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275 モンスターハウスじゃないですか


 正直に云って、得体の知れない人間の死体を、インベントリや鞄に放り込むのは嫌だ。かといって、ここにこのまま放置したら、スライムに処分されてしまう。とりあえず、八人運ばなくてはならないわけなんだけれど、どうしよう。


 解決案。


 リヤカーを使う。ということで、急遽作ったよ。大八車でも良かったかな? いや、途中で荷崩れ起こしそうだな。リヤカーなら、荷崩れを起こしたところで、落っことすことはないだろう。六人の死体を載せて、その上に生きてるふたりを載せる。


 ……倫理的に問題がありそうな気がするけれど、現状は他に名案が思い付かない以上、仕方ない。捨て置かないだけマシだと思おう。


 それじゃ、筋力をドーピングして運びますよ。


 ……おかしいな。なんで私は物質変換を使ってまで、こんなに面倒なことをやっているんだろう?




 十九階層に連中を置いて来た。あとは狂乱候に任せて、ボーとビーも一時留守番をしてもらい、私はさっき探索した場所までとんぼ返り。そこで【恐慌】を一発ぶっ放して、すぐにまた十九層へと戻ったよ。


 【恐慌】。読んで字の如く、範囲内にいる者を恐慌状態(狂暴)にする魔法。要は、同士討ちをさせる魔法だ。それも達人級のやつ。


 戻る途中、戦闘音がそこかしこで聞こえて来たから、探索再開時には、きっと楽になっているハズだ。少なからず、ダメージを負っているだろうからね。


 で、戻るとふたりは檻の中。もちろんこいつらも全裸で。ふん縛って足をへし折った連中の反応からさっするに、こいつらのクランのトップチームみたいだね。


 あ、私が連れて来た中にリーダーいなかったよ。どうも地上でのほほんとしているらしい。傍で連中がボソボソ話しているのを聞いただけだから、細かくは不明だけれど。


 面倒臭いから尋問とかしない。それはもう領兵か組合に任せるよ。


 え? なんで全裸にしたのかって? いや、変な物を隠し持たれていても困るじゃない。自害するのは一向に構わないけれど、こっちに毒物を投げるとかさ。


 さすがに体内まで確認していないけど。触りたくもないし。




 それじゃ、こいつらはまた狂乱候たちに任せて、私たちは探索再開だ。


 さっきのところまで急いで戻って、探索を開始。なんのかんので、くまなく探索すると時間が掛かるからね。今回はお荷物ができちゃったから、急いで進めないと。


 この二十階層での目的は、不死の怪物の一掃。とにかく、すべて始末すること。


 強個体を無くすことが目的だ。


 実際、レブナントなんて人間と変わらない反応速度だから、厄介なんだよ。魔法で大人しくなっているところを一方的に斬り付ける訳だけれど、一度斬り付けた時点で敵対状態になる。当たり前のことだけれど。

 でもこっちは連続でズバズバ斬ってるから、敵対状態になっても押し切れるわけなんだけれど、たまに反撃ができるヤツもいるんだよね。


 うん。馬鹿みたいに強いよ。びっくりしたよ。


 私も徒手格闘は熟練レベルに足が掛かったくらいにはなっているんだけれど、反応が遅れたからね。


 これはあれだ。ただ殴るっていうことでも、千年とかの単位でやっていれば、とんでもないレベルに達するというようなことなんだろう。


 単調作業みたいな調子で斬り付けていたから、すっかり油断していたんだよ。


 ボーがすかさず殴り倒してくれたから助かったけれど。


 定期的に【静穏】を掛けつつ進む。この【静穏】はともかくも、索敵のために【霊気視】を掛けるのが面倒になってきたので、その場に付術台を出して【死者探知の指環】を拵える。


 なんというか、だんだんと雑になってきましたよ。


 この指輪に加え、【陽光の指環】も身に着けて、周囲を明るくしつつ探索を再開。


 いや【静穏】を掛けているからさ、例え見落としをしたとしても、奇襲される心配は絶対にないんだよ。


 アドバンテージは確実にこっちが先に取れるからね。しかも壊れ性能の剣を振り回して。


 もう油断もしていないというのに、もはやどうやって負けろと。


 完全な作業ですよ。


 魔石を回収しつつ進む。時折、灰……じゃないな、塵の山とか粉々になった骨とかが転がっている。武器もちらほらと落ちている。


 さすがに魔剣とかはなかったけれど、ちょっとガタのきた鉄の剣とか盾がほとんどだ。たまに鋼や銀の武器。


 このあたりがドロップ枠になるのかな? 動物系のところは毛皮とかお肉がそれだろうし。


 道中で宝箱はみっつ見つけた。宝箱と云っても、ひどく小さなもの。小物入れサイズのちいさな鍵付きの箱だ。中身はいずれも宝石。アメジストとヒスイ、それとタイガーアイ。なんとも微妙な石を拾ったな。下手すると、箱の方が高価かもしれないよ。


 鍵開けはせず、箱ごとインベントリにいれて確認しただけだから、どの程度のサイズの石かは不明。

 まぁ、いらないから、このまま組合に売ってしまおう。


 そうこうして数時間後。ようやくボス部屋と思われる場所を除いてお掃除完了。


 いま、私たちは明らかに他とは違う豪華な造りの扉の前にいますよ。


 ついにボス戦……だと思う。


 いや、あからさまにおかしいんだよ。


 指輪のおかげで死者を障害物を無視して視ることができるんだけれど、この扉の向こう。ボス部屋と思しき場所に、整然と並んでいるんだよね。なんていうの、ファランクスの隊列みたいなのがふたつ。それの奥に三体。多分、この三体がボス。もしくはボスとその護衛二体。


 あと、これまでの階層の広さを考えると、ボス部屋、多分フロアの三分の一くらいを占めている。


 これ完全にモンスターハウスじゃないですか、やだー。


 えぇ……。確かに数が多い分には【夜明けの剣】は最大限の効果を発揮するけれど、でも最初の一体はガチで仕留めなくちゃならないわけで。


 ん? 【静穏】? 挙動を見る限り、効いていないみたいなんだよね。だからここにいるのは相当、強力なヤツがいると思われる。


 まぁ、眩惑魔法で最強の効果を出すのは熟練級や玄人級の二重発動の方だから、達人級は抵抗される可能性は高いんだけれどね。


 さすがに数の暴力の中、一体を仕留めるというのは厳しそうだ。不死の怪物だからなぁ。


 魔法をスタンバイした状態で、ボーに扉を開けてもらうと同時にぶっ放すとかどうだろう?


 そうなると魔法の選択が……あ、いいのがあった。【雷撃鎖】の魔法。雷撃魔法なんだけれど、この魔法の特性は、すぐ近くの者に雷が連鎖していくというもの。


 うん。名前の通りの魔法だ。あれだけ密集しているんだもの。撃ちこんだら楽しいことになりそう。


 問題は、雷撃がどれほど効果があるかってことなんだけれど。


 レブナントとかは、きちんと筋肉が仕事をしている不死の怪物だから、電撃を浴びせればスタンとかしそうだけれど、いわゆるミイラとかスケルトンな不死の怪物にはあまり効果がなさそう。


 電熱で燃える? いや、期待薄だよね。効果が不安となると、他の魔法のほうがいいか。


 それなら、普通に【爆炎球】を両手それぞれ撃った方がいいよね。


 そもそもだ。死体って、良く燃えたりするの?


 よくよく考えたら、それって却って厄介なことになりそう。火だるまアタックとか勘弁ですよ。


 燃える死体に抱き着かれるとか洒落にならん。


 ここはあれだ。素直に突撃することにしよう。ボーとビーには、私が突撃したあと、頃合いを見計らってボス部屋に入って貰おう。


 使う魔法は……よし、このふたつで行こう。メインは【夜明けの剣】。爆発連鎖が起こってくれたらかなり楽になるしね。


 よし、方針は決まった。


 すぅ……っと、大きくひとつ息を吸って、ゆっくりと吐き出す。


 さぁ、いくぞ。


「いざ、吶喊!」


 扉に手を掛ける。


 ゆっくりと観音開きに開いていく扉。その扉の隙間を縫うように私は駆け出した。


 正面にみえるのはスケルトンの群れ。鎧、大盾、槍。完全にファランクスじゃないですか!


 【神の霊気】を展開。次いで接敵すると同時に【守護円陣】を展開。そのまま不死の怪物の隊列に突撃する。


 私を包むように光の球が出現し、私の周囲を囲うように光の環が展開される。いずれも、対不死の怪物用の魔法だ。


 【守護円陣】の光の環は、不死の怪物退散の効果。【神の霊気】は不死の怪物を焼く効果をもっている。

 例え【守護円陣】を突破したとしても、【神の霊気】で焼かれるのだ。これではまともに攻撃などできないだろう。


 問題は、長槍持ちだから、攻撃が届くっちゃ届くんだけれど。


 まぁ、それを確認したら、突撃して隊列に半ば入り込んだんだけれど。


 あとは、連中が隊列を立て直して、安全な距離からチクチクしてくるまえに、一体だけでも仕留める。


 【夜明けの剣】を両手で持ち、目についた体勢を崩しているスケルトンを斬り付けた。【守護円陣】の効果にしっかりかかり、逃げ出そうとしつつも、後列に邪魔されてジタバタしていた奴だ。


 横から盾を蹴り飛ばし、無防備になったところに【夜明けの剣】を突き入れる。


 スケルトン相手に突きとか、普通なら絶対にやらない。フレームだけの相手に点の攻撃とか、そうそう当たるものではない。

 だが、ここのスケルトン共は年季の入ったヤツばかりのようだ。


 ガタの来ている鎧の蝶番を突き壊して鎧を強引に除装させる。当然、それで見えるモノは骨の体。


 空っぽであるハズの胸腔部分を、半ば魔石が占めていた。


 へたすると極大級以上のサイズの魔石が胸の中に詰まっていた。


 再度突いた剣先は魔石を貫き、それを割る。


 別に魔石は魔物の弱点というわけではない。もともと、魔石を持たない状態で生成されるのだから。


 でも、年月が経ち、体内に魔石を持った魔物は、そこから力を引き出すのだ。


 簡単にいうと、私が指輪でやっているドーピングみたいなことをできるようになるのだ。


 魔石を割ることで、その魔石の出力を狂わせることはできる。これをやられると、魔石から力を得ることができる状態になっている魔物ほど、動けなくなるのだそうな。


「もっとも、魔石を割る程に武器を突き入れたら、そのダメージで魔物は死ぬけどね」


 と、大木さんは笑っていたけれど、不死の怪物はその限りじゃない。


 魔石を割った後も、私は数度、やたらめったらに斬り付ける。斬撃の効果ではなく、不死の怪物に対する特効効果でスケルトンを弱らせていく。


 スケルトンが力尽き、そして――



 爆発した。



 たちまち周囲のスケルトンたちに爆発の光が伝播する。そして再度起こる爆発。


 この状況に、思わず私は目を閉じ、その場に身をかがめた。


 爆発と、それに伴う光があまりにも眩しい。




 ややあって、光が収まった。


 私は屈んだまま、周囲を伺う。


 全身を【夜明けの剣】の効果で光らせたスケルトンが、我先にと云わんばかりに逃げ惑っていた。


 その数はもはや数えるほど。恐らくは、二、三百はいたであろうスケルトンファランクスが、完全に瓦解していた。




 私は、じっと奥で佇む三体に視線を向けた。


 その三体も効果を受けていた。受けてはいたが、スケルトンたちのように逃げ惑うようなことはしていない。


 ただ、じっと佇み、私を観察しているようにみえる。


 ひときわ立派な全身鎧の騎士ふたりを従えた、宝冠を被った、まるで即身仏のようなミイラ。


 ゆっくりと立ち上がり、私は剣の切っ先をその三体に向けた。




 さぁ、ここからが本当のボス戦だ。


誤字報告ありがとうございます。

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