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278 即ち、まったくの無駄!


 今回はほんとうにどうしたことだろう?


 いくらなんでも、イベントが盛りだくさん過ぎやしませんかね。


 この二十階層へ降りる階段のところの馬鹿野郎共に始まって、二十階層ボスの有り得ない物量の有様。これだけでもうお腹いっぱいなのですよ。


 さらなる刺激なんぞいらんのです。


 もうね、私の運と云うか、巡り合わせを呪いたくなるというものですよ。


 さて、ボスを倒したからには、お待ちかねのお宝拝見のお時間なわけです。意気揚々とボス部屋奥の扉をくぐったところ、私を出迎えてくれた存在がいたのですよ。


《よくぞあの骨の軍団を討ち果たし参られた、勇者よ。そなたには眷属を授けよう。さぁ、我が手を取り、己が配下を召喚し手に入れるのだ》


 ……最初さ、変な得体の知れない言葉がちょろっと聞こえたと思ったら、次の瞬間には理解できるのよ。というか、その言語が身についているのさ。


 恐らくは、今後一切絶対に使うことが無いだろう、どこの言葉だか不明な言語が。


 まったくの無駄知識だよ!


 言語理解、というか、言語習得能力をアレカンドラ様から与えられているわけだけれど、それは必要性があるだろうという理由からだ。南方に行けば、未知の言語があるってはなしだからね。


 曰く、どこぞのフィクションみたいに、言葉が変換されて聞こえて、言葉を変換して聞かせる、なんていうのは無駄が多くて仕方がないんだそうだ。また仕様上、いわゆる小声で聞こえないように云う、というのができないらしい。


 要は、全部聞こえちゃうみたいだ。


 となると、そのあたりの調整やらなんやらがすさまじく面倒臭いらしくて、なら、言語そのものを習得させちゃった方が早い、ということで、未知の言語の話者の言語関連の記憶をまるっと、コピーして私に移植する、なんてことを自動的に行う仕様になっているわけだ。


 でもね、アレ、あの人形。ケルト的な民族衣装みたいな恰好の、赤と黒のゴスロリもかくやと思える服装の亜麻色の髪のビスクドール。いま云ったことからして、あれ、召喚器でしょ。ってことは、今聞いた言語は、アレの生みだされた世界の言語であって、絶対に今後使うことなんてありえない代物だ。


 即ち、まったくの無駄!


《さぁ、はよぅ。我と共に世界に覇権を――》


 私はおもむろに近づいて蹴っ飛ばした。


《――もるすぁっ!?》


 ……なんかネタっぽい叫び声? が聞こえたけれど気にすまい。多分、もたらすとかなんとか云おうとしたんだろう。


 人形はすっ飛んでいって、二、三度バウンドして止まった。途端、ガバリと起き上がって、両手を挙げて騒ぎ出した。


《なにをするーっ!》


 くそぅ、惜しいな。召喚器でさえなかったら、ちょっと好みな感じなんだけれど。主にいじくり回す対象として。


 私は騒ぐ人形に近づくと、ペシンと頭を叩いた。


《わ、私を叩いたな! パパにも叩かれたことがないのに!》


 だから、なんでネタっぽい台詞ばっかりでてくるのさ。


《蹴られたことはあるの?》

《あるわけないでしょ!》

《よし。それじゃ、もっと味わわせてあげましょう》

《えっ!? あ、いや、ちょっ、待って、待って、壊れるから!》

《あんたたちがそう簡単に壊れないのは知ってるわよ。神様方だって破壊する方向はぶん投げたんだから》


 そう。召喚器は無駄に頑丈にというか、壊れないように造られているらしく、アレカンドラ様も破壊は諦めたんだよね。


 いや、壊せない、ということではなく、壊すことに使うリソースが馬鹿にならないってことで、封印することにしたんだそうな。

 もっとも、いまではこの案件、時間軸管理者預かりにまで発展したことから、これまで回収した召喚器も時間軸管理者に送られているとのことだ。


 時間軸管理者はこれらを証拠品として、対象の時間軸管理者を監督不行き届きということで、いろいろとやっているらしい。


 その関係で、アレカンドラ様、いろいろとご褒美を貰ったみたいで、なんか、私にもおすそ分け云々の話が来ているからね。


 さて、人形だけれど、私を凝視……って、表情は変わらないか。ビスクドールみたいだし。こういった人形の眼の構造って追視っていうんだっけ? どこからみてもこっちを見ている様に見えるんだよね。ちょっと興味がでてきたな。今度調べてみよう。


 と、いけないいけない。とりあえず宣言通り、蹴っ飛ばしておこう。


《うわらばっ!》


 だから、なんでネタ的な叫び声なんだよ。これを作ったのって日本人じゃないだろうな? 大木さん同様、別時間軸の。


 いや、それはないか。言葉が明らかに日本語じゃない、わけのわからん言葉だし。


《酷い! せっかく私が、あんたを世界の王にしてあげるっていってるのに!》

《そんなものに興味はないわよ。なんで好き好んで苦労を背負いこまなくちゃならないのよ》

《面白おかしく、やりたい放題できるのよ!》

《それをしたら、民草に殺されるでしょう》


 騒ぐ人形を再度叩いた。


《二度も叩いた! パパにも――》

《それはもういいから》


 ペシンと更に叩く。


《酷い! 私がなにをしたっていうの!》

《あんたにはされていないけれど、あんたのお仲間にはされたのよ》

《へ?》

《私、あんたたちの被害者。こっちの世界に誘拐された時に死んじゃってね》


 嘘は云っていない。召喚で死んだとは云っていないだけで。


 というか、この人形、器用だな。表情なんて固定されているのに、なんで驚愕した顔ができるのさ。


《え、えっと、えっと、あの……》

《んー?》

《ごめんなさい》


 人形は土下座した。


 ……なんだろう、このネタを満載にしたような召喚器は。


 まぁ、意思疎通ができる……のかは怪しいけれど、会話できるのはありがたい。


 いや、ありがたいのか?


 私は人形の前に座り込む。鎧を着て正座なんて無理だから、胡坐をかいてるけど。


《で、目的はなに?》


 知ってはいるけれど、一応聞いてみる。現場の者が知っているのかを知りたい。いや、他の召喚器は完全に道具だったけれどさ。この人形は自律しているみたいだし。


《え、えっと……》

《よし、今度はこれを使ってみようか》


 武器を召喚する。そうそう、武器召喚。ゲームと違って、どんな種類の武器でも出せるんだよね。槍とかメイス、変わったところだとトンファーとか手裏剣だって出せる。ただ、どれも魔人武器の系統にはなるみたいだけれど。


 今私が手に出したのは大槌。側面に【100t】とか書いてありそうなアレだ。


《せ、世界の破滅です!》


 またしても見事な土下座をして見せた。面白いな、この人形。


《あ、聞いてた通りなんだ。まぁ、もうどうでもいいんだけれどさ》

《え?》

《あんたのパパ、死んだし》

《え?》


 オロオロしだした人形に、現状を説明してやった。


 この世界……というか、時間軸を破壊しようとした惑星管理者は更迭されて処分されたとアレカンドラ様は云っていたからね。

 まぁ、捕らえるのに散々に時間をかけたと云っていたよ。嬉々として時間を掛けたことを強調していたことから、アレカンドラ様の怒りっぷりがわかるというものだ。


 ホラ、常盤お兄さんがなんか拷問めいたことをやらかしてたってのは聞いていたからね。


 その後、この案件が時間軸管理者にまで上がって、さらにその上にまでいったんだっけ? 結果として時間軸管理者が厳重注意を喰らって、そのことで原因となった惑星管理者はあっさり始末されたとかなんとか。


 アレカンドラ様のところへ『好きにしろ』って放り出されたんだっけ? あれ? それは顎割れたちのほうの神様だっけ? まぁ、いいや。


 とにかくだ。このお人形の制作者は完全に処分されて、もはや存在していないと云うことだ。


《マジ? 死んだの?》


 おや? なんだか声色が……。


《ヒャッハー! 自由だーっ! 畜生、こんなところに放り込みやがって! あの骨共のせいでお外に出られなかったんだ! お外にでられるー!》


 どうやらストレスが溜まっていたもよう。


 でもね。


《あんたに自由はないわよ。多分》

《え?》

《だって、召喚器は封印対象だし。あんたもそれに漏れないわよ》

《封印?》

《そう、封印》

《なんで!?》

《壊すのが七面倒臭いから》

《嫌! 死にたくない! 封印も嫌! 動けないまま過ごすなんて!》

《大丈夫、そのうち考えるのをやめるから》

《むーりぃ》


 立ち上がって抗議しだした人形は、へなへなと崩れ落ちた。


《なんで私は生まれて来たの?》

《この世界を破滅させるためでしょう。自分で云ってたじゃない》

《だってそれが私のアイデンティティ》

《世界が破滅したら、あんたももろとも破滅するわね》


 だから、なんで無表情なのに、そんな、はっ!? としたような雰囲気を出せるのよ。


《私の助かる道はどこにあるの?》

《さぁ? ないんじゃないかな?》

《お願いします。助けてください、なんでもしますから》

《人形にしか興味を持てない酷く残念なキモイ男の慰み者に延々とされるとしても?》


 あ、髪を掻き毟って悶えだした。


《嫌だぁ、嫌だー。私だって幸せになりたいんだー》


 ……もしかして、これが召喚器の一号だったんじゃ? ほかの……明らかにおかしな趣味の代物だと、手に取ったところで『なんじゃこりゃ?』としか思えないし。そもそも、どうやって使うのか不明だしね。いや、あのスライムはあからさまに精神操作しようとしてきたけれどさ。


 言語の問題はあるけれど、意思疎通が可能となれば、拾得者に召喚を促すことは容易いだろう。


 どういうわけか、自身だけでは召喚できないみたいだし。


 実際、私を召喚したあの【宝珠】だって、鑑定盤がなければ単なるでっかい水晶玉として扱われただろうし。


 でも出来上がったのがコレだとすると……。


 人形はいまだに我が身の不幸を嘆いている、オーバーなアクションで。


 くっそウザくなって、召喚器の方向性を変えたんだろうなぁ。まぁ、どっちにしてもロクなもんじゃないか。


 人形は、いまだにジタバタと悶え嘆いている。


 まぁ、連れて行って、女神様方に放り投げればいいか。




 私は立ち上がると、いまさらながらに宝箱の確認をしたのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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