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241 こうなったらやってやらぁっ!


 中ボス部屋、というよりも中ボスフィールドとかエリアと云ったほうよさそうだ。

 壁の向こうもやたらと広い砂漠。端から端まで数百メートル。もしかしたら一キロ以上あるかもしれない。とにかく広い。


 【生命探知の指環】はふたつ着けっぱなし。戦闘補助の指環を含めて現状よっつ身に付けている。

 視界内に反応はなし。これまでのボスは、ボス部屋に入った途端に攻撃してくるものが殆どだったから、ちょっと拍子抜けだ。


 もっとも、いきなり突撃をされたりしたら、かなり厄介な状況になっただろうけれど。


 この砂漠階層の最大の敵は、日差しと足場。さらさらで軽い砂は、とてもじゃないけれど歩くに適しているとはいえない。やたらと足を取られる。


 ビーも足元で周囲を警戒している。そうそう、ビーは現在、靴下を履いている。砂漠の熱された砂は、裸足のビーには厳しかったようだ。靴下を履くことを拒否することはなかったけれど、不快には思っているみたいだ。それでも、裸足で砂の上を歩くよりはマシと思い、諦めているのだろう。


 それにしても、全然索敵に引っ掛からないな。もしかして壁際に私たちがいるからかしら。


 まさかと思うけど、本当に創作物のワームみたいに、砂中を高速で移動するとかないよね? 水じゃないんだよ。


 とにかく、中央部に向かって進もう。


 大木さん、モンゴリアン・デス・ワームって云ってたけれど、どんな姿なんだろ。先端がヤツメウナギの口みたいなやつ? それとも、昔の映画にあった……なんていったっけ? グラなんとかってヤツみたいなデザインかな?


 もし冗談じゃなしに、砂の中を縦横無尽に移動されたりしたら面倒臭いどころじゃないんだけれど。


 ゆっくりと警戒しつつ進む。そして遂にその反応が視界にはいった。砂中に横たわるように見える、赤い長いシルエット。そしてそれはゆっくり、じりじりと動いている。


 えーっと、確か、音に反応するんだっけ? 試しに何か投げてみようか。なにかあったかな?


 ポケットに手を突っ込み、なにかどうでもよいようなものが無いか探す。なにかなかったかなー。


 あ、十円玉……じゃなかった、銅貨があった。これでいいか。お金を粗末にするのは、もの凄い罪悪感があるんだけれど。


 あ、【道標】さんがあるから、戦闘後に回収すればいいや。それじゃ、ポイっとな。


 指で弾いて飛ばす、なんて格好いいこと出来る訳がないので、普通にオーバースローで銅貨を投げる。銅貨は綺麗に弧を描いて飛んでいった。


 ややあって――


 砂漠が爆発した。と同時に『ぐぼぁ』というか『きゅぼぁ』というような音が聞こえ、赤黒い柱のようなものが飛び出した。


 モンゴリアン・デス・ワーム!


 って、違う! なんか想像していたのとは何もかもが違う! なんだこれ!? ワーム、なんて名称の通りではあるよ? たしかにシルエット的フォルムはでっかいミミズの親分といっていいかもしれない。

 でもその体の表面は岩のようで、節がいくつもある。頭の方はヤツメウナギの口というよりは、イソギンチャクのようだ。棘皮動物とか環形動物じゃないのかお前!


 キモイ! 実にキモイ!


 でもって、創作物のソレみたいに、高速で砂中を移動してくる! 


 おかしいでしょ!


 どうやって移動してるの!?


 でも進んで来る場所はよくわかる。移動に合わせて砂が沈むからね。


 目があるようには見えないけれど、銅貨で引きずり出されてからは、的確にこっちを狙っている様にみえる。


 再び砂から姿を現し、直立するように体を伸ばす。そしてまるで蛇が鎌首をもたげるようにして、こちらに頭を向ける。


 え、なに。すごい嫌な予感がするんだけれど!?


 私はと云うと、銅貨を投げた直後、こいつが私に向かって来た時から走りっぱなしだ。ビーに至っては私の背中、鞄の上にしがみついて、しっかりと退避している。


 モンゴリアン・デス・ワームが威嚇するかのように、ぐっと身を反らせたかと思うと、その口? の辺りから光線を発射した。


 ボッ!


 爆発と軽い衝撃。


 って、爆発するの!? 雷でしょ!? 大木さん、話が違うよ!!


 そういえば――


『用水路を隔てた先のキャベツ畑に雷が落ちてさ。もの凄い音と、響くような感じの衝撃? ほら、大音量の音楽とかは響くだろう。あんな感じのあったんだよ』


 なんてことをお兄ちゃんた云ってたっけ。確か、小学校一年初夏の、通学途中のことだっていってたから、私の生まれる前のことだけれど。


 いや、なんでそんなこと思い出したの私!?


 モンゴリアン・デス・ワームはまた潜ったようだ。さすがに雷ビームは連発できないらしい。


 弓を持ち、矢を番える。


 百メートルとはいえ、居場所を特定できるのは有用なアドバンテージだ。どうせなら指輪六個装備にして、四個を生命探知にしておけばよかったかな。そうすれば二百メートルまでいけたのに。


 というか、こいつも物理法則を無視しているんじゃなかろうか。砂中での移動速度が異様に速いよ。それとも、砂の下は固い地盤でもあって、そこに網目状にでもトンネルを掘ってあるのだろうか?


 一瞬、シールドマシンが頭に思い浮かんだよ。


 モンゴリアン・デス・ワームが再度地上にその姿をさらす。まるで柱のように伸ばした赤黒い体の表面を、おそらくは砂が浮動している。


 もしかして電撃を全身に纏ってる? あの砂の感じからして、静電気で張り付いている埃みたいな状態だと思えるし。


 観察しつつも弓を引き絞り、矢を放つ。


 だが矢はモンゴリアン・デス・ワームの体を穿つことはできず、逸らされるように弾かれた。


 硬い。硬いが、それ以上に体の微妙な曲面が天然の矢逸らしになっているみたいだ。


 あっはっはっ、どうしよう。手詰まりに近いんだけれど。魔法を撃つにも足が止まるし、正直、足を止めるのは自殺行為に近そうだ。あの雷ビームを見てから避けるなんて不可能だ!


 となると、ほぼ走りっぱなしのままどうにかしないといけない。


 それも、狙いも着けずに勝手に当たるようなものを。


 とにかく走る。砂に足を取られないように、そこだけは気を付けて。


 以上を満たす事、となるともう召喚魔法しか思いつかない。でもスケさんや狂乱候だと、潜られた時点で手も足も出ない。地上に出た時に、即時攻撃することが必要。となると、もっとも重要なのは機動力。スケさんにしろ狂乱候にしろ、そこまで足が速いわけじゃない。そもそも、電撃を身に纏っているモンゴリアン・デス・ワームを殴れば、自身にもダメージは来るだろう。


 であるならば。


 【爆炎走狗】召喚!


 【爆炎走狗】。いわゆる自爆特攻型の召喚……獣っていえばいいの? 基本的には【走狗】と同じ。実体のある霊体のような猟犬だ。ただし、その体は炎でできている。


 犬の戦い方なんてただひとつ。肉薄しての噛みつきだ。それに加え、【爆炎走狗】の場合は、炎によるスリップダメージの追加。更には時間経過、もしくは耐久値が全損した場合に爆発する。


 私は魚雷扱いしていたんだけれど、よく考えたら魚雷は自動追尾なんてしないよね。


 ただこの【爆炎走狗】、欠点がひとつだけある。目標を見失うと術者の元へと戻ってくるのだ。結果、時間経過の自爆に巻き込まれる、なんてことになる。

 なので、この魔法は絶対に販売できない魔法だ。半ば欠陥品といってもいいからね。


 さて、【爆炎走狗】に自爆特攻させているんだけれど、効くかな?


 モンゴリアン・デス・ワームの体は、分かりやすくいえばミミズの体に岩の鎧を巻き付けたようなものだと思う。炎ダメージが通るのかが不明。噛みつき攻撃もいまいち効いていないみたいだ。となると、爆発による衝撃、打撃のみが頼みの綱となるんだけれど……これまた効いているのかいないのか。


 とにかく、暫くはこれで様子を見よう。持久戦になりそうだ。


 見たところ、モンゴリアン・デス・ワームは完全に私を捉えているわけではなさそうだ。


 音で獲物を察知するのは、さっきの銅貨で確認済み。でも、私を音で見つけることはできっこない。弓を射ていれば弦の弾ける音でわかるかも知れないけれど、移動においては、私は一切の音を発しない。隠形技術のおかげで、基本的に私のあらゆる動作は無音だ。


 それと、モンゴリアン・デス・ワームには目が無いみたいだ。視覚で周囲を確認している様に見えない。


 となると、蛇とかみたいに、熱源探知みたいなことをしているんだろうけれど。精度はいまいちなのかな。少なくとも雷ビームが掠めるような事態には陥っていない。


 もうちょっとうまい戦い方があればよかったんだけれど。


 ……いや、録画してなかったら【氷杭】を撃ちまくったんだけれどさ。とりあえずは【爆炎走狗】乱打でいってみよう。


 ……。

 ……。

 ……。


 自動追尾って楽だよね。狙う必要がないんだもの。魔力を溜めて足元に召喚。


 現れるやいなや、目標に向かって突撃。


 目標を噛みつき、雷ダメージを受けてHP全損。自爆!


 ここまで召喚してから約十数秒。これを二体一組(両手それぞれで召喚するから)で延々と繰り返す。魔力消費軽減装備を付けているから、消費魔力ゼロで召喚し放題だ。

 まぁ、召喚魔法の魔力消費軽減は、指輪で追加しないと鎧だけじゃ必要魔力をゼロにはできないんだけれどね。


 ってなわけで、一時間ほど経過したんだけれど、まだピンピンしてますよ。一応【爆炎走狗】は効いてはいるみたいなんだよ。怯んでる感じのところを何度か見たし。でもね、もしかしたらアレ、自動回復とか持ってそうな感じがするよ。


 それに気が付いた時点で、ちょっとアプローチを変えてみたんだ。効く可能性は低いと思ったけれど、毒殺を狙ってみた。


 魔法罠のひとつである【毒の罠】を設置。うまい具合に当たるか不明だったんだけれど、三回ほど掛け直して何とか当てることに成功。モンゴリアン・デス・ワームは毒持ちなハズだけれど、だからといって毒無効というわけじゃないからね。

 結果は微妙。


 くそぅ。


 冷気魔法は最終手段の予定だ。炎は駄目だった。ならば次は雷だ。


 いま被っているのも雷仮面だし丁度いい。


 あ、でも雷魔法には問題があったんだ。というか、使わなかった理由。達人級にまで技能が上がったことで困った問題がでたんだっけ。


 達人級になったことで、雷魔法に効果が追加されたんだよ。雷魔法で敵を仕留めると、約五割の確率で灰化しちゃうんだよ。


 いや、モンゴリアン・デス・ワームの素材なんて、使い道がなさそうだけれど、確認くらいはしたいからね。


 いやいや、待て待て、私。そもそもの問題、モンゴリアン・デス・ワーム、雷を撃つ上に身に纏ってもいるじゃないのさ。雷に強いよね。でも、私の撃つ雷魔法だって――


 ボッ!


 うわぁっ!


 私の真横に雷ビームが着弾し爆発した。頭から砂被った。口の中にも入った。じゃりじゃりする。


 えぇい、ちくしょう! こうなったらやってやらぁっ!


「ビー、降りて離れて!」


 私の指示になにかを察したのか、慌てたようにビーが私から離れていく。


 すかさず私は言音魔法【幽体化】を発動。


―――――――――(何人たりとも、我を)―――――――――(傷つけること能わず)!』


 よし、これで数十秒は無敵だ。


 足を止め振り返り、追って来るモンゴリアン・デス・ワームに対峙する。


 魔力励起開始。両手首を当て、腰だめに構える。


 私の前方、十数メートルの所でモンゴリアン・デスワ・ームが再度砂中から飛び出し、五、六メートル上から見下ろすようにこちらに頭を向け――


 瞬間、光が瞬き、私のすぐ後ろで砂が爆発した。


 なんてことはない。モンゴリアン・デス・ワームの雷ビームが、私の体を貫通して背後に着弾しただけだ。


 だが今の幽体化状態の私は、ありとあらゆる攻撃がすり抜ける仕様だ。いかな攻撃だろうと効きはしない。


 よし、魔力が溜まった。さぁ、喰らうがいい、五割増しの――


「【雷嵐(サンダーブラスト)】!」


 達人級雷魔法【雷嵐】は、ほかの達人級の魔法と比べて特殊だ。他の達人級、火炎と冷気の魔法は、術者を中心とした範囲攻撃魔法。だが【雷嵐】は、突き出した両掌から打ち出される雷撃だ。それこそ、モンゴリアン・デス・ワームの雷ビームと同じようなものだ。


 いや、決定的に違うところがひとつ。


 モンゴリアン・デス・ワームの雷ビームは一瞬だ。だが、【雷嵐】は魔力の続く限り撃ち続ける魔法だ。そう、魔力が続く限り。


 私は今、消費魔力ゼロで攻撃魔法を使いたい放題の状態。つまり、【雷嵐】を無限に撃ち続けることができる。


 欠点は、完全に固定砲台となるため、動くことができなくなることだ。薙ぎ払うことはできるけれど。


 これ、雷がまるっきり効かなかったら大変なことになるかな?


 そんなことを思った直後、『なにをやってるんだ……』と、呆れた声が聞こえたような気がした。


 私の掌から撃ち出された雷の帯は、直立したモンゴリアン・デス・ワームの体に見事に当たった。そして狙いを調整し、大きく開かれたままの口へと雷撃を放り込む。


 途端、モンゴリアン・デス・ワームは身をよじり暴れ出した。


 あ、あれ? 意外に効いてる? っていうか、逃がさないよ!


 左右へ揺れ動く口から外れないように、【雷嵐】の狙いを修正していく。


 直後、急にモンゴリアン・デス・ワームが地響きを上げて倒れた。砂が舞い上がる。そして倒れた角度的に、もう【雷嵐】をその口の中に入れることは出来なくなった。


 まずっ、逃げられ――あ、あれ? 動かない? まさか、もしかしてスタンした? え、嘘でしょ? 口の中に雷撃が入ったから!? いや、この際なんでもいい、いまが好機だ!


 魔法を解除し、口の見える位置にまで走って移動する。反対側に倒れたせいで、移動するのに時間が掛かる。


 すぐそばを駆け抜ければ速いだろうけれど、そんな危ない真似をするつもりはない。


 【幽体化】のクールタイムはまだ終わっていないから、【風駆け】で一気に駆け抜けることもできない。


 とにかく大廻りに走って、クールタイムが明けたら【風駆け】で一気に向こうまでいどうだ。


 反対側にやっとたどり着き、すぐさま弓を構え、口を開けたまま転がっているモンゴリアン・デス・ワームに矢を放つ。


 もちろん狙いは開いたままの、いまは垂れ下がっているだけの触手に囲まれた口の中だ!


 一射、二射、三射……。


 射ち込むたびに、ビクン、ビクン、とモンゴリアン・デス・ワームが震える。


 やがて、モンゴリアン・デス・ワームに重なって見えていた赤いシルエットが消えた。【生命探知】の反応が消えた証拠だ。


 それを確認し、私はぺたりと、弓を構えたままその場にへたり込んだ。


 疲れた。とにかく疲れた。


 避難していたビーが私の元へと走って来る。


 ふぅ……とにかく、無事に倒せてよかった。


 改めて倒れたモンゴリアン・デス・ワームを眺め、そして私は顔を顰めた。


 あぁ、そうだ。こいつ中ボスだっけ。


 あはは……次の階層からこいつの廉価版が雑魚ででてくるんだ……。




 その事実に私は憂鬱な気分になり、思わずため息をついた。


誤字報告ありがとうございます。

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