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262 本日もお酒造り


 不安で仕方ないけれど、教えてもらえないんじゃどうしようもない。


 いったい私はなにをやらかしたのか。


 ……で、本日もお酒造りをするとのことで。


 うん、昨日のお酒の出来が良かったみたいで、追加でつくることになったよ。ただ、今日作るのは醸造酒じゃなくて蒸留酒。


 焼酎とかウイスキー、ブランデーだね。


 作るのは焼酎とブランデー。お芋と葡萄だから、原材料を集めやすいからね。


 特にブランデーの方は、もう適当にワインを樽で買ってきて作った方が良いんじゃないかな。


 そんなことを云ったら、無言でじぃっと見つめられたよ。ルナ姉様に。


「キッカちゃん。こっちのやたらと酸っぱくて、渋いワインで作るの?」


 と、ララー姉様に云われて、考えを改めたよ。


 酸っぱいのって、保存を常温で適当にやってるから、少しばかり酢になってるんじゃないかと思うんだ。さすがにそれからブランデーをつくるのはダメだろう。


 まぁ、なので、サツマイモと葡萄を使ってお酒を造ってみるよ。蒸留酒だと、あとはウイスキーとかラム酒もあるけれど、原材料の関係で造るのを見合わせたよ。


 ウイスキーの原材料は麦だけれど、家じゃ麦は造っていない。ラム酒も同じくサトウキビを作っていない。


 あ、麦の酒といえばエールがあるじゃないか。エールを蒸留して作って……あ、はい。ちゃんと作ります。


 そういやエールって、美味しくないと評判だったね。じゃあ、なんで売れてるのかっていうと、需要があるから。


 酔えればいいっていう人が多いみたいなんだよね。ワインもそんな感じだけれど、ワインの方がエールよりお高いという時点で、味は察せると思う。


 ……予想以上にこっちのお酒事情は酷いみたいだ。


 まぁ、長期保存の効く水。みたいな扱いらしいからね、安いお酒は。長距離移動で水分を携帯するとなると、やっぱり傷みは気になるからね。


 お腹を下すにしても、水当たりは辛いからね。




 ということで、造ってみました。


 サツマイモを細かく刻み、ぐずぐずになるまで煮込んで発酵。これを蒸留してアルコール度数を上げて作ったのがアクアビット。本当はサツマイモじゃなくてジャガイモで作るお酒なんだけれどね。

 こっちじゃバレ芋を使って作られているお酒。


 大抵、ちょっと不出来なバレ芋がアクアビットの材料にされるから、出来上がりの味というか、風味はいまいちよろしくないそうだ。


 というか、度数が低いからこれ、アクアビットじゃないよね。アクアビットって本当はスピリッツだから、九十度以上にアルコール度数を上げるんだろうけれど、今回はそこまで蒸留しないからね。


 で、私たちがつくったサツマイモのアクアビット? 養蜂を本格的に進めようと、ララー姉様に呼び出されたジョスランさん(ミストラル商会サンレアン支部代表)に試飲してもらいました。


 感想はというと、まるで違うとのこと。曰く、泥臭さを全く感じないと。


 うん。なんというか、二級品の素材で作っているからか、そんな有様になってるみたいだ。蒸留すればそのあたりの風味は飛びそうなものなんだけれどね。


 里芋でも土壌がひどいと、味がすごい泥臭かったりするから、そういうバレ芋から造ったアクアビットが主流なんだろうね。


 さて、こうして出来上がったアクアビットを熟成させますよ。素焼きの甕にいれて、放置。ある程度ルナ姉様にチクタクしてもらった時点で、上に浮いてきた油分を取り除いて、それから本格的にチクタクと。数十年飛ばしてもらいましたよ。


 かくして試飲。


「これも量産するわよぉ!」


 ララー姉様が宣言した。


 そして同じく試飲していたジョスランさんの顔が引き攣った。まぁ、実務はジョスランさんがするんだから、そうもなるか。


 そういえばジョスランさんって何者なんだろ? 人間じゃないよね? ミストラル商会って、ララー姉様が作り出した商会という名の情報収集機関だし。当然、ララー姉様が女神さまだってことも知っているしね。


 アンドロイドとか、レプリカントみたいなものなのかな?


 まぁ、いいや。


「ララー姉様、簡単に量産って云ってますけれど、大規模な蒸留器を造らないと、量産なんてできませんよ」

「ゼッペル工房に頼みましょう。ここらでは一番の腕だものぉ、きっと何としてくれるわぁ。ジョスラン、お願いねぇ」


 ジョスランさん、頑張ってください。あ、そうだ。


「ついでに、養蜂箱の発注もした方が良いですよ」


 私が云ったところ、ジョスランさんはがっくりとうなだれた。


 次いでブランデーの方。こっちは手を抜いてワインを買って来たよ。蒸留するからお高めのやつ。酸味が多少は抑えられているものだよ。


 これも蒸留器にセットして、ララー姉様が作業時間をすっとばして完成。樽につめて数十年熟成させるよ。


 そうしてひとまず完成させた一樽を開ける。


 おー、思ったよりも減ってる。


「……目減りするのねぇ」

「その減った分を『天使の取り分』とか『天使の分け前』っていうみたいですよ。えーっと……三十年くらいの熟成で半分くらい目減りするみたいですね」

「あらー、それは勿体無い感じがするわねー。でも熟成させればそれだけ美味しいのよねー?」


 ララー姉様が、さっそくグラスに柄杓で注ぐ。


 ブランデーを柄杓で注ぐっていうのも、凄い絵面だな。


 そして一口。って、ルナ姉様、なんだか急に真顔になったんだけれど。


「姉さん?」

「ルナ姉様?」

「……これはダメだわ」


 え?


「こんなお酒を世に出したら、戦争になるわよ!」

「え、そんなに!? ……本当だ!」


 ちょ、なんだか大変なことに?


 というか、本当にお酒好きですね、女神さま方。


「えーっと、これは十年の熟成ですよね。ブランデーの最上級クラスって、七十年とか熟成させたりしたものがありますよ。当然ですけれど、お値段も見合った値がついていますけれど」


 ちょっ、ふたりして真顔でこっちを見ないでくださいよ。


「キッカちゃんのいた世界は、どれだけ飲食に命を懸けているの?」

「職人が突き詰めた結果だと思いますけれどねぇ。それで、こっちはどうするんです? しっかりやるなら、葡萄から育てないといけませんが」


 あ、ジョスランさんの顔が固まった。


「ジョスラン、ブドウ畑用の土地の確保をお願いねぇ。いっそのこと、農場を作ってしまいましょう」


 ララー姉様のことばに、ジョスランさんが恭しく頭を下げる。


「畏まりました。まずは出物の農場があるか、確認いたします」


 いうやジョスランは、逃げるようにして我が家から出て行った。


「ジョスランに任せておけば安心よぉ。あとは……キッカちゃん、葡萄酒に適したブドウをお願いねぇ」

「えぇっ!? こっちのブドウを使わないんですか?」

「いまから品種改良するのも大変だしねぇ」

「……結構な種類がありますけれど」

「えっ!?」


 奥義書のブドウの頁をひらいて見せた。


 結構な種類があるんだよね。


 さて、昨日今日とちょこちょこっとズルをしながら造ったわけだけれど、少しばかり影響が出そうな感じだ。


 いや、ルナ姉様が私のお酒にする! とか云ったでしょう? 宗教にお酒はつきものなのかは知らないけれど、お神酒みたいな感じでは使われているんだよ。


 で、昨日作った『たんぽぽワイン』を、地神教認定の女神様のお酒、ということにするらしい。すでにビシタシオン教皇猊下には神託を出したのだそうな。


 教皇猊下、驚いただろうなぁ。いきなりお酒は今後、これを使えとかいわれた上に、造れとも云われたわけだから。


 あ、『たんぽぽワイン』を教酒……とでもいえばいいのかな? にしたのは、量産が難しそうだからだそうな。結構なたんぽぽの花を使うからね。一方、蜂蜜酒のほうは、量産は利くからね。蜂蜜さえあれは造れるわけだし。


 その蜂も、うちの温室から分けて持って行くことが決まったし。


 いまにして思ったんだけれど、あの蜂、別の星に生息していた蜂とかじゃないよね? いや、常盤お兄さんも銀河管理者なわけだし。広い銀河のなかには、生物の発生している星だってきっとあるだろう。


 正直、生き物を一から創造するのより、どっかから持ってきた方が簡単だと思うんだよ。


 これ、広めちゃって大丈夫なのかな?


 あぁ、ダンジョンから魔物が出ているから、いまさらって感覚なのか。


 とはいえ、あの蜂、針が無いみたいだし、こっちの蜂に駆逐されないかが心配だけれどね。


 というか姉様方、なんでまた酒盛りを始めているんですか。まだ昼過ぎですよ。


 いや、昨日もやったとかではなく。


 つまみですか?


 分かりました、なにか作ってきますね。


 こうして今日も、お酒に追われて終わるのです。




 ん? 私? さすがに飲まないよ。なにをやらかしたかも、依然として不明だし。


誤字報告ありがとうございます。

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