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255 お裁縫の時間ですよ


 さぁ、本日はお裁縫の時間ですよ。


 といっても、時間を掛ける気はないので、ドーピング指輪増し増しで、一気に縫いあげてしまいましょう。


 この時のために指ぬきもきちんと作って来ましたからね。


 作るのは予定通り和ゴスドレス。和ゴスというと、丈を短くしてミニスカと合わせるようなものが思い浮かぶんだけれど、さすがにそんなものを着る勇気はありませんよ。


 生足を見せて歩くとかどんな拷問ですか。私には無理。というか、こちらの倫理的には思いっきりアウトになるからやりませんよ。


 例外なのは色町のお姉さんたちくらいだよ。一度、色町の入り口辺りを通りかかった時に娼婦のお姉さんをみたことがあるけれど、なにあれ? 凄いよ。


 あのお姉さんにいい寄られて堕ちない男は、小心者か不能か同性愛者くらいじゃないかな。


 近くにいたお兄さんたちの声が聞こえたけれど、色町でも指折りの娼婦さんだったらしい。なんか、娼婦の人気投票みたいなのがあるらしくて、そこの上位一桁の常連さん。いわゆる高級娼婦に登り詰めた人。いや、容姿だけじゃ高級娼婦にはなれないんだろうけれど。


 日本で云ったら、あれだ、花魁のトップといったところか。


 そこまでいくと、娼婦でも上流階級の人みたいな扱いになるからね。


 ……なんの話をしているんだ、私は。


 えーと、和ゴス。ミニスカなんて穿く気は欠片もありませんからね。ロングのフレアスカート……。


 よく考えたら、ゴスロリにこだわらなくてもいいんじゃ……あぁ、いや、仮面を被るのか。着物に仮面はさすがにおかしい。そうすると……。


 よし。決めた。振袖袴をベースに、いじって行こう。袴をドレスっぽいスカートに変更すればいいや。


 とはいえ、さすがに振袖なんて縫ったことはありませんからね。型紙を取り寄せますよ。というか、写しますよ、奥義書から。た、多分、型紙の情報も入っているんじゃないかと思うんだ。振袖自体は私の知識にあるんだし。私の知識にあるものは、ただ見たことがあるだけのものでも、しっかりと詳細まで奥義書に記載されているし。


 和装を作るのははじめてだから、微妙に心配ではあるけれど、型紙さえあればなんとかなるだろう。


 和装といえば、昔、おにいちゃんが手ぬぐいを使って法被造ったんだよね。お祭りの時に着るアレね。両手に乗るくらいの小さいやつ。

 いっさいの裁縫道具を使わず、折り紙みたいに畳んで行って法被を作り上げたときには、さすがにびっくりしたよ。


 手ぬぐいだから、出来たのは人形サイズだったわけだけれど、ちゃんとした生地を使えば、普通に着れるものができるわけで。着ている間に崩れたりしないように、要所要所を縫ってしまえは立派な法被だ。


 そういえば、和服は解けば一枚の反物に戻ると聞いたことがあったけれど、そういうことなんだなと、納得したよ。本当、服飾の世界は奥が深いと云うかなんというか。


 私なんて授業で学んだだけで、あとは自己流だからね。


 ということで、なぜか私の作業を見学に来ているリスリお嬢様とリリアナさんの前で、法被を折ってみました。織るじゃなくて折る。出来上がってから、ところどこ仮縫いしたものを見せたら、ふたりとも目を丸くしてたよ。


 さて、準備も整ったし、ささっと作ってしまおう。


 ドーピングしていることもあって、気味が悪いほどの正確で且つ早い作業で、あっという間に振袖ができた。使った生地は昨年買って、使わずにインベントリの肥やしになっていた生地。

 丁度いい色の生地が残ってたからね。ほら、振袖袴といったら、あの桜色の振袖が基本みたいなものでしょう? 丁度あれとほぼ一緒で、菱模様の生地があったからね。色味はこっちの方が若干赤みがかっているけれど。


 次いでスカート。こっちは小豆色の生地を使ってつくっていくよ。


「あ、あの、お姉様?」


 不意にリスリお嬢様から声を掛けられた。なんだろう?


「なんでしょう?」

「その、いくらなんでも早すぎませんか?」


 はい? ……あぁ、作業の早さか。


「ズルをしていますからね」


 私は両手広げて見せた。指輪みっつに指ぬきがひとつ嵌っている。


 リスリお嬢様は首を傾いだ。


 これは見てもらったほうが早いかな。


「リリアナさん。ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう」

「ちょっとお手を拝借」


 左手の指輪ふたつを外し、リリアナさんの左人差指と薬指に嵌める。確か、こっちだと左薬指に指輪をはめても、特別な意味とかないハズだから、問題ないだろう。


「き、キッカ様!?」

「その指輪がズルなんですよ。そうですね……ちょっとこの端切れを縫い合わせてみてもらえます?」


 リリアナさんは端切れと針を受け取ると、あっという間にそれを縫い合わせてしまった。


 縫い始めた途端、リリアナさんが自身の指の速さに驚いたみたいで、針を指に刺すんじゃないかって気が気じゃなかったよ。


「き、きききキッカ様、この指輪はなんですか!?」

「【技巧】と【敏捷】を底上げする指輪ですよ。ひとつだけでも結構な効果ですが、いまはふたつ着けてもらいましたからね。かなりのものでしょう? 私はそれをよっつ着けて作業しています。ただ、目がちょっと疲れるのが欠点ですかね」


 細かい作業を猛烈な速度でやるからね。それを追う目が疲れるんだよ。


「な、なるほど、確かにズルですね、その指輪。魔法の道具というのともちょっと違いますし。……もの凄く応用範囲が広いんじゃないですか?」


 リスリお嬢様がリリアナの手にある布を見ながら、私に問うた。


「そうですね。自身の基礎能力増強ですから、応用範囲が広いと云うか、体を使う事に対しては助けになりますね。まぁ、身体に無茶な挙動を強いるので、疲れますし、場合によっては体を痛めますけれど」


 【筋力】と【走力】を増強して、全力で走ったりしたら筋肉痛待ったなしになるからね。絶対。下手すると翌日動けなくなると思う。

 私がよく使っている【敏捷】+【技巧】の指輪だけれど、これも関節に負担が掛かってそうなんだよね。作業後、指を曲げるとキシキシするし。だから作業後はいつも、自身に回復魔法をかけたりしているよ。


「なるほど、増強した分、負担が増えるんですね。というよりも、普通にやった場合に掛かる負担が、まとめて掛かる、ということでしょうか?」

「いまリリアナさんに使ってもらった指輪に関してはそうでしょうね。扱い方をきちんとしないと、体を壊しかねないので、現状、これらの指輪は私専用です」


 あ、そうだ。


「そうそう、リスリ様。剥き出しで申し訳ないですが、こちらの指輪をどうぞ」


 王都に来る前に、大木さんのところで作ったムーンストーンの指輪を渡す。【月光】の魔法を付術したものだ。半径……何メートルだったかな。五メートルだっけ? その範囲を明るくする指輪だ。


「わ、私にですか!?」

「ええ。侯爵家の皆様にもですけれど。ただ、それは常時身に付けるには問題がありますけれど」

「え……」


 リスリお嬢様が顔を引き攣らせた。


 うん。なにか誤解されたみたいだ。なので、その指輪に掛けられている付術について説明をする。


「――なので、普段から身に付けると、常時、自身が光ってる状態になりますので、非常に目立ちます。夜中にお手洗いに行く時とかに便利ですから、ベッドの側にでも置いておくのがよいかと」

「……お姉様」


 あれぇ? なんでそんな残念そうな目で見られるの? 夜は大変だよ。蝋燭に火を灯して、それを手にトイレに行くのって。正直、蝋燭の明かりってたかが知れてるんだよ。和蝋燭だったら多少はより明るいんだけれど、その作りの蝋燭はどこにも売ってなかったしね。


「キッカ様、さすがにこれほどの魔道具を、トイレに行くのに便利というのはどうなのでしょう?」

「うーん……でもこれ、結構、欠点があるんですよねぇ。夜間戦闘に使えるかと云うと、ぶっちゃけ使えませんし」

「そうなんですか?」

「この明るいっていうのが意外に問題でして。範囲の内外でのメリハリが強すぎて、範囲外がまるで見えないんですよね。それに暗い中で明るいというのは、いい的になりますし」


 これがサーチライト的に、長距離照らせるんだったら便利なんだけれどねぇ。だから私が使う場合は、【夜目】の魔法を付術した指輪を使っているし。まぁ、こっちはこっちで、世界が青くなる欠点はあるけれど。


「ところでお姉様。この指輪ですけれども、お母様にも?」

「そのつもりなんですけれど、なんというか、以前に献上した魔法が……」


 エメリナ様に差し上げた魔法って【照明】なんだよねぇ。光の球を頭上に出す奴。使い勝手がめっちゃ悪い灯りの魔法。光源が頭上でフラフラするから、目の前に伸びる自分の影が結構チラチラするんだよ。私は一回使って、使うのを辞めた魔法だし。頭上でフラフラとさえしなければよかったんだけれどねぇ、


「確かに。……きっと、すごくごねると思います」

「やっぱりですか」

「えぇ」

「でも他にめぼしい魔法がないんですよねぇ」


 変成魔法の【加重】とか【軽量化】は使うことなんてそうそうないだろうし。エメリナ様が荷物運びとかするわけないしねぇ。【念力】はそこそこ使えるけれど、致命的に燃費が悪い。結果、装備の補助でもなければ使い物にならないし。


 眩惑は危険極まりないから却下。回復系は教会に回したし攻撃系もダメ。となると、召喚しか残って無いか。


 ララー姉様が色々追加はしていたんだよね。私が召喚するモノ以外は、疑似魂魄が入っていないゴーレムのようなものらしい。なので、戦闘能力はそれぞれ固定されているそうだ。要は成長しない。


 うん。ゲームの仕様と一緒だね。


 ゲームでいうところの精霊三種とアラクネ、あとなんだったかな……って、まだ呪文書作ってないから、この辺は無理だ。


「もう盾でいいですかね」

「盾ですか?」

「これです」


 【召喚盾】を出して見せる。見た目が少々おどろおどろしいのが欠点だ。


「あぁ、青を躾けるときに出していた盾ですね」

「えぇ。重量ゼロですから、扱いやすいと思うんですけれど」


 青というのは、イリアルテ家で飼っている格闘兎の牡のことだ。私が【麻痺】を付術した首輪で連れてきたヤツ。その首輪は常盤お兄さんに回収されて、【麻痺】はもう付術できないように仕様変更されているよ。


「リリアナ、お母様って盾とか使えるのかしら?」

「見たことがありませんね。護身のための剣術などは、最低限身に付けていらっしゃるとは思いますが」


 剣術が使えるのなら、盾も使えなくはないかな。こっちの剣術は剣と盾が基本みたいだし。多分、小盾あたりを使っていたんだろうけれど、【召喚盾】は重さがないから大丈夫だろう。


「【召喚盾】も渡して、お茶を濁そうと思います。剣術を嗜んでらっしゃるなら、無駄にはならないでしょうし」

「そうすると、今度はお父様がごねる気が……」

「残念ながら侯爵様にはありません。先だって私を誘導して、欲しいものを出させようとしたこと、私はまだ覚えていますからね」


 よし。この話はここでおしまい。とっととスカートを作ってしまおう。




 ほどなくしてスカートも完成。ドレープを入れてメリハリをつけた濃い小豆色のスカート。

 とりあえずマネキンに上下着せてみよう。


「こんな感じですね」

「変わったドレスですね。上下が別ということもそうですが。袖がとても特徴的です」

「ここに重石として石とかを入れておくと、この袖を振り回して武器としても使えます」


 いつだったか、時代劇で見た覚えがあるよ。正しい使い方なのかは知らないけれど。あとは、お財布とかも入れられるんだっけ。いや、普通に巾着をもてばいいんだから、それは違うような気がする。


「キッカ様、これは、そういうドレスなのですか?」

「……すいません。半ば冗談と思ってください。そういうのを聞いたことがあるだけで、事実かどうかは不明です」


 我ながらよくできたと思うんだよね。


 そうだ。これを着るなら髪も結いたいところ。とはいっても、おでこは出さないけれどね。うん。今夜にでも大木さんのところに戻って、簪を作ってこよう。


「お姉様、着てみてください!」

「あー。確かに、これだとちょっと分かりませんか。このマネキン、手足はありませんからね」

「お手伝いいたします」


 ということで、試着。


「こんな感じですかね」


 着て見せたところ、ふたりは目をキラキラとさせて私を見ていた。


「ここにいないことを、アレックスは悔しがるわね!」

「はい。きっとすぐにもドレスの制作依頼をなさるかと」


 ダリオ様とアレクサンドラ様はサンレアンに戻っている。侯爵様方がダンジョンのことで王都に詰めているから、ダリオ様にサンレアン領地を任せた形だ。後継ぐわけだから、丁度いい機会と、お試しで領地運営をやらせているらしい。そして婚約者であるアレクサンドラ様も一緒について行ったと。


 そのアレクサンドラ様だけれど、あの大きなリボンを流行らせる原動力になったって聞いたなぁ。

 貴族の女の子の間で流行して、ゴスロリドレス共々、いまではスタンダードのひとつになっているらしい。


 流行は生み出すものなのよ! とかなんとか云っていたけれど、ゴスロリドレスとあのリボンを本当に流行らせたんだよね、アレクサンドラ様。


 特にドレスは、胸に自信の無い子に人気となっているとか。私やアレクサンドラ様が着ていたやつは、胸元が開いていなかったからね。あれがモデルになってるわけだし。


 さて、ドレスもできた。やり込めるためのアイテムも揃ってる。助っ人? も準備完了。


 どこにも負ける要素はありませんよ。もう、ほとんど茶番劇ですとも。


 ふふふ、明後日は全力で遊ばせてもらいます。




 そんなことを思いながら、私はニヤリとした笑みを浮かべたのです。


感想、誤字報告ありがとうござい巣。


※マラカイトをマカライトと間違えていました。

マカライトは某狩りゲーの鉱石だよ。

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