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258 こんな安物の槍で刺そうとしやがって!


「選びなさい。私に勝ってそのナイフと、そして私の制作物すべての作者であることを手に入れるか、それとも戦いを避け、すべてを失うか。さぁ、選びなさい!」


 指を差したいところだけれど、さすがに散々「指を差すな」と云った手前、そんなことをするわけにはいかない。


 だから手を指先までピッと伸ばして向けているよ。上に掲げてれば、いわゆる宣誓のときのポーズになるかな。


 さて、どうするかな? さすがに、ごめんなさいはないだろう。このまま決闘を受けると思うんだけれど。


 貴賓席じゃ、馬鹿親父が騒いでいるし。自分が戦うとか云ってるのが聞こえてくるんだけれど。まぁ、私は一向に構わないよ。


 でもおかしいな。決闘云々なら、私はそれなりに名前が通ってると思うんだけれど。昨年、武闘大会の前座でやらかしてるし。

 なんかあのあと「盾は殴るもの」という台詞が流行ったらしいし。


 なんだか傭兵さんたちがいろいろと突き詰めているらしいね。【盾殴り(バッシュ)】自体はあったらしいけれど、私のやり方と違ってただ突き出すだけみたいだから、牽制程度にしかなっていなかったらしい。

 それが、私があれだけやらかしたからか、評価が変わって、なにが違うんだ? といろいろと検証しているみたいだ。あ、検証自体は軍もやってるみたいだね。

 白羊の団長さんにも質問されたしね。


「よくも……よくもここまで侮辱にしてくれたな! いいだろう、受けてやる。決闘を申し入れたことを後悔するがいい! ほえ面をかかせてくれる!」

「都合のいい様に事実を捻じ曲げるものではないわよ。侮辱をしたのはあなた。それを忘れないで。それと、後悔するくらいなら、端から決闘など仕掛けはしないわ」


 うわー。ほえ面なんて言葉、リアルではじめて聞いたよ。いわゆるテンプレ的な台詞って、なんでリアルで聞くとこんなに違和感があるんだろ?


 ……まぁ、ドラマとかで出る台詞って、ほぼ確実にリアルじゃつかわないしね。周囲に「なにいってんだこいつ」みたいな目で見られるし。


 さて、無事に決闘の流れとなったわけだけれど、さすがに演壇上でやるわけにはいかないよね。


「先生、どこか決闘を行うのに問題のない場所はありますか?」

「あ、あぁ。では、訓練場に案内しよう」


 ということで、訓練場へと移動することに。


 テーブルの上にだした武具を鞄にしまう。ジェシカさんは再び七支刀の箱を風呂敷に包んで抱え、例のナイフは教師預かりとなった。




 はい。ぞろぞろと教師と生徒を引き連れて、訓練場へとやってきましたよ。


 広さは私が通ってた中学校の校庭くらいの広さかな。野球コートが二面とれるくらいのサイズ。


 これを広いととるか狭いととるかは人それぞれかな。練兵所とかと比べると狭いからねぇ。


 セシリオ様は侯爵様のところへと移動。先生方かな? 慌てて貴賓席を作っているね。


「キッカ殿」

「あ、国王陛下。お疲れ様です」


 試合場となるコート? の端で待機していたところ、国王陛下が私に声を掛けて来た。側にはもちろん近衛のふたりが控えている。


 って、お疲れ様ですって返しはいいのか? 私。思わずいっちゃったけれど。


「なかなか愉快なことになったな。これなら予定通りに進めることができそうだ」

「罰が決まりましたので?」

「あぁ。キッカ殿も納得するだろうよ。詳細はあとでな」


 茶目っ気たっぷりに、国王陛下がウインクをする。


「それでキッカ殿は着替えないのかね。その恰好では、戦い難いと思うのだが」


 ん?


 改めて自分の恰好を見直す。


 ふむ。確かに振袖だと戦いにくいか。振袖なんて着慣れていないし。


「着替えたほうがよさそうですね」


 なぜか私の付き人みたいに付いてくれているイルダさんが云った。


 そんなわけで、適当に先生のひとりを捕まえて、着替えに使ってもいい部屋を借りた。


 見た感じ、更衣室かな?


「それでキッカ様、着替えのほうはどうしましょう? 鎧は先ほどのものを装備するのですか?」


 更衣室にはいったところで、イルダさんが訊いてきた。


「翠晶シリーズは着ませんよ。作ったのはいいんですけれど、あれを着る度胸はありませんね。結構、派手な鎧ですから。

 なので、いつも通りの恰好でいきますよ」


 そう答え、私はいつもの黒ワンピを取り出した。


「え……これで決闘をするんですか!?」

「えぇ。問題ないでしょう?」

「で、でも……」

「当たらなければ、どうということはありません」


 ははは。まさかこのセリフを云う機会があるとは思いもしなかったよ。


 とうことで黒ワンピに着替え、結った髪を解いて、イルダさんにまとめてもらう。

 三つ編みにしてもらったんだけれど……あれ? ポニテになってる?


 サイドが三つ編みで、テールの部分はそのまま垂らしている感じだ。


「キッカ様は御髪が長いので、いじり甲斐があります」

「ありがとうございます」


 ふふふ。髪は唯一、私が自慢できるところだからね。


 でもポニーテールなんてほとんどしたことないから、なかなか新鮮な感じだよ。


「イルダさんには、プチトマトを差し上げましょう」

「えっ、なんですかそれは!?」


 食いついた。本当にどれだけ好きなのよ。




 私が試合場へと戻っても、まだ小倅たちは戻って来ていなかった。


 あれ? 私より大分前に着替えにいったよね?


「まだ来ていませんね?」

「さすがに逃げたとは思わないけれど。それじゃ、行ってきますね」


 試合場の開始線の位置へと進む。

 私が試合場に立つと、会場のざわざわとした声が大きくなった。まぁ、この格好だからだろうね。


 またしても舐めプしているわけだけれど、本職の人を相手にするわけじゃないから、問題はないだろう。危ないと思ったら、すぐに対処する方法もあるし。


 本日は無手で戦うよ。折角だから、ボーとの格闘訓練の成果を確かめてみようと思うんだよ。格闘というよりも殴り合いの訓練になるのか。組打ち術はあの子できないし。蹴り技もほとんどやらないしね。


 で、殴りメインにした理由は、ある魔法の使い勝手を確認しようと思って。


 実戦ではまだ使ったことがないんだよね、召喚防具。兜、篭手、足甲、鎧、そしてそれらをひとまとめで召喚する全身鎧とがある。


 ゲームだと裏技があったんだけれど、さすがにそれは出来なかったよ。いや、できたらまさにチートそのものの鎧になった訳だけれど。

 その裏技だけれど、ゲームだと鍛冶技能をマスターレベルに上げると、耐久度を限界以上に修復できるようになるんだよ。で、召喚鎧を修復して耐久度を百パーセント以上にすると、召喚鎧から普通の鎧になるんだよ。性能そのままに。


 重量ゼロの重装鎧って、さすがに存在しちゃダメでしょ。しかも【魔人の鎧】と同性能だから、鎧としても破格の性能だし。


 と、また話が脱線した。


 今回使うのは【召喚篭手(バウンドガントレット)】。これだけでいくよ。いなして殴るだけのお仕事ですよ。もちろん指輪で能力のドーピングはするよ。筋力と敏捷と技巧を上昇させる。

 つける指輪はみっつになるね。筋力+技巧と敏捷+技巧の組み合わせ。残りのひとつは素手打撃上昇+疾病無効の指輪だ。


 これだけドーピングしているんだもの、大抵の攻撃には対処できるというものだよ。


 その自信はどこからでてくるのかって?


 いや、だって。ただの人間だよ。クラリスと比べたら力も速度も残念と云うものだよ。


 待つこと暫し。やっとふたりが姿を現した。


 まずグスキ。グスキは金属で部分的に補強した(ハード)革鎧(レザーアーマー)にグレートメイスという装備。軽戦士の基本的なスタイルだね。グレートメイスは軽戦士の使う武器とは思えないけれど。


 つーかさ。あの得物。私を完全に殺しにきてるね。まぁ、いいけど。どうせ当たってはやらないし。


 そして小倅。全身重装鎧(フルプレート)大盾(タワーシールド)と短槍。完全な重戦士装備。でもって、侮辱的意味合いでの騎士を揶揄する言葉通りになってるよ。


 かたつむり。


 ゲーム的にいえば、完全に重量過多。ここに戻って来るのが遅れた理由は、重すぎて動きが鈍かったからか。


 ……あの小倅はサンドバッグにでもなりたいのだろうか? 避けらんないよ、そんな機動性も運動性も皆無の状態じゃ。


 ノロノロと試合場へとはいり、ふたりも開始線の位置に立った。


「相手はどちらから?」

「あ、このままふたり一緒で。時間がもったいないですから」

「ふざけるな貴様ーっ!」


 あ、小倅が喚いた。


「いや、しかし――」

「気にしなくていいですよ。どうせ大したことは云っていません。はじめてください」


 まったく。ぎゃーぎゃーうるさいな。私もギャラリーも待たされて、ちょっと飽きて来てるんだよ。


「それでは、エセキエル・デラロサ、及びホルガー・グスキとキッカ・ミヤマの決闘を執り行う」


 あれ? グスキって家名なんだ。大抵、みんな名前で呼ぶのになんでだろ? 自分の名前が嫌いとか、そういうのかしらね。まぁ、どうでもいいや。


 審判の先生が注意事項を話す。まぁ、殺しちゃダメだよっていうことなんだけれど、実際のところは事故は付きものってことで、決闘で相手殺さない人はほとんどいないそうだ。


 去年の決闘後にそんなことを聞いたよ。それを考えると、バルキンさんは紳士だったわけだ。あの人、殺す気で剣を振ってなかったからね。


「――それでは、始め!」


 と、始まった。集中しないと。


 私はふたりにしっかりと視線を向けた。


 まずはグスキがグレートメイスを手に突っ込んで来る。


 まぁ、貴族の子息を先に突撃させるわけにもいかないか。とはいえ、ふたりで一緒にっていう選択肢もあったんだよ? なんでわざわざただでさえない勝ち筋を、さらに潰すかな。


 ……あぁ、そうか。小倅、重すぎてカタツムリ状態なんだっけね。


 グスキは接敵するや、両手で持ったグレートメイスを振り上げた。


 なってない。戦い方がなってないよ。隙だらけじゃん。胴ががら空き。私が剣を持ってたら、横に一閃、もしくは突きで終わるよ。なにやってんの? これならゴブリンの方が強いぞ。冗談でも侮辱でもなく。


 トン、とバックステップをし、魔力を手に溜める。


 グレートメイスが私の目の前の地面を叩く。


 【召喚篭手】発動。


 青白く、燃えるようなエフェクトの出ている篭手が私の両腕に現れた。外見上は【魔人の篭手】とまったく一緒のため、やたらとトゲトゲしていて、おどろおどろしいデザインとなっているものだ。


 そもそも魔人シリーズは、制作に生贄? が必要な装備だから、出来上がりも()()()ものになるというものです。


 そういや、両手に纏うから両手で発動するような気がするけれど、片手だけで両手に篭手を纏うんだよね、この魔法。


 突然の私の変容に、グスキは狼狽えたように足を止めた。


 その隙を逃さず、一気に踏み込む。


 再度グレートメイスを振り上げ、振り下ろしてくる。


 さっきよりは速いね。でも遅い。


 振り下ろされたグレートメイスを、左掌で内側から叩くように、外側へといなす。

 そのまま左手を回すように腰だめ構え、右足を大きく踏み込みグスキの懐に入り込んだ。


 せーのっ!


 一気にぐるんと体を回しいなされたグレートメイスで体を泳がされているグスキの右わき腹に左フックを叩き込む。


 重装篭手を装備している場合、技能により打撃が上昇する。さらにそこへ指輪の効果による打撃上昇分が上乗せされる。ついでに筋力もUPしている状態だ。


 背丈の差から肝臓打ちにはならなかったものの、グスキの体を浮かせるくらいの打撃は入った。


 更に左足を踏み込み、グスキのボディへと渾身の右ストレートをぶち込む。


 バキリと変な感触が伝わる。


 ん? 骨が折れた感じじゃないよね。なんだ?


 グスキは無様に転がり、仰向けに倒れて動かなくなった。倒れた時に凄い音がしたから、頭を打って失神したのだろう。ボディで気を失うことはないって聞いたことあるし。


 あ、鎧が割れてる。あの硬皮鎧、手入れが適当だったんじゃないの? 硬質化しちゃってんじゃん。いくら油で煮て固めてあるからって、あんな風に割れないよ!?


 呆れていると、のっしのっしとやっとこさ小倅がやってきた。


 盾を前面に構え、槍を小脇に抱えるように構えている。


 えーっと、短槍でその構え方は合ってるの? いや、私は槍の構えとかは、よく知らないんだけれどさ。


 のしのしと歩いてきたかと思うと、いきなり盾殴りをしてきた。


 槍を警戒していたから、ちょっとびっくりしたよ。


 間合いの外で、まったく届かなかったけれど。


「ふははははは。貴様は知るまい。盾は殴る物であるということを!」


 エセ何とかが得意そうに宣う。


 ……あのさぁ。得意になって云ってるけれど、それを云ったのはお前の目の前にいる私だ。


 見た感じ、なってないし。その重心の取り方だと、殴りつけられたら簡単に転けるぞ。


 思わず私はため息をついた。


 それを馬鹿にしたため息と思ったのか、またもギャーギャーと騒ぎ出す。


 あーもう、うるさいな。呆れてるんだよ、こっちは。


 しょうがない。それじゃ、こっちも盾を使ってあげようじゃないか。


 【召喚盾(バウンドシールド)】発動。


 左手に青白く燃えるエフェクトの盾が現れる。これまた見た目が物騒というか、おどろおどろしい感じの盾だ。


 さぁ、小坊主、正しい盾の使い方っていうのを、教えてやんよ。


 とにかく構え方が軽い。このままなにも考えずに【突撃(チャージ)】するだけで、武装解除させた上に吹き飛ばせそうだ。でも先ずは【強打】で武器と盾を排除(ディザーム)して、それから【突撃】をぶちかまそう。


 それじゃ、盾の召喚時間は一分程度だから、とっととケリをつけようか。


 まるで無作為に見えるような調子で、一気に突っ込む。当然、それに合わせるように、小倅は槍を突き出して来た。


 そーれ【強打】!


 べぎっ! と、鈍い音がして槍が弾け飛ん――あ、槍折れてる。


 この私をこんな安物の槍で刺そうとしやがって!


 いや、ネタはいいよ。なんで頭に浮かぶのよ。


 小倅はたたらを踏み、驚愕に満ちた目で私を見つめていた。


 いや、だから隙だらけなんだって。真面目にやんなさいよ。


 ということで【突撃】!


 逃げ腰で、後方に重心を掛けていた小倅は、あっさりと転倒し数メートル転がった。


 ガシャガシャと転がり、大の字に仰向けに倒れた。


 さぁ、派手に転けたといっても、ダメージは大したものじゃないだろう。それこそ「君が泣いても、殴るのを止めない!」の精神で、非を認めるまで殴るつもりだからね。


 さぁさぁ、早く立ち上がんなさいな!


 小倅がガシャガシャと動く。


 止まった。


 ガシャガシャと動く。


 ……止まった。


 え、もしかして起き上がれない?


 そういや、騎士は転ぶと鎧の重さで起き上がれないなんて話を聞いたこともあるけれど、こういうこと!?


 いやいや、フル装備でも、転んでも起き上がるのにちょっと時間が掛かるだけで、動けなくなるなんてことはないよ。あの小僧、どれだけ不相応な鎧を着て来たのよ。


「審判さん、これ、どうしましょ? あの倒れているのを殴った方がいいの? さすがにそれは嫌なんだけれど」


 私が審判の先生に問うと、先生はなんとも情けなさそうな顔をしていた。


 そりゃあ、そうだろう。あんなのでも生徒だ。それがこんな無様をさらしてたら、情けなくって涙が出て来るだろうさ。


 先生は暫し葛藤しているかのように顔を顰めていたかと思うと、やおら手を上げ宣言した。


「勝者、キッカ・ミヤマ殿!」


 えぇ……。決闘開始から、三分と経っていないんだけれど。


 というか、あの小倅の事を殴り足りないんだけれど。




 こうして、なんとも締まらない形で決闘は終わりを告げたのです。


感想、誤字報告ありがとうございます。

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