236 なにこの無駄にサイバーな感じ
私はあまり機械の類が得意な人間ではない。機械音痴、というほどではないけれど。
……多分、ないと思うけれど。自分自身の評価だから、当てにはならないかな?
とはいえ、これくらいならなんとかなる。というかできると……思う。
えーっと、映像機器の魔道具だけれど、ふたつで機能するモノが二組。
ひとつは、カメラと録画装置。カメラはCCDカメラみたいなものと、ハンディカメラみたいな感じのものだ。録画装置は……お弁当箱?
もうひとつがプロジェクターと再生装置。こっちはふたつともお弁当箱。プロジェクターの方には、前面にある大きなレンズが目立っている。
いずれも色は銀色だ。
コードを引っ張り出してつなぐだけだから、多分、これを持ち込まれた帝国の冒険者組合でも、こんなふうに組み合わせることはできたと思う。
ただね、これ、使い方が面倒というか、分からなければ使えない類の感じなんだよ。だから調べた人は使用方法不明としたんじゃないかなぁ。
プロジェクターの方は、媒体がはいっていなければただ光るだけ。
カメラ……じゃなくて、録画装置のほうか、これがなんというか、ボタンを二か所同時に押さないと録画ができない仕様なんだよ。
あとはバッテリー。入ってなかったよ。使い方を模索している時に消費してしまったのか、最初からはいっていなかったのか。
後者だったら、使い方云々以前の問題だ。
というのもね。いずれもバッテリーとして魔石を使用するんだ。でも、バッテリーには魔石の加工品を使用するみたいなんだよ。
天然の魔石。魔物から取り出した魔石って、なんというか、歪な形をしている。当たり前だけれど、規格化なんてされちゃいない。
位置的には心臓の反対側。胸の真ん中の、ちょい右側に魔石は埋まっている。
最初は小さい物が生成され、年月とともに大きくなっていき、最終的に心臓と同サイズになるのだとか。
例外が不死の怪物で、スケルトンなんかは胸腔一杯にまで大きくなるらしい。
どうもね、【アリリオ】二十階層の不死の怪物がこの状態みたいなんだよ。で、魔石が大きい魔物=強力な魔物であるという。まぁ、とはいえ、どんなに魔石が大きくなっても、魔物それぞれの限界値があるみたいだから、手に負えないほど強力にはなっていないだろう。少なくとも、竜とタメを張れるスケルトンは存在しえないということだ。……リッチとかいたら、どうなるか分かったもんじゃないけれど。
と、話が脱線した。
バッテリー用の魔石。これを加工する機械……魔道具があるはずなんだよ。
多分、用途は分かっている魔道具だろうけれど、『なんの意味があるんだ? これ』状態の魔道具だと思う。なにせ、歪な魔石の形を直方体にするだけだからね。
天然魔石でも、バッテリーのスロットに入るなら問題ないんだけれど、当然バッテリーとしての容量は小さくなる。なにせ、スカスカな感じだからね。それを考えると、加工したもののほう長時間保つということだ。
あ、加工といっても、削って直方体にするわけじゃなく、歪な天然魔石を直方体に生成しなおすような感じだ。
ん? なんでそんなことまで分っているのかって?
これらの魔道具を調べるのに、エメリナ様の目を盗んで一度インベントリに入れて、【キッカの奥義書】に記載させたんだよ。ほら、奥義書は私の記憶とインベントリに関連付けられているから、そこに入っているものの詳細が追記されるからね。
常盤お兄さんのせいで、ナルキジャ様の想定を超えてとんでもないものになっちゃってるからね、この神器。
で、読んでみたところ、しっかりと詳細が書いてあったんだよ。
現物のバッテリーが中に入っていたからだと思うけれど。あ、このバッテリー、魔道具の使用で少しずつ小さくなっていって、最終的には消えるとのことだ。
さて、機材は繋げた。バッテリーもある。記録媒体もある。となると、やることはひとつ。
「なにか撮影してみましょう」
「すぐに使えるの?」
「大丈夫みたいですよ」
そう答えると、エメリナ様は少し考えるような仕草をした後、ポンと手を叩いた。
「いまの時間なら、まだダリオが剣の稽古をしているわね」
「今日は王宮へは行っていないんですね」
「行ったところで、なにもすることがないもの」
「そうなんですか?」
ダリオ様、アキレス王太子のご学友ポジじゃなかったっけ?
「アキレス様は、いまは部隊編成の為に人員を確保している最中でしょうからね」
あぁ、大物ダンジョンの話か……。騎士団から人を集めるんだろうなぁ。となると、赤羊騎士団からの募集かな?
……そういや、黒羊騎士のあの女性騎士はなんだったんだろ? よくよく考えたらアレ、どう考えても茶番だよね? そうじゃなかったら、騎士として問題があり過ぎるし。よくわからないけれど、多分、欲しいものは手に入れたんだろうなぁ。諜報の人たちだし。私からなにを盗んでいったんだろ?
エメリナ様と一緒に、お屋敷の裏庭へと回る。あまり広くはないけれど、そこに修練場がある。ちっちゃな運動場という感じだけれど。
そこで、ダリオ様とロクスさんが木剣を手に向かい合っていた。丁度、模擬戦を始めるところみたいだ。それじゃ、録画してみよう。稽古なんだし、録画しておけばあとで見返して、どこが悪いとか確認できるしね。
ということで、録画開始。カメラを構え、ウエストポーチに突っ込んである録画装置のふたつの録画ボタンを押す。
ポチっとな。って、うわ、なんかカメラが光ったよ。というか、アレだ、ゲーミングキーボードみたいな感じに、青い光がカメラの表面に紋様を描くみたいに走ってる。なにこの無駄にサイバーな感じ。
と、そんなことよりも、ちゃんと撮影しないと。
モニターがついていないカメラだから、こういう感じでの撮影はなんだかちょっと新鮮だ。
えーと……ダリオ様が頭を抱えていますよ。
お昼のお茶の時間。お茶といってもテーブルには簡単に摘まめるタイプの料理が並んでいるけれど。
この席で先ほど撮影した映像を上映しましたよ。
まったくなんの飾りもない壁、なんてものはないから、えーと、帽子掛け? みたいなものをふたつ立て、大きめの真っ白なテーブルクロスをその間にピンと張って、スクリーン代わりにしましたよ。
で、上映されるダリオ様とロクスさんの模擬戦。結果からいうと、ダリオ様が負けたんだよ。ただ、なんというか、間の抜けた負け方をしたんだけれど。
あっ、と、ロクスさんが視線をダリオ様から私たちのほうへと向けたところ、ダリオ様が釣られてよそ見をして、そこをポコンと頭を叩かれて終了。
それまでは結構な剣戟を響かせていたんだけれどね。
あぁ、この残念な負け方のせいで、ダリオ様は後程、バレリオ様からお説教がある模様。
「お姉様、素晴らしいです!」
起きて来たリスリお嬢様が映像をみて喜んでいるんだけれど――
「一応、録画と再生はできますが、編集作業ができません。多分、編集を行える魔道具がある……いや、あるのかな?」
あ、リスリお嬢様が固まった。
「キッカちゃん、なんの話なのかしら?」
「いえ、リスリ様があの魔道具を使って、映画を撮りたいと」
「映画?」
あぁ、うん。説明が面倒だから、奥義書を使ってまた『おいてけ堀』を流そう。さして長い時間じゃないし。
「なるほど、こういった物を作りたいと」
「でもそれをするには、撮影したものを、最低でも切り張りできないと。他にもいろいろやることがありますし、なかなか難しいですね」
「だが、こうして記録できるということだけでも、十分に有用だ。ダンジョン内の様子を記録できれば――」
バレリオ様が顎に手を当て、ブツブツと云いだした。
ダンジョンの記録か。ダンジョンというより、ダンジョンを徘徊している魔物に関してってことの方かな。
特に、ボスの情報なんかは、まさに値千金の価値があるだろうしね。
「リスリ、これらの魔道具はまだあるのか?」
「あると思います。ひとまず、用途、もしくは使用方法不明である魔道具を、各種ひとつずつ送ってもらっただけですから」
「値段は?」
「魔道具としてのほぼ捨て値でした」
なんだか妙ないいまわし。多分、販売最低額なんかが設定されているのかな? 最低額といっても、それなりのお値段はするんだろうけれど。
ひつじ焼きを手に取り食べる。中身はチーズだ。というか、ひつじ焼きの型、全部お店のほうに回したのかと思ってたけれど、いくつかはお屋敷にも残しておいたんだね。
……パクパク食べてたら、なんだか焼き立ての追加が私の前に出て来た。いや、嬉しいんだけれど、なんというか、こう、こう……。
まぁ、いいや。折角だもの。食べよう。
★ ☆ ★
四日となりました。
本日は王宮へと来ています。アキレス王太子殿下に呼ばれましたよ。
呼ばれた理由はと云うと――
「大型の魔物の対処方法ですか?」
「そうだ。二百年前は愚直に武器で殴るという方法しか取れなかった結果、甚大な被害をだしたのだ。さすがに今回のダンジョン調査で同じことをするわけにはいかない」
なるほど、確かに。同じことをしては、ただの無能であると喧伝するようなものですからね。
となると、私の答えはひとつしかないんですが。
「毒を使います」
えぇ、毒に限りますとも。
とりあえずトロールには効く。アンキロサウルスにも効く。鰐も大丈夫。これらは雑魚で確認済み。ボス相手でも多分大丈夫。
ん? なんでボス戦で毒を使わなかったのかって? 基本的にボスには毒は効かないだろうって思ってるからだよ。だから【バンビーナ】の地竜には失望したんだし。
実際、ベヘモスには効かなったんだよね。さすが完璧な生物というべきか。
「毒殺するのか?」
「いえ、行動不能にして、死ぬまで殴るだけですよ」
私の答えに、アキレス王太子殿下は顔を引き攣らせた。
いや、確かにとんでもなく物騒だろうけれどさ。これが一番確実なんだよ。殺傷する毒もあるけれど、なんというか、たかが知れてる威力だからね。毒のダメージ速度を考えると、殴った方が早いもの。
なにより麻痺毒は、相手の動きを完全に止めるからね。普通の毒だと決定的な効果がでるまでに殴られる。
「毒を使った上に、殴り殺すと?」
「麻痺毒に殺傷力はありませんからね。ただ、効かない魔物もいますから、それに頼り切ると大変な事になるとおもいますけれど」
「ふむ……無駄に損失を出すよりはマシか……」
「基本的には毒矢を射ちこんで、倒れたら剣で殴る、という感じですね。毒が切れるころを見計らって、剣に毒を塗って斬り付け、また麻痺させる。これの繰り返しです。
毒の効かない魔物は……二足歩行なら、ロープを足に絡ませて転倒させて殴るの常套手段だと思います。四足は……頑張りましょう?」
王太子殿下がクスリと笑う。
「四足獣の対処法はないか」
「油をぶっかけて火をかけるという手もありますけれど、これ、火だるまになった相手が突っ込んできますから、危ないんですよね」
火は有効だけれど、火だるまアタックは怖い。
「悩ましいな。キッカ殿はどのように討伐したのだ?」
「基本的に魔法です」
「魔法か……確か、殺傷力のある魔法は非売となっているんだったな。となると、魔法の杖のみとなるのか」
「下手に販売すると犯罪が増えそうですから。魔法の杖も免許制か許可制にしたほうがいいかもしれませんね」
「あぁ、そうか。それなら管理が楽になるな。ふむ、それについては冒険者組合と協議するとしよう」
こうして、魔法無し、毒無しでの集団による大型の魔物の対処方法を、王太子殿下と話し合ったのです。
……王太子殿下の側で控えている男性はなんなんだろ? 秘書官っぽいんだけれど、全然喋んないし。
感想、誤字報告ありがとうございます。
※前回やらかしました。近く修正します。
※ドワイヤン公爵家とその派閥家粛清について。多分、このことだと思うのですが、間違っていませんよね?
最初のやらかし後、主要なところはアンララー(レイヴンとリンクス)が直接粛清。それ以外は王家が粛清を行っています。これはレイヴンが女王に渡したリストから、関係派閥を含めてすべてに及んでいます。なので、再度(五日後)のキッカ暗殺が行われた時には、もうすべて病死扱いで死亡済みです。結果、支配階層の者が激減したため、国家運営に若干の支障がでています。
ちなみに、ドワイヤン公爵と令息は見せしめとして、達磨状態(回復不能)、痛痒、恐怖、不死身の状態。寿命がつきるまで延々と苦しむことになっています。
的外れな回答をしている気がする。ぶっちゃけ、「ぬる過ぎね?」ってことだと思うのですが、あれ以上やると国家が破綻するので、一部保留もある状況です。国家が破綻すると、影響が大きすぎて兄弟姉妹はもとより、アレカンドラからも叱られますからね。




