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273 こいつら、やりやがったな


 こういうことは予想もしていなかったな。


 簡易的なバリケードとはいっても、ぴっちりと階段の通路を塞いでいるから、脇からすり抜けるとかも出来そうにない。


 隙間があれば、姿を消してこそこそと行けたんだけれどね。


 ん? ボーとビーは無理だろうって?


 ボーには指輪を貸して、私は自前の魔法で姿を消せば問題なし。ビー? この子はいつのまにかに覚えてるんだよ。この子はもう、世界最強のウサギなんじゃなかろうか? 多分に私の影響が大きいとは思うんだけれど、野生のヴォルパーティンガーがこのレベルだと、討伐が非常に困難だと思うよ。


 まぁ、所詮は動物ではあるので、野心をもって世界征服をしようとかは考えないだろうから、そっちの心配はないだろうけれど。


 さて。アレ、どうしようかしらね?


 ……。


 いや、いくら考えたところで、あれを気付かれずに突破するのはさすがに無理だよ。


 はぁ。喋らなくちゃダメなのか。どうせ会話にはならないんだろうなぁ。


 絶対に友好的ではないと分かっている人物と会話するというのは、私にとってハードルが高い。私が有利に進められるというアドバンテージがあるならともかくも。


 基本的に私は短気なのだ。「私はなにも考えていないだけです」などと宣言しているあたり、察せると思う。とはいえ、破滅主義ではないから、向こうにいたときには延々と歯噛みしていただけで。我ながら嫌な処世術を身に着けたと思うよ。まぁ、こっちでも細々としたところで役立ってるけれど。


 はぁ……。


 出るのはため息ばかりである。くそぅ。ここまで、そこそこ気分よく来れたのに台無しだよ。


 ちょっと外れた通路であれこれ悩んでいたものの、結局は無駄に終わったといえる。おのれ。


 ボーとビーに、私が指示するまで、絶対に手を出さないように云い含める。荒事になるにしても、連中に先に手を出させたいからね。


 よし。行くか。……はぁ。


 隠れていた通路から出て、テクテクと進んでいく。隊列は私、ビー(私の背中)、ボーの順だ。


 お、なんか警戒しだしたね。人数は……六人か。得物からして標準的なパーティ編成かな? 前衛三人の後衛三人。魔法使いだの回復術師だのは存在しないから、見た目通りに近接武器三人の長柄武器三人編成だろうけれど。飛び道具を持っている者もいるかな? 弓持ちはいないけれど、投げナイフとか石礫なんかはあるかもしれない。


 しっかりとした足取りで進む。


 連中は何故だか戸惑ったような感じだ。


 ……あれ? もしかしたらこれ、このまま行けるんじゃね?


 立っていた三人を過ぎ越し、そのままバリケードへ。


 私はおもむろにガタゴトとバリケードを退け始めた。


 わざわざ丸太とか持ってきたのかしらね? 木材って結構貴重品なんだよ。人工林からしか産出されていないんだから。魔の森も広がらないように、数年おきだか十数年おきに伐採しているけれど、ほぼ命がけの作業だし。


 私とボーが協力して、バリケードを半分ほど退けたところで、ようやくというか、ついにというか、連中が話しかけて来た。


「お、おい! なにをするんだ! やめろ!」


 私は振り向くと、声を掛けて来た男に対して首を傾いで見せた。


 無精ひげの目立つ茶褐色の男性。年齢は……幾つくらいだ? ちょっとこの光量だと判別がつかないな。三十路には入っていないとおもうけれど。


「なんですか?」

「なんですかじゃない! その手を止めろ」

「なんで?」


 私は問うた。相手は言葉に詰まった。


 ふむ。こいつらは下っ端ってことかな? まぁ、雑用というか、使い走りの仕事だろうし、こんなところを閉鎖するのなんて。


「と、とにかくだ、ここから先は通行止めだ」

「組合ではそんなことを一言も聞いていませんが?」

「組合は関係ない。ここから先は我々【女神の剣】が閉鎖している」

「聞いたことありませんね」


 正直に答えた。お、この薄暗さでも、顔が引き攣るのがわかったよ。


「これを見たことくらいはあるだろう?」


 端にいた痩せぎすの男が階段脇を指差す。


 暗くて見えねーよ。


 暗くてわからんと云ったところ、そいつが得意気な様子で【灯光】を使った。


 ふむ。それなりに財力はあるってわけね。


 放った光の球は、そのまま壁に当たってとどまり、そこに張り付けてある旗を照らし出す。


 目を瞑る女性の姿が刺繍された旗だ。


 ただ……ねぇ。


「誰です?」

「女神様に決まってるだろう」

「どこの女神様です?」

「見りゃわかるだろう?」


 今一度、私は旗をじっくりと見た。


 ……いや、誰よ。


 描かれている女性は白髪短髪ストレート。前髪はぱっつんである。あれだ。よく見るクレオパトラの肖像、みたいな。あれは黒髪だけれど。実際の遺物とかではなく、創作物とかで出て来る方ね。そんな感じだ。


 でだ。アレカンドラ様は短髪だけれど癖のある巻き毛で淡いピンク髪。ディルルナ様も同様で金髪に角付き。アンララー様はストレートだけれど長髪。でもって黒髪。ナナウナルル様に至っては、首から上は隼だ。あぁ、鷲か鷹と思っていたけれど、隼なんだそうだよ。


 うん。旗の女性とはまるで違うね。


「誰?」


 もう一度訊いた。


「アレカンドラ様だ!」

「アレカンドラ様は巻き毛ですよ。昨年、肖像画が公開されたでしょうに」

「あんなもの嘘っぱちだ!」

「教会の認定を受けているものであるのに? そもそもなぜ嘘っぱちと? いや、まぁ、それに関してはどうでもいいや。どうせあんたたちは認めないだろうし」


 私はバリケードの撤去を再開した。


「だから止めろ!」

「邪魔だから退けてんのよ!」

「ここから先は通行止めだ! 云っただろ!」

「なんでよ!」

「ここから先は俺たちが攻略するんだ!」

「だったらとっとと行けよ!」

「行けるわけないだろ!」


 なにがしたいんだよ!


「いいから失せろ。いまなら見逃してやる」


 一際大柄な、サイド以外は禿げあがった男が、私にのしかかるように見下ろし云った。


 その背後に見えたのは、積み上がった様々な鎧。武器の類は見当たらない。


 こんなところで鎧を野積み? こいつら全員ちゃんと装備を着ているのに? 予備? んなわけあるか!


 ……こいつら、やりやがったな。


 まぁ、ここまで到達すれば、ちょっと二十階層を覗いてみようと思う者もいるだろう。それとも、似た者同士の思考で、変なことをしている連中がいる、やっちまえ! といった結果がこれなのか。


 死体がないのは、スライム共が処理したからだろう。あれはどこからともなく湧いて出て、処理をしたら消えるから。


 まぁ、いずれにせよだ――


「その言葉を信じろと? できもしないことを云うものではないわよ」


 襲って来るかな? その方が楽なんだけれどな。交渉なんて嫌いだし、どうせ、穏便に済むなんてことはないんだから。

 だったら、最初から殴って黙らせた方が楽だ。


 ん? だったら、なんで会話しようとしたのかって?


 いや、いきなり殴りかかったら、ただの通り魔じゃないのさ。私が向こうで、知らないうちに私を嫁としていたクソッタレな男どもと一緒ですよ。

 ははは。足が不自由 → 攫いやすい。と考える輩のなんと多いことか。おまけに私はそこそこ抱えやすい体格だからね。引っ掴んで攫うのは簡単と考えられもしたみたいだし。


 ん? 普通はそんなこと頻繁に起きないって?


 頻繁にはさすがになかったよ。せいぜい、二桁の大台に乗ったくらいで。いや、それでも多いって云うのは、私でもわかるよ、さすがに。常識的に。にも拘わらず、なぜかそんな有様だったんだよ! どんだけ私の容姿は連中のどストライクだったんだよ。


 そんな有様だったから、毎日、送り迎えしてもらってたんだよ。どんだけ過保護だとも思ったけれど、それが無かったらもっと早くに死んでただろうし。


 まぁ、そんな昔のことは置いといてだ。


 殺気が飛んでき――。


 ガン!


 殴られた。が、ダメージはなし。ちょっとうるさかったけれど。


 とはいえ、衝撃でちょっとふらつく。あぁ、いや、頭が揺れて云々じゃなくて、打撃で押されてたたらを踏んだ感じ。


「おいっ!」

「いいからヤっちまおうぜ。たかがひとりだぜ。リーダーだって、ここに来た奴は殺しちまえって云ってただろ?」

「馬鹿野郎! だから手を出さなかったんだよ! ウサギを連れただけの奴が、こんな場所まで降りて来てるのがおかしいだろ!」


 さっきまで私と話していた奴が怒鳴った。


 あぁ、そういうことね。得体が知れなさすぎて、慎重になっていたってことか。


 他に仲間がいないかも確認していたのかな? 


 まぁ、手を出した訳だから、反撃してもいいよね。


「仕方ねぇ、始末するぞ!」


 無精髭が叫ぶように云う。そして私はボソリと命じる。


「ボー、ビー、やっちまいな」


 覚悟しろよ。うちのウサギさんは凶悪だぞ。


 私をメイスで殴ったヤツが水平に飛んで壁に激突し、動かなくなった。ボーが貫通しないように手を抜いて殴った結果だ。


 私を威圧していた大男はビーの電撃を喰らって倒れた。煙が立ち上っているね。……あぁ、心臓止まっちゃったじゃん。


「ビー、少し加減してもう一回」


 再度電撃。よし。生命探知に反応するようになったよ。


 あっというまにふたり沈み、無精ひげは呆気にとられたように目を瞬いていた。


「手を出したのはそっち。わかってるよね? あぁ、安心すると良いよ。君たちは死ねないよ」


 思わず、もうひとりが云っていた台詞が口をつく。多分、今の私はすっごく悪い顔をしている筈だ。


 無精髭が小剣を抜いた。


 それじゃ、私もとりあえず殴っとくか。


 ★ ☆ ★


 はい。戦闘終了。全員失神中。死亡者は三名。ちゃんと蘇生したよ。


 さて、どうしましょ。


 さっきの会話からして、こいつら下っ端だよね。どういう集まり……組織だ?

 単なる探索者クランならともかく、アレカンドラ様を祭神とした新興宗教団体とかじゃないよね?

 可能性は高いんだよなぁ。勇神教から抜けた連中が相当数いて、変な宗教を起ちあげそう、なんて話をガブリエル様から聞いてもいたしねぇ。


 まぁ、現状の実際的な問題として、こいつらをここに放置するわけにもいかないんだよね。


 えぇ……ここまで来て、一回地上に戻るの? なんのかんので、ここまで十日くらいかかってんだけれど。しかも私はショトカを使えないから、同じだけの時間が掛かるんだけれど。


 仕方ない。


 いろいろと考え、どうするかを決定。


 ・物質変換を用い、檻を創造。

 ・こいつらの両足を折る(手当だけはしておく)。

 ・檻に放り込み、番として【狂乱候】召喚。


 二十階層を掃除して、ショトカを開放してこいつらを運ぼう。それが一番早い。もしこいつらの仲間が戻って来ても、【狂乱候】を倒せるとは思えないし。


 ……ちょっと心配だから、ふたり召喚しておこう。


 地上に戻ったら、領兵につきだそう。組合に任せた方がいいかな? あ、そうだ。ちょっと探しものを。


 【道標】さんを起動。


 足元からのびる霧は、鎧の積まれた側にある小さな袋を示した。


 そこに入っていた物、それは組合員証。その数、十三枚。


 はぁ……こいつら真っ黒だ。


 組合員証をまとめ、ウエストポーチに詰め込む。


 それじゃ、とっとと二十階層を片付けて、こいつらを突き出さないとね。




 そして私は、邪魔なバリケードを撤去すると、二十階層へと進んだのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。


※キーを叩いていくと、誤変換に気が付かないのが仕様みたいになっています。なんとか治らないものか。

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― 新着の感想 ―
[一言] >※キーを叩いていくと、誤変換に気が付かないのが仕様みたいになっています。なんとか治らないものか。 奴等は必ず隙間を抜けてやってきますもんね。 それに、今の機械任せの漢字変換は精度が甘くて…
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