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245 女神の祝福を受けた者?


 なんというか、俺にとっては非常に不本意な状況というか、まぁ、なんだ。妙な事態になっている。


 俺は赤羊騎士団第一小隊副隊長のハイメ。昨年一杯、バッソルーナの包囲任務についていた一騎士だ。

 思ったよりも長い任務となったが、それも終わり、交代となる部隊とも引継ぎを済ませて王都へとやっと戻ってきた。まさか五か月もあんなとろこに居る羽目になるとは思わなかったぜ。


 我々と同様に包囲に参加していた軍犬隊も交代があり、その交代要員たちから連中、バッソルーナの住人の状態についての話を聞いた。個人的にはざまあみろという内容ではあったが、


 バッソルーナの住人は、ひとり残らず女神様の呪いを受けているそうだ。その呪いの内容は、子孫を残せないということ。男に至っては不能になっているとか。

 また、バッソルーナ外へと出ている親類縁者にはその呪いは及んではいないが、もしバッソルーナの住人に対し何かしらの援助でも行おうものなら、即座に呪いが降りかかるらしい。


 大地の女神であり、嵐の女神でもあるディルルルナ様は、健康、出産も司っている女神でもある。まさに、実に女神様らしい呪いであろう。

 ただ、バッソルーナの子供たちには若干同情……いや、できんな。あのガキ共。親の教育が行き届いているのだろうが、神々に平気で暴言を吐き、唾を吐き、俺たちに石を投げて来たからな。もはや救う余地などありゃしない。


 さて、王都に戻り、暫しの休暇をもらいのんびりと過ごし、通常任務に戻ったわけだが、またも特殊任務を言い渡された。


「新たに発見されたダンジョンの調査を行うことになった」

「新ダンジョン、ですか?」


 このあたりのダンジョンはあらかた発見されているはずだ。となると、またしても魔の森を探索し、発見した者がいるということだろう。


 ダンジョンを発見すれば、その名がダンジョンに命名される。まさに歴史に名を残すことになるし、また国から多額の褒賞もでる。だが、危険度を考えると、魔の森を探索すると云うのは狂人のすることと思ってもいいだろう。


 いったいどこの無謀者がそんなことをしたのか。


「新ダンジョンは【ミヤマ】と命名された」


 ミヤマ? また変わった名前だ。どのあたりの出の名前だろう。


「なんでも、当人のたっての願いで【ミヤマ】となったそうだぞ。あぁ、発見者は神子様だ」


 ぶふぅ!


 は? 神子様? そういえば、神子様のフルネームはキッカ・ミヤマだったか。え? なにをやっているのですか? 駄目じゃないですか、魔の森へと入ったりしては!


「神子様はかなりの強者のようだな。以前、そのお姿を遠目ながらに見たこともあるが、まるで子供のような体格でしかなかったのに。いや、明らかに女性的魅力には溢れていたが」


 ……団長、変な気を起こしていませんよね? ここにいる選定された者は、皆、バッソルーナで女神様の元で戦った第七小隊の者ですよ。

 例え団長でも、神子様に不埒なことを考えているようなら、みんなでよってたかってしばきますよ。


「話によると、神子様は【バンビーナ】も踏破したそうだ。凄まじいな。いまだどのダンジョンも、最下層部へと到達した者もいないというのに」


 ……俺は耳がおかしくなったのかな。ダンジョンを踏破したとか聞こえたんだが。


「ハイメ。確認していいか? いま団長、神子様が【バンビーナ】を踏破したとかいわなかったか?」


 隣にいたサウロが訊いてきた。俺の耳は正常だったようだ。自分もそう聞こえたというと、サウロは顔を引きつらせていた。


「た、確か神子様は魔法使いだったよな? きっと腕のいい仲間と潜ったんだろう」


 あ、あぁ、確かに。冒険者組合の組合員登録をしているって話だしな。


 盾役が攻撃を防いでいる間に、きっと魔法で討伐したのだろう。


 団長が話を続ける。


 要は、ここに集められた者が、その新規ダンジョンの調査に向かうと云うことのようだ。

 ただ、場所が問題だった。


 森の外縁部から二百キロ以上奥って……神子様、よく無事に辿り着けたな。


 ★ ☆ ★


 調査隊に編成されてより数日。アキレス王太子殿下より呼び出しを受けた。王太子殿下からの直接の呼び出しとか、あり得ないことだぞ。


 え? 俺、なにかやらかしたか?


 仲間たちから優しい目で見送られながら、まるで断頭台に登るような気分で俺は殿下の元へと向かった。


 案内された執務室。扉を開けて近衛に促されて、俺は不安な気持ちのまま殿下の執務室へと入った。




 練兵場に戻って来た。いまは皆、順番に模擬戦をしているようだ。


 順番待ちをしている仲間たちにいろいろと訊かれたが、緊張し過ぎてロクに覚えていない。やらかしていなければいいんだが。


 だが、当たり前のことだが、一番肝心なことは覚えている。


 殿下からは魔道具をひとつ渡された。曰く【生命探知の指環】とのこと。神子様より危険回避の為にと、貸与されたものだそうだ。


 少々サイズが小さい様に思えるが、そこは魔道具だ、指に合わせてサイズが変わる。試しに右手人差し指に嵌めてみる。


 すると周囲にいるみなの姿の上に、青い影が重なって見えるようになった。なんだこれは? いや、殿下から聞きはしたが、こんな風に見えるのか。


 五十メートル以内。たとえ障害物の向こうにいたとしても、こうして影が見えるようになるとのことだ。


 味方は青。敵は赤となるらしい。


 なるほど、これを使って神子様は森を抜けたのか。とはいえ、殿下が仰るには、神子様はひとりで行動していたとのことだ。


 確かに、ひとりであるならば魔物を躱しやすいだろう。この指輪で敵性体を見つけたら、それを迂回していけばいいだけだからな。


 ただ、今回は結構な大人数で進むことになる。


 俺は斥候役として先頭を進み、敵性体を見つけ次第、奇襲をかけるように部隊を促すといったところか。

 さすがに数十人の部隊では、気付かれずに躱すのは無理というものだ。


 それにしても、なぜアキレス王太子殿下は俺にこの指輪の使用を任せたんだろうな?


 首を傾げつつも、指輪を着けたままキョロキョロとあたりを見回す。


 しかし、これは慣れが必要だな。壁の向こうの者までシルエットで見える。弓などを装備していたら、障害物の手前なのか奥なのか、判断できずに攻撃しそうだ。


「ハイメ、なにをキョロキョロしてるんだ?」


 小隊長に声を掛けられ説明する。するとポンと肩を叩かれた。そして俺は殿下から魔法の指輪を渡されたことを説明する。


「あぁ、なるほど。神子様手製の魔道具だからな。納得だ」

「どういうことです?」

「だってお前、女神様の祝福をうけただろう?」


 は?


「いやいやいや。俺はなんの力も頂いてませんよ!?」


 【神の祝福】といえば、審神教の祝福が一番有名だ。なにしろ結構な数の神官が得ているからな。

 嘘偽りの類を看破する、神ノルニバーラより賜る祝福だ。


「そもそも、なんで俺が祝福を受けたことに!?」

「だってお前、女神様直々に骨折を治して頂いただろう?」


 は?


「いや、確かにそうですけど」

「それが祝福を受けたってことになってるんだよ」


 はぁぁっ!?


「なんだ、知らなかったのか? お前、結構有名になってるんだぞ。女神様の祝福を受けて骨折を治してもらった者って」


 いや、どういうことだよ!?


 確かに治していただいたけれど、あの怪我自体は恥でしかないんだぞ!


 なにせ舞い上がって階段から転げ落ちて骨折したんだからな!


 小隊長、頼むから冗談だと――


「それが殿下の耳にも入ったんだろうよ。それに、お前は斥候役が得意でもあるしな。丁度良かったんだろう」


 俺は崩れ落ちた。文字通り崩れ落ちた。


 不名誉極まりない。最悪だ……。


「おいおいハイメ、なにもそんなに打ちひしがれることもないだろ」

「最悪ですよ小隊長。あの時の俺を殴り倒したい……」

「そうしたら、その怪我を女神様が治してくださっただろうな」


 ぬぁぁぁっ!


 あ……?


 頭を掻きむしるように身を起こしたところ、妙なものが目に入った。


 赤いシルエット。


 敵性体。


 人数はふたり……いや、三人だ。


 それも、視認できていると云うことは、五十メートル以内だ。


「小隊長、賊がいます」


 俺は声を潜めて小隊長報告した。


「なんだと?」


 小隊長も声を潜めた。


「俺の正面の倉庫……あそこは資材倉庫でしたか。そこに居ます」

「指輪の効果か?」


 俺は頷いた。


「全員集合! 整列! 走り込みに行くぞ!」


 小隊長が声を張り上げ、隊員を集める。




 数分後。俺たちは倉庫を強襲し、中で不審な動きをしていた三人を取り押さえた。


 ★ ☆ ★


 翌日。小隊の元に黒羊騎士のアブランがやって来た。バッソルーナでは共に仕事をし、それなりに仲良くなった人物だ。


 今日、ここへとやって来たのは、昨日捕らえた賊に関しての報告だ。


「詳細が気になるだろうと思ってな」

「あいつらは何だったんだ?」


 小隊長が訊ねると、アブランは呆れたように答えた。


「ビダル工房を叩きだされた鍛冶職人……いや、鍛冶職人見習だ」

「そんな奴がなんで資材倉庫なんかに?」

「それよりも、どうやって入り込んだんだ?」


 俺と小隊長が問うと、アブランはため息をついた。


「あいつら、どこから聞いてきたのかに関してはいまだ取り調べ中だが、先月持ち込まれた巨人……トロールの得物が目的だったらしい」


 トロールが持ち込まれた話は俺も聞いている。身の丈七メートル超の巨人。ダンジョン【ミヤマ】の浅層部のボスだとか。


 ……待て、浅層のボスで七メートルの巨人? そんなものを相手にするのか俺たちは。なにかしらの戦術……戦法を考えておかないと太刀打ちできんぞ。


「得物というが、そんなものは資材倉庫にはないだろう?」

「いや、モノが大きすぎて、武器庫には収まらなかったんだ。なにせ全長五メートルの棍棒だ。収めることのできる倉庫が、資材倉庫くらいだったんだよ。

 まぁ、そんな巨大で重い物を運び出せる者なんていないからな。特に警備も着けてはいなかったのが問題だったな」


 ひとつ息をつき、アブランは続ける。


「『ダンジョンの魔物が振るっていた武器がある』と聞いて、連中はそれを盗み出そうとしたわけだ。ただ、そのサイズについては知らなかったようだな。

 まぁ、トロールが運び込まれたことに関しての話が漏れたことはいいとしてだ。問題は、得物が資材倉庫に保管されていることが漏れたことだな」

「それだけ大きければ目立っただろう?」

「あぁ。だが、それならなんの手段もなしに三人で侵入なんてしないだろう? 運び出そうとすれば、簡単に見とがめられるぞ。【底なし~】系の鞄なり袋でもない限り、目立たずに運び出すのは無理だ」


 そりゃそうだ。なにせ五メートルだからな。


「それ、そいつらを唆して、捕まえさせるのが目的、なんてことじゃないよな? そいつら誰かに恨まれてたりしてないか?」

「その線でも調べてるよ。なにより、またしても内部に侵入されたからな。再度、警備の見直しだよ」


 アブランは自嘲するように笑った。


 昨年八月にも侵入事件はあったしなぁ。


 王宮の守りは基本、白羊と黒羊の仕事だ。


 白羊騎士団は警備、というよりは防衛という形で配置されている騎士団だ。人数は最も少ない。少数精鋭部隊。


 黒羊騎士団は基本は諜報と警備を主とした騎士団だ。諜報としてあちこちに派遣されている者も多数いるが、それ以上に重要施設の警備を行っている。賊の侵入を許さないように、警備プランを練ったりするのも黒羊騎士の仕事だ。今回のことは黒羊騎士団の失態ともいえる。

 前回の侵入事件は人外によるものだったが、今回はただのチンピラの侵入だからな。


 ……多分、手引きした奴がいるんだろう。


 そうそう、諜報と云えば、暗殺とかを行う連中がいるなんて噂を聞いたことがあるな。アンラの諜報組織のようなものが、ディルガエアにもあるっていう話。本当かどうかは知らないが。


「まぁ、昨日の件はこんなところだ。

 そうそう、ダンジョンに関して何かありそうだぞ」

「ん? 」

「なに、イリアルテ侯爵が王太子殿下となにやら密談していたからな。神子様もまた王都に戻ってきているし、ダンジョン関連でなにかあったんだろう」


 アブランの言葉に、俺と小隊長は眉をひそめた。


 黒羊騎士が不確定な話をもちだすというのは、とてつもなく胡散臭い。


「知ってるんだろ?」

「あー、知ってはいるんだが、内容は知らん。だが、なにかしら情報が開示されるだろうとは思われる。個人的には楽しみにしているんだ」




 アブランはそういうと、ひとりニヤリと笑った。


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