表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/363

271 【アリリオ】へと入ろう


 さぁ、やってまいりましたよ、ダンジョン【アリリオ】の宿場。


 ……なんのかんので、一年ぶりくらい? ウサギ狩りの時が最後だっけ? あぁ、いや、あの後、湖に粘土を採りにきたっけね。なかなか良い粘土で、いい感じに器とかを造ったよ。あとは、もうちょっと釉薬を研究したいところだ。


 さて、今回の目的のひとつは二十階層の掃除。それ以降も不死の怪物の層が続くなら、一掃してリセットしておこうと思うよ。魔物も経験を積んで成長するからね。長く存在して、内部での魔物溢れ暴走での同士討ちで生き残った強者とか洒落にならない強さらしいからね。二十層の不死の怪物共がその類らしいし。


 一度倒してしまえば、当然ながら初期状態で再配置されるから危険度は一気に下がるからね。


 【アリリオ】の魔物溢れ暴走は、実のところ規模的にはそこまで大きくはないんだよ。どうも十九層までの魔物しか噴き出していないらしいね。


 ということはだ、中層以降の溢れ魔物は、すべて二十層で止められている、ということだ。少なくとも記録の始まっている、ここ二百年の間は。

 下手すると、この【アリリオ】が造られた当時の不死の怪物が、そのまま生き残っているのかもしれないね。

 ……となると、最低でも約五千年は存在している不死の怪物か。そんなもん現行人類が倒せますかって。どれだけ強いのか見当もつかないよ。


 私? 私は究極の対不死の怪物用武器があるからね。まさに公式チートな武器を常盤お兄さんが再現してくれているから、私が馬鹿をやらない限り負けはありませんよ。【夜明けの剣(デイブレイカー)】。『不死の怪物、絶対に亡ぼすべし』を体現したでたらめな剣。剣としての威力は控えめだけれど、こと不死の怪物相手には無類の特効能力を持つ武器だ。


 まぁ、使い勝手は前にもいったからいいか。相手が多ければ多いほど、その効果を発揮する辺り、二十層では最高に相性がいいはずだ。


 なにより、味方には一切の被害を出さないのが最高。今回のお供はビーとボーの二羽。回避殴りタンクと回避魔法タンクの二枚看板ですよ。


 それじゃ、組合出張所にいこうか。


 時刻は十時過ぎくらい。もちろん混雑する時間を避けるために調整してこの時間だ。


 今回の私の恰好は、予定通りにタマネギ鎧フル装備。目立ちはするだろうけれど、いつものデフォルト的なトラブルはないだろう。ないだろうと思う。ないだろうと思いたい。




 私の些細な願い事が叶わないのはいつものことなんだろうか? それともフラグを知らないうちに立てたのかな?


 出張所にはいったら、然の如く絡まれましたよ。


 ボーを連れていたところを馬鹿にされましたよ。


 私の虫の居所が悪かったのか、思わずボーに『やっちまいな』といっちゃったよ。


 結果? あっはっはっ。あの探索者は死にかけの重症だよ。究極回復薬をぶっかけて、心臓が止まってたから電撃食らわせて無理矢理蘇生したよ。


 目を覚まして驚いている当人と、怯えて後退っているそのお仲間四人。


 とりあえず聞いたさ。


「おかしいなぁ。あれだけ馬鹿にするんだもの、あんた、殺人兎くらい簡単に狩れるんだよね? なんで一撃でぶちのめされてるの?

 あぁ、そうか。不意打ちになっちゃったんだね。よし。それじゃ、仕切り直してもう一回やろうか? 大丈夫だよ。ちょっとくらい死んでも生き返らせてあげるから」


 泣かれた。


 強面の大男がギャン泣きですよ。


 嫌だぁ~。痛いのは嫌だぁ~。死にたくないよぉ~。


 と。


 お仲間さんを見ましたよ。


「いつもこんな感じなの?」


 訊ねたところ、困惑した顔を張り付かせたまま答えられない有様だったよ。


 ついでに、飛び出して来ていた受付のお兄さんも困惑した顔をしていたよ。


 私だって困惑しきりだよ。なんでこんなヘタレなのに絡む勇気があるんだよ!




「一応、挨拶? をしに来ました」


 ちょっとした騒動が収まり、連中が宿舎に引き上げたのを見、改めて受付のお兄さんに挨拶を。


 するとお兄さんは目を細めて首を傾いだ様子。


「えーっと、覚えてませんか? 以前、外れ岩塩を大量に買った変な子です」


 自分で変な子いうな? いいんだよ。その方が早いし。実際、お兄さん、ポンと手を叩いて思い出していたし。


「今回はダンジョンに潜るんですね?」

「はい。二十層のお掃除がお仕事です」

「は?」


 なんか間の抜けた声を上げられた。


「二十層のお掃除ですよ」

「不死の怪物の巣窟ですよ」

「知っていますよ。私の場合は問題ありませんからね」


 あれ? なんだか狼狽えたような様子。もしかして私の事を聞いていない? 王都でも私のことは連絡済みだったりしたから、知られていると思ったんだけれど。まぁ、私の知名度はこの際どうでもいいんだ。


「他に探索者のいるダンジョンに入るのは初めてなんで、注意事項がありましたら教えてください」


 気になる点はこれだ。下へ行けば人は減るだろうけれど、少なくとも十階前後あたりは人が多いんじゃないかと踏んでいる。


 で、その注意事項は、まぁ、ダンジョンに限らず、当たり前のことが殆ど。ただ、ちがうところがひとつ。


「探索者の中にはロクでもない輩がいる場合があります。他の探索者を殺し、その戦利品を奪うという輩ですね」

「あぁ、やっぱりPKとかいるんだ」

「PK?」


 あぁ、いかん。ついPKとか云っちゃったけれど、そんなもん通じる訳ないか。もちろん、私がこれを現実とゲームの区別がついていないって訳じゃないよ。

 まぁ、なんていうの、知っている人であれば、凄く分かりやすいと思うのよ。この説明で。


「いえ、お気になさらず。それで、そう云うのは多いんですか?」

「実のところ不明ですね。奪うのは戦利品のみですからね。殺した相手の装備品でも持っていれば、分からなくもありませんが。それにしても、遺品と云われてしまえばどうにも……」

「審神教の祝福持ちの神官さんへ依頼とかは」

「難しいですね。ここに常駐してもらうわけにもいきませんし。かといって、探索者を片っ端から審議すると云うのは現実的ではありません」


 それもそうか。というか、無茶だね。魔力が足りないよ。延々と審議できるのって、私の他だと審神教の教皇猊下くらいだろうしね。


 

「分かりました気を付けることにしますね」

「ところでキッカさん。お供に殺人兎がいるのはいいんですが……いや、私としては当惑していますが……。

 その背中の兎は?」


 お兄さんがビーに視線を向けて訊ねて来た。


「この子はヴォルパーティンガーですよ」

「はい?」

「俗に云う【悪魔兎】です」

「!?」


 おにいさんがあんぐりと口を開いた。


「組合にこの子のことを報告すると、標本として渡さなくてはならなくなるので、正式な報告はしていません。あ、もちろん、組合長は知っていますから、問題ないですよ」

「わ、わかりました。ですが、意外ですね。非常に敵対的というような話しか聞きませんでしたからね。まぁ、どれも眉唾な話なんですが」


 あぁ、UMA扱いだしね。まともな目撃証言なんてないだろうし。それこそ、滑空している姿でも見ないと、普通にちょっと太った(翼のせいで太って見える)ウサギにしか見えないからね。


「この子は特殊と云うか、私が知らぬ間に助けていたみたいで、懐かれたんですよ。でなければ、こんな風にのほほんと姿を見せたりはしませんよ。基本的に見敵必殺みたいなことをしてきますからね」

「戦ったことがあるのですか?」

「ありますよ。一対一だと敵いません」


 うん。一対一だと私はビーに絶対勝てない。もちろん、他の個体にも。囮要員というか、もうひとりいないと勝つのは無理だ。

 特にビーは私と一緒にダンジョンアタックをしていたせいか、おかしなレベルに強くなっているからね。短距離瞬間移動を連発されたら、もう手が付けられないよ。


「まぁ、そんなわけですから、周囲の警戒は大丈夫ですよ。私の間が抜けてても、この子たちが察知してくれますから」




 さぁ、注意事項も聞いたし、【アリリオ】へと入ろう。


 入り口の所には兵士さんが数人番をしている、うちひとりが、入場者のチェックを行っている。


 台帳に名前とパーティ編成。それと予定日数を書いてと。


「ひと月!?」

「はい」


 予定日数に驚かれた。普通は、長くても二週間くらいなんだそうな。


 まぁ、二十層で足踏み状態だしねぇ。一フロアは街一個くらいの広さがあるとはいえ、ひと月も潜っている方が珍しいか。持ち込む食料の問題もあるだろうし。


「食料とかは問題ないのか?」

「最悪、現地調達です」

「……食える奴っていたか?」

「蜥蜴と泡草くらいか。地虫は……最終手段だな」

「泡草ってなんですか?」


 聞いたこともない魔物だから訊いてみたよ。


 えーっと、簡単にいうと、歩く子供サイズのブロッコリーだ。これで叫び声をあげれば、まんま某ダンジョン探索ゲーに出て来たアレなんだけれど、叫びはしないらしい。


 ……考えてみれば、植物がどうやって叫ぶのさ。そういや、マンドラゴラってどうなってるんだろう? あれ、発声器官とかあるのかしらね?


 特に止められることもなく、ダンジョンに入場することができたよ。


 うん。ボーを連れてきて正解だった。侯爵様が殺人兎をペットにしているという話がそれなりに浸透しているせいか、私が連れていても、珍しくは思われるも、問題視されたり止められたりはしなかった。


 私の背丈とこの鎧のせいで、ドワーフと思われたことも大きいかもしれない。


 普段の格好だと、確実に子ども扱いされるだろうからなぁ。


 手続きを終えて、ダンジョンに入場。時間的には遅い時間なので、他には誰もいない。すれ違う人もいない。


 特に過疎っているわけでもないのは確認済みだ。


 【アリリオ】は鉱石系のダンジョン。メインが骸炭と岩塩になっているけれど、宝石の類もそれなりに出るらしい。


 ただ、宝石関連は宝箱から出るものになるわけだけれど。


 実入りという点で考えると、効率の良いダンジョンであるとのことだ。他所だと魔法の武具だの道具、装飾品に薬なんてものが多い。あぁ、あと、機械系もあるのか。でもこれら、当たりはずれが大きい上に、出が悪い。


 まさに一攫千金狙いな感じなのだそうな。それに引き換えると、【アリリオ】は収入面ではかなり安定し易いらしい。


 ロマンはないけれど。


 てくてくと階段を降り、さぁ、やってきましたよ【アリリオ】第一階層。殆ど魔物が出ない上に、労役に服している犯罪者たちの番をしている兵士さんたちが討伐してしまうため、まぁ、いないと思っていいだろう。


 いるのはスライムくらいだ。それも無害なヤツ。


 ダンジョンの様子は、ゲームでいえば昔懐かしい感じのやつ? ピラミッドの通路、っていえば分かりやすい? そんな感じだよ。


 さて、それじゃ、張り切って召喚器を探しに行きましょう。これが本当のメインだからね。二十階層の掃除は、実のところついでだ。




 こうして、私の【アリリオ】攻略は開始されたのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >差の如く さのごとく 方言 で調べたら 然の如く で出ました。 意味は言った通りに~とかって感じで。 なので、差の如くは誤字? それとも別の地方の方言? 分からないので、誤字報告ではな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ