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248 処分料を支払うことだって辞さない


 なんだかんだで、【バンビーナ】への出発が遅れた。


 いや、販売用の刻削骨の鎧を組合に持って行こうと思い立って、作っていたからなんだけれど。


 なんのかんので、出来上がるまでに五日掛かるからね、この鎧。いや、鎧の制作期間としては、異常に速いんだけれどさ。


 窯の関係上、一度に制作できるのは四領が限界だから、今回持って行くのは四領。そして販売用は三領。理由は、ちょっと確認してみたくて、一領だけ全力で強化したんだよ。


 素の状態の竜骨の鎧以上に頑強な代物になったよ。重量を考えるとオーパーツじみたものになったよ。


 あ、作ったのはメタルスライムを使った方の刻削骨の鎧ね。例の十領限定で販売する方。値段が普通の全身金属鎧よりも高価ではあるんだけれど、二領ほど予約がはいったと、留守中に連絡があったみたいだ。


 刻削骨の鎧の制作の流れは以下の通り。


 ① 素材混ぜ合わせ、型に流し一晩放置。

 ② 窯にて焼成(七~八時間)。

 ③ 表面の仕上げ。

 ④ 組み立て。

 ⑤ 最終調整、仕上げ。


 ひとつの項目がだいたい一日仕事。装備で技量だのなんだのをドーピングしているから、一日で四領の仕上げだのは問題なくできる。それにさすがに慣れたこともあってか、手際も良くなっているしね。


 で、①と②のときは、やることをやると暇になるんだ。待つだけだからね。焼成はつきっきりで温度管理しないといけないんだけれど、そこはオートマトンに任せちゃったし。


 で、その二日間の内の一日は温室の作物の整頓。


 このところ収穫しても使っていないものは栽培を終了しよう。鍛冶と付与のドーピング薬の材料は栽培終了。あぁ、レッドベリーはお菓子につかうから残そう。


 このふたつの薬は、白い薬壜で増やすことにしたからね。限界レベルの薬を作れるようになったから、それを元に増やしている。


 ……このあいだ、物質変換で白い薬壜を作れるかやってみたら、出来ちゃったんだよ。ほんとダメだこの……魔法? 能力? いろいろ問題しかない。いや、問題と云うかなんというか、堕落する気がしてならない。気を付けないと。便利過ぎるのは考え物だ。


 あれ? ということは、白い薬壜を鍋サイズでつくれば、毎日鍋一杯のスープを産みだすんじゃ……。液体のみだから具材はないけれど。あ、出汁を入れておけば、出汁をとる手間が省ける!? ……い、いや、やめよう。さすがに手抜き過ぎる気がする。そんなことをしてたら料理の腕が落ちること請け合いだ。


 そういった感じで、温室を整理して、どうにか足の踏み場というか、温室内を移動するための導線を確保したよ。


 あ、ついでに、なぜか温室内に住みついている蜂。これ、常盤お兄さんが仕込んだゲーム由来の蜂だと思うんだけれど、見た目はでっかいクマンバチ。こいつに言音魔法を掛けて支配下においてみた。

 いや、蜂蜜を分けてもらえないかなと思って。器を置いてお願いしたら、分けてもらえるようになった。大した量ではないけれど、


 基本、温室内にある花から蜜を集めているわけだけれど、現状、花の数が微妙。なので蜂蜜用というか、蜂専用に花をいくらか追加した。薬の素材としてはあまり使い道はないけれど、ハーブティーとかには出来るから無駄にはならないだろう。


 もう一日はデスソースを作ってたよ。ルナ姉様がすごい微妙な顔をしていたけれど。ベレンさんのところに卸さないとね。

 トウガラシはキャロライナ・リーパーだけを残して、ドラゴンズ・ブレスとペッパーXは撤去したよ。代わりにハバネロを育てることにしたよ。一鉢だけだけどね。ハバネロくらいなら、それなりに扱いやすそうだし。


 そんなこんなで、本日は三月の十六日。組合に鎧を納品して、午後には【バンビーナ】に向けて出発するつもりだ。




 ということで、やってきましたよ、冒険者組合。


 からんころんからん。


 扉を開けると、聞き慣れた鳴子の音。


 私は組合に入ると、ぐるりと周囲を見渡した。


 うん。赤いシルエットはなし。多分、問題はないだろう。このままだと会話するのには視界がわずらわしいから、【生命探知の指環】を外す。私なりの自衛術だ。さすがにこの前みたいなのはごめんだからね。


 それじゃ、いつものようにタマラさんのところへと行こう。納品だとシルビアさんが担当なんだけれど、タマラさんに渡すものがあるからね。


 組合は狩人に依頼を斡旋しているわけだけれど、依頼外の獲物の買取りもしている。以前、私がクマとかオルトロスを売ったみたいに。

 で、一番多く納品されているのが、鹿と猪と兎。いわゆる食肉。これらは組合からの常時依頼になっている。


 ……あれ? 掲示板の依頼とは別枠になってる。買取り金額だけ記されてる。


 買取り値段が記されるようになったんだね。苦情でもあったのかな?


 と、話を戻そう。そういった食肉用動物を、組合は肉屋とか料理屋に卸しているわけだけれど、当然、骨だのなんだのは残る。畑の肥料として販売されてるみたいだけれど、それ以上に余っているみたいだからね。やっぱり処分されるとのこと。

 でも、その骨だのなんだのって、薬の材料になるんだよ。その辺りの事をタマラさんに教えておこうと思っているんだ。このまま捨てられるのももったいないからね。


「おはようございます」

「おはようございます、キッカさん。本日はどんな御用ですか?」

「まずはこれをどうぞ」


 私は懐からメモ書きを取り出し、差し出した。


「えーっと……これは?」

「錬金素材のメモですよ。多分、余ってるんじゃないですか? 私も買ってるものもありますし」

「……骨、角、牙。確かに余っていますけれど。処分もしていますし。これらが薬になるのですか?」

「なりますよ。もしくは毒ですけれど」


 骨粉、鹿の角、猪の牙。鹿の角は、牡鹿と牝鹿で効能が違う。そして猪の牙は効能増強効果があるので、かなり重宝する。


「あと、そこには書いていませんけれど、魚とか虫も素材になったりします。あ、そうそう。牡鹿の角と塩を合わせると、ちょっと変わった毒ができますよ」

「毒、ですか」

「個人的には微妙な毒ですけれどね」


 これでできる毒はスロー。動きを鈍くする毒……というか、まんまスローモーションにする毒。錬金毒だからこそできる効果というところか。


「それでタマラさん。鎧を持ってきたんですけれど、倉庫で出した方がいいですよね?」

「え、鎧ですか?」


 タマラさんが私の背後を見る。

 私もつられて背後をみた。なにもないね。


「あの、鎧はどこに?」

「あぁ。ダンジョンで魔法の鞄を運よく手に入れたので、この鞄の中ですよ」


 私は背の鞄を指差した。




 倉庫へと移動し、鎧を順にだしていく。三領は標準のデザインの刻削骨の鎧。そういや、このメタルスライムを使ったバージョンの正式な名前を考えてなかったな。メタルスライムアーマーだと、骨が行方不明になっているし。メタルスライムボーンアーマー……長いな。メタルボーンアーマー……だとスライムが行方不明。


 いや、メタルスライムが一般的じゃないから、スライムは行方不明でいいか。うん。メタルボーンアーマーと呼ぼう。


 そして四領目。タマネギ鎧タイプのメタルボーンアーマー。全力で強化したバージョン。多分、おかしなことになっているから非売品。商品見本として飾ってもらうために持ってきたものだ。


「あの、キッカさん」

「なんですか?」

「明らかにこのタマネギ鎧の雰囲気が違うんですが」

「そりゃ、デザインが違いますもの」

「いえ、そうではなく」


 私とタマラさんは見つめ合った。


「……わかります?」

「仕事柄、武具の類はよく見ますから」

「がんばりました」


 とりあえず、そうとだけ答える。


 と、そうだ。聞いておくことがひとつあった。


「【バンビーナ】って、いまどうなってますか?」

「【バンビーナ】ですか? こちらへ」


 なんだか応接室に案内された。お茶がでてきた。お茶菓子も。


 あれ?


「お久しぶりです、キッカ様」

「お元気そうでなによりです」


 暫し後、ヌガーっぽいお菓子を頂いていると、カリダードさんとチャロさん……じゃないな。チェロさんが応接室にやってきた。私も慌てて立って挨拶を返す。


 カリダードさん、冒険者組合本部組合長が出て来るとういうのは珍しいことだ。

 これまで組合のお偉いさんが出て来る事態になったのは、私がなにかしらやらかした時だけだもの。もしくは特別に依頼されていたものを納品する時か。


 なんだろうと思っていたのだけれど、カリダードさんが出て来た理由は単純だった。例の大物ダンジョン絡みのこと。まだ組合には情報がほとんど入っていないため、どういうダンジョンなのか教えて欲しいと云うことだ。


 あのダンジョンの情報といえば、私が王都を出る日に渡して来た、記録映像だけだからね。まだサンレアンに届いていないのも当然だ。

 いや、王都支部には情報は入っているんだろうけれど、現状、トップがいまだにゴタゴタしていることもあるし、まともな情報が届くのは先になりそうな気がする。

 で、思い出したことがひとつ。


 いらない邪魔者の処分が済んでいなかったよ。王家にドラゴンを、エメリナ様と一緒に持って行ったりしていてすっかり忘れていたモノ。この際だから、組合に引き取ってもらおう。場合によっては、処分料を支払うことだって辞さない。


 ダンジョンの内の環境について話し、【菊花の奥義書】を使って徘徊している魔物について説明をしていく。そして――


「下層部の中ボス……フロアガーダーっていうんでしたっけ? 討伐したそれを回収してあるんですけれど、引き取ってもらえませんか?」

「はい?」

「え、持ち帰ったんですか? あれ? でも、大型の魔物ばかりなんじゃ……」


 カリダードさんとチェロさんが目を瞬いた。


「たくさん入る鞄を運よく手に入れられたんですよ」


 私は傍らにおいた鞄を指差し答えた。


 ラノベとかだと、この手の道具は狙われたりするけれど、ここではそうでもないみたいだ。組合員……探索者や傭兵がそんなことをしようものなら、組合を除名になったうえ、残りの人生が苦難に満ちたものになる。また商人たちは、輸送に便利……かというと、そうでもなかったりする。少なくとも商売上は。やはり出し入れに時間が掛かるのが問題のようだ。馬鹿でかいコンテナみたいな箱でも作ればいいのだろうけれど、そうすると場所を無闇に取ってしまい、いろいろ問題だとか。


 結局、この手の道具は探索者や傭兵、狩人、そして行商人に好まれているそうだ。或いは、徴税官が税として納められた大量の作物を運ぶ時とか。


 とはいえ、私の使っている【底抜け~】の名のついているモノは別とのこと。


 【底なし~】はただの大容量の鞄とか袋。【底抜け~】はそれに状態保存機能がついている。いわゆる時間停止機能? ほぼ私のインベントリと同様の仕様だ。


 なので、私はちょっと濁した言い回しをしている。


 カリダードさんが是非にというので、これを引きとってもらうことに。でも、これを受け渡す前に【バンビーナ】の話を聞かないと。


 管理をするためにいろいろと動いているっていう話だから。




 【バンビーナ】の話を聞き、私はいまサンレアンの街壁の外へと来ていますよ。周りにはカリダードさんをはじめ、解体場のおじさんたち。それに加え、仕事を終えて手の空いていた狩人と、仕事待ちであった傭兵さんが数名。傭兵さんはパーティではなく、ソロのひとたちみたいだ。


 なんでこんなことになっているかというと、解体場だと狭くて出せないから。というよりも、モンゴリアン・デス・ワームが大きすぎるから。あれ、十メートル以上あるんだよ。十七、八メートルくらいかな。砂から飛び出していた部分が五メートルくらいだったんだけれど、砂中にはそれ以上に長い体があった。


 で、そんなデカブツの解体をするのには人手が足りないとのことで、手の空いている者を掻き集めた結果がこれだ。


 狩人の人はともかく、傭兵さんは解体とか大丈夫なのかな?


 一応、モンゴリアン・デス・ワームの姿は奥義書で見せたよ。カリダードさんとチェロさん共に顔を引きつらせていたけれど。


 ……まぁ、あれを見て嫌悪感を持たない人は少数だと思うよ。


「そろそろ出していいですか?」


 隣に立っているカリダードさんに確認する。


「そうね。来れる者はみんな来たみたいだし。お願いするわ」

「それじゃ、みなさん、ちょっと下がってくださいね」


 物がデカいうえ、どういう風に出て来るか分からないので、みんなに下がってもらう。


 いや、長いからね。尻尾が直立した様にでてきて、倒れてきたそれに押しつぶされるなんてことになったら目も当てられないもの。


 みんなが数メートル下がったところで、モンゴリアン・デス・ワームを取り出す。あぁ、これも鞄じゃなくてインベントリに格納しておいたものだから、鞄から出すふりをしている。


 目の前にズシンと現れるモンゴリアン・デス・ワーム。やっぱり頭と尻尾が持ち上げられた状態で出てきて、頭の側が手前のほうに倒れて来た。


 みんなを下がらせておいて正解だった……というか、後ろで悲鳴が上がっているんだけれど!? それも野太い男性の悲鳴だ。


「やれやれ、あいつは使えそうにないな。つか、お嬢ちゃん、よくこんなのを討伐できたな」

「人間、死ぬ気になればなんとかなるものですよ。というか、なんとかしないと本当に死んじゃってたでしょうし」


 解体場のおじさんがいつの間にか私のとなりに立っていた。ガチムチマッチョなおじさん。中年というよりは、壮年といったところか。白髪交じりだけれど、歳を感じさせないくらいに若々しい方。


 中華包丁の親分みたいなのを担いでいるけれど、解体用の刃物?


「外傷らしいものは見当たらんが、どうやった?」

「魔法を口の中に放り込んで、倒れたところに矢を射かけました。だから口の中に矢が三本刺さりっぱなしです」

「回収せんかったのか?」

「あれの口の中に入りたいとは思いませんよ」

「あぁ……ま、そりゃそうだな。んじゃあ、はじめっとすっか。

 野郎ども! バラすぞっ!」


 おじさんが包丁を振り上げると、解体に集まっていた皆が雄たけびを上げた。


 そしておじさんの指示の下、解体作業へと入っていく。


 どうやら、外殻の節ごとに輪切りにしていくみたいだ。


「あれ、なにかに使えるんでしょうかね?」

「鑑定盤で調べてみるけれど……」

「美味しいかもしれませんよ」


 私がカリダードさんに訊ねていたところ、いつの間に来たのか、タマラさんが恐ろしいことを云いだした。


「えぇ……。もしかして、食べたいの?」


 カリダードさんが問うた。


「まさか。私は悪食ではありませんよ。犯罪者の食事に回せないかと思っただけです」


 なかなか酷いことを云う。あぁ、でも、私も人のこと云えないか。やらかしてるし。あっちがやったことだから、あまり自覚はないけど。


「標本とかにしないんですか?」

「大きさがねぇ……。頭だけでもなんとか。防腐液に漬け込むにしても、あのサイズだと入れるだけの器がないのよねぇ。一応、頭部だけは【底抜けの折り鞄】にでも一時保存しておくわ」


 あぁ、標本にするには大きすぎるのか。頭だけでも、オルトロスよりも大きいしねぇ。


「ところで組合長」

「なに?」

「あれ、どこに置きましょう? 多分、倉庫から溢れますよ」

「あ……。くっ、仕方ないから、他の部分も鞄に放り込むわ。あの一節分だけでも鑑定すれば、使い道もわかるでしょ」

「誰かに食べさせてみたいですね」


 なんでそこにこだわるんです? タマラさん。


 いや、私も興味はありますけど。


 目の前では、やっとひと節目が中ほどまで切断されたところ。解体が終わるまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。




 こうして、私のインベントリに居座っていた邪魔者は消えたのです。


誤字報告ありがとうございます。


※新連載はじめました。

https://ncode.syosetu.com/n4765gh/

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