277 検分してみよう
とりあえず感想を云おうか。
酷くないかな?
さすがに最大でもポーター含めて十人程度のパーティでさ、三百を相手にするのは無茶もいいところだと思うのよ。
というかね、この【アリリオ】は、すくなくとも中層まではそれなりに人の出入りができるようになってもらわないと困るのよ。
ほら、【生命石】とか【黒檀鋼】とかの鉱石のこともあるし。さすがにボスドロップ……じゃなくて、宝箱か。そっから低確率で出るってだけだと、そう考えても需要に供給が追い付かなくなることは目にみえるからね。
とにかく、ここの改善だけはしてもらおう。上層で数の暴力はないよ。さすがに。羽虫とかもかなりきつかったし。あの酸のブレスをまともに喰らうと、装備の痛みが酷いことになりそうだからね。軽度だけれど、火傷もするし。
『なんだこれは? さ、酸? 酸だーっ!』
って云った探索者とかいそうだし。こうしてみると、【アリリオ】、地味にきついな、このボス以外も。
ん? 虫除けはどうしたのかって? あぁ、大木さんのウロコだけれど、虫よけ効果の範囲って、いいとこ半径一メートルくらいなんだよ。羽虫のブレスって、吹き付けるっていうよりも、玄室全体に撒き散らす感じだから、虫除けを持っていても影響を受けるんだよ。
ブレスを吐く前に逃げてくれると楽なんだけれどねぇ。逃げるときに酸を撒いていくからどうにもねぇ。
カラカラと目の前でスケルトンが崩れ落ちた。
えーっと、これでファランクスのスケルトンは最後かな? うん、最後だね。
ボーとビーは……うん。あっちも終わったみたいだね。
まずビーの方はこんがりと焼かれて終了。魔法の火の玉で包むとか、えげつないことをやってたよ。
あ、あれ? ビーがおかしなことになってるのは、なんとなくわかっていたんだけれど、ヴォルパーティンガーってここまで強かったっけ? というか、強くなりそうな感じだったっけ?
前に戦って仕留めた時には、確かに動きが速くて殺されそうにはなったけれど、ここまでとんでもないことをしれっとやらかす程じゃなかったよ? というか、されていたら私はいまここにいない。
そしてボー。
なんで魔法の鎧がぺしゃんこになっているんですかね? 中身、鎧ごと押しつぶされて行動不能になってるし。
私が側にいったら、その潰れた鎧の上に乗っかって、拳を天に突き上げてるし。
いや、可愛いんだけれどさ。
で、こんな有様になっていても、中身はまだ生きてるし。不死の怪物に生きてるも何もないけれどさ。……あぁ、それをいったら、ダンジョンが生成した魔物だし、不死の怪物的ななにか、っていうのが正しいのか。
とりあえず、もう一度【神の霊気】を纏って、これで焼いてしまおう。
ということで戦闘は終了。
さて、ボーとビーが相手をしていた騎士だけれど、【菊花の奥義書】で確認してみたところ、スケルトン守護騎士なる魔物だったよ。
元はスケルトン兵だったみたいだけれど、年を経てそこまでクラスアップしたみたいだ。
ランダム宝箱から鎧を手に入れたということも関係しているみたいだね。
……魔物が勝手に宝箱を漁って装備するのか。いや、考えるとやって当たり前のように思えるよね。ゲームとかだとないけど。
そして私が相手にしていたのが、ワイト魔法師長。ハイ・マスター・ロードとかって、奥義書にはルビが振ってあった。いや、マスター・ロードって。なにかおかしくなってないかな?
まぁ、名称はさておいてだ。ワイトがここまで強くなるのか。そういや【視線】とか【ED】とか使ってこなかったね。抑え込んでいる時、にらめっこしていたような状態だったんだけれどね。
えっと、ワイトの【視線】は、見つめた相手の思考を麻痺させた上にダメージ与えるんだっけ? でもって、それによって死亡した者はワイトになるっていう。
なんだか頭の中がムヤムヤとしたような、まさぐられるような感じはしていたけれど、あれが【視線】だったのかな?
それじゃ、手分けして魔石だの装備だのを集めようか。
さて、魔石を回収して回ったけれども、最低でもソフトボールサイズだよ。いわゆる中魔石サイズ。正確には、大魔石寄りの中魔石。恐らくは、今後、魔石の需要が高まったとすると、馬鹿げた金額で取引されるであろうモノだ。
はっきりいうと、本来なら上層で取れる代物ではない。
上層階層で中魔石持ちの魔物が闊歩しているのも大概だよ。あぁ、いや、ここにいたのは年を経た結果なんだろうけれど。
これ、私並におかしなことができる人じゃないと、打開できなかったんじゃないかなぁ。
サイズが人間サイズだったから与しやすかったけれど、多分、魔法師長とやらはケルベロスとガチれたと思うし。
いや、魔法師長、堅かったからね。あの障壁のせいで物理無効みたいになっていたし。
ケルベロスは純粋に暴力、力こそパワーみたいな感じの攻撃特化の魔物だった。ある意味、魔物らしい魔物、といったところだろう。それに対し、魔法師長はあれだ、オリハルコンスライムと同じ方向に向かった魔物だ。
負けなければ負けない。
……いや、なに云ってんだ私。
完全防御特化。それが魔法師長の進んだ先だ。攻撃力は微妙でも、殴り続ければ勝てる。ならば、勝てるだけの時間を徹底して稼ぐ方向に突き進んだ感じ?
最強を目指す攻撃特化か、無敵を目指す防御特化か、どちらが厄介かと云うと、断然後者だ。すくなくとも私はそう思う。
いや、前者は“当たらなければどうということはない”でどうにかなるけれど、後者は、防御を抜けなければ負ける未来しかないからね。
……。
いや、ちょっと待て。なんで私は戦うことを考えてるの?
あれ?
これまでのことを思い起こす。なんというか、揉め事ばっかり起こしてないかな? いや、自分から引き起こしたことは殆どないと思うけれど。
向こうにいた時は、できるだけ目立たないようにと、無駄な努力をしてたのに。
あれかなぁ。自由に動けるようになって、浮れてたのかしら。まぁ、深山家の教えが過激であったのも確かだけれど。『殴られたら、後からコソコソと殴り殺せ』が基本だったし。しかも、他者に迂遠な方法で行わせるように誘導するとか、とんでもなく回りくどいやり方をしていたし。
……。
まぁ、いいや。考えようとしてもなにも頭に思い浮かばないし。そもそも、私は基本的にその場の思い付きで突き進むのが状態になってたんだから、いまさらあれこれ思考する性格になんてなれないよ。
さて、珍しくドロップ品なんてものが大量に得られたわけだから、ちょっと検分してみようか。
あ、ボーとビーにはご褒美に白菜を渡しておこう。
さて、ドロップ品。
スケルトン・ファランクスが装備していた鎧一式と大盾に長槍。
鎧は鎖帷子に胸甲を重ね着した感じかな。足甲と手甲の類はなし。なんだろう、何かの絵でみたファランクス兵まんまな装備? 革のサンダルに滑り止めを兼ねた革の……これ、なんていうの? 手に巻き付ける感じの革ひも? 手甲替わりにもなってるみたいだけれど。あとは、鉄兜。鶏冠付きだ。この毛は何の毛だろう?
質はかなり良好。これまでに戦ってきた雑魚のスケルトン兵のガタの来た装備とはえらい違いだ。
大盾。楕円形の盾だ。この形の盾は珍しいかな? 少なくともディルガエアとテスカセベルム、あとアンラでは見かけなかった。長方形の形をしたタワーシールドは見たことがあるけれど、楕円形のものを見るのは、これが初めてかな? 分かりやすくいうとアレだ、南方の蛮人が持っている、奇抜な顔の絵の描かれている大きな木盾。今では土産物屋とかで売られていたりするアレ。
まぁ、この盾の表面には、なにか紋章めいたものが描かれているけれど。
あ、表面はつるつるに磨かれているね。レリーフの類はないや。リベットの類もなし。縁で剣を引っ掛けて止めるタイプの盾? このサイズだと地味に扱いが難しそう? あぁ、いや、槍とセットと考えると、これで十分なのか。基本的に槍と矢玉を防ぐのが目的で、近接戦闘主体じゃないし。
長槍。いわゆるパルチザンって呼ばれているような槍? 正直、取り回しはとてつもなく悪い。まぁ、ファランクスの戦術に合わせて作られたような槍だろうしね。ただ、この槍、かなり良い代物。軽くて柄がよくしなる。地味に魔法が掛かっていないかな? とんでもなく折れにくい仕様になっていそう。
どうしよう。釣り竿にぴったりとか囁いてる私が頭の片隅にいる。
あぁ、海のお魚が食べたい。自力で獲りに行こうかな。こないだ獲ったイトウで、鮭を食べてる気分にはなれるけれど、やっぱりサバとかカツオとかマグロが食べたい。でも獲りに行くとなると、アンラに行かないといけないからなぁ。
……アンラにいったら、トラブルしか起こらない気がする。諜報がそこら中に暗躍しているような国だし。都市部にいかなければ大丈夫……いや、いまでも私にくっついてる人が幾人かいるみたいだし、希望的観測は止めよう。
さて、これらの装備が約三百。正確には二百と八十四。これだけで一財産になるね。もちろん、持って帰りますよ。赤羊とかで買ってくれないかな。
それじゃ、メインのボス装備をみてみよう。
守護騎士の装備。全身金属鎧に中盾と段平。いかにも騎士な感じの装備だ。鎧は全身金属鎧といっても、軽装に改良されているかな? 腕と腿、そして腹部の部分は鎖帷子になっている。動きやすさ重視な感じだけれど、重ね着になるから、実際は下手すると重量は増し増しになるんだよね。でもこの鎧は軽量化の魔法も掛けられているみたいだ。持った感じ、結構軽い。
でもって、おかしなことがひとつ。
ボーがぺしゃんこにした鎧が半ば復元しているんですけれど、どういうことですかね? え? 自己修復機能付き? 何それ凄い。私もそれ作ったりできないかな?
さすがに金属塊みたいにされたせいか、元の形に戻るのに時間が掛かっているみたいだ。とはいえ、こうして復元する装備というのは凄い興味がある。だって、傷とかついても治るってことだろうからね。
この鎧は売らずに、いろいろと調べてみよう。
中盾。いわゆるカイトシールドというやつだ。見た目が格好良くて、取り回しもしやすい盾。表面には獅子のレリーフ。もうひとつの方は……鷲かな? 綺麗に彩られて、なかなかカラフルだ。実用というよりは、儀礼用の盾みたい。これまた復元能力があるみたいで、傷ひとつない。確か、ボーが思いっきり殴って凹ませてたハズだからね。
最後に段平。これは普通の魔剣だ。斬撃力を向上させただけのもの。ゲーム的にいうと【ブロードソード+1】みたいに+表記されてる感じのヤツ。あ、+表記は質が良いだけで、魔法付きってわけでもないのか。でもまぁ、これで私の云わんとすることは伝わると思う。
魔法師長の装備。短い錫杖と……これ、なんていうの? ガーブっていうやつ?
厚手の派手なコートっぽい服なんだけれど。赤地に金糸の縫い取りなんてしてあるし。
これも魔法の品。インベントリで鑑定してみたところ、全耐性持ちの装備だった。完全に壊れ性能じゃないですか。ただ、あくまでも人用の装備であるから、対不死の怪物用の魔法は素通しだったわけだけれど。
物理防御力はお察しな性能だけれど、これ、鎧の上に着られたら手が付けられなくなるんじゃないかな?
……これは売ったりしないで死蔵しておこう。恐らくは、最下層から持ち出された装備だと思うし。
錫杖。これは魔法の発動触媒だね。さらには増幅機能つき。ただ、私は絶対に使うことのできない代物だ。
いや、私の使っている魔法と、この世界に存在する“本来の魔法”とは論理がまるっきり違うらしいのよ。それこそ水と油ぐらいに。
ガソリン車に水をぶっこんだって走らないでしょう? そういう感じ。
私が持ったところで、ただの杖にしかならないんだよね。なんという持ち腐れ。
これ、きっと王国の魔法兵団の人には良い装備……いや、ダメだな。話に聞いた感じだと、選民思想に走りまくった残念な連中みたいだから。そんな輩には絶対に渡しちゃダメな装備だコレ。
『我を崇めよ!』
とか云いだし兼ねん。
あ、そうだ。スケ魔姐さんに持たせればいいじゃん。多分、使えるはず。ダメならララー姉様に調整して貰えばどうにかなるだろう。
鎧の方も、英雄さんに着てもらうとしよう。なんのかんので装備を変更していなかったからね。覇者は……鎧の類を嫌っているからなぁ。武器はなんでもござれなんだけれど。今度、冗談じゃなしに【ドラゴンころし】でも模した剣でも造ってあげようかな。
うん。そうなると、スケルトン兵と弓兵の装備も一新したい。帰ったら作ろうか。販売とか抜きで、趣味で作ったっていいだろう。望外にお金が貯まって、働かなくてもくいっぱぐれることもなくなっているしね。
そんなことを思いながら、私は山と積まれた装備をインベントリへと格納を始めたのです。
くっ。数が多くて地味に面倒臭い。
誤字報告ありがとうございます。




