

「それに加えて、魔法関連に親和性を持たせて、各種能力を付与した結果、どうみても超人になってるのよー。さすがトキワ様だわー」

「もっとも、丈夫だけれど、耐久度は普通の人とは変わらないから、下手に殴られると死んじゃうんだけれどねぇ」


 超人なんて自覚、まったくないんですけれど!?


 基本的に私、魔法で無理矢理どうにかしているだけですよ。


「まぁ、連中のことは放っておいても問題ないわー」

「保って……十年くらいじゃないしらぁ。祝福もなにもないんだものぉ、すぐに離反する者がでてくるわよぉ」


 あぁ、そうか。神様が身近にいて、ある一定数の信者には祝福が与えられたりしているんだもの、それがまったくない教団には神がいないって証になるか。


 そうなると教団から離脱する信者がでるのは当然のことだね。


 あれ? そうなるとますます私が面倒なことにならない? アレカンドラ様の神子って認識されちゃってるんだから、確保しようと躍起になるんじゃ。


「だから、どこの誰がキッカちゃんを繋ぎとめておけるのかしらー」

「いまのキッカちゃんなら、どこに監禁しようと脱出できるわよねぇ」


 拉致されたりしたらどうするか。まぁ、普通に暴れるなぁ。ただ逃げるなんて性にあわないし。とりあえず、そのまま連れていかれた先でやらかすと思うよ。縛られたりしても、【炎の霊気】で縄は焼き切れるし。スケさんチームを二チーム召喚して暴れさせて、ついでに【砂の番人】を召喚して暴れさせて、その拠点は確実に潰す。

 もちろん私は、その間、透明になって高みの見物ですよ。


 あ、【砂の番人】は正確には召喚ではなくて、簡易ゴーレム作成魔法。だから召喚枠の二枠以外で呼び出せる。召喚地点に留まる性質があるんだけれど、敵を認識すると、それを倒すまでどこまでも追いかけて行く。拠点防衛の点では失格といえるけれど、実体化している時間が二時間と長く、馬鹿げた耐久度をもっているから、敵性組織の拠点破壊にはもってこいの魔法だ。


「連中がどういった活動をしているのか、把握はしているんですか?」


 神様方がさほど問題視していないみたいなのが気になる。


「普通の宗教活動、かしらねー。実のところ、さした悪事は働いていないのよー」

「キッカちゃんが遭遇した連中は半ば例外。どこにでもいるならず者よぉ。盗賊の類でも、信仰心は持ち合わせているからねぇ」

「ララーは盗人の女神でもあるものねー」

「……いつの間にかにねぇ」


 ララー姉様がため息をひとつ。


 これはあれか。テスカカカ様が戦争の神と誤解されたのと同じ感じかな。


「まだ統制が完全に取れていないこともあって、末端にはあんな連中もいるのよー」

「架空の神を信奉するだけなら見逃すわぁ。名前がお母様と一緒なのが気にくわないけれどぉ」


 あぁ、肖像が別人……別神だから、見逃しているのか。いや、それでいいの?


「でもお母様の評判を貶めるようなら、容赦しないけれどねー」


 連中のリーダーの手首から先を焼いてましたね。そういえば、あの男は元主教だったよね。それでも末端扱いか。


 となると、主要メンバーにはそれより上の階級の者がいるってことか。本当に勇神教、分裂しちゃったんだな。


「ところでキッカちゃん、これはどうするのー」


 ルナ姉様が半ばほどにまでなくなったうな重を指差した。


「冒険者食堂用の新メニューかしらぁ」

「うな重はお箸じゃないと微妙に食べづらいですから、ひつまぶしの方を出そうかと。ただ、食材の関係で断られるかもしれません」


 見た目のせいで、食用とみられていないみたいなんだよね。ウナギ。


 血に毒があるのも、食用から外されている原因みたいだ。


「あと、米飯がまだ一般的じゃないので、ひとまず見送りにした方がいいかもしれません。まだお米は本格的な生産がはじまってませんし」

「あら残念。数年後に期待というところかしらねー」

「暫くは家でだけ作ることにしましょう」


 私はそう答えると、うな重を口に運んだ。




 うん。美味しい。


誤字報告ありがとうございます。

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