240 気分はストリーマー?
お暇してきましたよ。
おはようございます。キッカですよ。ただ今、ダンジョンの前にまで来ています。私の名前がついちゃった大物ダンジョン。
王都には滞在している理由がもうないので、こっちに来ちゃいましたよ。社交シーズンともあって、バレリオ様やダリオ様はあっちこっちパーティに出席しているみたいです。
リスリお嬢様は社交界デビュー前だから、パーティには参加していないのは分かる。でもなんでエメリナ様まで、ほぼお屋敷に常駐していたんだろう?
もし私が居たことが理由だったら申し訳ない気分だよ。まぁ、いろいろとレシピとか渡してきたから、大丈夫かな。その分の対価も貰ってはいるけれど。
食堂も菓子店も順調どころか絶好調の模様。菓子店のほうは、王宮に毎日卸しているということが広まって、それが売れ行きに拍車をかけているみたいだ。
そのため、現状、少な過ぎる商品の種類を増やしたいみたいだ。
……あのふわふわのパンケーキのレシピは渡してないけれど、お願いされるかな? エメリナ様、王妃殿下とも仲が良いみたいだから。
どういう方面からの繋がりかと思ったら、アルカラス家の方からの繋がりらしい。アルカラス家は宝飾品を扱う商売をしているわけだけれど、アンラとの国境となる場所に領地があることもあって、アンラでも商売をしていたみたい。
その時に、当時王女であったオクタビア様と交流があったようだ。
まぁ、その辺りはサンレアンに戻った頃に分かるだろう。
それじゃ、探索を再開と行きましょうかね。ちょっと面倒なことになっているけれど。
ダンジョン探索を再開する、と云ってイリアルテ家を出てきたわけだけれど、その時に頼まれごとをひとつしたんだよ。
ん? 止められなかったのかって? それは大丈夫だよ。昨年の武闘大会の時の決闘のこともあって、私、それなりに強いことは証明できているからね。
それに加えて、トロールを狩って王家に献上したこともあって、止められるということはなかったよ。心配はされたけれど。
で、頼まれごとというのは、ダンジョン内の撮影。
まぁ、撮影機材が手に入ったわけだしね。テストとしては、ダリオ様の負け試合を撮影しただけだし。
調査隊が入る前に、ダンジョン内の環境だけでもしりたいということで、撮影をお願いされたよ。だから、攻略というか、一から十まで撮影をするわけじゃない。
とりあえず、各層のサンプルとして、最初の階だけ撮影しようと思うよ。一階層、十一階層、二十一階層、三十一階層、四十一階層の五か所ね。どんな環境であるかということと、適当に一、二頭ほど魔物を狩るくらいかな。
えーっと、まずはダンジョンの入り口の撮影をしようかな。使うカメラはCCDカメラみたいなやつだ。だから、探索中は頭にくっつけることになる。仮面を被るから、どうやってつけようか。カチューシャの端っこにでも括りつける? あとで試さないと。
あ、そうだ。まず始めに、撮影開始の挨拶? をしないとね。
……なんだろう。気分はストリーマー?
とりあえずカメラを適当な高さに固定して挨拶。その後録画を止めようとしてカメラを落としかけて、お手玉をしたのはご愛敬。
カチューシャを使って、カメラを側頭部のあたりに辺りになんとか固定。ウエストポーチに突っ込んである録画用魔道具……録画デッキでいいか。カメラにつなぐ、録画デッキから伸びるコードの扱いに四苦八苦する。
いや、下手に腕を動かすと微妙に引っ掛かるんだよ。得物に弓を使うからね。背負い鞄と矢筒を装備するわけだし、こう、引っ掛かると動きに制限が掛かって気持ち悪い。
あ、矢筒は背に背負う感じではなく、後腰に下げる感じに装備しているよ。背中に鞄を背負っているからね。うまく矢筒が背負えないんだ。
さてと、コードは鞄の側面のフックに通すことで、腕に掛からないようにすることができた。鞄の着脱の時がちょっと面倒になるけれど、それは休憩のときだから問題ないだろう。
よし、それじゃ録画を開始して、ダンジョンへと入ろう。
浅層部分に降り立ち辺りをぐるりと、ゆっくりと周囲を見回す。ところどころに木がぽつんと生えている平原。遠くにビッグホーンが見えるね。これで浅層の環境がどんなものかはしっかり録画されているだろう。あとは【霊気視】を使って索敵、適当に浅層にいる魔物を一頭狩ったら、ひとまず録画を止める。
うん。見つけた。でっかい犬。もしくは狼。西洋の伝承でいうところのブラックドッグというヤツだと思うんだけれど、色は黒じゃなくて灰色がかった暗い藍色。そのサイズも鼻先から尻尾の先まで含めれば五メートルほどという、異様な大きさだ。先に来た時には狩らずにスルーした魔物だ。
ヘルハウンドクラス……いや、もっと大きいのかな。そういや、ヘルハウンドは浅層下部にいたな。あの赤黒いでっかい犬。
隠密状態でこそこそと近づき、矢を番え、よーく狙って一射。狙い違わず、頭を横から射貫いて討伐完了。
うん。浅層の記録はこれでいいだろう。
録画を停止する。
あ、そうだ。ちょっと気になるから、三層までは確認しておこう。まさか、こんな短期間でゴブリンがまた集落を作っているとは思えないけれど、念のため。
……。
……。
……。
またしても集落ができてたよ。
なんなのもー。どんだけいるのよゴブリン。
さすがに前みたいな規模じゃないけれど、それでも千数百匹は居たんじゃないかな。なんか変な個体もいたし。多分上位種。
赤頭っていたじゃない。血染めの帽子を被ってる奴。あれの黄褐色版がいたんだよ。黄頭……それとも褐頭とでも呼べばいいのかな? あぁ、でも緑色っぽい帽子の奴もいたんだよね。
あれはなんで染めたんだろ? 胆汁?
赤頭が集団戦に長けた軽戦士系の狂戦士だとしたら、黄頭は……NINJA? 忍者じゃなくてNINJAね。トリッキーな戦い方をする忍ばない忍者っていえばわかる?
うん。面倒臭かった。
一応、調査隊が来た時にも、こういった集落がある可能性もあるから、ゴブリン共との戦闘も録画しておいた。前回と違って、せいぜい、多くても二千匹くらいだったからね。多分、外から引っ越してきたんだろう。ここに巣食っていた前の部族が私に滅ぼされたから。もしかしたら前回、取り逃がした奴がいて、そいつが別の部族に入って案内したのかもしれないね。
で、録画している以上、全力で戦うわけにはいかないから(見せちゃダメな魔法を使えないから)、ちょっと面倒だった。
赤頭をはじめとして、普通のゴブリンやホブゴブリンとかは狙撃で仕留めればいいんだけれど、黄頭には矢が当たりそうになくてね。
でも攻撃力と運動性が高いだけで、打たれ強いわけじゃないから、【走狗】をけしかけるだけで仕留めることはできたよ。
最悪、自爆特攻兵器である【爆炎走狗】を使うことも考えていたけれど、使わずに済んでよかったよ。
あとは【爆炎球】の魔法をポコスカと。【爆炎球】は王様方に見せているからね。使っても問題ないだろう。
そんなこんなで、半日ほどで殲滅完了。集まっているところへ【爆炎球】を撃ち込んだことと、それによる延焼で、部族の中核をなしている強個体を軒並み始末できたのが良かったんだろう。
ちまちま狙撃で暗殺していたら、どれだけ時間が掛かったことか。矢を回収しないとまるで足りないし、考えたくもない。
ということで、浅層部分の記録は終了。ボス戦はやらないよ。
ここで一度外へと出て、次は上層、十一階層へとショートカットを使って入る。
上層は森林ダンジョン。
そうそう、改めてここに来るにあたり、どんな魔物がいるのか大木さんに訊いたんだよ。
私、ほぼ最短距離を突っ切って進んでいたからね。じっくりとは見ていないんだ。
中ボス以降、十六階層からは恐竜が数種類でるのだそうな。私はアンキロサウルスとしか遭遇しなかったけれど、階層の中央部には泉があって、その周囲に多くいるそうだ。
生態系が築かれているわけではないけれど、それを模したような行動をとっているとのこと。
トリケラトプスはいないけれどプロトケラトプスはいる。プロトケラトプスは、角のないトリケラトプス? 確か恐竜としては小型の類だったんじゃなかったっけ? でもここでは体長五メートルの巨体。
あとティラノサウルスはいないけれど、シャモティラヌスはいるそうだ。シャモティラヌスって知らないんだけれど。『軍鶏ティラミス』とか思わず云って、大木さんに優しい目で見られたよ。辛い。
えーっとティラノサウルスの先祖? 体長は六メートル前後だそうな。そして大木さん曰く『上層にはティラノサウルスはいないよ』とのこと。
上層には? ははは。いるんですね? 最下層に。遭いたくないなぁ。
とりあえず、上層ではこのシャモティラヌスとやらを撮影してやろうと思うよ。……そのためには、また中ボスのアンキロサウルスを倒さないとダメなんだけれどさ。全力で狩ればいいや。録画しなければいいんだし。
ということで、上層前半部ではうろうろするトロールの姿を撮影、他にも斑蛇とかいたけれど無視。
中ボス戦では出鼻に【氷嵐】を連射して完封。【竜司祭の氷仮面】を着けたから、威力増し増しでさっくり終わったよ。うん。なにが相手か分かっていて、狼狽えて浮足立つようなことがなければ、安定して狩れるね。
上層下部では予定通りシャモティラヌスを撮影。プロトケラトプスも見て来たけれど、敵性体ではなかったよ。ダンジョン内なのに珍しい。
非常に大人しくて、簡単に撫でさせてくれたよ。ザラザラした手触りだった。小さければちょっと飼いたかったけれど、さすがに五メートルは飼えない。残念。
あ、プロトケラトプスって草食竜で、肉食竜の捕食対象とされていたわけだけれど、美味しいのかな? 食肉として有りなら、畜産業にプロトケラトプスを入れるのはありなのでは? ファンタジーな世界らしく、竜の肉は高級品扱いみたいだし。
なにせ飛竜のお肉の値段を聞いてびっくりしたからね。高級品扱いの草猪が一頭まるごとで金貨二枚くらいで市場に出回っているわけだけれど、飛竜の肉の切り身が同程度の扱いって話だもの。
味の確認の為に、はぐれていた奴を一頭狩猟。
上層の撮影が終了したけれど、戻るのも面倒なので、このまま中層へと突撃。
狩る予定のなかった上層部ボスのベヘモスを狩猟。またしても逃げ回りながら魔法を撃つ作業をしたよ。ビーが適度にタゲをとってくれたから、それなりに楽に倒せたよ。
ということで中層。沼沢ダンジョンの録画を開始。
中層まで調査隊の人たちは来れるのかな。情報は出しておくから、なんとか被害が出ないように頑張ってもらいたいところだ。
雌鶏は耳栓をすれば問題ない。トロールは足をロープで引っ掛けれれば、タコ殴りにできるだろう。アンキロサウルスとベヘモスが問題だよねぇ。なんとか頑張って欲しいものだ。
さて、中層は巨木で作られた道を進むだけの場所。移動を制限されるのが辛い階層だ。
遠くをテクテク歩いているベヘモスに向かって矢を射る。三射目が当たったところでこちらを見つけ、ドスドスと走って来る。あ、甲羅干ししてたスッポンが踏み抜かれた。
そして頭部に矢をうけてばたりと倒れるベヘモス。
よし。あとは、沼に雷を撃って、浮いてきたお魚を回収して録画を終了しよう。これで中層は終了。ベヘモスとスッポンを回収して、二十階層へと戻り、ショートカットを使って三十階層のお宝部屋へ。
そして三十一階層へと突入。
さて、ここからは未踏の階層だ。下層部は砂漠ダンジョン。サソリが出ることは分かっているんだけれど。ほかには何がいるのかな?
中ボスがモンゴリアンデスワームで、雷のビームを撃つってことは聞いているから、きちんと対処しないとね。
強烈な日差しの下を進む。索敵はしっかりとしているから、砂中に潜んでいる魔物もわかる。なんか、ヒラメの親分みたいなのがいたよ。なんだこの魔物。……って、砂ヒラメって、まんまじゃないのさ。
……砂カレイとかもいそう。というか足が生えてるよ、このヒラメ。ホウボウとかじゃないんだからさ。微妙にキモイぞ。この海老の足みたいなの。
先制できるおかげで、ほぼ一撃で狩れるのは簡単だけれど、隠形状態で進まないといけないのは結構辛いな。日が暮れるのを待ってから進むべきだったかな。
……【氷の霊気】の魔法を纏ったら涼しいかな? 隠形が意味をなさなくなったりするのかな? そうだときついけれど、うん、試してみよう。
うん。涼しい涼しい。これで行こう。見つかったら見つかっただ。
あ、録画は、サソリとヒラメを狩った時点で止めてあるよ。
あたり一面砂だらけだけれど……お約束かな? ところどこに生えたサボテンの向こうに、ピラミッド的なものが見えるよ。
絶対行かない。
一応、撮影だけはしておこう。
各階層に、なにかしらの建造物があるみたいだ。三十二層には、祠みたいなものがあったよ。
そして三十五層。巨大な塀で覆われた場所にまでやって来たよ。ここがボスエリアっぽいね。大きな門がある。
さぁ、モンゴリアンデスワーム戦だ!
対雷装備に変更。といっても、装身具を変えて、仮面を氷仮面から雷仮面にするだけだ。銀色から金色に色が変わるだけ。デザインはコウイカを模したような仮面だ。いわゆるあれ『いあ、いあ』と讃える神様っぽいデザイン。
一応、ビーにも耐雷のペンダントを掛ける。これで雷ダメージ約四割減だから、なんとかなるかな?
装備も万端。よし、いくとしよう。あ、録画はどうしよう?
んー……よし、一応、記録媒体を交換して録画をしておこう。表にだせそうにない内容になったら、記録媒体を作って補填すればいいや。
そして私は、ウエストポーチに手を伸ばし、録画デッキのふたつの録画ボタンを押したのです。
誤字報告ありがとうございます。