276 見えないって云うのがまた厄介
奥に佇む三体。
王様と護衛騎士二体というように見える。宝冠にローブ、錫杖……短杖タイプのそれをもったミイラに、全身鎧の騎士が二体。騎士の装備は盾に剣という、オーソドックスなものだ。
装備の表面を不自然な光沢が走っているところから、あれは魔法の武具だろう。もちろん、騎士がそれならば、王様だって魔法の装備一式を装備しているに違いない。
これはちょっと面倒かな?
二体の騎士が動き出す。その動きは鈍い。
いや、騎士らしい動きだ。ということは、私のみたいな、軽量化他色々盛った理不尽仕様の鎧じゃないってことだ。
一歩、二歩と進み、一気に駆け出し突っ込んできた。
それに合わせるように、待機していたボーとビーが前へと飛び出す。
このいかにもな騎士たちを相手してくれるみたいだ。
あの二体はなんだろう? あれも不死の怪物のはずなんだけれど、中身があるのかないのか。
なければリビングメイルというやつになるのかな?
どごん、と、ボーが突撃して胸甲を殴りつけた。左側の騎士はその一撃でガシャンガシャンと騒音を立てて倒れ転げる。
あの犯罪者共は殴られると真横に飛んでいたのに、こいつはコレか。かなり重いみたいだ。
一方、ビーはもう一体の周りをぴょんこぴょんこ跳ねまわりながら電撃を放っている。
ビーの速度にまったく追いつけていない以上、このままビーが押し切るだろう。
二羽とも心配ないかな。それじゃ、私は王様(?)を相手にしようか。
【夜明けの剣】を正眼に構える。
【夜明けの剣】の爆発の影響を受けている筈なのに、まったくものともしていない。スケルトンたちが逃げ惑っている有様なのに、この三体はどっしりと構えたままだった。
それとも、完全に効果を抵抗した?
……答えの出ない思考は意味がないな。とりあえず、斬り付けて確かめ――
ぐごん!
王様が杖を私に差し向けるように構えたかと思うと、私はいきなり殴り付けられたような打撃を受けてのけぞった。
その衝撃にばたばたと数歩ほど後退る。
なに? なにをされた!?
がん! ごん! がすっ!
あだだだだ。
左手を前に突き出す。
【召喚盾】!
盾を召喚し、腰を落としてどっしりと構える。
がん!
左腕にかかる衝撃。見えない打撃を撃たれてる!?
もしかして、いわゆる“無属性魔法”ってやつ? マジックミサイルとか、マジックバレットとかいうような。
うわ、面倒臭っ! 視認できないのかよ!
魔法を使う相手はクラリス以来だ。そのクラリスだって、魔法はほとんど使わなかったから、あまり印象がないし。
見えないって云うのがまた厄介だな。
あの短杖から撃ってる? いや、それがフェイクだったら、目も当てられないことに陥りそう。
とはいえ、確かめないとね。まずはあの構えを潰そう。
しっかりと盾を構えて、腰をおとして、一気に突撃するよ。
「『我が走り風の如く』!」
【風駆け】を利用して突撃する。が、王様の手前、それこそ伸ばした手、短杖の手前十センチくらいから距離を詰められない。
見えない障壁に当たり、それ以上間を詰められない。
でも、王様も私の突撃を止められたわけじゃない。障壁ごと私に押し込まれ、そのままフロアの壁に激突した。
くっそ、こんなの予想外だよ。つか、またえらく堅いな。
ごごごんっ!
わわわっ!?
盾に連続で魔法の弾(?)を撃ち込まれ、私は無理矢理に距離を取らされた。
って、【召喚盾】が壊れた!? 嘘で……あだっ!
慌てて盾をインベントリから取り出し構える。
取り出したのは、今着ている鎧と一緒に作ったメタルスライムを使ったシールド。メタルボーンシールドだ。
自分で使う用のものだから、当然ながら一切の自重をせずに作った盾だ。これが壊されるようなら、本格的に身を護る術がなくなる。
むぅ。どうしよう。
王様は壁を背に、こちらに短杖を差し向けた格好のままだ。
とりあえず、連続で撃ち続けることはしてこない。
先の攻撃にしろ、いまの攻撃にしろ、六発で止まる。
いわゆる、リロード的なものでもあるのかな?
まぁ、攻撃よりも、あの防御をどうにかしないと。
王様を盾の影からじっと見据える。
なんだかニヤリと笑ったように見えた。
……あんにゃろう。どうしてくれよう。
ちょっとメタ的に考えてみよう。
ダンジョンはそもそも、大木さんがゲーム知識を元に作り上げたものだ。ただ、ゲームと絶対的に違うところは、クリアさせることを前提に考えてはいないということだ。
本来、ダンジョンは立入禁止の場所だ。
そもそもは単なる魔素固形化装置の設置場所でしかない。その関係上、その周囲の魔素濃度が若干上がり、結果、魔物化する動植物が少しばかりでただけで。結果、魔物の発生を良しとしない人類が装置を破壊しまくったため、それを阻止するために設置されたのがいわゆるダンジョンだ。
絶対防衛ラインとして造られた場所なのだから、突破されるなどもってのほかと云うことだ。
酷い云い方をすれば、ダンジョンは人類に対する全自動屠殺場なのだ。
とはいえ、あからさまにそんなことが分かるような作りでは、人類が何をしでかすか分からない。故に、ある程度は攻略できるように作り上げ、目先を逸らすための資源やら宝物やらが出現しているわけだ。
そんな由来のダンジョンにおける二十階層、上層階層部のボス。
魔物溢れによる暴走時、下層部から上がって来る魔物に対するストッパーとしての役割をもっているため、強個体として生成されているも、所詮は上層部のボスでしかない。
人類に攻略されることが前提のボスだ。
ならば、本格的な化け物級の魔物が配置されているとは思えない。
見た感じ不死の王って感じじゃないよね。というか、そんなんはそれこそダンジョンの最奥に配置されるだろう。
まさにラスボスとして。
だがこいつはそこまでの存在であるはずがない。
ならば、長い年月で強個体となっているとしても、付け入る隙のひとつやふたつはあるはずだ。
しっかりと身を守りながら、攻撃し、観察していくしかない?
……。
うん。趣味じゃないな。私はそんなに気長じゃないんだ。というか、あまり時間をかけすぎると、ボーとビーが騎士共を倒して、あの王様相手に無茶をしでかしそうだ。
いや、私が云えたことじゃないけどさ。
とりあえず現状わかっていることは、物理攻撃はダメ。魔法は不明だけれど、あの障壁で止められると思われる。
普通の魔法はまず、効かないと思った方がいいだろう。眩惑魔法? ボスに効果がないのはお約束でしょう。【夜明けの剣】の退散効果が抵抗されている時点で、お察しだよ。
よし。普通の魔法は効果が無い。そういうことにしとこう。確かめるのも面倒だ。
ならば、理不尽の塊である言音魔法を使っていくまで。連発はできないけれど、クールタイムの間さえ凌げはなんとかできるだろう。
よぉし。いっくぞー!
私は再度突撃する。
隙を探すのが面倒なら、無理矢理にでも隙を作らせればいいんだよ!
がん!
盾が王様の障壁に当たる。ごんごんと弾が当たっているけれど、そんなもの知るか!
「『汝、武器を持つに能わず』!」
【除装】の言音魔法発動! ゲームだと低レベルでしか使えない残念な代物だったけれど、リアルだと私の能力に合わせた強さになっている。
こう云っちゃなんだけれど、私自身、おかしな存在になってるからね? 普通に歩けるようになって、思った通りに動けるのが楽しいからって、ボーがぶっ倒れるまで殴り合いの訓練するとか、アホなことしたりしてさ。
私はバンビーナのラスボスに勝てるくらいには強くなってるんだ。たかだか上層のボス如きに遅れをとるもんか!
まるで金属を打ち鳴らすような音が響き、王様の手から短杖が弾け飛ぶ。訳も分からず、突如として自分の手から飛び出していった短杖に驚いたのか。それとも、理解できない理不尽な状況に思考が停止したのか。
きっと、ミイラではなく、まともな人の顔をしていたのなら、まさしく目をぱちくりとさせていることだろう。
私は一切の動きが止まった王様を他所に、すかさず飛んだ短杖を掴むと、インベントリへと放り込んだ。
って、これ、単なる魔法触媒だ。いわゆる魔法の発動体。威力の増幅もするみたいだけれど。というより、その増幅がメインの武器か。
王様が私に右掌を向ける。直後に衝撃。だが、掌でぺちんと叩く程度の威力しかない。
見えないのは厄介だけれど、この程度の威力しかないのなら、まったく脅威足り得ない。
よし、それなら!
私は手を広げて、逃げられないように障壁ごと王様を抑え込んだ。
そうして【神の霊気】を発動!
よし、【神の霊気】は障壁を透過してる! 私の纏う光が、王様をじりじりと焼いていく。
……見ていて気持ちのいいものじゃないけれど、このまま燃えてもらおう。
そのまま焼いていくこと暫し、急に王様が炎上するや、がくりと膝をついた。膝をつき、そして倒れ、塵となった。
よし、倒した。さしたる盛り上がりもなく、地味ーな感じで勝ったよ。障壁さえ無視して攻撃できれば、なんてことなかったね。というか、完全に装備頼りってことだったのかぁ。
いや、障壁は杖がなくても健在だったし、多分、護りに特化していたんだろう。
大抵の相手は、ファランクスだけで押しつぶせそうだしね。
さて、ボーとビーはどうしただろう?
ボーは、殴り続けてるね。この分なら大丈夫かな。あの篭手も魔法の武具だから、不死の怪物にも問題なくダメージを与えられるしね。
ビーは……もう終わってるようなものかな? あの鎧、そこかしこの隙間から煙を吹いているけれど、中身はどんな有様になっているんだろう。……多分、あの鎧はドロップ品になるだろうから、あとで念入りに【清浄】を掛けておかないと。
それじゃ、私は生き残っているスケルトンを倒してこよう。
こうして、二十階層の大掃除は終了したのです。
感想、誤字報告ありがとうございます。