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257 鼻血が出て泣きそうなの?


 インベントリを通して、ふたつの内のひとつの指輪を着け替える。あまりに高価にみえるものだと、厄介ごとを引き寄せるだけだから、着けているのはただの銀の輪っか。意匠のひとつも凝らしていない、ただの輪っか。


 しかもくすんで鈍い色。普段から着けている指輪はそんな代物だ。


 ちなみに、効果は【素手打撃上昇】と【疾病無効】。今日は髪色を変えるのにバレッタではなく、ペンダントにしているから、骨折対策の為の【疾病無効】は指輪で行っている感じだ。


 そしてもうひとつ。【素手打撃上昇】と【毒物無効】の効果の指輪を【筋力上昇】と【技巧上昇】の効果のものと入れ替える。


 私は鞄を手に、軽く跳んで手摺を飛び越え、階下へと降りた。


 二階からとはいえ、結構な衝撃が足にかかる。にも拘らず、一切の音は無し。隠形技術はとっくに限界レベルを突破しているから、かなりおかしなことになっている。音も出なければ、体重もかかりもしないなんて、まるで幽霊か何かみたいだ。それに加え、身を隠す――いわゆる隠形モードに入ると、数舜姿が影に溶けるように消えるようにもなった。うん、まさしく幽霊だ。


 これ、パッシブ効果だから解除できないんだよね。音と体重はともかく、消える方はちょっと気を付けないと騒ぎになりそうだ。


 捲れあがったりしないように抑えていた両手を戻し姿勢を整え、私は演壇に向け真っすぐに歩き出した。


 生徒たちの視線はこっちを向いている。私が立ち上がった時に、演壇にいた皆が私に視線を向けたからね。それにつられて生徒たちも私に向いた形だ。


 歩を進めるに合わせて、生徒たちが脇によけて勝手に道ができていく。


 うん。これはいい。生徒たちを掻き分けて進むなんてなったら、恰好が付かないもの。


 演壇の前にまで進んだところで、再びトンと跳ぶ。軽く膝を曲げて跳んだだけだから、傍からみると急に浮かび上がったように見えたかもしれない。


 演壇にあがると、私はセシリオ様の隣に並んだ。そしてじっと子爵の小倅と大柄な鍛冶師をみつめる。


 こいつらはどれだけ馬鹿なんだろう。こんなことをしてナイフを手に入れたとしても、後々、どうにもならなくなるというのに。


 呆れていると、小倅が私を指差し怒鳴った。


「なんだ貴様は!」

「人を指差すな、礼儀知らずのガキが」


 おっと、いけないいけない。口調を改めよう。


「失礼。言葉が悪かったわね。そのナイフの作者よ。そこの木偶の坊ごときにそれを作れるわけがないでしょう?」


 私はテーブルに載せられた翠晶ナイフを指差した。


「はっ! それはこっちのセリフだ。貴様のような得体の知れない者に作れるわけがない」

「そんな細腕で鍛冶師だと? 笑わせるな」


 ふたりがさも当然のごとく侮辱して来る。……演技だよね? これ。それとも本当に自分たちの主張が正しいと思っているのかな? だとしたら認知バイアス恐るべしなんだけれど。


 あー、となると、審神教の神官さんに真偽を頼んでも結果が出ないかもしれないね。あれ、嘘を見抜くだけだから、ここまで意識がすり替わっていると看破できないでしょう。あぁ、まったく面倒臭い。


「得体の知れない……ねぇ。得体の知れなさでいえば、そこの大男もそうでしょうに。ジラルモ師、この男は王都の職人組合に所属しているのかご存じ?」

「少なくとも俺は知らんな。有名どころの工房の連中は、新人以外は大概知っているが、そいつは知らん。そんだけ目立つ体格なら、見れば覚えてるはずだからな」


 腕組みをして、ジラルモさんが鼻息荒く答えた。


「おやおや? ジラルモ師はそこのグスキなる者は、どこの者とも知れぬ馬の骨と証言したわよ。先ほどと同じようにね。つまり、幾ら思い出そうとしても、欠片も記憶に引っ掛からない。

 そこの小僧の云う通り、腕のある者ならば放っておいても名が知れる者でしょう? なぜ無名であるのかしらね?」

「それを云うなら貴様もだろう! そもそも、髭が立派なだけの場末の鍛冶爺ぃ如きに知られている程度など、もののひとつにも入らん!」


 またしても私を指差した。


「だから人を指差すなと云っただろう。本当にどんな躾をされたんだこのガキは。というかドワーフに対して爺って、ドワーフといえば髭と酒はアイデンティティみたいなものよ。それを侮辱するとか……。

 ジラルモ師、抑えてくださいね。アレはただの可哀想な馬鹿ですから。怒るだけ無駄です。まったく、デルロサ家はいったいどういった教育と躾をしてきたのか。親の顔が見てみたい……と、そういえば、親は来ていましたね。先ほど見ましたわ。なるほど、納得です。あの親にしてこの子あり、というところですか。なんともはや……。

 ちょっと、二階席でふんぞり返っているコレの父親。貴様きちんと親としての責務を果たしているの? いや、貴様の様子をみれば聞くまでも無いわね。貴様も礼儀知らずであったもの。これでは他国に、ディルガエア貴族の質を鼻で笑われるわよ」


 私が二階席に視線を向けた。それにつられるように、講堂に生徒たちも皆、二階にいるデラロサ子爵へと視線を向けている。


 当のデラロサ子爵は立ち上がってなにごとか喚いている。一応、ここまで声は聞こえているが、まぁ、大したことは云っていないから聞き流していいか。平民如きがどうのこうの云ってるよ。


 生憎、私はただの平民じゃなくなったからね。身分差でどうのこうのとやってくるなら、どうぞご自由に。


「で、ジラルモ師。私って職人組合だとどんな扱いになってます?」


 ちょっと気になるから訊いてみた。いや、鎧を造る際に必要な細々とした素材って、組合経由で買ったりしてるからね。時折顔を出すんだけれど、妙に丁寧な扱いをされるからさ。たいして貢献もしていない組合員なのに。


「あぁ、嬢ちゃんはあれだ、いろいろやり過ぎだ。最近だと付術関連のことで話題になってるな。で、組合長とかが躍起になって探してる。嬢ちゃん、掴まんねぇから」

「あぁ、このところはあっちこっち行ってましたからね。でもダグマル姐さんとジラルモ師はもう身に付けていますし、私に用はないんじゃありません?」


 自宅にいたのって、何日くらいだっけ?


「そういうわけにはいくめぇよ。嬢ちゃん、創始者だぞ」

「私は創始者じゃなくて、どちらかというと伝道者なんですれど」

「どっちでも変わらん。出所は神様なんだろう? であるならば、この地上での最初の付術師は嬢ちゃんだ。だろう?」

「まぁ、そうなんだけれど……。仕方ないな。それじゃ、この後にでも顔を出しますよ。

 と、いまはこっちよね」


 私はあらためて小倅に向き直った。えーっと、なんてったっけ? この小僧。エセなんとかだっけ? 確か名前だけは立派だったよね。ま、覚える必要もないか。


 うん。顔が真っ赤だ。まさに歯軋りして怒ってるって感じ。


「ふ……」


 お?


「ふざけるな貴様! よくも我がデラロサ家を侮辱してくれたな。貴様には我が子爵家の威光を思い知らせてくれる」


 またしても私を指差してきたよ。もう本当に腕ごと斬り落としてやろうかしら。凄い腹立たしいんだけれど。


「どうぞご自由に。それと、何度もいっているでしょう。人を指差すな」


 私は笑みを浮かべる。っていっても仮面をつけているから見えないか。


「……あぁ。親子そろって馬鹿なのか」


 ぼそりとした声が聞こえて来た。


 やー、さすがジラルモさん。かつて領主をさんざんっぱら馬鹿にして追放された経歴の持ち主だよ。私の侮辱発言に乗ってきてくれたよ。


 さぁ、小僧、どう返――あれ? なんだか騒がしい?


 生徒たちのざわめきが急に大きくなる。それも、こちらに対してではない。


 見ると生徒たちは皆、講堂の入り口のほうを向いていた。


 その視線の先には、背丈よりも高い錫杖を手にした、真っ白い法衣に身を包んだ金髪の女性と、それに付き従うように歩む女性騎士。


 って、教皇猊下とジェシカさんじゃないのさ。え、なんでこっちに? 貴賓席に行くんじゃないの?


 突然の教皇猊下の登場に、講堂内がますます騒がしくなる。


 そりゃそうだ。教皇猊下、なんというか、ほとんどアイドル扱いだからね。


 教皇猊下はそのまま進み、演壇へと上がって来た。


「ごきげんよう、皆さん。キッカ様、お久しぶりです」

「お久しぶりです、教皇猊下。といっても、二月にお会いしたばかりですよ」

「えぇ。でもそれだけ間が空いていれば、ひさしぶりでしょう?」


 教皇猊下がクスクスと笑う。


「それで、なぜ貴賓席ではなく、こちらに?」

「此度の事は、我が教会にも関わりがありますので、ぜひここで」


 あ、あれ? 教皇猊下、怒ってる? 声が堅いよ。というか、うまく表現できないけれど……棘だらけって感じ?


 あ、小倅に笑顔を向けてる。あーあー、小倅、舞い上がってるよ。私なら背筋が震えるよ。この笑い方は。


「それではこちらへ。審判の先生。問題ありませんよね?」

「あ、あぁ、もちろん構わないとも。

 教皇猊下、お目に掛かれて、光栄にございます。どうぞこちらへ」


 教皇猊下がジェシカさんを伴って、審判役の教師の後方へと移動した。


 さて、それじゃあ――


「思わぬ来客の来場で驚いたけれど、続きをはじめるわよ。

 で、あんた。グスキだっけ? 銘はいれてあるのかしら?」


 木偶の棒に問うた。


「なんだと?」

「銘よ。自分の作品なんだもの、銘ぐらいいれるでしょう? なにせそれは特別な物。あなたたちがそう云っていたじゃない。ならば、銘は刻んであって当然でしょう?」


 銘。大抵は製作者の名が刻まれているものだ。もちろん、アレには私の銘が刻んである。【菊花】と漢字で。


「はっ! 物を知らぬにもほどがあるな」


 小倅がまたしても私を指差した。こいつは記憶力がないのだろうか? それとも礼を逸することをなんとも思っていないのかしら?

 貴族であるならば、そこは絶対に完璧にしておかないといけない事だろうに。


「どういうことかしら?」

「腐食魔剣を加工する術などあるわけがなかろう」

「腐食液とやらに漬け込む前に銘を彫ればいいじゃない」

「だから貴様を無知とをいったのだ。腐食液に付けたのなら、銘など消えてしまうわ!」


 はい。言質を取りました。アホだね。


「では、見てみましょうか」

「は?」


 間の抜けた声を上げた小倅の前で、私はナイフの脇に鞄を置くと、そこから目釘抜きを取り出した。


 目釘を外し、柄から刀身を引き抜く。(なかご)の部分。そこにははっきりと【菊花】と彫られてある。


「どうぞ確認してくださいな」


 小倅とグスキが刀身を確認し、顔を引きつらせている。


 さて、追い打ちを掛けようか。


「そういえば、これは希少な金属で、他には作れないといっていたわよね?」

「あ、あぁ、そうだ。このような金属、あるわけが――」


 ごとりと、私はナイフの隣に翠晶の短剣を置いた。ついで、長剣、片手斧、片手槌、大剣、大斧、大槌、弓、盾、そして鎧一式を鞄から取り出し並べた。


 そう、先日、大木さんの所で作って来た翠晶装備一式だ。


 もちろん、すべてそこにあるナイフと同じ材質の代物だ。


「今、云ったわよね? 希少な鉱石で作れたのはそれひとつって。それじゃ、ここにあるものはなんなのかしらね? おかしいね」

「に……」


 小倅は顔を引きつらせながら、指を振り回したかと思うと、またしても私に指を突き付け叫んだ。


「偽物だ! こんなものは偽物だ! よくも私を陥れようと――」

「……見苦しい」


 教皇猊下がよく通る声でボソリと云った。途端にざわめいていた会場が静まり返った。もちろん、いますぐそこで喚いていた小倅も。


「ジェシカ」

「はっ」


 教皇猊下の警護として付いていたジェシカさんが、手にしていた包みをテーブルに載せ、包みを解くと……って、あれ?


 その木箱、ものすごく見覚えがあるんだけれど。でかでかと【奉納】とか書いてあるし。


 木箱が開けられると、審判役をしていた教師がわなわなと震えだした。


 え、ちょ、どうしたの?


「き、教皇猊下。それは教会の至宝ではありませんか!」

「えぇ。そこにおわす神子様より賜りし教会の至宝。【神枝の剣】。神子様の故郷には、七神教のシンボルたる神枝に酷似した祭器の剣があるとのこと。これはその祭器を神枝と見立て、神子様自ら打ち鍛え、我が地神教へと寄贈された一振り。

 そのナイフを鍛えた者がそなたであるのならば、この祭器もそなたの作ということ。

 これがどういうことか、当然、分かりますわね?」


 教皇猊下が冷ややかにふたりを見つめた。


 あぁ、うん。これあれだ。私絡みだから教会が激怒してるってことか。もし私が今日までに戻って来てなかったら。その上でこいつらがナイフを奪取するような事態になってたらとんでもないことになっていたんじゃ……。


 それこそ、教会とデラロサ家の戦争になったんじゃないかと思うよ。


 あ、そうだ。


「猊下、真実を証明する方法がありましたよ」


 ぽんと私は手を叩いた。


 急に気の抜けた私の声に、教皇猊下は毒気を抜かれたように、目をぱちくりとさせた。


「先生。こちらに鑑定盤はあるかしら?」




 すぐさま鑑定盤が運び込まれた。


 そう、翠晶ナイフを鑑定するのだ。これには当たり障りのない付術を施してあるからね。それも、いまそこにある七支刀と同じ付術だ。

 そもそも腐食魔剣は、腐食液というダンジョン産の……毒だっけ? それを使って無理矢理に普通の剣を魔剣にするものだ。結果、高濃度の魔力を保持した剣が出来上がり、その異常濃度の魔力はゾンビの中核であるカビを死滅させるだけの毒性をもっている。


 故に、対不死の怪物用の剣とされているものだ。


 私の付術とは根本からして違う。それに鑑定盤での鑑定だと、きちんと【腐食魔剣】と表記されるらしいしね。


 こいつらはアホだから、このナイフが魔剣ときいて、腐食魔剣と結び付けたのだろう。


 鑑定盤にナイフが載せられる。




 名称:翠晶ナイフ[神話級]

 分類:短剣

 攻撃属性:物理・魔法[主:不死怪物撃退・副:恐怖]

 備考:

 工神の手により鍛え上げられた、翠色に透き通った刀身のナイフ。その切れ味は鋼をも断ち切る。そして施されし魔法は不死の怪物のみならず逃走させるだろう。もっとも、逃走させる間もなく死をもたらすやもしれぬが。




 ……あれ? 見間違いかな? なに神話級って? っていうか、工神って誰? いや、作ったの私だから私の事だよね。あれ?


 い、いや、折角だからって、全力で作ったり鍛えたりしたけれどさ。え、本当に工神ってなに? これ、あとで女神さま方に訊こう。さすがにまずい。


 仮面をつけていてよかった。思いっきり狼狽えた顔をしていただろうからね。


「そこのあなた。鍛冶師殿? あなたは自らを工神と名乗れまして?」


 教皇猊下が問うた。


 グスキの口元が歪むように引き攣れた。そして一歩退く。


 あぁ、さすがに認める度胸はないか。……多分、自らを神だなんていったら、ルナ姉様が神罰を落とすと思う。


「あり得ない……」


 小倅が目を見開いたまま掠れたような声でいった。


「あり得ない……あり得ない、あり得てたまるか! ペテンだ! そんなもの、ガラス細工の偽物だ! ふざけるな! 本物をどこへとやった!?」


 うん。ダメだこのガキ。もういいや。付き合ってられない。とっとと幕引きへと向かうとしよう。その為に()()()()()出した訳だしね。


 私は翠晶篭手をふたつ手に取ると、それぞれをエセなんとかとグスキに向かって投げつけた。


 もちろん、顔面に向かって。


 狙い違わず、篭手はそれぞれの顔面にヒット!


 ふたりともよろけ、顔を抑えている。あぁ、小倅のほうは鼻血を出したね。


「ふたりとも、よく聞きなさい。今ここに、私、キッカ・ミヤマは貴様らに決闘を申し込む。すでに国王陛下に申請は済ませてあるわ。さぁ、いますぐ、ここで決着をつけよう。

 どうせ貴様らはどれだけ証拠を突き付けても、セシリオ様を盗人とし、私からこのナイフの作者であるという事実を奪うつもりなのでしょう? 誰がそんな真似をさせるものか。さぁ、決闘を受けるか否かを答えなさい」


 私は篭手を投げつけた姿勢のまま、右手を掲げるような恰好で宣った。


「き、キッカ様、いまの篭手を投げつけたのはどういうことです?」


 セシリオ様が慌てたように訊いてきた。


「あぁ、いまのは決闘の申し込みの作法ですよ。私の故郷のですが。手袋なら相手の胸、篭手なら相手の足元へ投げつけるのが正しいのですが……余りにもふたりが不愉快でしたので、つい顔面に投げつけてしまいました」


 しれっと答えたところ「えぇ……」と、ドン引きされましたよ。


 セシリオ様。この程度でドン引きしていてはいけませんよ。敵は徹底的に叩き潰すのです。それこそ、二度と歯向かう気が起こせないレベルにまで。


 一番手っ取り早いのは首を斬り落とす事なんだろうけれどね。さすがにそれは自重するよ。


「ほらほら、どうしたのかな? ぼく? さっきの威勢はどこにいったの? 鼻血が出て泣きそうなの? 痛い? 痛いねぇ。パパに助けてもらう?」


 ちょっと煽ってみよう。


 ん? 十歳だか十一歳だかの子供相手に大人げないって? 知るかそんなの。私は基本的に子供が嫌いだ。なにせ私を殺したのはこのくらいの歳の子供だったからね。


「ふざけるな! 貴様ら平民はただ命令に従っていればいいんだ! 我が父はデラロサ子爵なんだぞ!」


 教育がなっていないな、本当に。指を差すな!

 そっちが爵位を出すなら、こっちもだすよ。発表は勲章伝達式の八月だけれど、書類上はもう、私はもう陞爵しているんだ。今日のことに合わせて大急ぎで国王陛下が進めたからね。


「そう? それがどうしたの? 私は陛下より伯爵の位を賜っているわ。子爵如きに、それも爵位も持ってもいないたかが四男坊如きが、デカい口を叩くものではないわ」


 左手で仮面を外す。


 素顔を晒す。


 小倅が、ひっ、と息を呑んだ。


 もう遅いよ、小僧。


 笑みを浮かべる。きっと、いまの私はものすごく悪い顔をしているだろう。


「選びなさい。私に勝ってそのナイフと、そして私の制作物すべての作者であることを手に入れるか、それとも戦いを避け、すべてを失うか。さぁ、選びなさい!」


誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本人の気が済まないし、気の済むまでやっちまえー。 で良い。 ……んだけど、裁判としては 「これ、ボクの腐食魔剣!!」 神(としか思えないもの)が鑑定した結果を示す道具では、腐食魔剣とは違い…
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