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239 みんな黙々と食べている


 今日はリンゴを使ったお菓子を作るよ。


 そしてこれまで通り、玉子にあわせて他の材料を調節しながら作っていくよ。ほら、玉子が鵞鳥の玉子だからさ、何度も云ってるけれど、おっきいんだよ。

 多分、鶏卵の二倍以上あるんじゃないかな? L玉の二倍くらい?


 これから作る奴は、たいていM玉の鶏卵で作ってた簡単なお菓子だ。たまにL玉でも作っていたけれど、それくらいの量の差ならさほど問題ない。


 でもこれを鵞鳥の玉子に変えるとなると、他の材料の量を調節しないとさすがにまずい。


 ということで、すべて二倍量で作っていくよ。あぁ、そうなると焼成につかうフライパンは二枚いるのか。二回に分けて焼こうかな。


 さて、材料は基本的にこの昨日のパンケーキと一緒だ。


 鶏卵基準だと、以下の通り。


 粉(小麦粉+重曹)二百グラム。

 玉子、一個。

 牛乳、二百CCになるよう調整。

 砂糖、適当。私は甘さ控えめにしているから、大匙一杯程度。

 リンゴ、一個。

 バター、適量。

 バニラエッセンス、数滴。


 牛乳の量が変な表記だけれど、それは後述。


 あとは、甘さを際立てるために、塩をひとつまみ入れたり入れなかったり。


 これを玉子を除いて全部二倍量で作っていくよ。こっちだと、牛乳じゃなくて山羊乳だよ。


 まずはリンゴの芯をくりぬいて、縦に真っ二つにした後は、横にしてスライスしていく。スライスし終わったら、これをフライパンにバターを引いて、砂糖(上記の材料外)を適量加えて火を通す。


 リンゴがしんなりしたら、リンゴだけ別の器に移し、フライパンに残った汁。リンゴの果汁とバターの合わさった物を乳と合わせて二百CC……いや、今回は四百CCにする。


 粉と玉子とリンゴ果汁入り山羊乳を混ぜ合わせて生地をつくる。もちろん、粉は振るってダマにならないようにしているよ。


 次にフライパンにリンゴを敷き詰めていく。フライパンの外側から隙間ができないように円を描いていく。一番面倒な作業。


 これが終わったら、ここに生地を流し込み焼成。


 弱火にフライパンを掛け、蒸し器にやるみたいに、布巾を被せた蓋をして約二十数~三十分ほど焼く。これだけ。


「また随分と簡単だなぁ」

「簡単ですよ。お手軽なお菓子ですし。ただちょっと、火加減が心配だなぁ。大丈夫かな?」


 目をそばめて、真っ赤な炭を見つめる。数は減らしているんだけれど、この炭、火力が強いからね。


「焼き上がりの目安は?」

「勘ですよ。勘。音でわかるかな?」


 ナタンさんに答える。……うん、またみんな集まってるよ。


 日本にいた時には、フライパン用の蓋にペーパータオルを挟んで作ってたんだよ。で、フライパンの蓋って微妙に丸くなっているじゃない。あの丸さって絶妙なんだよね。


 張り付いた蒸気でできた水滴が、蓋の内側の面を滑って縁に落ちるようになっているんだよ。だから、焼き上がりの目安にするには、そのフライパンの端に落ちた水滴がジュウジュウいう音で判断してたんた。


 音がし出してから数分待って出来上がり。


 でも今回使っているのは、ほぼ平の鍋の蓋だからね。勘で火から降ろさないと……いや、二十三分くらいで降ろしちゃおう。


 そして時間経過を待って蓋をあける。


 うん。ぷつぷつと空気穴が開いてる。火は通っているね。


 確認し、フライパンサイズのお皿を逆様にしてフライパンに。あとはこれをフライパンごとひっくり返して皿に移せば完成だ。


 ただ、ここで問題がひとつある。砂糖を加えて火を通したリンゴ。その砂糖によってフライパンにリンゴがこびりついていることがよくあるのだ。


 せっかく……なんというか、見本みたいな感じでみんなの前で作っているのだから、失敗はしたくない。うまく剥がれてくれますように、っと。


 フライパンをはずす。うん。うまくできた。表面にくまなく張り付いているリンゴが、この簡単な蒸しパン? いや、蒸しパンじゃないな、焼いてるんだし。とにかく、これの出来栄えをちょっぴりゴージャスにしているよ。表面が水あめでも塗ったような感じにちょっぴりテカテカした仕上がりになっている。


 あとは、切り分けるときに気を付けるくらいかな。このリンゴが剥がれてべろべろになったりしたら見た目が残念になるからね。


 ……そこはもう、リリアナさんに任せてしまおう。


 うん。出来栄えに満足ですよ。ちょっぴり焦げたけれどね。焦げやすいんだよ。火加減の調節がいまだにしっかりできないという。火の通しが悪いと、生地が生のままになるからね。


 あぁ、これ、もちろんリンゴを使わなくてもできるよ。その時には、フライパンにしっかりバターを塗っておかないと、大変な事になるけれど。


 そうそう、リンゴの代わりにパイナップルでもいいね。パイナップルの缶詰を使って作ったこともあるよ。その時には、適当に牛乳に缶詰のシロップを混ぜたんだ。


 私は缶詰のパイナップルはちょっと苦手だったんだけれど、こうすると美味しく食べられたよ。


 お、ナタンさんも出来上がったみたいだね。ナタンさんもうまく剥がせたみたいだ。


 あぁ、そうそう。なんで突然リンゴを使った簡単なお菓子を作ったかと云うと、アムルロスのリンゴが原因だ。


 こっちのリンゴって、前にも言ったと思うけれど、ほぼ原種に近いようで、いまひとつ美味しくないんだよ。まぁ、私の基準での話であって、こっちの人たちにとっては、貴重な甘味枠の食べ物だけれど。


 ただでさえ今一つなところに、管理された気候が追い打ちをかけている状態。

 リンゴって、ある程度寒くないと、その実の中に蜜を貯めこまないんだよね。だから寒い地域でリンゴ農家とか集まっているわけだし。

 で、ここら辺は常にほんのり寒いから、気持ち暑い? くらいの温度変化しか無い状態。うん、リンゴ、甘くならないね。


 だからこっちでのリンゴのメジャーな食べ方は、焼きリンゴだったりする。芯をくりぬいて、お砂糖を加えて焼くだけ。作り方は地球の焼きリンゴと一緒。シナモンを加えてあるかないかの違いだけだ。


 そんなわけで「リンゴを使ったお菓子とかはありませんか?」と、イルダさんに訊かれて、作ったのがこれだ。


 アップルパイでも良かったんだろうけれど、パイ生地を作るのが面倒だから、簡単なこれにしたよ。


 ということで、切り分けてもらっていざ実食。


 ナタンさんの焼いたものは厨房スタッフほか侍女さんたち。私の焼いたものは侯爵ご一家に。


 ……逆のほうがいいんじゃないかな? とも思うんだけれども。


 まぁ、一緒に焼いたわけだし、ただ火加減を見守っていただけだから、技術の差もなにもないんだけれどね。


 では、切り分けてもらったので、一切れ頂きましょう。


 ということで、いただきます。


 手づかみで一切れパクリと。


 うん。上手くできてる。リンゴの風味がきちんと生地に染みていていい感じ。もちろん、表面に張り付いている若干飴状に固まっているリンゴの甘さもアクセントになってる。


 これって、感覚的にはリンゴ飴みたいなものなのかな? いや、私、リンゴ飴は食べたことないから分かんないんだけれど。


「あ、あの、お姉様?」

「なんですか? リスリ様」

「さすがに行儀が悪いのではないかと」


 んん? あぁ、手づかみだからか。


「あぁ、私、いつもこれを食べるときは手づかみでしたからね。ケーキ、というよりは蒸しパンの感覚でしたし」

「蒸しパン……ですか?」

「そういえば、蒸しパンは作っていませんでしたね」


 がしっ。


 肩を掴まれた。


「キッカちゃん」

「……あの、なんでしょう? エメリナ様」

「作ってくれないかしら?」


 妙な迫力でエメリナ様。


 ……お店の方の商品の種類が、いまだに芳しくないのかな? でも蒸しパンはどちらかというと、冒険者食堂においたほうが良さそうな感じだけれど。


「……まぁ、構いませんけれど」


 蒸しパンも作るのは簡単だからね。


 小麦粉と砂糖と重曹を混ぜた粉を、水と酢で溶いて蒸すだけ。


 そういや、このレシピだと玉子を使わないな。マーラーカオだと、お醤油を追加するくらいだっけ?


 水じゃなくて、牛乳と玉子にしても問題ないけれど。折角だからこのシンプルな方のレシピで作ってみよう。


 ということで、大き目の鍋でお湯を沸かしてと。

 沸くまでに材料を溶いて混ぜる。うん。あっという間に終わるな。あとは――


「エメリナ様。調理に使っても構わない目の細かい布地ってあります?」

「ちょっと待ってね。イルダ」

「畏まりました、奥様」


 本当は紙の器とかあればいいんだけれど、そんなものはないからね。なので、布で代用ですよ。目の詰まってる布なら大丈夫だと思うんだよね。悲惨な事にはならないと思う。


 ややあって、イルダさんが戻って来た。


「こちらでよろしいですか?」


 渡された布地は薄手のしっかりとしたもの。これなら大丈夫かな。


 ひとまずよく洗ってと。それからボウルに敷いて、そこへ生地を流し込む。


 お湯が沸いたら蒸すわけだけれど、蒸し器じゃないからちょっと無理矢理やるよ。


 金笊を逆様にして鍋に入れて、その上に生地をいれたボウルを載せる。

 そして蓋をする訳だけれど、片側に箸を噛ませておく。こうしておけば、わざわざ蓋を布でくるまなくていいからね。


 時間にして……四、五十分くらいかな? 蒸していこう。


「茶わん蒸しもそうだったけれど、湯気で料理ができるのねぇ」

「十分な熱量がありますからね。ほかにもレシピはありますけれど、色々と試してみるといいんじゃないですかね」


 料理のレシピ、というよりは、調理法の伝授みたいなものだしね。


「まぁ、その前に、蒸し器を作ったほうがいいでしょうね」

「あぁ、こういう料理用の機材があるのね」

「奥義書に載ってると思うので、あとでお見せしますね」


 蒸し料理か。蒸し料理っていうと、点心だと色々あったよね。餃子に焼売、あとは桃饅とか。


 餃子に焼売、久しく食べてないなぁ。サンレアンに戻ったら作ろう。


 そんなことをぼんやりと考えていたら、ナタンさんも蒸しパン作りをはじめたみたいだ。


 あ、ナタンさんは玉子と山羊乳を使ったものを作るみたいだね。


 食べ比べるのかな? とはいっても、さっきのリンゴのアレと同じような味になるはずだ。リンゴの風味がないだけで。

 それに比べると、私の作っている方の蒸しパンは、かなり素朴な感じの味になるだろう。


 ただ、食べだしたら、なんとなく延々と食べ続けるような感じになるだろうけれど。


 なんだろう。普通に美味しい。っていう感じに仕上がるから、パクパクとついつい食べちゃうんだよね、延々と。


 そうして待つこと暫し。出来上がりましたよ。


 お皿の上に載せて、側面に張り付いている布を剥がす。……うん。やっぱりちょっとこびりついたね。間に合わせの布だったからね。サラシぐらい目の詰まった布だと大丈夫なんだけれど。


 で、みんなで試食となったんだけれど。


 ……なんでみんな黙々と食べているのかしら。いや、気持ちは分からなくもないんだけれど。私もそんな感じだし。


 な、なんだか予想通りになったね。




 こうして、今日の午後は過ぎて云ったのです。


誤字報告ありがとうございます。

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