表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/363

274 生存者は二名


 はい。降りてきましたよ、二十階層。


 あとで十九階層に戻った時には、檻の中身が増えていそうな気がするけれど。


 ……多分、冗談じゃなしに増えているんだろうなぁ。召喚枠は使い切っちゃっているから、この階層でやろうと思っていたことができなくなったよ。


 いや、不死の怪物の階層でしょう。スケルトンだって、きっと沢山いると思うのよ。うちの子たちとどのくらい差があるのか、戦わせてみたかったんだけれどね。


 まぁ、それはまたの機会にしよう。


 でだ。私の視界が大変なことになっているんだけれど。


 降りて真っ先にしたことが【霊気視】。【生命探知の指環】は不死の怪物を判別できないからね。


 うん。視界の大半が真っ赤。どれだけいるのさ。


 というか、よくこれで暴走を起こしていないな。


 インベントリから【夜明けの剣】を取り出す。見た目からして、明らかにおかしな造りの剣。


 刀身と柄の接合部分に、淡い金色……白金色の方が近いかな。そんな感じの珠が浮いているんだよ。

 要は、剣と柄の接合部に丸く穴が空いていて、そこに球が浮かんでいる。


 一応、フレームみたいなものに支えられる感じで刀身は柄と繋がってはいるけれど、剣としてはどうみても使いものにならない、としか思えない構造をしている。


 まぁ、これ、完全に神器だからね。しかも常盤お兄さんが、恐らくはノリノリで拵えた代物だ。


 以前、オルボーン伯爵のところに襲撃を掛けた時以来、使っていないんだよね。……そういや、クラリス戦の時は使わなかったな。なんで使わなかったんだろ、私。


 シュラン! と抜剣する。スケルトン相手に斬撃はかなり微妙だろうけれど、斬り付ける度に、デバフ、いわゆる恐怖的なものをつけるため、倒すのに時間が掛かっても問題ないハズだ。


 問題があるとすれば、ガン逃げされる可能性があるくらいか。まぁ、そうなったら、攻撃せず、逃げようとするだけになるから、こっちとしては殴り放題になるんだけれどね。


 さて、二十階層ですが、これまでとは少しばかり趣が違いますよ。


 まず足元。床が石造りではなく、土だ。ある程度掘れば、普通に石の床があるだろうけれど、地面には違いない。天井はちゃんとあるけれど、ちょっと高めかな? 五メートルくらい? もうちょっとあるか。


 そして広い部屋。サイズはテニスコート四面くらいの広さかな。そこに規則正しく突き立っている石板。


 ……うん。お墓だね。


 なるほど。確かにこれは面倒臭い。


 地面の中に潜まれて、ある一定以上にまで入り込んだところで這い出して来る。それこそ、周囲を幾重にも囲んだ状態で。


 まさに絶望的だ。


 なんというお約束。


 こりゃ、この階層の攻略が進まないわけだよ。私は単に、殺すのが異様に困難な不死の怪物がわらわらいる程度と思っていたからね。


 こういったシチュエーションは、ゲームでもあったんだ。挟撃されて死ぬなんてことは茶飯事だったし。ただ、やり直せばどこに潜んでいるのかはもう知れているからね。

 ならば、先に仕留めてしまえばいいわけなんだけど、困ったことにそいつらは一定の位置にまで進まないと出てこない仕様であるわけだ。


 まったくもって嫌らしいとは思うけれど、それがゲームというものだろう。石棺開けて無理矢理引きずり出すなんて、ゲームじゃできないしね。


 で、リアルな現状ですよ。これも多分、ゲームと似たようなことだろう。大木さん、その手のを参考に作っているんだろうし。


 私は【霊気視】で居場所がわかる。だから不意打ちは見落としさえしなければ有り得ない。とはいえ、わざわざ囲まれにいくのは阿呆のすることだろう。

 かといって、墓荒らしみたいなことをするのは面倒だ。


 嫌だよ。穴掘りなんて。しかも不死の怪物を掘りだす仕事なんて。私はできうるかぎり楽をしたいのだ。


 ということで、引きずり出すとしましょう。足元にも一匹いるしね。


 広域眩惑魔法を使うよ。掛かると隠れている連中は「?」となって、でてくるからね。


 同士討ちをさせた方が楽なんだけれど、ボーとビーにも掛かって殺し合いを始められると目も当てられないからね。つか、私が死ぬ。だから穏便な魔法を使うことにするよ。


 それじゃ【静穏】をセットしてと。


 ……修行で使った時以来じゃないかな、これ使うの。あれから一回使ったっけ? まぁ、いいや。


 魔力を溜めてー……どかん!


 足元に魔法を叩きつける。そこを中心に、緑色の魔力の波が波紋を描くように広がっていく。


 眩惑魔法の広域魔法は、障害物もお構いなしに透過して、範囲内の生物に影響を及ぼすからね。私の場合は、不死の怪物だろうが機械だろうが影響を与えるけれど。


 足元にいた奴が、地面から這い出して来た。


 ゾンビ……じゃなくて、なんだっけ。レブナントって云う方かな? ぜんぜん腐った感じはしないし。異様に青白い人にみえる。服装はボロだし、目の色も淀んで白く濁っているけれど。

 ……意外に呼吸をしていないのって分かるんだね。結構な違和感だよ。


 ふむ。這い出てはきたけれど、ただそのまま突っ立ってるだけだ。目の前に私がいるわけだけれど、それを認識してはいるみたい。私が動くのに合わせて、こっちを向くし。


 よしよし、ちゃんと掛かってるね。掛からなくても、小突かれるくらいの打撃はあるのか、出て来るみたいだけれど。


 ボーとビーも影響下にあるから、戦闘にはらなず、お見合い状態だ。


 効果時間は一分……あれ? ほかの技能の効果で伸びてるんだっけ? ま、あまり時間はないから、とっとと済ませよう。


 【夜明けの剣】を抜いて、ズバンと。


 人間なら確実に致命傷になるように、横殴りに首を薙ぐ。どうにも私には剣を振り回す才能はないようで、技量の上りがとんでもなく悪いんだよね。でもなぜか斧はよく上がる。きっと、メイスだと更に良く上がると思う。


 さて、私が斬り付けたレブナントは、首を落とされてもなお健在。本当にこの世界の不死の怪物はしぶとい。でも【夜明けの剣】の効果が発揮されているために、恐慌状態に陥って、逃げるように走り出して壁に激突。そのまま逃げ場を探してジタバタとしている。


 落とした首もパニックを起こしているのがよくわかる有様だ。


 怖っ!


 自分でやっておいてなんだけれど、とんでもなく精神衛生に悪いなこれ。


 頭に【太陽弾】を連打して仕留め、体の方は容赦なく切りつけ続けて止めを刺した。


 うん。両方共、灰になった。爆発してくれたら楽になったんだけれど。


 【夜明けの剣】の特効効果は以下の通り。


 ・退散:斬り付けられた不死の怪物は逃げ出す。

 ・炎上:斬り付けられた不死の怪物は炎上する。

 ・爆発:斃された不死の怪物は爆発する場合がある。


 この最後の爆発がさらに追加効果を持つ。爆発した場合、その爆発が周囲に広がり、その範囲内にいた不死の怪物にも上記の効果を発揮する。

 つまり、上手い具合に爆発が連鎖していくと、どんなに大量に不死の怪物がいようと、あっという間にその数を減ずることができるのだ。


 説明していて思ったけれど、酷い性能だな、これ。


 今回は爆発せず。まぁ、周囲にいないから、爆発したところで意味はないけれどね。


 さぁ、サクサクと進んでいきましょう。


 ……もう、【魅了】でも掛けて、無抵抗になったやつを斬り付けて行けばいいんじゃないかな。複数にまとめて掛ければ、その効果中は目の前で斬り付けていても、他の個体は眺めているだけだし。


 うん。そうしよう。不死の怪物なんて、無駄にしぶといんだもの。効率よく仕留めていこう。


 【霊気視】を使いつつ、不死の怪物を片っ端から始末していく。玄室のひとつひとつは広いけれど、ダンジョンとしての造りというか、コンセプト? 自体はこれまでと変わらない。


 広い通路を進み、玄室に入って中の不死の怪物を始末する。


 それの繰り返しだ。


 不死の怪物は多様だった。ゾンビももちろんいたよ。人に動物と、それはもういろいろ。


 スケルトンもいたよ。ゾンビよりも格上という感じ。なにしろ、きちんと装備を持っていたからね。武器と盾だけだけれど。


 大抵はなまくらな鉄製武器なんだけれど、いくつか銀製の武器も混じってたよ。


 ……不死の怪物が銀製の武器とか、なにかの皮肉なのかな?


 銀の武器か……。徹底して叩いて鍛えれば武器として使えるだろうけれど、無駄に重くなりそう。それでも金属としては柔い類だし、なにより手入れが大変じゃないかな。


 とりあえず、拾った装備品と魔石を鞄に放り込んでいく。戦闘よりも、戦利品を拾う方が時間が掛かっているよ。この階層においては、まったくの出番なしなボーとビーは、魔石を拾う役になっている。


 そうこうして進んでいくと、死にかけの一団を発見した。


 八名の一団。生存者は二名。意識は無し。


 レブナントが二体、生存者の側で突っ立っている。見たところ、レブナントは一体も倒されていない。


 うん。両方とも私の魔法の影響下にあるね。出来る限り魔法の影響が途切れないように、二分置きくらいで掛けつつ進んでいるんだけれど……。


 そのふたりはそれで助かったのか? それともそれでレブナントと鉢合わせしたのか。


 いや、そもそもここにいる時点で、おかしいか。ここまでどの玄室にも不死の怪物はいたし、通路も巡回しているのが結構いたもの。


 ってことは、ここまでコソコソとやり過ごして来た? それはそれで凄いな。


 というかだ、こいつらって、あの【女神の剣】とかいう連中の関係者だよね、多分。


 あのバリケードを撤去せずに抜けるのは無理だろうし。


 とりあえず死なないように範囲回復を掛けてやろう。


 それじゃ、レブナントを始末してと。


 ……。

 ……。

 ……。


 うーむ。ほぼ無抵抗のヤツを斬り付けているだけだから、剣の技量はさっぱり上がりませんよ。


 とりあえずは安全を確保できたわけだけれど、こいつらどうしよう?


 一応、生きてはいるけれど、出血が酷すぎかな。多分、暫くは動くのも大変なんじゃないかな? 


 何者かを確認するにも、話はできないしなぁ。なにか分かりそうな物でも持ってるかな?


 ぬぅ。あまり人の体をまさぐるような真似をするのは嫌なんだけれど。しかも相手はむさ苦しい感じのおっさんだし。まぁ、ダンジョン内で常に清潔でいるのは不可能なんだけれどさ。


 【清浄】をかけてと。


 背嚢とかウエストポーチを調べればわかるかな? あ……。


 すぐ側に横たわっている死体の腕。そこに見覚えのある顔の入れ墨が彫られていた。


 うん。さっきみたよ、その顔。あの旗に刺繍されていた女性の顔だ。


 曰く、彼らの信じるアレカンドラ様。


 うん。確定。こいつらあの連中の仲間だ。というか、上役?


 もしかして、雑魚をすべて躱してボス部屋にまでいって、ボスだけを討伐しようとでもしたのかな?


 【灯光】を使っていたし、きっと【太陽弾】を買ったのだろう。もしかしたら【神の霊気】も手に入れているのかもしれない。

 魔法の一般販売が始まって、もう一年近くになるしね。十分に扱える程度に魔力を鍛えたのかもしれない。


 だとしてもだ、あまりにも無茶だろう。


 【燃ゆる短剣】のひとたちが昨年、ここに突撃して一、二戦だけして撤退したって話だったし。


 銀の武器が手に入ったって、ミランダさんが云ってたっけ。ただ、継戦能力があまりにもなさすぎるからって、魔力増強について質問されたのを憶えているよ。


 さて、どうしよう、と考えつつも、もう答えは決まってる。


 くっそ。なんでこんなに私は中途半端に善人なんだか。




 かくして私は、この八人をまとめて十九階層まで運ぶことを決めたのです。


誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ